「あー…飲んだ飲んだ!あはは!」 年に一度のこの季節だけ許された無礼講。 この機を逃す手はないと、花見と称してアカデミー教師で一丸となって騒いだ。 まあ、当然たっぷり酒飲んで、飲みすぎるくらい飲んで、千鳥足の自分すら笑えてくるくらい飲んだ。 火影様から差し入れられた酒と、全員で持ち寄った酒とそれに適当に買ってきたつまみは、それこそ山ほどあったはずなのに、すっかり綺麗に無くなるほどに。 当然酔っ払いだらけになった宴は…女体変化して脱いだり、幻術かけて桜を増やしたり、水遁で酒を降り注がせたりと、恐ろしい状態になったが、途中でソレを笑ってみていられるくらい酔っ払った。 多分明日は二日酔いで苦しむだろうが、ある意味本望だ。 なにせコレだけ騒げるのはこの日だけ。普段はともかく、今日羽目を外さないのは馬鹿らしい。 「さーくらーきれぇーだなぁっと!あははははは!…お?」 酔いに任せてふらふら家路を歩いているうちに、どうやら道を間違ったらしい。 時々生徒たちも遊んでいる公園に出てしまった。 本当なら家まで真っ直ぐ帰るつもりだったが、流石に飲みすぎてもよおしてきた。 次いでだから用でも足していこうかとふらっと公園の中にある公衆トイレに向かった。 この公園の真ん中には大きな桜が咲き誇っていて、トイレからもその様子が見えるのだ。 公園は狭いし、桜の木はこの一本だけなので花見に使われることはまずないが、子どもたちもこの時期は嬉しそうに桜を見ている。 御多聞に漏れず自分もトイレに向かう前に、しばし桜を見つめてその美しさを楽しんだ。 今日の花見会場だった山の桜のように群れて咲いているのとちがって、一本だけ咲いているのに、その圧倒的な存在感に気圧される。 狂おしいまでに咲き誇るその激しさ。 舞い散る花弁さえ燃え尽きる最後まで激しく燃え立つ炎のようだ。 桜の木下に立って見上げるとより一層、その激しさを感じる。 飲み込まれそうなほどに。 「あー…きれーだなぁ!」 うす赤い花弁がが酔って火照った肌を撫でて肩に、地に積もる。 そっと触れては落ちるソレがまるで桜から誘われているようだと考えて、自分の思考のとりとめのなさを笑った。 コレだけ酔っていると、物もまともに考えられない物らしい。 妙に冷静に己の状態を思いながら、桜にうずもれて立ちすくむ自分の姿を想像して思わず笑い出したくなった。 いい年した中忍がぼーっとした表情で、でくのぼうのように立ちすくむその姿を。 きっと相当滑稽なことだろう。 酔ったせいか止まらない笑いついでに生理現象の方もそれなりに切羽詰ってきたので、ふらつく足でトイレに向かった。 桜を眺めながら用を足していると、自分がいる所さえ忘れそうになる。 「桜…」 適当に手を洗いまた引き寄せられるように桜に向かって歩き出した足が、ふわっと浮いた。 「え?あ?」 「駄目でしょ?そんなに見てたら攫われちゃうかもよ?」 「あー?誰?」 同僚の声じゃない。歌うように楽しげな…低く、どこか甘い声は自分の知っている声のはずなのに、誰の物か分からなかった。 「ねぇ?桜、そんなに好き?」 「へ?あー…はぁまぁ。それなりに?」 何でこんなコトになってるんだろう。 自分が座り込んでいるのは、多分声の主の膝だ。体格が殆ど同じくらいの男。ソレも忍だ。ベストの巻物が当たるごつごつした感触からしてほぼ間違いない。もしかすると相手は上忍かもしれない。酔っ払っているとはいえ、中忍の自分をこうも簡単に捕まえたのだから。 つまり、俺も相手も成人男子のはず。…それなのに、後ろから子どものように抱きかかえられているのだ。 それも、多分公衆トイレの個室の中で。 多分というしかできないのは、今、自分の視界が冷たい手でふさがれているからで…。 相手も酔っ払いなんだろうか?こんな所に酔っ払った中忍捕まえて引っ張り込むなんて、まともな状態じゃないだろう。 身動きが出来ないくらいぎゅっと抱きしめられているのに、不思議と危機感すら湧いてこなかった。 「今日ね。ちょっとヤな任務だったんだよねぇ?」 「そりゃ、大変でしたね。」 そんなときは酒が過ぎるのもよくあることだ。酔っ払ってもおかしくない。 でも、不思議と辺りを漂うのは桜の香りだけで酒の匂いはしない。掃除が行き届いているのか誰も使わないのか、こういう所特有の饐えた匂いさえしない。 ただ、ほんの僅かに鼻をくすぐるのは、かつてはかぎなれた鉄さびくさい匂い。 嫌な任務というのは、恐らく血を流すものだったのだろう。 …これも、任務なのか?…いや、コレは違う。 任務ならこんな風に理由も告げずに拘束したりしない。まして、相手は酔っているわけでもない。 ただ、ひとつだけ、こんなコトをされる理由が思い浮かんだ。 血を流すことはそれ程珍しいことじゃない。だが、それでも…戦闘時の異常な興奮と、大量に流された血に酔いすぎて、中々正気に戻ってこれなくなる者もいる。 血に逸った上忍が、それでも最後の理性で一般人でなく頑丈そうな中忍の自分を選んだのだとしたら…説明はつく。 その場合、その激情が冷めるまでいたぶられることだってありうる。もしくは…。 「もー色々あってさ。そーいうときって…アンタも分かるでしょ?」 「っ!」 分かるでしょなんていわれるまでも無く、股間をいやらしく撫でるその手に意味がはっきりした。 自分の想像は当たってしまったようだ。いたぶられるといっても、別の意味の方にだろう。 命の危険ではないとはいえ、どっちが良かったかといわれれば、前者の方がよほどマシだ。殴られたり蹴られたりなら、幸いそれこそ相当な目に合ってきているが、こんな風に女の代わりにされるなんて想像したことすらない。 酔いがまだ残る息をつめて必死で声を堪えた。これからはきっと酷いコトになるかもしれない。ましてや、自分のようなもさい男にまで我慢できなくなるほど、相手は切羽詰っているのだ。その声音がいくら冷静に感じられても、どこまで正常な判断を下せるのか分からない。そもそも自分にこんなコトをしている時点で理性は期待できないのだから。 そう思うのに、何故か抗うことすら出来ず、ただぼんやりと己の肌が暴かれていくのを受け入れた。 「我慢できなくなるんだよね。」 のったりとした口調とは裏腹に、自分のベストを剥ぎ取る手は迷い無く、すばやい。 視界をさえぎっていた手の代わりに、額宛で覆うのも一瞬のことだった。 「あっんんっ!」 ジッパーが壊れるんじゃないかと思うくらい強引に引き下げ、そこから入り込んだ手がぐりぐりと股間を嬲った。敏感な先を抉り、根元から擦り上げ、焦らすように時々手を緩める。強引なのにツボを得た動き。 あれだけ酒を飲んでいるのに勝手に立ち上がるソレに悪態をつく暇さえなく、アンダーの裾がめくり上げられた。 「ひっ!」 春の夜の薄ら寒い空気が入り込み、鳥肌が立つ。 その反応に、耳元で男がくすりと笑った。 …まるで面白いおもちゃを見つけたとでもいうように。 平らな胸のどこに興奮するのか、その突起をおし潰し、つめの先で軽く引っかいては、息をつめる俺を熱心にまさぐる。 最初は固まっていただけだったのに、次第に荒くなる呼吸で自分が興奮しているんだと気づいた。 自分でも想像しなかった。こんな所で感じるなんて。 嬲られる直接的な刺激だけでなく、性器からにじみ出た先走りがくちゅくちゅと卑猥な水音を個室に響かせる。 視覚を封じられているせいか、うなじに当たる熱い吐息がやけに鮮明で…。 「ちょっと頭冷やそうと思ってここの桜見てたけど収まらないし、返って酷くなるからいっそのこと花街でも行こうかと思ってたの。」 それなのにどこまでも冷静に語る男が憎くさえあった。 悩むのが馬鹿らしくなるくらい気持ちよくしてくれればいいのに。 快楽主義者のようにそんなコトを思った。 「でも、あんたが来るから…。慌ててこんなトコに隠れる羽目になって。」 「なん、で。俺?」 ただの中忍の男を、しかもこんな所で相手にするより、花町に行った方がずっといいはずなのに。 「それなのに、のこのここっちに来ちゃったんだから、諦めてよ。」 俺の問いかけに答えはなく、ただせわしなく動く腕に、自分の欲望が暴かれていく。 …桜の香りと共に。 ***** 「あーあ。我慢してたのに。…あんな顔して桜なんかみてるから。」 どこか拗ねたような口調で男は囁く。 「もう、桜の下なんかに立たないで。消えちゃいそうだった。」 甘えるような声とは裏腹に突き上げる動きは凶暴で。 「やぁっ!無理だ、から!」 熱く硬く張り詰めた肉に串刺しにされて、逃れようと冷たいタイルの壁に手をついても滑るばかりで、がくがくと震える足では支えきれない。 崩れ落ちる瞬間を狙ったように、男は笑いながら深く深く腰を突きだす。 「ねぇ。こんなにしといて何が無理なの?」 男に言われるまでもなく、自分でも分かっている。 トイレの壁も、床も、それに自分の太腿も、…自分からひっきりなしにこぼされる白濁でぐちゃぐちゃだ。 吐き出しても吐き出しても萎える暇さえ与えられないソレを、焦らすように撫でる男の手さえ汚して。 「あぁっ!さ、わる…なっ!」 …己の言葉とは裏腹に、言い訳のしようもないくらい猛って、はしたなくよだれをたらし続けている。 「だーめ。…こんなトコでこんなコトされてるのに、勃ててるアンタがいけないんでしょ?」 そうだ。ここは深夜とはいえ誰が来てもおかしくない所で…それに、もし見回りの忍が気付いたら…! 「ソレは…はっ…んっ、や…っ」 もし、見つかったらどうなるか。 …焦りは確かにあるのに、間断なく与えられる溺れてしまいたいほどの快楽から逃れきれず、喘ぎ混じりの声にしかならない。 タイルにはじかれた爪から痛みが走っても、なお。 「桜なんかよりずっといいでしょう?」 そうだ。桜を見ていて。あの一瞬の激しさと儚さに酔った。 それなのに、今はずっと深く激しく、…それなのにどこか幻のようなこの行為に酔わされている。 「こうやって突っ込まれて喘いで。」 …こんなコトされて、縋りつけないのが寂しいなんて。 「何度出した?」 覚えていられないくらいこの男に溺れて。 「ねぇ。もう、戻れないよ?」 戻りたいとすら思えないくらい強烈な快感に飲まれていく。 「また、イク?」 「…―っ!」 何度目かの小さな艶めいたうめき声を吹き込まれて。 「はは、ぐちゃぐちゃ。アンタのと溢れた俺ので。」 男が笑っている。 「あ、あ、…」 腹の中に広がるものだけじゃなくて、男そのものを深く刻み込まれたように感じた。 あとは、へたり込んだ腰をまた掴まれて、それから…。 狭く、二人の体液で汚れ、桜の香りさえ遠いこの場所で、…何も考えられなくなるまで男を受け入れた。 ***** 「あ…?」 開いた瞳に映るのは見覚えのある天井。それに、自分が横たわるのは、なじんだ寝心地のベッド。 ここは、自分の寝室だ。 あれは、あんなことは…きっと酒によって見た夢だ。 そう、思いたかったのに。 枕元に無造作に置かれたベストに、桜の花びらが残っていた。 「桜…。」 フラフラと身体を起こし、そっとまだそのうす甘い香りを漂わせる花弁に手を伸ばした。 それが届く前に、ぎゅっと掴まれてしまったけれど。 自分の腕をやすやすと拘束しているのは、昨日散々人をいいようにした力強い手だ。 「駄目。もう桜なんかに触らせないよ?」 背後から伸ばされた手が、小さな花弁を炎とともに灰に変えてしまった。 一瞬で燃やし尽くされた春の欠片。 哀れむこともできず、引き寄せられた閉ざされていない視界に映ったのは。 「え?…カカシ、さん…?」 「綺麗な瞳。びっくりしたの?」 柔らかくたわんだ瞳が愛おしそうに自分を、自分だけを映して。 「あ…。」 去ったはずの熱がまた身のうちに沸き立つのを感じた。 「もう離さないから。」 言葉通り壊れそうなくらい強く抱きしめる腕は静かな激情を湛えていて。 桜と酒と、酔ったのはどちらだったのか。 そんなコトを思いながら、瞳を閉じた。 ********************************************************************************* 桜小話一応エロ編ってことで! ドエロにしきれなかった…!!!ごめんなさーい!!! あー…突っ込み、ご意見、ご感想などもしありましたら、お気軽に拍手などからどうぞ…! |