お子様生活



走って走って…それでもまだ追って来る。気配は消した。幻術も使った。それに煙玉だのなんだのとにかく 持ってるものは全部試した。
それでも振り切れないソレは、欠片の迷いなく俺を追い続ける。
気配は読めない。それなのに、ただ危険を知らせるぴりぴりした感覚だけがザリザリと俺の神経をすり減らしていく。
忍びとしての己の勘を信じるなら…コレは俺の手には負えない。
逃げるしかないのに、それすらも、もう限界だ。
ガクンと崩れた膝を地に着いた瞬間、嬉しそうな声が辺りに響いた。
「つかまえた。」
「…!」
決して大きな声じゃないのに、その声は俺を硬直させるのに十分な恐怖を与えた。
ソレを見計らったように音もなく俺の正面降り立った男が、嬉しそうに抱きしめてくる。
「どうして、にげるの?」
ビクッと身体を振るわせた俺を心底不思議そうに見ているのは、しつこくしつこく俺を追いかけてきた上忍…はたけカカシだ。
あの時家に帰る途中だった俺は…目の前の茂みにふと目をやっただけなのに、そこで潜んでいたらしいこの上忍は、 にこっと微笑むなり、いきなり…そういきなり追いかけてきたのだ。その行動からして得たいが知れない。
「さわるな!」
常軌を逸した相手に言った所でどうしようもないとはいえ、この体制で抗うなという方が無理だ。
ソレもあっさり封じられることになったが。
「駄目でしょー?逃げたら。」
「…っ!」
くすくす笑いの混じる声に反して、本気の殺気。
動けなくなった俺に身体を擦り付けるようにして、上忍はなおも俺を抱きしめた。
「アンタ俺のなんだから。」
「あんたは…おかしい。狂ってる。」
この言葉だけがせめてもの抵抗だったが、それもすらかすれて迫力の欠片もない。
「そうかもね?ま、どうでもいいよ。アンタは俺のってことだけ確かなら、それ以外はね。…どうでもいいの。」
うんざりしたような口調で語る声はまともに聞こえたが、その中身は狂っている。
とにかく俺に何かしたいのは分かるが、その何かが分からない。
一方的な所有宣言の意味など分かりたくもないが。
「ふざけるな!…一体何が気に入らないんだ!?」
殺気が途切れたので、こみ上げる怒りに任せて怒鳴った。
森の静寂を切り裂くように大きな声になってしまって自分でも驚いたが、上忍は動揺すら見せずに俺の顔を強引に上げさせた。
「気に入らないんじゃなくて、気に入ったの。コレが運命ってヤツかなぁ…?だから、ね。」

あきらめて?

歌うようなその声と、赤い光の中で、俺の意識は闇に沈んでいった。
*****
「イルカ先生大好き!」
「ならどうして…」
「だって好きなんだもん。どこにも行っちゃ駄目だからね?」
ココに閉じ込められて6日ほど経つんだが、この状態はどうにかならないものだろうか?
目覚めた俺を待っていたのは、俺を捕まえて非常に満足そうに微笑む上忍と、ベッドと食卓くらいしかない 見知らぬ部屋に閉じ込められているという恐ろしい現実だった。
仲間とはいえ異常な行動をとる相手に捕らわれた以上、拷問とか薬物実験とか…それなりの覚悟を決めたのだが、 この上忍の奇妙な行動は、俺をいきなり追いかけるだけにとどまらなかった。
まず、何をしても俺に報告してくる。それにやたらと大好きを連発し、俺がちょっとでも…例えばトイレだとしても …どこかに行こうとすると怒る。泣く。喚く。
ちょっと身じろぎしただけで、上目遣いに俺を見て、その潤んだ瞳で俺を見つめてくるのだ。口調もまるで 幼い子どものようで、抱きついて俺を放さない。
当然、俺は怒った。そもそも仲間をいきなり追い掛け回した挙句に捕まえて、その上四六時中監視されて 平気でいられるほど俺は人生経験が豊富じゃない。…本人曰く愛の視線だそうだが、俺にはなんでそうなるのか 意味がわからない。
好きって言われても特に何かされるわけでもなく、ただただニコニコと俺を眺めては、日がな一日俺に愛を囁く。
まあ、時折俺のちょっとした行動に癇癪起こすくらいのことはするが、肉体的なダメージは殆どない。
要するに…まるでいきなり子持ちになってしまったみたいなもんだ。
癇癪起こした時は殺気も凄いし、馬鹿力でぎゅうぎゅう抱きついてくるから洒落にならない。
…退屈だから上忍の忍犬たちに相手してもらってたら、いきなり怒り出した。自分では一生懸命世話してるくせに、 そんなの構うなとか、放っといていいとか何とか言って…。犬に迷惑かけたくないから離れたら、犬たちが引く くらいくっ付いてくるし。
でも褒めると子どものように笑み崩れる。
この間もそうだった。
俺が窓の外を眺めてただけなのに、いきなり癇癪起こして、…しかも、上忍のくせにその時に引っ掛けて壊したコップで 怪我なんかしやがったので叱ったら、嬉しそうに片付けてみせた。
それでやたら嬉しそうだし、ちゃんと謝ったのでうっかり褒めたらそれはもう…この世の春とばかりにニコニコしてて、 その日1日機嫌が良かった。
コレは一体どういうコトなんだろう?ナルトといっしょに受付所で会うくらいで、それ以外のこの人のことを良く知ってる わけじゃないが、ココまで壊れた人だったなんて…!
いやそれとも…もしかして敵の術にでもかかったんだろうか?あんまり役に立ちそうにないけど。
…今も何だか知らないが、ベッドで不貞寝してる俺の横に一緒に転がって、足をばたつかせながら俺を眺めている。
多分、またいつもの時間が始まるんだろう。
「イルカせんせ?」
「なんですか?」
小首をかしげるのも、足をばたつかせるのも、俺の気を引くための仕草らしいと昨日気付いた。それでも俺の反応が 足りないとこうやって…。
「好きー!大好き!」
…これだ。
更に放っておくと、しつこくコレを繰り返す。
…因みに飯はこの上忍が作ってくれるものしかないので、昨日はムキになったせいで飯を食い損なった。要するに、 ずーっと言い続けるのを無視してたら飯も食わずにずーっと、本気でずーっと言い続けられた。
意地を張ってもあんまり意味が無いことが分かったので、今日はそこそこのところで切り上げることにした。
これ以上は気力も体力も上で、しかも諦めの悪い上忍が有利なだけだからだ。
「…あなたは。可哀相な人ですね。」
ことさら嫌味っぽく言ってみたが、図太い上忍は構ってもらえたことに瞳を輝かせただけだった。
「ふふ…哀れんでくれるの?うれしいな!そうやって俺だけを見て?構って?」
本気。なんだろう。この上忍は。
何しろこの人はホントーに無駄に上忍の実力をフルに活用して、俺の一挙一動を監視してみせたのだ。 寝てる隙にと思っても確実に俺を捕まえる。文字通り全身でぎゅうぎゅうと。
「そうは行かないんですよ…アナタ任務はどうしました?」
そう、そもそもこんなことが普通は長く続くはずはないのだ。何らかの手段で休暇をとってたとしても (まあ、この人の強さから言ったらソレも難しいはずなんだが…。)、早晩任務が入る。
もし無断で休んでるんだとしても、確実に暗部が探りに来る。
なにより俺が出勤してないんだから、もう誰かこの異常事態に気付いてるはずだ。
無断欠勤も遅刻もしたことない俺が、出勤しないなんてことになったら、恐らく急病か奇襲を疑ってくれる …んじゃないだろうか?
そしたら、誰かが様子見に来て、まだ鍵のかかったままの俺の家に気付くだろうし、家の中も探るだろう。
…だろうだろうが多すぎて悲しいが、いくら中忍でも俺も一応木の葉の仲間…のはずだよな…。
こんなに放って置かれると、ちょっと自信なくなってきたけど…。
そんな不安を振り払うように視線で答えを促すと、ふいっとそっぽ向かれた。
「行かない。だっていない間に取られちゃったら困るから。しばらくは大丈夫。」
「駄目でしょう?そんなコトじゃ。」
そっぽ向いてるのに膝に懐かれてしまった。もう完全に拗ねた子どもそのものだ。
大丈夫の意味がわからないが、しばらくってことは、期限付きなんだろう。それなら、勝機はあるにちがいない!
それにしてもこう…言ってる内容が完全に駄々こねてる子どもだから、思わず言聞かせる口調になってしまう。 どうみても子どもに見えない外見なんだが、仕草もことさら子どもっぽいし…。
…騙されてるんじゃないだろうかと思っても、中々実力行使には移れない。
そもそも本気で戦ったとしても、万に一つも勝てないし。
…それに、この人かわいいんだよなー…。何か。ツボ?今だってぶーたれた顔して足のバタバタ激しくなってるし。
この仕草とかは演技だけど、表現してる気持ちは多分…演技じゃない。ソレくらいは鈍いって言われる俺にだってわかる。
こんなに懐かれたら突き放せない。
思わずちょっと俺の頬が緩んだ所で、ふわっと笑った上忍が嬉しそうに話し始めた。
「いいのー。だって俺ずーっと頑張ってきたもん。欲しいものだって一杯諦めてきた。他の子どもとかがさぁ… 遊んでても俺だけ任務してたの。」
「それは…。」
九尾による災厄の前から、この人は上忍だったんだっけ…。
あの後俺もそれなりの目にあってきたけど、この人はずっと…きっとホントにずーっと戦ってきたんだろう。
それで、我慢して我慢して…何がきっかけか知らないが、壊れてしまったのかもしれない。
それでなんで俺の子どもみたいになってるのかは、全然全く分からないんだけどな…。
「だからもういいでしょ?だって欲しい。諦められない。」
真剣な瞳で俺を見つめるこの人は、こういう時だけ普段の子どもっぽさは鳴りを潜め、どこか獣のような純粋な欲望の 視線を向けてくる。
「でも俺は、モノじゃないので困るというか。それに…」
どうしよう。どうしたら。だって俺は…。
「どこにも行かせないからねぇ…。あー…温かい…。」
ごろごろと喉を鳴らさんばかりに膝になついている上忍を撫でても、俺の答えは見つかりそうになかった。
「…はぁ…。」
思わずため息をこぼした瞬間、いきなり上忍が身体を起こした。撒き散らされる殺気のせいで、部屋の空気が重くなった。
硬直した俺の耳に、扉をこつこつと叩く音が響いた。
驚いてる間にいつの間にかその扉を開いた上忍の手に、ソレは舞い降りた。
白い鳥を模したそれは…火影様の式だ!三代目の所で何度も見たから間違いない。…ってことは助けに来てくれたのかも!
あ、でもそうしたら…俺…。
思い悩む俺の手に、その白く可愛らしい生き物が擦り寄ってきた。
とたんに不快そうな声が俺に投げかけられる。
「うるさいなぁ…こんなもの邪魔だから燃やしちゃえばいいんだ。」
自分が振り払ったからこっちに来ちゃったのに、それが気に入らなかったらしい。
術が解かれて紙切れに変わったそれを、ぎゅうぎゅう握り締めてくしゃくしゃにしてしまった。
そんなわがままな所も子どもっぽくて、ちょっとその…かわいい…かも?
でも、燃やしちゃったらコレを読めなくなる。内容が俺の救助かどうかはともかくとして、忍として流石に放っては置けない。
「駄目です。よこしなさい。…さもないと俺は今すぐココを出て行きます。」
わがままを言う子どもには、時には厳しく言わなきゃならない。
視線を真っ直ぐ向けて、静かに、でも確実に起こってることがわかるように言って聞かせる。
自分が悪いことをしたって分かってる子ならコレで…。
「そんなのむりだよ。出さないしもん。ヤダ。」
駄目だった!何か拗ねてる!ふいって顔そむけたりして…!なんだよもう!
「いいからよこせ!」
こうなったらこっちも子どもになってやる!
勢いつけて飛びついたら、ソレが嬉しかったのか案外すんなり紙切れを渡してくれた。
「…いいけどね…。見るだけよ?」
なんていわれたけど。
「なになに…?休暇申請は受理したが、おぬしを必要とする任務が入った。今から1刻後に火影屋敷に…って!アンタこれ任務!」
わー!?俺の救助じゃなくてもコレ、このままじゃ駄目じゃないか!
よし!よく止めた俺!
自分の勇気ある行動にちょっと一人で舞い上がってみてたら、ドサって音がして、床にへたり込んだ上忍が目に入った。
「もーやだ。わがまま言ってないじゃない。…どうして俺から全部取るの?」
力なく投げ出された体が、声が、全身で悲しいっていって、それがこっちにまで伝わってくる。…ホントは行かせたくないってちょっと思ってる俺がいる。
でも、それは出来ない。
「あーもう!駄々をこねないで下さい!」
「だっていない間にどっか逃げちゃうよね?イルカ先生ったらちゃんと強いし。ほっといたら絶対逃げるでしょ?」
そう。問題はそこだ。
なにせ俺が逃げるなければ任務自体は…危険だけど、こんな子どもっぽい人行かせて大丈夫なんだろうかって思うけど、本人は別に気にしてないみたいだ。
つまり、俺がいなくなるって思い込んでるからこんなに悲しんでるってことだ。
「…俺が、逃げないか心配なんですね?」
そこだけ元気に逆立った頭を撫でると、頭を摺り寄せてきた。顔を見るとまるでしょぼくれた犬みたいな顔してる。
「…うん。だって逃げるって言ってたじゃない。そんなの許さない。」
上忍はぐすぐす鼻を鳴らしてるのに、それでも殺気を放ちながら俺の足をぎゅっとつかんできた。
…まるで縋りつくみたいに。
「なら。俺は絶対にココから出て行きません。食糧と水だけ確保してあれば。」
俺はこの人に泣かれるのはイヤだし、そもそもあんな式よこされるんだから、三代目は事情を知ってるんじゃないだろうか?
それをちょっと拡大解釈して、お墨付きの休暇だってことにしとけば、俺は別にここで待っててもイイ。アカデミーの 子どもたちも丁度春休みだし。
ってことで、思いきった決断をしてみたんだけど。
「ウソツキ。そんなコト言ってまた俺から…」
猜疑心一杯の顔。
コレは…練習すればいろんな術使えるようになる!ってちょっと伸びが遅めの子どもに言った時とかの表情だ。
…この人の場合は、もっと根が深いんだろうけど。
こういう時に言うセリフは決まってる。
「ウソ付いたら何してもいいです。煮るなり焼くなり好きにしろ!」
もちろん本気だ。コレを言えば大抵ちょっと疑うんだけどそれなりに…。
「ほんとに!なにしてもいいの?」
わぁイイ笑顔。…なんだかなぁ…何なんだろうなこの人。
ちょっと…いや、大分ドキッとした。
「男に二言はありません!」
喜ばれついでに、ここはとりあえず男らしく宣言しとこう!
そう思ってガッツポーズまで作ってみたんだけど。
「じゃ、帰ってきていなかったら…全部消しちゃうから。」
「え…?」
「記憶も。帰る場所も。この里ぜーんぶ。」
「何を…!?」
なんで…にこやかにさわやかに、何でこんなコトいえるんだ。
「できるよ。俺なら。俺だけの力じゃないけど、先生…俺の昔の先生がくれた術があるから。」
疑ったのが顔に出てたのか、自慢げに大きな子どもが説明してくれた。この場合嬉しくもなんともないけど。
「そんな…よ、んだいめ…」
どうしてこんな子にそんな危険なモノ教えたんですか…!
今度は俺の方が力が抜けてへたり込んでしまった。
それに応えるように、か細い声が囁いた。
「そ。酷いよねぇ…。俺まだ子どもだったのに、そんなのおもちゃにもならないじゃない?」
本当は、ふざけたこと言うんじゃありませんっていうつもりだったのに。
…ふざけているようでいて、悲しんでいるその声が、俺にソレを阻ませた。
「…分かり、ました。」
つぶやくような俺の返事に、静かな返事が返ってきた。
「…そ?なら、一回だけ信じてあげる。もしいなかったらイルカ先生だけ閉じ込めて帰る所消しちゃえばいいんだもんね!」
「…アナタは…!どうして!」
最後の方は確かに完璧に喜んでるみたいに聞こえる。でも、そんなものに騙されない。
本当はこの人は、そんなもの教えられたことを悲しんでて、怒ってる。
身体を張って仲間を守ってきたくせに!絶対にそんなコトできないくせに!
ああでも、わがままは言うんだよな。俺に。…それだけ俺が欲しいってことなのか…?
「えへへ!じゃ、行ってきます。すぐ帰るね?」
「…お気をつけて。」
…俺は笑顔のカカシさんに、それくらいしか返せなかった。
「うん…!うん!俺、頑張ってくるから!…待っててくれるよね…?」
「ええ。もちろん。」
かわいい子どもを装った声が、それでも言いたいコトは本当だとわかるから、俺は待つ。絶対に。
何だか切なくなって、思わず強引に抱き寄せたら、いつもならぎゅうぎゅう抱きついてくるのに、 ちょっとぎこちなくくっついてきて、それから確かめるみたいにぎゅっとしがみ付いてきた。
「…子どもってちゃんと見たことあんまりなかったんだけどさ。ナルトたちってかわいいね。俺、昔あんなじゃなかった気が するんだけど。」
「そうですね…。俺は、わりとまんまああでしたけど。」
「へぇ…だからこんなに温かいのかなぁ…?」
「あなたも、温かいですよ。」
じゃれあうみたいに触れ合って、ふざけあって。
何でこんなことになったのかはわかんないけど、なんとなくこの人のことがわかったような気がして嬉しい。
「うー…行きたくないけど。イルカ先生が怒るのはやっぱりちょっとやだしなぁ…。しょうがないから行ってきまーす!」
…これ聞いてると、どこまで演技かわかんないんだけど。
とにかく笑顔で見送るのが受付嬢の務めだよな!
「…気をつけて!」
「はーい!」
…こうして、元気一杯不安ちょっとの表情のカカシさんは、いそいそと任務に出かけて行った。
*****
俺は健気にも帰りを待ってたって言うのに…。
…頑張って帰ってきたからと嬉しそうにしがみ付いてきた大きなお子様に、ご褒美と称して襲われてしまいました。
抵抗しようにも、必死な様子につい…その…最後まで。
…俺って馬鹿なんじゃないだろうか?
最初は腹立ったというか、びっくりして、でも、なんていうか、それだけ俺が欲しいんだよな…って思ったら、 わー…なんかこう…ああもう!何だコイツかわいいな!ってなって。
訂正。…俺、やっぱり馬鹿だ。ソレも大馬鹿。
「帰って来るとさ。イルカ先生俺にも笑ってくれるよね。」
「それはアナタは任務頑張ってきた仲間なんだから…」
だるい…どうしてこんなに元気なんだろう。任務行ってきたはずなのに…。
俺なんか部屋でぼーっとしながら、心配したり心配したり心配したりしてただけなのに!
かわいい顔してやることは…もう子ども扱いなんかしないからな!
怒りつつもはじめての経験を思い出すと、赤くなったり青くなったりしつつも動けないこのジレンマ。…うう…!
「ナルトがさ、飛びついてぎゅーってやってたの。いつもやってみたかったんだよね。」
「それで、これですか…。」
今回の犯行の動機が分かったような分からないような…。大好きのベクトルがこっちだったとは思いもよりませんでしたよこの上忍様め!
痛いし、だるいし、何か変な声とか出ちゃって…気持ちよかったとかああもう!!!
「だからね…俺もあれやっていいんじゃないかって思ったんだよねー?」
人の苦悩もどこ吹く風で、さっきからいろんな…思い出したくないもので汚れた身体をなでまわされて、しかも勝手なこと言ってるのがまた腹立たしい。ナルトとやってることが大幅に違いすぎるって!
流石の俺も苦言を呈したい…というか、文句のひとつぐらい出るってものだ。
「もう、アナタは大人でしょうが?」
「大人…大人ねぇ…年はそうだね。でもさ。欲しいものもらえないなら子どもでいいよ。だってもうイヤになっちゃった。欲しいなって言っただけでちょっかいかけるなとか言われるしさ。」
…要するに既に三代目とかに単刀直入に俺の身柄要求したってことだろうか?
それとも誰かに俺のこと欲しいと相談を…ソレも恥ずかしいけど!
それよりなにより…。
「子どもは…こんなことしませんよ…。」
無駄に大人の証明と、経験値の差を見せ付けられて、へこむって言うかなんていうか…!
俺男相手になんであんな状態に…!思い出すだけでも顔から火が出そうだ。
「そうね?ふふ…。イルカ先生かわいかった…!」
俺の様子にご満悦のカカシさんは、ニヤニヤとたちの悪い思い出し笑いを…!くっそう!
「アンタは獣みたいでしたよ!歩けないかも…。」
文句を言ったのに、いきなりがばっとしがみつかれた。
抱きしめる力加減も知らないのか、肋骨が砕けるかと思う位だ。
女にモテるって話だったのに、どうしてこんなに馬鹿力でぎゅぎゅうと…!
「別にいいんじゃない?それで。だって俺の側にいてくれればいいからさ。」
この状況でソレを言うのか!
「絶対を人間に求めるのは間違ってます。それに痛い!もうちょっと緩める!」
「そーいうトコも。大好き!あーもう離れたくないなぁ…。」
蕩ける笑顔と、痛いって言ってるのにさらにしがみ付いてくるこの人に、俺は…。
「…カカシさん。」
「なぁに?」
「俺は…」
「どうしたの?」
「なんでも、なんでもないです。」
「うん。そうね。…なんでもないね?」
分かってるのか分かってないのか…ぎゅうぎゅう抱きしめられてるのに、温かいのに、俺は悲しくてならなかった。
縋りつくように求められるのがこんなに満たされるなんて俺の方がきっとおかしいんだ。
あの時抱きしめられて抵抗しなかったのは…俺が欲しかったから。
気付かないままで…見てくれの大きい子どもの世話だと思いこんだままでいられれば良かったのに…。
…でも、きっともうすぐ終わりが来る。こんな状態をいつまでも里が許してくれるはずがない。
犬を慈しみ、植物を育て、健全なのに完全にどこか欠けたこの人を、俺なんかが埋められるんだろうか…。
眠れない俺の横で丸くなって眠るカカシさんを抱きしめて、俺は一晩中考え続けた。
*****
朝、食事を済ませるなり昨日とそっくり同じ格好の式が窓をコツコツノックした。
昨日の今日でと思わないでもなかったけど、任務をずっとためといて、様子見に成功したから次もってことなのかもしれない。
「あーやだやだ。お仕事また来ちゃった。お金なんかどうでもいいのになぁ…。あ、でもイルカ先生との生活に使うって考えると 張り合いでるかもー?」
あっけらかんとそんなコトを言うカカシさんは、多分本気だ。お金なんかもう腐るほどあるし、ホントは任務も…。
だから、俺は。
「…俺も、働きます。」
俺がそう言ったとたん、カカシさんから殺気が噴出した。
「なに?出てくの?やっぱり…それなら…」
ゆらりと、優秀な忍らしく音もなく近づいてきたのをぎゅーっと抱き寄せて頭をグリグリしてやった。
「違います。俺は、アナタの家族になります。だから、俺もアナタも働きます!俺の両親も共働きだったし!」
「なんで…?一緒にいるのいやなの?でも…。」
ちょっと殺気が緩んで、でもまだ不安そうな顔でカカシさんが俺を抱きしめ返してきた。
ぐすぐす言ってるのは、泣いてるんだろう。
あーもうなんでこう…かわいいかな!
過激なこと言うし、実行もするけど、ホントなんていうか、こういうトコ臆病なんだよなぁ…。
「泣きそうな顔しない!俺は養われてるのが性に合いません。この家出てく訳じゃなくて…まあ狭いから いずれは引越しとかも考えるかもしれませんけど!だから、必要なら術でも何でもかければいい!」
「そんなの!だって勝手にどっか行って…何かあったりしたら…!」
「家族って言いました!俺はアンタと一生一緒にいます。アンタも勝手にフラフラどっか行かない様に!あ、 でも任務は行ってください。俺だけじゃアンタはともかく忍犬たちを養うの大変ですから。ソレになんか あったら助けるのが家族でしょうが!」
「じゃ、もし帰って来なかったら…?」
「俺を捕まえて好きなようにしていいですよ?あ、でも、敵に捕まったりしてたら、助けに来てくださいね?」
「好きに…今度こそ出てかないようにしてもいい?」
「どうぞ?でも、俺もそうしますから。」
「うん!…でも、まだ信じられないから、帰って来なかったら俺…」
「ちょっとなら待っててください。でもこなかったら…そしたら、迎えに来てください。」
だって俺はもうこの人貰う気満々だから、絶対に戻ってくるに決まってる。
…帰らないんじゃなくて帰れないってコトはあるかもしれないけど。
これだけきっちり宣言したのに、それでも口をへの字にまげてぐずぐずしてるカカシさんがかわいいからしつこくなでてたら、 情けない声でまだダメ押ししてきた。
「…イルカ先生…!ほんとに?」
「疑り深いですねぇ…。ほんとです!」
「だって、みんなうそつくじゃない?置いてくし、裏切る。だから信じられない。」
拗ねた瞳で不安そうにしてて、でも、甘ったれでわがままで、結構優しい。
…こういうの、俺弱いんだよなぁ…。
「信じなくてもいいですよ。俺は信じますから。」
みてろよ!今は…何かすねてるけど、俺がちょっとやそっとじゃ暗い顔とか出来なくなるくらい可愛がっちゃうからな!そんでもっていつか…俺なしで生きていけないくらいメロメロにしてやる!…もう大分なってるけど!
「うん…。」
にこっと笑ったカカシさんの涙を拭ってやるついでに、ちょこっと鎌をかけてみた。
「俺の、任務依頼はいつまでだったんですか?」
「一生。じゃないと暴れるって言ったら許してくれたよ?」
「…里長相手になにやってんですか!?」
この人の行動力からして、何かやらかしてそうだと思ってたけど…。
何で許可が下りたんだ!三代目!俺にカカシさんの躾、押し付けるつもりでしたね!!!くっそう!確かに俺の好みストライクだけどさ!…男ってコト除けば…。あー…ま、いいか。しょうがない。
そもそも受け入れた時点で俺はこの人に惚れちゃってたんだろう。
「だってそうでもしないとあなたがもらえないじゃない?」
俺になでられて安心したのか、カカシさんは当然のように言い切った。
半分演技かもしれないけど、半分は…本気なんだろうなぁ…。いや半分どころかもしかするともっと…。
「…そんなに、俺が欲しいですか?」
「欲しいよ?だってはじめてみた時から欲しかった。もう、誰にも上げない。」
真っ直ぐに俺だけを見つめて、俺だけを求めるこの視線に、ドキドキする。
もういいや、俺、変態で。…この人もちょっとどころじゃなく変だから、きっと丁度いい。
「アナタも、勝手にどこにも行かないこと。…絶対俺を置いていかないでください。そんなことするようなら俺は一緒に住めませんからね!」
コレだけは言っておかないといけない。
この人結構フラっとどっかいっちゃいそうだし、モテそうだし、ちゃんと捕まえとかないとな!
そう思って言聞かせてみたら、明後日な答えが返ってきた。
「どこにも…任務にいくなってこと?」
「違います!…怪我はしょうがないにしても、先にいかないでください。」
意味が分かってるのかどうか、いまいち不安だ。何かこの人肝心な所で諦めよさそうな気がするから、念には念を入れておく。
「俺も、イルカ先生と一緒がいいな。一人はもう…。」
「えぇ。だから、絶対に俺のところに帰って来るんですよ!」
「うん。」
「アンタが勝手に行こうとしたら、俺が先に…」
「ソレはヤダ!絶対駄目!」
迎えに行くって言うつもりだったんだけどなぁ…こんな顔されちゃうと、不謹慎にもちょっと嬉しくなる…やっぱり俺、完全におかしくなった。
「なら、わかりますね!」
「わかった…。」
「俺も明日から働きます。任務の依頼は取り下げてください。替わりに…結婚でもしますか?」
「してくれるの…?」
「一緒に暮らすんだからそっちの方がいいでしょう?財産なんかいらないし、一緒に暮らせるならどうでもいいですけどアナタが俺を縛りたいなら紙切れ一枚くらいいくらでも。」
「うん!わー…!嬉しい!」
この顔見られるんならもういいや。かわいい奥さんも、かわいい子どもも、賢い子犬も子猫も諦める。
この人一人だけでいい。
「じゃ、今日は寝ましょう?明日一緒に火影様のところに行けばいい。」
丸く収まったと思ったのに、カカシさんはそれでもまだしつこく聞いてきた。
「…逃げない?」
「逃げません!」
「ほんとに…?」
どうしても疑ってしまうらしい。
ああもう!俺はこんな顔させたくないのに!
勢いのまま、俺はベッドまでカカシさんを引きずって、ついでに自分の服も脱ぎ捨てた。
「そんなに不安なら…逃げられないように、してください。」
こんなことしたことないから、流石にちょっと緊張したから声がとぎれがちになったけど、ちゃんと言えた。
カカシさんは一瞬こっちが驚くくらいぽかんと後、ちょっと泣きそうなのにものすごく嬉しそうな顔して、 案の定飛び掛るようにして俺に乗りかかってきた。
「大好き。」
あんまり凄い勢いだから、ちょっと早まったなぁと思わなくもないけど、この顔が見られるんならイイか。
熱心に俺の身体をたどる真剣な顔のカカシさんの頭を撫でて、一緒にこの熱に溺れることにした。
*****
「…本気でやりましたね?」
「うごけないでしょ?明日も無理だねぇ?」
確かにそうだ。今受け付けに座ってろって言われても、何も出来ない自信がある。本来ならそこは忍の意地で何とかしたい所だけど、こんなに温かくて気持ちイイと、そんな気力もどこへやら。ああ…堕落してる!
「でも!あさってからは行きますから!」
今日は駄目でも明日も駄目でも!絶対行ってやる!!!
気合いたっぷりに言い放ったら、カカシさんが何だかしょぼくれてしまった。
「…うん。」
あーもう!どうしたらいいんだ!
そんな顔されたら…抱きしめたくなるだろうが!
「そんな顔しない!」
でも腰が上がらないからとりあえずぐしゃぐしゃ頭かき混ぜてみたけど、曲がった口が治らない。これはまだ何かあるってことか? 一生懸命この人がへこんでる理由を考えてみてたら、カカシさんはぼそっと不満げにつぶやいた。
「だって…俺もうすぐ…。」
「ああ!?そういえば任務!?」
すっかり忘れてた!あんなことやってる間に任務遅刻とかしてたらどうしよう!?
大慌てで準備しようとしたけど、よく考えたら自分の家じゃないし、この家ってそういうものが何にもないように見える。
もうどうしたらいいかわかんなくて、ベッドの上でわたわたしてたら、ぎゅっとしがみ付いてきたカカシさんが、ぼそぼそ小声で話し出した。
「あさって。俺が任務から帰って来るまでに帰ってこなかったら迎えに行っていーい?」
「いいですよ。」
迎えにきてくれるのは大歓迎だ。周りはちょっと混乱するかもしれないけど、どっかで暗い顔されてるよりいい。
「じゃ、行く。」
よしよし!ちゃんとヤル気になったみたいだ!それならついでに…。
「ちゃんと子どもたちも見てやってくださいね!」
こっちも重要だからちゃんと言っておく。
今まで任務扱いとかになってたんだろうから、待ちぼうけ食ったりはしてないと思うけど、いまいち心配だ。元気そうだから今日からでも行って貰おう。
「…えー…でも、その間に逃げるんじゃ…?」
ぐずぐずと文句言ってるけど、コレは駄々捏ねてるだけだな。多分。
昨日みたいに切羽詰った感じはしないから、単に俺とはなれるのがイヤなんだろう。
「動けなくしたの誰ですか?ほらさっさと行く!」
鎌って欲しいのが丸分かりだったから、ほっぺたつついて急かしてやった。
「はぁい。ね、待っててね?」
「待ってます。」
イイ返事の後、すっと顔を近づけてきたから、行ってらっしゃいのキスをしてあげようとしたはずが…何か途中から変わった。
触れるだけのキスが離れてすぐ戻ってきて、舌を絡ませて吸い上げてまるでさっきまでの熱を思い出させるような…。
「は…っあ…!」
「あーかわい。」
コイツ!調子に乗りやがって!
「馬鹿!いいから行って来い!」
「うん!」
お返事は大変よろしかったんだけど。
出て行くまでに盛大にごねられたりちょっかいかけられたりして、動けないイルカ先生っていいねとか言われて、何とか追い出すことに成功するまで相当な時間を要した。


それからまあ、なんとか俺もちゃんと働き出して、カカシさんも尻叩きながら働かせてる。そうやって普通に暮らしてて、でもちょっとした隙に、俺を捕まえようとしたり、大暴れしたりしてくれるたびに、狂ったように俺に執着してることを確認できて。
まあ、そういう幸せもありかなって思っている。


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いつもお世話になっているHAPYPAの龍真様のお誕生日おめでとうなお話!!!のはずだったのに…。
中身は…微妙でございますがお祝いソウルだけは本物!!!
でも何だかいくらなんでもお題に添っていないような気がしてきた…。
一応お題は…好きすぎて過剰な愛…微シリアス風味で!…だったのですが…。
が、がんばるぞー!!!←ごまかし。

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