「本日は節分ですね!」 「あ?ああまあ、…確かにそうだな。だが、いきなり深夜にナニ寝ぼけてるんだ?駄犬?」 珍しく変態がいない夜を過ごせると思ったが甘かった。俺の上に馬乗りになって瞳をやたらと邪な光で輝かせているのは…変態だ。 「だから…イルカ先生には是非コレを…!」 そっと差し出されたそれは…所謂鬼のパンツ。 …どうしてこいつはこういうことにばかり熱心なんだろうか? 睡眠を妨害された苛立ちもあって、相手をするのも面倒くさくなってきた。 「…ひねりがないヤツだな…?それに俺はアカデミーで鬼ごっこは卒業した。今日はアカデミーで節分はするが貴様と 遊ぶ予定は微塵もない。」 派手派手しい上に、何故かきわどいビキニタイプのソレを放り投げ、追いかけた変態がどいたのを見計らって、 俺は再び布団の中に潜り込んだ。 こういう時は無視するに限る。…相手をすると返って付け上がるからな。 「トラのパンツに…角も!かわいいでしょー?イルカ先生がコレを着たら…最高だと思うんです!!!」 とっくに布団に潜り込んで視線も合わせていないのに、めげない変態は熱心にパンツを広げて見せ、しかも角を自分の頭に 乗せるマネさえして見せた。 眠いって言うのにしつこいんんだよ!!! 「…断る。きさまが着るならまだしも…。は!?いや、いい!やめ…」 しまった!これではいつぞやの二の舞…!!! 寝ぼけた頭でうっかりしてしまった。慌てて取り消したものの…変態の耳はやはり自分の欲望にとって都合の良いものを既に 拾い上げてしまった後だったようだ。 「ああ…っ!イルカ先生からの鬼プレイのご要望…!!!がんばりますね!!!…俺の金棒で!!!」 一瞬にしてやはり見た目どおりピッチピチのトラ模様のビキニ着替え終えた変態は…もさもさの頭に角が埋もれていて、 単なる変な下着を身に着けた変態にしか見えない。しかも、半分くらいずり下ろされたパンツから覗いている可愛げの 無いモノが…!!! 「しまえ!っていうかそれはもはやパンツの意味がないっていうか…!!!角付いてるだけの変態だろ!?」 しかも、その角さえろくに見えない始末。…どうしてコイツはココまで変態行為に熱心になれるんだろう?もはや すっかり眠気の失せた頭を抱えたが答えは出なかった。 「あ!イルカ先生もおそろいですよー?」 しかも…にこにことご機嫌な変態が今妙な事を言ったような…!? …まさか!? 「なにぃ!?…ああ!?いつのまに!?」 さっきまで、俺はパジャマを着ていたはずだ。だが…変態とおそろいの妙にピッチピチのビキニに変わっている…!!! しかも、恐る恐る頭に手をやると、とんがった何かが…!? ある意味予想通りの展開だが、まさか…日付が変わってからすぐに来るとは油断した…!!! …だが、まだ手はあるはずだ! 「…イルカ先生…やっぱり似合うなぁ…!!!」 はぁはぁと洗い息を吐きながら、じわじわと変態が近づいてくる。その股間からはみ出した物体も、無駄に元気が良い。 …やっぱり…早めに準備しといてよかった!効いてくれ…! 祈りを込めて俺は秘密兵器を手に取った。 「さわんな!えい!鬼は外!!!」 近づいてくる変態に向かって、すかさずこんなこともあろうかと、枕の下に仕込んでおいた豆を投げつけてやったのだ。 「ああん!イルカ先生から放たれたものが俺に!!!」 「き、気色悪ぃこと言いやがって…!!!うぅ…!!!」 これも想定の範囲内だ!…でもやっぱり気持ち悪い。何だって豆ぶつけられて嬉しそうにもだえてるんだ!? しかも…一個も床に落ちてない所がまた恐ろしい…!!! 「も、もっと…!!!」 「食らえ!いわしの頭!」 懲りずに興奮に震える手を伸ばしてくる変態目掛けて、更にいわしの頭を投げつけてやった。豆は予想以上に回収速度が 速かったが、流石にコレで少しでも時間稼ぎができるはず!その隙に逃げないと…! …だが、俺の予想はまたも覆された。 「ああ…!イ、イルカ先生の味わい…!!!」 ごりごりとスゴイ音が変態の口からしている。…ひょっとしなくても、あのまま食ったのか!? 「食うな!!!お前鬼なんだろ!今!退散しろ!節分なのに…!」 我ながら訳のわからないことを言いながら、俺は必死で残った豆を投げつけた。…相変わらず一個も床に落ちない…。 どうしてなんだ!?どうやって拾ってるんだー!? 俺が激しく焦る間にも、変態はじわりじわりと距離をつめ、にんまりと笑っている。…これは獲物を狙う獣の瞳…!? 「愛のぶつけ合いですね…!じゃ、次は俺のコレで…!!!愛のぶつかり合い!!!」 がりり…っと何かを噛み砕く音がした後、変態は俺目掛けて飛び掛ってきた。 「うわぁあぁぁぁ!?」 …その後のコトは思い出したくもない。 ***** 「正に愛のぶつかり愛…!!!最高でした!!!」 「アカデミーに行かないと…!」 勝手に興奮してやりたい放題した変態のお陰で腰が抜けるはダルイは…。その上変なトラ模様の下着を脱がないことを 強要されたので、俺は…それはもう酷い有様だ。 できるだけ自分の惨状を視界に入れないように、俺がずるずると重たい身体を引きずって風呂場に向かおうとしていたら、 変態がまた妙なモノを差し出してきた。 「はぁい!鬼の秘薬ですよ―!!!勿論口移しで!!!」 …コイツはあくまでも鬼にこだわるつもりのようだ。…訳が分からんが逆らう体力もない。 「いつのもか…?変なモノ入ってないだろうな…!?」 見た目は…いつもの変な丸薬だ。中身については知らない方が幸せだと思うことにしているが、効果の方は折り紙つき。 今日の授業のためにも諦めてコレを飲み下すしかないだろう。 口移しは断固拒否するがな! 「大丈夫ですよー?」 にこにこと胡散臭い笑顔全開の変態は放置するとして…これからアカデミーで節分の話をしなきゃならんのに、 こんな目に合ってはろくでもない事を口走ってしまいそうで恐ろしい…! …できるだけ考えないことにしよう。 そう決め込んで俺は変態に手を差し出した。 「…まあいい。よこせ。自分で…ぎゃ!んんんーっ!」 …手を舐められて、驚いてる隙をつかれてついでに口にも吸い付かれた。 「ふうぅっ!イルカ先生の中はいつも熱いて気持ちイイですね…!!!」 変態は満足そうだが、口をこの変態に蹂躙されてしまった…!!! 「くっ!…いや、この際アカデミーにいければイイんだ…!」 体が動くならそれ以上のコトは考えない。そうでもしないと俺の精神が持たない。 涙を飲んで耐える俺を変態は当然のように担ぎ上げた。 「さ、行きましょうねー?」 「おい!」 「洗うだけですよー?俺の愛する小鬼さん…!!!」 …一抹の不安が残ったが、抵抗するだけ時間の無駄だろう。というか、もはやここまできたらどうしようもない。 俺が色々と諦めた結果、ソレ相応の被害にはあったが、何とかアカデミーに出勤することができたのだった。 ***** 子どもたちといるとやっぱり癒されるな…! この子達の可能性を伸ばしていくんだ!これからさまざまな苦難に立ち向かえるように…!そのためにも、 色々な事を学ばせてやりたい。だから…俺は耐える! 「いいかー!皆!今日は節分だ!節分って何か知ってるよな?」 黒板に大きく節分と書くと、子どもたちは一斉に喋りだした。 「家の中にいる鬼を豆をまいて追い出すんだよね!!!」 「やっつけて、あと魚のあたまとか、としのぶんだけたべるとか…?」 「他には…えっと?太巻き?」 一生懸命に俺に教えてくれようとする子どもたちに、湧き上がる暖かい何かが俺の胸を満たす。今日は絶対楽しいイベントに してやらないとな! 「皆よく知ってるな!そう、今日はその節分だ!というわけで…今日の授業は豆まきだ!でもな、ただの豆まきじゃないぞ?」 豆を渡しながら話を続けると、子どもたちは一斉に瞳を輝かせ始めた。 普段の授業では見られない期待に満ちた瞳。まあ俺もそうだったしなぁ…。 「楽しそう!」 「ねぇねぇ先生!なにやるのー?」 「豆ここで食べたちゃったら、うち帰って食べたら駄目なのかなぁ…?年の数だけだよね?」 「鬼退治できるもん!!!」 「あのな。今回の鬼は…とっても強いぞー?皆頑張ってやっつけような!」 きゃわきゃわと騒ぐ子どもたちを鼓舞すると、一斉に元気のいい返事が返ってきた。 「「「「「「はぁーい!!!」」」」」」 「じゃ、皆に配ったこの豆で、これから鬼をやっつけに行くぞー!全部校舎の中にいるから頑張って探すように! 鬼を見つけたら豆をぶつけて校舎の外に追い出すのが今回の任務だ!仲間にはぶつけないように気をつけるんだぞー?」 黒板に注意事項を書き出して、確認させたが、やっぱり鬼退治の方に意識が集中してしまっているようだ。 「よっし!」 「すげー!鬼だって!」 「やっつけるぞー!!!」 「豆…おいしそう…。」 わくわくしている子どもたちを見るのは俺も楽しい。これからの重労働も苦にならない。 「皆確認できたな?さあ!いいぞー!行ってこい!」 「「「「「「「はーい!」」」」」」 教室の扉を開けて、子どもたちを全員外に出した後、すかさず俺も準備に入ることにした。 子どもたちの成長を見守るのが教師の務めだ!…いかに嫌な思い出があろうとも負けてはいられん! 「さて、始めるとするか…」 ***** 「いた!えい!当たれ!!!」 「あ、よけた!」 「逃げられたー!」 「…ふう…皆そこそこやる様になったなぁ…!後は連携か?」 追いすがってくる子どもたちを交わし、天井にぶら下がりながら子どもたちの様子を伺う。こうして逃げ回りながら、 子どもたちの動きを見るのが今回の授業の狙いだ。何人かで組んで向かってくる子と、見つけたら一目散に駆け寄ってくる子と、 びっくりして逃げてった子など色々いて今後の指導の参考になる。 まあ低学年のせいか、やっぱり協調性がいまいちだから、それが今後の課題だな。こういうことが確認できるから、 こんな格好した甲斐があったといものだ。 …今朝の破廉恥なモノとは全然違うんだ!だから…思い出すな俺! 俺が脳内に再生されそうになった恐ろしい記憶を必死で追い出していると、子どもたちが寄り集まって困り顔をしている。 「やっぱり鬼、早かったね…。」 「でも、さっきの銀髪のも早かったよね!」 「鬼…つよいね…。」 「でも!やっつけないと!」 うんうん。そうやって考えることと、諦めないことが大事なんだ!先生は嬉しいぞ! でも…銀髪…?今回は俺が赤鬼であとは青鬼と緑鬼と黄色のが一人ずつで終わりだったはず…?大体 教師に銀髪のヤツなんて…。 「銀髪…?銀髪!まさか…!?」 もしかしてアイツ…!? 「はぁい!あなたのカカシでぇす!」 いきなり背後から何かが抱きついてきた。ぴったりとくっ付くこの感じは…まさか!? 「ひい!?」 振り返った先には、変態がいた。…今朝とほぼ同じ怪しい格好の…。 「えぇー?なんでイルカ先生全身タイツなんですかぁ?しかもお面だし!俺なんてホラ!自前で 頑張ってるのに!」 俺の服装にぶーぶー文句を言いながら、何故か無駄にポーズを決めてみせる変態は、確かに見た目は鬼っぽい。 だが…!どこをさがしたらビキニパンツで覆面した鬼がいるっていうんだ!?…まあ元々鬼が存在するかどうかって 問題はあるけどな! 俺の…正直自分でも恥ずかしい衣装をつんつんと引っ張ってみせる変態を振り払い、しかりつけてやった。 「うるさい!見つかるだろうが!…忍がそんな無防備な格好ができるか!!!半裸に角つけてなんて…!!! そもそもなんでここに!」 小声でも俺の怒りは十分に込めてやったのだが、変態は勝手に盛り上がっていく。…いろんな意味で。 「鬼になっても俺の愛は永遠に不滅なんですよー!!!…全身タイツもぴっちりしてていいですね…!!!」 「へ?あ、なんだ?近づくな!!!」 タイツか?!タイツに反応したのか!?なんで…徐々に危険物が見えそうになってるんだよ!? 「破いても…いいですか…?」 「いいわけあるか!はあはあ言うな!備品壊すんじゃねぇ!…いいか!邪魔するなよ!」 ある意味鬼らしくギラついた瞳で今にも俺の衣装を破ろうとしている変態に、無駄と知りつつ一応言聞かせてみたが、効果は期待 できない。 くそっ!いくらなんでもこの格好なら大丈夫と思った俺が甘かったか!? こんな…昔のコントに出てきたみたいな格好にここまで興奮できるなんて…!!!この変態の頭の中は一体 どうなってるんだ!? 「はぁい!ああでも…いまや鬼は俺とあなたの二人きり…!!!」 いつも通り返事だけは良かったが、後半があからさまに危険だ。このままでは…今朝の二の舞になる。 あれ?でもちょっとまて? 「あ、そうか。そろそろそんな時間か。俺もそろそろみつかってやらないと…」 変態は数に入れないにしても、そろそろ俺はやっつけられないと授業が終らない。変態にかまけていて気付かなかったが、 同僚たちはもう集合場所に向かったようだし、特別授業とはいえ、あんまり長いことやってるわけにも行かないしな。 いそいそと子どもたちの気配がする方に進んでいこうとしたが…。 「駄目ですよー?あなたが捕らえられているのは俺の腕の中なんですから…!!!」 何だか知らないが盛り上がり続けている変態にぎゅうぎゅうと抱きつかれた。 …全身タイツは感触が中途半端に生々しくて非常に不快だということが良く分かった。 すかさず後ろ回し蹴りを放って変態を追払った。 「…御託はいい!黙れ!邪魔すると…!」 ああ…またこのパターンか…?俺はコイツを退けるたびに大切な何かを失っていっているような気がする…。 「な、何されちゃうのかなぁ…!?うふふふふ…!!!」 俺の嘆きとは裏腹に、変態はもじもじと身をよじりながら熱っぽい視線を向けてくる。 どうしてこんなヤツが里最強とまで言われているんだか、俺には理解できない。変態さはどこまでも最恐かもしれないが…。 「だから貴様はナニを期待してるんだ!!!」 どうして…何でこんなに嬉しそうなんだ…!?くそっ! 「え、それはもう目くるめくイルカ先生との愛の交感…」 …やっぱりな…。ああ…これも…後で後悔するんだろうな…。 涙なんか…出てないぞ! 「いいか!貴様があんまりしつこいようなら、俺は…太巻きくってやらんぞ!!!」 変態の無駄にもさもさな髪の毛を鷲づかみにして、怒鳴りつけてやった。 「ええ!?そんな…!折角の卑猥なイベントなのに…!!!」 …効果は、あったようだが…? 「何か仕掛けてくるとしたらその辺だと思ってたが、やっぱりか…!」 ある意味予想通りだ。コイツの考えそうなことがだんだん分かってきてしまった自分が悲しい。だからといって 諦めてこいつにいい様にされる気は毛頭無い!!! 決意も新たに変態の出方を伺っていると、…何故か前かがみになってもそもそし始めた。 「変わりに…!俺の太巻きをほおばってください!!!」 そう叫んだ変態の指差す先には…例のピッチピチパンツからはみ出しまくっているというか既に全開になっている 変態のアレが…!!! 「わー!!!アカデミーでなんてモノ晒してやがる!?さっさとしまえー!!!」 「ああん!」 とっさに変態のパンツを引っ張ってぱちんと戻してやったら、変態がその衝撃でまたくねくねしていた。 そして…その気色悪さに反応する間もなく、子どもたちのきゃあきゃあ騒ぐ声がすぐ側に…! 「声ココからだったよ!」 「あ、鬼!!!いた!!!」 「やっつけろー!!!」 「えい!」 ナイスタイミングだ!さすが俺に生徒たち!!!この機を逃す手はない!!! 「…わー!やられたー!」 すかさず豆に当たって窓から逃げ出す俺に、当然のように変態がくっ付いてきた。 「…セリフ…棒読み…!ソコがまた…かわいいんですけどね!!!」 「うるさい!行くぞ!あと、触るんじゃねぇ!」 余計なコトを言うのも腹立たしいが、当然のように腰をに手を回してぐりぐりとナニをこすり付けてくるが何より耐え難い。 肘鉄をかましてソレをよけた隙に速度を上げたが、変態はソレくらいで引き剥がせるはずもなく…。 「はぁい!どこまでもおともしまぁーす!!!」 …俺は鬼係の集合場所まで変態にくっ付かれる事になったのだった…。 「出てったね。」 「やっつけたね。」 「…でもなんかスッキリしないね。」 なんていう子どもたちの呆れたような声を背中に受けながら… ***** 「皆!無事か!?」 もしかして変態の被害にまたあってるんじゃないかとあわてて聞いたが、意外と皆のんきそうにしている。 この感じだと変態は真っ直ぐに俺の元に来たようだ。 「イルカが最後だな!」 「お!イルカ!でもなんか生徒が変なこと言って…ひい!?」 あ、あれ?何だ今の悲鳴? 「イルカ先生のおしりは…最高ですね!!!何でも着こなす魔法のおしり!!!」 変態が俺の尻を激しく撫で回してる。…しかもトラ柄の腰巻の隙間にぐりぐり手を突っ込みながら…。 「何で…いるんだ!?」 「そうか!このことだったのか!?」 「ひい!?勘弁してください!」 皆顔に色塗ってあるから顔色は分かりにくいが、その震える声と顔で、その恐怖は十分に伝わってくる。 「…すまん。どこからともなく湧いて出たんだ…。」 すかさず変態を押しのけながら、皆に詫びを入れた。 …俺のせいで…! 「…何で半裸なんだ…?」 「あとどうして半ケツ気味なんだ!?っていうか、あれもはやビキニ…!!!」 「は、はみだしてるよな…!?」 恐慌状態に陥った同僚たちから、口々に変態の感想が述べられるが、俺に答えがだせるはずがない。 「知らん。多分変なこだわりのせいだろ…。」 俺が分かることといえば、変態は今日一日を鬼プレイだかなんだかという怪しい行為に費やす気満々だと言うことぐらいだ。 「お前…苦労してるよな…。」 青鬼役の同僚が、投げやりな俺を見放さず、むしろ慰めるように悲しそうな目でそう言うと、他の鬼役もうんうんとうなずきながら 涙ぐんでくれた。 「みんな…すまない…!」 ありがたさと情けなさで一杯になっている俺の手に、空気が読めない変態がしゃぶりついてきた。 「ああん!も、もう我慢が…!イルカ先生―!早く帰って太巻きを…口いっぱいにほおばって…!!!」 「黙れ!…すまん皆…!」 もはやこうなってはどうしようもない。これ以上暴走した場合、俺以外にも被害者が出るのは明白だ。 …というか、生徒たちに与えた被害の方も気に掛かる…!こんなモノ見ちゃって大丈夫だったんだろうか…!? 「いや、イイんだ…でも…」 「ココに俺がいると被害が広がりそうだからな…すまない…。」 慰めてくれる同僚たちに、これ以上迷惑をかけられない。 すまなそうに頭を下げてくれる仲間に謝って、変態の頭もついでに下げさせた。 「帰るぞ!変…駄犬!だが俺には準備がある。ここで待機して…」 だが、興奮しきったヤツは、俺の命令など聞きはしなかった。 「はぁい!もちろんタイツ脱がせてさしあげますよー!ささ!急いで急いで!!!」 「わー!離せー!!!」 抱え上げられ、運ばれながら、同僚の同情に満ちた視線が突き刺さったが、どうすることもできなかった。 「…不憫な…!」 「恐ろしい…!」 「何でイルカはアレに好かれちゃったんだろうな…。」 ***** 「貴様とはもう節分は済ませた!」 すぐにでも変態行為に持ち込まれるだろうという俺の予想は、半分ほど外れた。 「はぁい!お待ちかね!ふ・と・ま・き!ですよー!!!ま、俺のに比べたら細まきですけどね!!! 俺の愛情たっぷり!!!美味しいですよー!!!」 言葉は気持ち悪いが、差し出された太巻きは確かに美味そうだ。 「黙れ!余計なコトはいらん!…うまそうなのは分かったが…貴様も黙って食えよ?」 さっさとこの行事を終らせてしまおうと、俺は早速変態の差し出した太巻きを一本取った。…デカイ。 コレは食うのが大変そうだ。だからといって止めるなどというコトはできない。そんな事をすれば、変態の興奮に油を 注ぐことになるだろう。 …こんなもの無理やり突っ込まれるのはゴメンだ。 「はぁい!こっちが恵方だから…黙って…頂きますよ…!!!」 それでも何故か妙に怪しげな視線でちらちらと俺を見つめる変態に、一応釘を刺しておく。 「太巻きだぞ?こののりの巻かれたコレだけだ!それ以外は一切やらんからな!」 これで…勝手に興奮した変態に、妙なもん頬張らさせれることになるという事態は未然に防げたはずだ。 「ええー!!!イルカ先生の太巻きは?」 案の定俺の股間に縋りつくようにすりよってきた変態は、碌な事を考えていないことが改めて分かった。 それなら…やられる前にやってやる!!! 「触るな!この変態が!…いいからとっとと…食え!」 文句を言ってた口に、太巻きをねじ込んでやった。コレは相当苦しいはずだが、変態なら物ともしないだろう。 普段の意趣返しも兼ねて強引に押しつけると、変態がもがもがいいながら、身もだえしだした。 「んんっ!んむ!ん…っ!」 変な声を上げながら、陶酔しきった顔で太巻きを食べるというか…しゃぶっている変態は勝手に興奮していて非常に危険な状態だ。 こうなったら…! 「無駄にもだえるな!後は勝手に食えよ!…俺も一応…」 さっさと終らせてしまわなくては! 皿の太巻きをがっと掴んで一気に口に突っ込んだ。 「!…ふー…ふー…!!!」 すぐさま自分も口の中一杯にしてるくせに、変態が興奮しきった様子で俺を凝視してくる。鼻息が俺に吹きかけられ、じわじわと 近寄ってくるのも恐ろしい…! だが…こんなことに負けてはいられない!時間をかければかけるほど変態のボルテージは上がる可能性が高いのだ。 「…!…むぐ…んぐ!」 必死になって太巻きほおばり、何とか飲み下していく。残念ながら味はあまり分からなかったが、残りはあとわずか…! 「ああ…何かをほおばるイルカ先生って…最高ですね!!!」 焦る俺にいつの間にか太巻きを食いきった変態が舌なめずりしながらしつこくネットリとした視線を向けてくる。 やはり危険だ…!!! 「んぐ!…げほげほ!…食いきった…!」 どんどんペースを上げた結果、最後は殆ど丸飲みだったが、やっと完食できた。口元に海苔とか色々ついてそうだが、 ソレは後でも何とかできる。それよりも…コイツだ! キッと睨みつけると、感極まった声で変態が叫んだ。 「潤んだ瞳がまた…!最高です!!!」 抱きついて、次いでとばかりにタイツ上から全身を撫で回してくる。その熱心さと、妙にツボを得た動きにも焦りを覚えたが、 何より…! 「ぎゃあ!さわんな!ひっ!?は、はみ出してるぞ!着替えて来い!」 どうしてコイツはこんな格好してるんだ!!! もはや暴力ともいえるソレを視界に入れたくなくて視線をそらしたとたん、いきなり変態に押し倒された。 「着替えは…イルカ先生からね…?俺のかわいい鬼さん!」 「うわぁあぁぁぁ!?」 ***** 押し倒された後、何故か俺の全身タイツに異常な興奮を覚えたらしい変態に、妙な格好のまま異常な行為を強いられて…。 …俺の節分は散々なうちに幕を閉じたのだった。 今日の教訓。鬼よりも変態のほうがよっぽど質が悪い。 だが…俺は…負けない!!!今年こそ変態を退散させてやる!!! 決意を新たにする俺に、変態の寝言が聞こえてきた。 「イルカ先生…鬼でも何でも愛してますからね…!!!」 甘えたような…だが必死なその声を聞きながら、俺の意識はゆっくりと沈んでいったのだった。 ********************************************************************************* とりあえず節分なので変な話を増やしてみました!多めに見てやってください…!!! …ご意見ご感想ご要望などはいつでもその辺の拍手などからどうぞ…。 |