贈り物8
結局、イルカはあの後も再度押し付けられた婚姻届や引越しの提案をやっとのことで却下し、 カカシさんを三代目の屋敷の前に引き出すことに成功していた。
「ほらちゃっちゃと歩く!謝りに行くって約束したでしょう。」
のたのたと歩く姿は腰を庇ってふらついているイルカよりも遅い。よっぽど気が進まないようだ。
「えー。じじ…三代目なら大丈夫でしょう。恋愛は自由ですよー。」
カカシはさっきまで、愛を確かめ合うとかなんとか抜かしてごねまくっていた。ここまで連れて くるのも一苦労だったのだ。
(…だがこれからは俺の言うことを聞いてもらう。)
イルカは決意していた。これ以上被害を広げないためにも徹底的にこの危険生物を躾することを。 (それに乗せ方も覚えたし。)
ベッドの上で気付いたときにはもう夜は白々とあけており、そこから説教?すること数時間。時刻はすでに 昼過ぎになろうとしていた。
「俺には親が居ません。つまり三代目は親代わりです。カカシ先生は親への挨拶もなしに結婚 するつもりなんですか?」
(これでどうだ。)
イルカは己を出汁にして、カカシを釣る方法を会得しつつあった。
「イルカ先生っ」
カカシはうるうると目を潤ませている。
(ふっイチコロだな!この人意外と夢見がちなんだよなぁ。イチャパラのせいかなぁ。)
これで文句は言わないだろう。
(それより今日はアカデミー休みだけど、三代目はお屋敷いらっしゃるだろうか?) と、ごちゃごちゃ考えていると、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほど大音声が響いた。
「イルカっ無事じゃッたか!早くこっちへ来るのじゃ!」
切羽詰った表情で、目の下には隈がくっきりと見える。カカシに攫われた後、一睡もしていなかったのが 窺える。
「三代目…。」
(心配かけちゃったなぁ。もう年なのに。確かにこんなに常識ない人だと三代目も心配だろうなぁ。 ここは俺が安心させてあげなければ!)
イルカは改めてカカシの躾方法について思いを馳せ、里長に今回の経緯を説明しようとした。しかし、
「三代目!イルカさんを俺に下さい!」
それを遮ってカカシが土下座していた。
「カカシさん…」
(あ、ちょっと感動した。)
明らかに勢いがつきすぎており、額から土煙がたっているが、その潔さの前には気にもしなかった。
「ふざけるな。よくもイルカを攫いおって。イルカになにをした!」
(あーいろいろされてしまいました。でも今は幸せです。)イルカは思わず心の中で突っ込んだ。
「結婚します!」
会話がかみ合っていない。
「…成敗してくれる!」
周囲に殺気と険悪なチャクラが満ちる。
(マズイ!止めるないと。)
イルカは改めて責任を取るべく、里長に向かって一気に言った。
「三代目。俺この人のこと貰うことにしました。親代わりになって、いままでたくさんお世話になってきた 三代目に、ぜひ紹介したいと思います。それに、昨日はうちの嫁が大変ご迷惑をおかけしました。 夫婦いや夫夫か?で責任をとらせていただきますので。」
(よしっ。かまずに言えた!)
イルカが満足感に浸っていると、カカシがそっと話しかけてきた。
「イルカ先生…。」
「なんですか?」
(せっかく三代目に説明してるのに。カカシさんもちゃんとしてくれよ。)
「三代目、息してない。」
「え?」
目の前には里長が真っ青になって転がっていた。目の隈とあいまってまるで死体のようだ。
「わーわー!さんだいめー!ほらすってーはいてーはいてー。」
イルカは慌てて抱き起こし、耳元で怒鳴った。
「イルカ先生落ち着いて。びっくりしただけでしょ。」
(こんなときに落ち着いてられるか!)
どさくさにまぎれて尻を揉むカカシの手を振り払いもせずに、里長の顔を覗き込んだ。
里長の瞳はカッと見開かれ、虚空を見つめている。かなり危険な状態に見える。
「三代目ー!」
イルカは痛みをこらえ、必死で里長を揺さぶった。思いっきりやりすぎて笠がはずれてしまったが、それが功を奏し、 げふっという音とともに里長が呼吸を再開した。
「イルカ。ほんとにこやつでよいのか。」
死んだ魚のような目で里長が言った。
(良かった!)
「三代目。早く病院で見てもらいましょう。」
(毎日働きすぎだ。きっと過労に違いない。これからのこと、相談に乗ってもらいたかったけど、 俺のことより三代目の健康が大切だ。)
イルカは安堵のあまり涙をにじませながら、動きの鈍いからだで里長を抱き起こそうとした。
「今すぐお連れしますから、しばらく我慢してくださいね。」
(三代目は俺が知ってることからじいちゃんだったからなぁ。きっと過労が原因だ。)
いまいち事態を把握しないまま、イルカは里長を見つめた。 「今なら間に合うぞ。特Sランク任務大増量キャンペーンを開催してやる。」
里長は、イルカに向かってうわごとのように話した。
「Sランク任務?」
(三代目…。キャンペーンってなんですか?ひょっとして脳にもダメージが…。)
イルカは恐ろしい未来を想像し、総毛だった。
(急いで病院に運ばないと。)
「イルカ先生。俺が責任もって病院に連れて行きます。」
イルカが半ばパニックを起こしていたところに、淡々とカカシが言った。
「でも…。」
かえってダメージがひどくなるのではとイルカは躊躇した。
「その腰は三代目担いで病院いくの無理でしょ。」
「だれのせいですか!」
確かに歩くのもつらい。里長がいくら軽くても、カカシが運んだ方が早いだろう。
「いっしょにいきます。遅れるかもしれませんが、先に病院に向かってください。」
「イルカ先生も一緒に影分身で運びます。任せてください!」
(いや、カカシさんに担がれるのは勘弁してほしいんだけど。…心配してくれているんだな。 原因もカカシさんだけど。)
イルカがカカシの頼もしい?言葉にじーんとしていると、 「いらぬ!」
再び里長が怒鳴った。頭から湯気が立ち上っているのが見える。
「イルカ。おぬしはだまされておるのじゃ。こやつの処分はわしに任せて、屋敷でゆっくり休みなさい。」
目が先ほどと違ってらんらんと輝いている。静かな口調とかすかな微笑がかえって恐ろしい。
(…三代目は本気で起こったときっていつも笑うんだよな。…ヤバイ。確実に。なんかどす黒いチャクラがみえるよ…。 俺の前ではいつもニコニコしてるけど、さすがは火影。)
「三代目。昨日は確かに申し訳ないことをしました。ですが俺たち真剣に愛し合ってるんです!」
三代目の激怒をよそにカカシが決意表明をしている。
(さっき怒らせたのを忘れたのか!)
イルカが慌てていると里長から炎のようにチャクラが吹き上がった。
「寝言は聞き飽きた。ふふふふふ。今ここで葬り去ってくれるわ!」
もうこうなったら止められない。
「カカシさん!逃げますよ!」
「結婚のときに乗り越えるべき最大の障害はお父さんです!大丈夫絶対負けません!」
「そーいう問題じゃない!このまま戦ったらここが焦土になります。冷静になって頂かないと。」
(冷静に…。でもどうやったら。)
「俺に考えがあります。」
「戦うのはだめですよ。里が滅びます。」
(さすが上忍だ。冷静に作戦を考えてる。カッコいい…。原因もこのひとなんだけど。) イルカが感動しているとカカシは懐からさっと何かを取り出して掲げた。
「三代目!俺の誠意の形第一弾!イチャパラアカデミースペシャルリミテッドエディション― 教壇で微笑む淫乱天使―です。お納め下さい。」
(賄賂かよ!何だそのタイトルは。)
普段整理を任されている、イチャパラマニアな三代目の本棚にもなかったタイトルに、イルカは驚き、 そのタイトル思わず突っ込んでいた。
「なるほど。本気なようじゃな。この世に10冊しか存在せん、貴様が死ぬほど大切にしていたその本を譲るとは…。」
(おいおい殺気が治まったよ。さっきより目がまともだ。笑ってないし。うちの里はこんなんで大丈夫 なんだろうか。)
先ほどからイルカの突っ込みは止まらない
「同じイチャパラーとして敬意を表して、仮に!付き合いをみとめてやろう。…なにかあったらすぐに わかれさせるからな?」
科白は恐ろしげだが、里長はさっさとイチャパラを懐にしまっている。
「…三代目。必ずイルカ先生を幸せにします。」
「ふんっ。良いか仮に!じゃぞ。」
(三代目うれしいけどなんか違います。イチャパラ好きは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ…。)
「…第2弾も期待しておく。」
凄みのある笑顔でカカシを見る里長にイルカは脱力した。 (ああもういいか。…アホらしい。)
イルカには理解できない世界がイチャパラマニアにはあるらしい。
「イルカ先生。イチャパラは世界を救いましたよ。」
カカシは目を輝かせている。
「…そうですね。」
エロ小説に救われる世界もどうかと思ったが。いるかは早々にあきらめることにした。
(もういい。疲れたし。今日は帰って寝よう。)
せっかくの休みをカカシとの戦いで費やしたイルカは家へ帰るべく踵を返した。そこをカカシ当然のようについてくる。
「イルカ先生。最大の障害は今突破できました…。これからもさまざまな障害が俺たちの 前に立ちはだかるでしょう。…でも。これからもあなたと一緒に絶対に乗り越えて見せます!」
(イチャパラでか…。感動的な様でいてそうでもないな。…まあちょっとうれしい自分が一番アホなのか。)
いちいち身振り手振りを交えながら、熱く語るカカシをちょっとカワイイと思いながら、イルカは微笑んだ。
「そうですね。帰りましょう。」
(もう今日は限界だ。今日は休みだ俺は寝る。)
あたりまえのように家までついてくるであろうカカシを振り切ることもあきらめ、イルカは家路を急いだのであった。

こうして謎の贈り物事件は(一応)解決したのだった。


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ぐだぐだ。
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