「で、最近どーしたんだ?」 上忍待機室での暇つぶしに最近やけに楽しそうな、腐れ縁の仲間に聞いた事を、アスマは後悔した。 見た事がない程、温かい笑みを浮かべたそいつが、嬉しさを滲ませながら、勢い良く語り始めたからだ。 「ヒゲ熊もそんなことに興味を持つ年になったんだなぁ…。今までうわばみの後ろにくっ付いているだけが能だったのに、他人の恋愛に興味が出てきたか。 そうだよなーそろそろ尻に敷かれてつぶされそうな生活から脱出したいんだよなー。人様からテクニックを学ぶのも恋愛には必要だよな!よーし、 もったいないが、今から俺の運命の出会いについて教えてやろう。」 目をキラキラさせながら、一方的にいうと、急に話し方を変えたカカシが、何かを思い出すような顔をして、ゆっくりと語り始めた。 「…二人の出会いは、ある夏の日…。」 ***** その日、カカシはナルト達に連れられて、イルカ宅へ向かっていた。というのも、報告書を提出した後に、解散を告げようとすると、いつも無駄に元気が あふれかえっている部下の一人が、付いてくるよう誘いをかけてきたからだ。 「一緒にくるってばよ!カカシ先生!いーもの、貰えるんだってばよ!」 どこか誇らしげにいうが、どこに行くのか、いいものが実際なんなのかといった肝心の情報は話さない。相変わらず話題が前後して分かりにくい。 今後は、こういうところも指導してやらないと、伝令一つまともにこなせないなと思いながら、詳しく聞いてやろうとした。しかし、次の瞬間、 普段冷静なサスケ慌てた様子でナルトの口を押さえると、サクラと二人で見事な連係プレーを見せ、ナルトを側の茂みに引きずって行った。 …そんなところに隠れた所で、忍びの耳には丸聞こえなのだが、本人たちは必死のようだ。 「なにするんだってばよ!バカサスケ!」 「ドベ!馬鹿かお前。こんな奴呼んだら、俺たちの取り分が減るだろうが!」 「そーよ!せっかくのチャンスなのに!ねー!サスケ君!」 二人が聞き捨てならないことを口にしている。 「だって連れてくって言ったら、イルカ先生、喜んでたってばよ…。」 どうやらこれから向かうところは、部下たちの元担任の所らしい。 「だから、それはアイツが上忍で、俺たちの担当上忍だからだろ!知らせなきゃいいんだよ!」 「そーよ。イルカ先生だってあんなの連れてったら、気を使っちゃうでしょ!(それに、カカシ先生にはもったいないっつーの!)」 「でも!喜んでたってばよ!絶対連れてくって約束したってばよ…。」 次々にナルトを攻め立てている様子から、どうやら下忍たちにとっては、とても価値のあるものらしい。…気になる。元担任の中忍には、最初の顔合わせ以外、 たまに受付所で、ナルトたちと話しているのを聞くくらいで、交流が全くない。 挨拶ぐらいはするのだが、そもそも興味が全くなかったので、あまりにも知らないことが多い。…子どもたちをここまでひきつける何かの正体を是非知りたくなった。 「で、ナールト。これからどこ行くの?」 茂みからナルトを引っ張り出し、持ち上げて聞いてみた。 「イルカ先生のとこだってばよ!カカシ先生だって行きたいよな!な!」 持ち上げられているにもかかわらず、腕の中で獲れたての魚のように飛び跳ねるナルトは、どうにかして約束を守ろうと必死らしい。 「じゃ。いきますか。」 不満げな残りの2名に術をかけ、問答無用で歩かせる。 「キャー!」 「カカシ…!てめぇ!」 カカシが同意したことに大喜びのナルトは、サスケとサクラの不審な様子に全く気づかない。 「やったー!よっし案内してやるってばよ!俺についてこい!なーんちって!」 ナルトは嬉しそうに言うと、勢い良く手を引いてくれる。その後ろをぎこちない歩みで付いてくる二人は、しばらくぶつぶつ文句を言っていたが、 その内あきらめたのか無言になった。 ナルトの案内に従ってしばらく歩くと、畑のようなところに出た。水路の脇には、農家のおばちゃんらしき人物もいる。顔を覆うような花柄の大きなつばの帽子 をかぶり、それから垂れ下がった布が、首元を覆い隠しているため、表情が分からない。服もゆったりとした余裕のある下穿きと、白い前掛けのようなもの、 ひじまである花柄のカバーがつけられていて、いかにも農作業中といった格好だ。 …アカデミー勤務の中忍が、こんなに遠くに住んでいるとは意外だった。忍びの足でも朝の早いアカデミーでは、大変ではないのだろうかと思う位には、 里の中心から離れている。 つらつらと考えていると、ナルトが嬉しそうに駆け出していった。 「イルカせんせー!ちゃんと連れてきたってばよ!約束!」 …見間違え出なければ、いまナルトが話しかけているのは、先ほどカカシが発見した農家のおばちゃんのようなのだが。…たしかにチャクラは感じる。 だが、引退した忍びかなにかではないのだろうか?普通任務中でもない中忍(男)が、あんな格好をするだろうか? 呆然としていると、振り返った推定農家のおばちゃんが、ぼそぼそと話しかけてきた。 「なめくじがねー。くっちゃうんですよ。」 やはり信じがたいが、聞き覚えのある声だ。答えを求めているのか何なのか、意味の分からない話を振られてしまった。まるで、妖怪でも相手にしているかの ようだ。そんな話を昔カカシは暗部時代に聞いたことがある。確か何か聞かれたら、すぐ答えなければいけなかったはず。とっさに、カカシは目の前の怪しい 生き物に聞き返してみた。 「なにを?」 「葉っぱを。」 返ってくるのが一言だけだが、どうやら、やはりこの格好は伊達ではないらしく、野菜を収穫していて、なめくじの被害に気づき、 それを訴えてきていた…らしい。 …つまり、妖怪ではなく、間違いなくこの目の前の花柄は、中忍うみのイルカであるようだ。 「今日は、ナルトに呼ばれまして…。あのー、で、何をすればいいんでしょうか?」 平静を装って聞いてみるが、内心は混乱しきりだ。なぜ、わざわざ花柄のコーディネイトなのかも聞きたかったが、そこは突っ込んではいけない気がした。 「あー。ナルト、お前ちゃんといわなかったのかよ!…すみませんカカシ先生。今日は見ての通りうちの畑の収穫でして。こいつらに手伝ってもらう予定だったんですが、 カカシ先生もって言うもんですから…。」 背中にへばりついたままのナルトの頭を小突きながら、イルカが言う。 「あ、でも、ご無理はなさらないで下さい。こいつらに支払う報酬もたいしたことないんで。」 報酬。それが、ナルトの言っていた、いいものの正体だろう。…だがナルトは野菜嫌い。サスケはトマトが好きなようだが、それ以外はどうだっただろう? サクラもそれほど野菜好きではないはずだ。農作業の報酬といえば、野菜だろうと思ったのだが、こいつらが、それをあそこまで欲しがるとは思えない。 かといって、いくらなんでもまさか現金ではないだろうし…。悩みながらも、この中忍の報酬の正体を探るため、カカシは農作業に参加することに決めた。 「イルカ先生。是非参加させてください。いやあ。うちの部下たちも楽しみにしていましてね。俺も、参加したいな、と。なんだか楽しそうですし。」 主にイルカの格好がだが。そうと決まれば、口も回るというもの。さらさらといかにも参加を喜んでいるようなふりをして、さくさくと農作業を片付けた。 トマトにソラマメ、カカシの好きなナスもあった。収穫用のかごがどんどにいっぱいになっていく。 サスケもサクラも、多少カカシに対して含むところがありそうだが、もくもくと作業に集中している。Dランク任務に文句ばかりつけるナルトも、 意外なことに文句一つ言わずに熱心に働いている。 こいつらをここまでやる気にさせるとは…。と、カカシはこの中忍教師の秘密を、どうあっても知りたくなった。 ***** 全員が集中して働いたため、収穫作業はかなり早く終わった。 「さて、みんな。お待ち兼ねの報酬だぞ!」 イルカが楽しげに言う。下忍たちが歓声をあげ、特にナルトはイルカに飛びついて喜んで、イルカを苦笑させていた。 「えーと、じゃ、ナルトとサスケは、そっちのかご持って。あと、サクラはこれ、重いか?」 男連中には収穫した野菜がたっぷり入ったかごを、サクラには、農作業用の道具を持たせ、路に置いてあった大八車に乗せた。 カカシもかごを持っていこうとしたが、ナルトとサスケが異常な速さで移動させたため、結局あまり運ばずに済んでしまった。 「じゃ。もういいよな!いいよな!」 「…早く行こう。」 「私もーおなかすいた!」 どうやらここで、報酬を手渡すのではなく、どこかへ移動するようだ。カカシもそのまま付いていく。あれだけ働いて疲れているはずなのに、 下忍たちは大喜びで荷物を運んでいる。里の中心に近づくと、小さな一軒家が見えてきた。 「やっとついたな。」 「せんせー!俺たち、コレしまってくる!」 「おう!」 相変わらずこの師弟は仲が良い。まるで本当の兄弟か親子のようだ。ナルトは元気よくイルカに手を振った後、野菜の入ったかごをどこかに持っていった。 サスケもそれを手伝いについて行ったようだ。普段の様子がウソのようだ。 「お前たちも上がれ。手、よく洗うんだぞ!あ、カカシ先生もこちらへどうぞ!」 格好さえ気にしなければ、好青年そのものイルカが、にこにこしながら、家の中まで案内してくれる。 居間に通されると、冷たい麦茶が出され、どこかホッとし雰囲気が漂う。家は一般的な家屋だ。少し年季が入っている気もするが…。 「じゃ、準備して来るから、ここで待っててください。サクラ、二人がもどってきたら、麦茶出してやってくれ!」 どこかに行っていたナルトとサスケもすぐに戻ってきて会話に加わった。 「ねーサクラちゃん!今日は何かな!何かな!!!俺ってばこないだのなんだっけ。とろっとしてすっげぇ美味いの!!!」 「えっと、かぼちゃの煮物とかもいいんだけどー。イルカ先生のデザートもサイコーなのよねー!!!ね、サスケ君は?」 「トマト。あと、野菜炒めも美味い。」 会話から推察するに、どうも報酬とはイルカの料理のようだ。…それだけで、ここまで熱心に働くだろうか?何か秘密があるに違いない。 カカシは静かにイルカが来るのを待った。 「おーいできたぞー!!!持ってってくれ!!!」 「「「は〜い!!!」」ってばよ!!!」 流石教師。大きな声が響くと同時に、忍びにあるまじき足音をたてて、下忍たちが駆けていく。カカシがあっけに取られている間に、 テーブルの上は料理で一杯になった。 煮物、焼き物、炒め物、サラダに子供向けなのか、から揚げなどの揚げ物に、見たことのない汁物まである。今日収穫した野菜が使われているようだが、 他に使われている肉や魚も上等なものだと一目で分かる。 美味そうな匂いがあたりに漂い、下忍たちも嬉しそうだ。つまみ食いをしようとしたナルトが、サクラに思いっきり殴られている。 「じゃ、たべようか!!!」 そういって、最後におひつをもって現れたイルカに、また、カカシは度肝を抜かれた。純白の割烹着をまとい、三角巾を身につけたイルカ。 …今時一般家庭の主婦でもなかなかこんな格好はしない。カカシは、なぜか割烹着姿のイルカに、己の胸が高鳴るのを感じた。 カカシがイルカを見つめてぼーっとしている間に、下忍たちに、はしとおわんを手渡された。 「ご飯の量は?」 イルカは別にその格好に疑問を感じていないようで、自然に聞いてきた。とっさに突っ込めず。 「普通で。」 と自然に返してしまった。 混乱するカカシをよそに、全員にご飯がいきわたると、イルカが再び大きな声で言った。 「今日はおつかれさまでした。一杯食べろよ!じゃ。いただきます。」 「「「いただきます!!!」」」 「…マス。」 挨拶が済むなり、子どもたちがものすごい勢いではしを動かし始めた。普段ダイエットだのなんだのと、食事の量を減らしがちなサクラでさえ、 殺気だった目で、次々とはしを動かしている。 おそるおそるカカシも目の間の鶏肉と野菜の炒め物に手を伸ばしてみた。 …信じられないくらい美味い。野菜はしゃきしゃきだし、鶏肉も柔らかすぎず硬すぎず、ぴりっとした辛味がアクセントを添えていて、はしが止まらない。 それから、隣の魚の煮付け。とろけるほどやわらかいのに、煮崩れしていない。味付けも甘すぎずからすぎず、絶妙だ。トマト味のスープには、 何か変わった麺が入っていて、香辛料の香りが食欲をそそり、味わってみればさっぱりとしているのに濃厚なうまみがある。 気が付けば、カカシもなにかにとりつかれたようにはしを真剣に動かしていた。…何を食べても美味い。とても食べきれない量だと思ったのに、皿からどんどん 料理が無くなっていく。 とにかくご飯の減りも早い。普通と言っておきながら、すぐに茶碗が空になる。その合間合間にごはんのおかわりをさっと差し出してくれるイルカが、 キラキラと輝いて見える。そう。まるで天使のように。 「あ!」 「ふん。」 「返せってばよ!俺のから揚げ!!!」 「早い者勝ちだろ!」 「あ、これおいし。」 「あーサクラちゃんも!ずりぃってばよ!」 「くっ。」 子どもたちも小競り合いをしながら、まるで数日間全く食事をしていない野良猫のような勢いで食べている。 「こら!喧嘩するならもう片付けちまうぞ!」 「「「…ごめんなさい…。」」」 やはり、子どもたちにとって、イルカの言うことは絶対のようだ。全員が全員、一斉に謝った。 ここまで美味いと納得できるが、それにしても、まるで猛獣使いのようだ。 子どもたちが争っている隙に、ちゃっかり全ての料理を口にしたカカシは、ゆっくりとイルカを観察しつつ、その手腕に感心した。 「あ!カカシ先生の顔見んの忘れた!」 そんなときに、今回やたらと熱心に誘った理由をナルトがあっさりばらしてしまった。…なるほど、そういうわけか。 だが、ナルト本人が食事に集中しすぎだし、例えカカシの顔を見ようとしても、しっかり幻術をかけていたので、無駄な努力になったわけだが。 カカシにとってはたいした問題ではなかったが、イルカにとっては許しがたいことだったようだ。 「お・ま・え・な!」 ゴツッと派手な音を立てて、イルカがナルトの頭に拳骨を落とした。 「てっ!痛ぇってばよイルカ先生!」 「お前が怒られるようなことをしたんだろうが!済みませんカカシ先生!もうコイツはいつまでたっても落ち着きがなくて。…ご迷惑をかけてませんか?」 言動は完全にナルトの母親だ。…だが、心配そうに上目遣いにこちらを伺うイルカの瞳に、カカシは再び己のみに不可解な変化が起こるのを感じた。 なにせ、自分の心臓が激しく波打っているのだ。芸術的なまでの料理の腕…それに加えてこの優しさと暖かさ。カカシは今までのナルトの発言を思い返してみて、 確か恋人がいないという話を聞いたことを思い出した。以前、サクラに「カカシ先生って、彼女いないの?」と聞かれたときに、ナルトが 「イルカせんせーってばぜっんぜんもてないから、かわいそうなんだってば!」などと、的外れで且つ、生徒には絶対に言われたくないであろうことを大声で 喧伝していたはず。その後、「あんたは黙ってなさいよ!」とサクラに思いっきり殴られていたが。 つまり今なら、この割烹着を着た天使を、俺のものにできるかもしれないのだ。いや。むしろ絶対に俺のものにしてみせる。そう思ったとき、カカシは自分の 思いに気がついた。 カカシが自分の思いを叶えると、硬く決意していると、ナルトたちがまた騒ぎ始めた。今度はサスケは参加しないらしい。 「なあイルカせんせー。デザートー。」 「ね、ね、今日はなーに?」 なるほど。サスケも甘いものが苦手だったはず。 「サスケには冷やしトマトな。お前たちにはババロアだ!」 サスケは無言でコクンとうなずき、ナルトとサクラは期待に瞳をキラキラさせて待っている。台所に消えたイルカが、再び戻ってきたときには、 皿に盛られた完熟トマトに、大皿にのった白い何かを持っていた。どうやら白い何かには、隣にあるソースらしきものをかけて食べるらしい。 カカシが満腹の腹を抱えながら、ぼんやりとデザートをむさぼる二人を見ていると、イルカがにこやかにカカシにも勧めてきた。 「カカシ先生もいかがですか?甘いもの苦手でなければ。」 爽やかな笑顔に、思わず手を伸ばしそうになるが、サクラとナルトがそれを許さなかった。 「カカシ先生は甘いものが苦手なんですよ!」 「そーそー!だから俺たちが全部ちゃんと食べてやるってば!!!」 わざわざ器に盛ってあったのに、しっかり2人が抱え込んでいる。こんなときだけ、見事な連係プレイだ。 「こら!」 「あー、いいんですよ。スミマセン。甘いものは苦手でして。ま、味見はしてみたかったかな。」 「ええ!?ちょっとまて!二人とも!」 「ホントにだいじょぶですよー。…それにしても美味かったです。今日の飯。どこかで修行でも?」 できる限りいい印象を与えたい。イルカに向かって、女を落とすときよりも真剣に笑顔を作ってみた。それを見て、サスケがトマトを齧りながらぼそっといった。 「おい…。何たくらんでやがる…。」 さらっとそれを無視し、イルカが笑顔で話し出すのを、カカシもにこにこと見守った。 「いやー。その、例のアレで一人暮らしが長いってだけでそんなには…。それに、しばらく預けられてた先で、そこの料理作ってたおばちゃんに気に入られて、 色々教わったので、ちょっと他の方より詳しいだけですよ。」 照れて真っ赤になりながら鼻傷をかくイルカに、カカシは熱い視線を送った。きっと、イルカはそのおばちゃんに先ほどの農家完全装備を教えられて 律儀にずっと守っているのだろう。そんな無防備な所も、カカシの庇護欲をそそった。照れるイルカともっと話をしたくて、カカシは更に問いかけた。 「それだけじゃないでしょ?こんなに美味い飯が作れるなんて。…きっと色々と修行しているんじゃないですか?」 カカシに褒められたせいで更に真っ赤になったイルカは、焦った様子で手を振りながら否定して見せた。 「あはは。その、料理の本を読むくらいです!その、…困ったなあ。そんなに褒められちまうと図にのっちゃいますよ。」 その様子も更にカカシのツボに入る。完全にヤラレタ。こうなったら今日中に何とかしたい。…それにはガキどもが邪魔だ。 「イルカ先生の料理が美味しいのは本当ですよ!毎日食べたいくらいです。さて、お前ら、こんなに美味しいもん食ったんだから、 片付けはお前らの仕事だぞ!!!」 とっくにデザートを食べ終わり、満腹の腹を抱えて転がっていたナルトとサクラは、慌てて身を起こした。サスケもカカシの方をにらみ付けながら立ち上がった。 「お前に言われなくてもそれ位やる。…おい、どべ行くぞ。」 「どべっじゃねぇってばよ!このスカシヤロー!」 「イルカ先生。すッごく美味しかったです!後片付けしてきますね!」 美味い飯で満足したのか、珍しく全員で協力して、食器を台所へ片付けていく。流石に腹が重過ぎて、俊敏とは行かないようだが。 イルカが止めようと立ち上がるのを制すように、カカシはさりげなくイルカに話しかけた。 「イルカ先生、恋人いますか?いるんだったらうらやましいなー。こんな美味い飯毎日食えるなんて!」 この隙に、イルカに余計な虫がついていないか素早く確認する。一応相手は忍びだが、こういうことを隠す方でもなさそうだ。 きっと、簡単に答えてくれるだろう。 もし邪魔者がいるようなら、迅速に排除すればいいだけのことだ。もっとも、今回の状況から見て、ナルトのイルカ先生に彼女いない説は、真実である可能性が高いが。 「あー、その。もてないんですよそんなに。カカシ先生は、きっとものすごくもてるんでしょうね…。」 一気に暗くなったイルカに、カカシは慌ててフォローに入る。質問の方向性はあっていたが、失敗した。イルカはどうもこのことで悩んでいるようだ。 「そんなことないですよ。ほら、コレがあるからまあ少しは…。でも上忍で元暗部で、ビンゴブックにのってるとなると、逆にね…。」 カカシは憂い顔をして見せながら、イルカに苦笑いして見せた。お人よしのイルカは自分のことより、カカシの方を心配してくれるはず。 案の定イルカはひっかかってくれた。 「そんな…。すみません。軽々しく…。でも!カカシ先生はすばらしい方ですから、ちゃんと気づいてくれる方が見つかりますよ!絶対に!」 …イケル!これなら幾らでも隙がありそうだ。早速、イルカを更に追い詰めることにする。 「イルカ先生は優しいな…。ね、イルカ先生。」 心配そうな顔をしたイルカが、真っ直ぐにカカシを見つめている。優しいイルカ。それをこれから騙すのだ。…良心の呵責を感じないでもないのだが、 その透き通った黒曜石の瞳を見ていると何が何でも自分のものにしたいと思うのを止められない。その逡巡を全く顔に出さずに、カカシはイルカに 悲しげな顔を見せながら言った。 「最近、一人でいるの寂しくって。…今日はみんなで食事ができてほんとに嬉しかったんです。…でも。」 「でも?」 イルカはぐいぐい食いついてきている。今や心配のあまり泣き出すのでないかと思うほどの表情だ。 「明日から、また一人だと思うと…。」 「カカシ先生…。」 イルカが同情でほだされかかっているのがわかる。少しの間一緒にいただけだが、イルカの性格は大体分かった。この人は頼まれると断りにくいし、 駄目な子ほど可愛いと思うタイプだ。ナルトを庇い倒したのも頷ける。お人よし過ぎて苦労するタイプだ。 「だから、わがまま言っていいですか?」 「はい!」 緊張した面持ちで、イルカが答える。コレならいけると踏んで、カカシは勝負をかけた。 「俺、食費出します。片付けもやります。…だから。だからここで毎日ご飯食べてもいいですか?」 「はい!そんなことでいいのなら!もちろん!!!」 やはりイルカは簡単にひっかかってしまった。…まあ、これで毎日イルカにあう口実ができたのでカカシ的には万々歳なのだが。せっかくのチャンスを無駄に しないよう、ダメ押しもしておく。 「任務で出かけるときは必ずお知らせします。帰還が遅れるときも。…だから、お願い。俺といっしょにご飯食べてください。」 そういって顔布をさっと下ろし、イルカの手を両手でにぎって縋ってみた。温かく、しっかりした男の手が、カカシの手を逆に握り返してくれた。 「もちろん是非!…俺も明日は寂しいなって思ってたんです。毎年収穫の時期は、手伝うって名目で、誰かしら生徒とか呼びつけて一緒に飯食うんですけど、 …毎日ってわけにはいかないし、ナルトだけよぶのも…。だから、ほんとにカカシ先生が宜しければ、いつでも俺んちで飯食って下さい!!!」 涙目でイルカが言ってくれた。イルカ宅に訪問する権利を正式に得ることには成功した。これからは、しっかり作戦をたてて、 じっくり確実にイルカを手に入れるのだ。 「イルカせんせー終わったってばよ!!!もう、俺ってば大活躍!」 「あんたは水飛ばしすぎなのよ!服ぬれちゃったじゃない!」 「ウスラトンカチ。」 イルカと手を握り合いながら、見詰め合っていると、下忍たちが片づけを終えて戻ってきた。ナルトとサスケが例によってじゃれあって、 サクラが止めに入っている。 「おう、ありがとな!…ってけんかすんなよ!あと暗くなったから、ナルト、サスケ、サクラのこと頼むな。」 下忍たちに気づくと、イルカはさっきのことなど何も無かったかのように、先生モードになった。流石に筋金入りアカデミー教師だ。 「まーかせとけってばよ!」 「…はい。」 「えーサスケ君送ってくれるの!嬉しい!」 「サクラちゃん!俺も俺も!」 「サスケ君ならー、ついでにうちによってってくれてもいいんだけどなー?」 「サクラちゃん…」 騒ぎ立てる子どもたちをまとめて送り出した。サスケもナルトとじゃれている内に、カカシのことを忘れたようなので、好都合だった。 早速二人きりになれた。子どもたちが帰ったことで、寂しそうだし、この機を逃すわけには行かない。 「イルカ先生。今日の記念に、良かったら酒でも飲みませんか?」 子どもたちの背中をずっと目で追っていたイルカは、カカシにそういわれると、慌てて振り返って言った。 「はい!…ちょうど良かったです。俺、いっつもあいつ等が帰っちゃうと寂しくて。」 「今日は、俺と飲み明かしちゃいましょ?」 「よろこんで!」 また苦笑いを浮かべながら鼻傷を掻くイルカの腰にさりげなく手をまわしながら、カカシはイルカの家に再度上がりこんだのだった。 ***** 「ま、そういう訳だ。…邪魔、すんなよ。…今俺の幸せを邪魔すると、漏れなく俺特製ヒミツのお部屋に行けちゃうから。」 アスマは心底後悔していた。全く知らないわけでもないイルカが、目の前の危険人物の餌食になろうとしているのだ。 「まださ、口説くとこまでいってないのよ。だから、余計に邪魔されたくないわけ。…はー。」 聞いてもいないのに、カカシは今まだイルカを口説いている最中であることまで明かした。 はっきり言って、知らない相手ならどうでもいい。特に何もせず、放って置いただろう。 だが、イルカは知り合いだ。一緒に飯を食いに行ったこともある。…こんな奴の被害にあわせるわけには行かない。 アスマの脳内には、イルカをどうやって逃がすかということだけが駆け巡った。 「あ、そーだ。クマ。」 完全に思考の海に沈んでいたアスマだったが、カカシの問いに正気に帰った。 「で、どうやって落としたらいいと思う?あの人天然すぎて、手出しにくいんだよね。」 「知るか!」 というか、知っていても教えるわけが無い。 「だってさー平気で風呂一緒に入ってくれちゃうし、ちょっと位さわりまくっても気にしないし、寂しくなっちゃったんですかとかいってくれちゃうし、 …もうさー…このままヤッちゃっていいかなー?」 「いい訳あるかー!!!!!」 その日、上忍待機所には、怒鳴り声と鳥の鳴き声と轟音が響き渡ったという…。 ********************************************************************************* とりあえず温泉話の前にコレ上げときました。今度時間あるときに温泉ネタ上げようかと思います。 |