うちは普通のマンションで、ちょっと貧乏な中忍たちが住まうちょっとだけボロくて、ちょっとだけ狭くて、でも俺には楽園だ。 醤油借りたり、米借りたり、酒飲んだり…。 つまり…間違ってもダンボールに入った上忍がおいてあったりしないはずだ。 「で、何の冗談ですか?はたけ上忍。」 極力冷静さを装って、目の前の物体に一応問いかけてみた。 「今日は猫の日なので拾ってください。あ、因みに命令なんで宜しく。」 …無駄に上から目線の自称捨て猫?らしき生き物は、どっからどう見てもナルトの上忍師、はたけカカシだ。 そのあまりの態度のでかさに、一気に頭血がのぼり突っ込まずにはいられなかった。 「なんだそれ!?大体アンタいつからこんなことやってんだ!さっきから火影様とか暗部とか探してんだぞ!アンタのこと!」 アカデミーにいる時も行方不明になったとかで騒ぎになってたし、受付所に入っても暗部とかうろうろしてて落ち着かないし…! ソレなのにコイツは何でこんなトコでこんな格好で平然と俺に命令かましていやがるんだ!? 「へー?ま。そんなこともあるよね?」 俺の怒りを他所に、どうでもよさ気に頭なんか掻きながら、自称捨て猫がふんぞり返っている。 「何だその態度!?いいからさっさと三代目の所行ってくださいよ!!!なんで俺んちの玄関でわざわざ段ボール箱に 入ってるんだ!!!あと猫耳とかイイ年してアンタ…!」 デカイ箱が置きっぱなしっていうのも大概近所迷惑だし、こんなヤツが睨み聞かせてたら他の住人たちも怯えるし、 なにより猫耳つけてぎっちりダンボールに詰まった上忍なんて… ありえねぇ! 「捨て猫ってこういうもんじゃないの?普通?」 …平然とこういうこと言い切っちゃう辺りが普通の上忍とは違う所なんだろうか…? 思わず遠い目をしてしまったが、今注目すべきはソコじゃない。 「どこをどうやったら、上忍で人間で元暗部のアンタが捨て猫になれるんだ!?」 「んー?気合いかな!」 「ダンボールにみっちり詰まって爽やかな返事とかありえねぇ!」 …駄目だ!会話が全く通じない!そういう意味では猫らしいのか…!? ありえない事態に俺がうろたえている隙に、ダンボールからすばやく這い出た自称猫が、俺の家の鍵をいとも 簡単に開けてしまった。 かぎかけてたのに! 「じゃ、さっそく飼い主さんのお宅はどんな感じかなー?」 制止する間もあらばこそ、勝手に…靴は脱いでたけど、堂々と俺んちに進入した自称猫が、きょろきょろと俺の部屋 を見渡している。 「あ!こら!勝手に入るな!」 慌てて襟首引っつかんで止めたが、自称猫は怯む様子すらなく、自分かってにうろうろしている。 「へー?適当に汚くて女の気配がなさそうな家だね。」 …オマケに失礼極まりない評価を…! 「うっ!うるさい!イイだろ別に!掃除はそれなりに…!」 彼女はいない。確かに。しかも結構長いこと。…だが、掃除はしてる! 最近サボってたけど週末には一応…!…四角い所を丸く掃くくらいいいじゃないか! 「ごーかっく!他のヤツの気配してたら片付けるのが面倒だからねー?じゃ、早速。」 憤る俺を他所に、コスプレドラ猫野郎は何故か満足そうに勝手な評価を下した。 これはもう…殴ってもいいんじゃないだろうか? 「なんだよソレなんだよソレなんだよソレ!?アンタ一体何なんだ!!!」 俺がちょっと涙目になりながら、怒鳴りつけても、どこ吹く風だ。 「パニクってるのが中忍って感じ?」 …鼻で笑われた。なんだコイツなんだこいつなんだコイツ!!! 「うわっ!ムカつく!何様だー!」 「お猫様?ってことで、早速。」 俺が地団駄踏みながらこれでもかとイラつき具合を表現してるっていうのに、するっと俺の横を通り抜けたドラ猫野郎は、 勝手に寝室に入っていった。 慌てて追いかけると、当然のようにベッドの上に横たわりくつろぐドラ猫の姿が…! 「あ、てめっ!俺のベッド勝手に…!」 腹が立ちすぎてどうしたらいいか分からなくなってきた。 とりあえず俺んちはペット禁止じゃないけど、態度のデカイ猫もどきは禁止だ!!! 「ふーん?ま、コレくらいならいいか。」 感触を確かめるようにベッドの上で身体をゆすり、我が物顔で俺の憩いの間を占拠する上忍。…だから何なんだコイツは! あまりのことに業を煮やした俺は、思い切った行動に出た。 …駄目元でも殴ってやる!!! 拳を構えて飛び掛る先には、平然と小憎らしい顔でくつろぐドラ猫上忍が…! 「出てけよ!ココは俺の…っ!?わぁ!」 絶対に当たったと思ったタイミングだったのに、気が付いたら俺はベッドにひっくり返されていた。 しかも、上に乗っかってるのは自称ドラ猫上忍。 「早速俺の飼い主にマーキングしようっと。」 そんなわけの分からない事を言いながら、自分でさっさと服を脱ぎ捨て、露になった顔が何故か異常に整ってたことに驚いてる 間に、ついでに俺の服まで引っ剥がれていた。 「え、あっちょっ!どこ触って…!?」 パンツがない。代わりとばかりにドラ猫上忍の手が俺のソコを覆っている。…しかも、ついでとばかりに揉まれている。 …何だこの事態!? 「かわいー色。使ってないの?」 俺の股間に対する不当且つ失礼な評価を下した上忍が、イタズラするみたいに俺のモノを擦り上げた。 その動きは無駄に巧みで、不肖の息子は勝手にその気になっていく。 「わー!?さわっ…っんっ!あ、やだ…っ!」 制止してるんだか、喘いでるんだか分からない自分の声が狭いながらも憩いの我が家に響き渡り、ドラ猫上忍はソレを見て にやにや笑っている。 「うん。声もいいし…エッチの時かわいくなるんだねぇ…。」 いってることも卑猥だが、ペロリと唇を舐め上げるのも相当だ。 「やぁ…なんで…んあっ!」 何でこんなことになってるのか分からない内に、あからさまに欲情した瞳を向けたドラ猫上忍が覆いかぶさってきた。 「さ、しっかり印つけとかないとね。…奥の奥まで。」 「んんっー!」 思う様口内をむさぼられて、息ができなくなるくらいまで嬲られて…。 奥の奥まで入り込まれる羽目になった。…自称猫男の言葉通りに。 ***** 「何でだ…!何でなんだ!?」 俺は普通の善良な中忍で…。確かに猫は好きだが、コスプレ上忍はびた一文必要としていないのにどうしてこんな…!? 「ベッドが狭いのも好きだけど、体位が限られちゃうから新しいの買うね。後、飯はてんぷら駄目だから。甘いのも。」 つらつらと勝手な条件を並べ立てるドラ猫野郎は、未だに猫耳をくっ付けたままだ。 「なんだよ!何の話だ!?」 ベッドは確かにもらい物で古いヤツだけどまだ使えるし、俺はてんぷら好きだし、甘いものも好きだ! 何だって良く分からん条件を突きつけられねばならんのかさっぱり分からない。 腰は痛いは、あらぬ所も痛いは、体中に文字通り赤い印だらけになってるはでもうどうしたらいいのか…!? 「末永く宜しくねー!」 …会話も通じないし!!! 「だから何なんだよっ!…あっ!さわんな!」 どうして人が話してるって言うのに、しりとか胸とかもんで来るんだコイツは! 抗議してる人間に対してこの態度…! あんまり体は言うことを聞かなくなってたので、怒りの視線で威嚇した。 「え?なんで。いいじゃない?」 …効果がなさ過ぎる! 「どうしてそうなる!」 「猫ってわがままなモノだからってことで。」 …猫…そういえば首尾一貫して猫耳つけっぱなしだが…? 「…猫って…猫ってそうなのか…!?イヤだからアンタ上忍…」 「さーって。ちゃんとマーキングし終わったから、任務行ってくるね。」 俺の言葉を遮るように、猫耳つけたままの上忍がテキパキと忍服を身につけ、窓を開けた。 なんだ?出てってくれるのか?とりあえず見送るべきなのか? 「へ?あ?は?えーっと?…いってらっしゃい?」 「ん。行ってきます。晩御飯は秋刀魚で宜しくー!」 しどろもどろに挨拶してみたが、ご機嫌なドラ猫上忍は、爽やかに挨拶して窓から出て行った。 「…なんだったんだ…!?」 ***** 「つまり、その、…貞操を奪われた上に、自称猫の上忍が住み着いて、しかも気が付いたら籍まで入れられていたと…。」 「猫…猫は好きだけど!受付でも猫好きだって言ってたし、猫カレンダーとか使ってたけど…!あれは猫じゃないと思うんだ…!」 究極の中間管理職である中忍同士…困った時はお互い様が合言葉の同僚を引っ張ってきて事情説明すること数時間…。 呆然とした様子の同僚が、突如嵐の中に放り込まれた俺の人生に一条の光をもたらしてくれる事を期待していたんだが…。 「…猫じゃないと思うけど、あきらめた方がイイと思う。」 返ってきたのがこの一言っていうのはあんまりじゃないだろうか? 「なんだよ!友達甲斐の無いヤツだな!」 思わず中忍魂を忘れたかとなじろうとしたんだが…。その前に同僚が俺の背後を指差した。 「だって…ソレ…」 恐る恐る振り返るとソコには…。 耳は人間だが態度はドラ猫上忍…そして何故かいつのまにか俺の亭主になってしまった…のが仁王立ちしていた。 「ご主人様。勝手にフラフラしちゃだめでしょ?帰るよー。」 「離せー!俺はまだ飲んでるんだぞ!」 大体ご主人様っていうくせに、俺の言うことなんか聞かないし、世話しろっていうくせに勝手に飯とか作るし、 家具とか色々勝手に決めてきちゃうし…! ここぞとばかりに不満をぶつけようとする俺に、ドラ猫上忍がものすごーくショックを受けた顔をした。 「飼い主のくせに飼い猫ちゃんと世話しないなんて…!アカデミー教師ともあろうものが…!」 「え、あ、…そうかな…。」 確かに…飼い猫は世話しないと駄目だよな。アカデミーでも飼育係がサボったら、俺、思いっきり怒るもんな…。 「いや、待てってイル…あ、すみません。なんでもないです…。」 しょぼくれる俺を、同僚が慰めてくれたようだったが、何だかへこんでしまって言葉が返せなかった。 「じゃ、帰ろうねー?帰ったらちゃんと俺を構うように。」 そんな俺を抱き上げた自称猫上忍は、いつも通り勝手な要求を突きつけてきた。 でも…俺の飼い猫…いやまて、だからなんかおかしいような…? 「あ、じゃ、じゃあなー!」 とりあえずうちに帰るならと、同僚に別れを告げたが、同僚は口の中で何かぼそぼそ言ってて 俺の言葉を聞いていないみたいだった。 「…俺もうっかり変なモノ拾わない様にしよう…。」 ***** 「なでてもいいけど?」 くいっとこれ見よがしに頭を上げて見せる猫上忍の耳は、猫耳だ。 いつもうちに帰ってくるといつの間にか耳が猫耳になる。 可愛いけど。確かに猫好きだけど! 「え。あ、でも…だから俺はどうしてアンタが住み着いてるのかっていう話を…!」 初心に返って訴えてみたが、自称猫上忍は長くてつやつやの尻尾で俺の頬をなでてきた。 「なでるの好きでしょ?ほーら。洗い立てだよ?」 「あ、ホントだ!フサフサ…って!違うだろ!」 確かに感触はいい。最高級の毛皮ってこんな感じなんだと思う。 だがしかし!何でこんなことになってるのかっていう理由にはならない! 猫らしく妙にデカイ態度の上忍を怒鳴りつけてやったんだが…。 逆に表情ひとつ変えない猫上忍に命令されてしまった。 「アンタも風呂入ってきなさいよ。そのままヤりたいなら別だけど。」 「な、何をだ!?」 「え?今更ソレ聞くの?ま、いいけどセッ…」 「わー!まてまてまて!…分かった。風呂入ってくる。だが話し合いはまだ…」 風呂に入らないであんなことするのはイヤだ!猫だからとか言ってやたら舐めるし! 風呂には入るが、マズは条件の確認をと焦る俺を、猫上忍は待ってくれなかった。 「今すぐやって欲しいの?」 その怪しい手つきといいい、きらりと光った瞳といい…猫らしく獲物を捕らえようとする姿勢があからさまだ。 「…風呂!」 慌てて風呂場に飛び込んだ俺に、俺様猫の勝手なセリフはとどかなかった。 「さーって。今日はどんなプレイにするかなー?」 まあその後もいつも通り散々な目に合ったわけなんだが…。 という訳で、俺んちに住み着いてしまった猫は今日も元気に俺様生活を送っている。 ********************************************************************************* 猫の日なので猫っぽいものを更新したようなしないような…。 態度がデカイ上忍に住み着かれてしまったイルカ先生がうっかり幸せな話。 ご意見ご感想などがありましたら、お気軽に拍手などからどうぞ…。 |