変態のいる風景

今日はテスト
「じゃ、はじめるぞー!教科書しまって、机の上は筆記用具のみ!」
「えー?まだ早いよ先生!!!」
「せんせーの意地悪!!!」
「…テスト…嫌い。」
ああ思い出すなあ…。俺もテスト前は大騒ぎだったっけ…。だが、テストはこいつらのためでもある。…そんなのこんな頃は俺も分かってなかったけどな…。
「あーホラ黙る!テストも任務も待ってくれねぇぞ!さ、早く問題回す!!!」
テスト問題を配ると、早速新たな悲鳴が響き始めた。
「うー…?わかんない…。」
「…こんなのならったっけ…?
「簡単じゃん!」
悲喜交々。だがこれがやがて実戦で役立つことになるんだ。…がんばれよ!!!
高学年になるとカンニングをする奴がチョコチョコ出始めるが、この学年ではまだまだそこまで考え付かないのが多いから、その辺は気が楽だ。
…その分、とんでもない回答が続出して頭をなやませることになるのだが、今は考えないでおく。
机の間を歩いて、生徒たちをみてまわり、ある程度の様子はつかめた。…お前らちゃんと勉強しろよ…。
まあ、この分だとしばらくは見ていなくても大丈夫そうだし、ちょっと書類でも片付けるか。
音を立てない様にそっと教卓に腰掛けた。すると…。
もにゅっとするものがひざに当たった。慌てて教卓の下を覗き込む。
「あ、イルカ先生。こんにちは!!!」
…こいつか!!!!!
「…ちょっとアンタ何やってんですか!テスト中なんですよ!出てって下さい!というかその前にアンタ任務どうしたんですか?!」
小声ながらも強い口調で問い詰めた。コイツには、そんなことをしても全然堪えないのは承知の上だが、そこは俺の常識がゆるさない。
…なんでここにいるのかはもう聞かなくても分かる…。悲しいことにこの変態の思考パターンは読めないが、この変態の行動パターンは読めてきた。
…俺に何かしようとしてたんだろう。きっと…。
「いやです!せっかく先生の匂いをかぎにきたのに!!!」
落ち着け俺!コレでもコイツは上忍で元暗部でそれ以前に…変態なんだ!!!
だが…匂いって何なんだ匂いって!確かにさっき体術の授業があったから、汗臭いだろうが…ソレをかいでなにするつもりなんだ!!!
「…出て行け…!」
結局いつもどおり低い声で脅してしまった。…ああ、なんでこんなのに目をつけられちまったんだろう。
「ああ、イルカ先生の匂い…。ふふふ…。」
股間に頭を擦り付けるな!!!…くそっ!テスト中でなければこんな奴蹴りだしてやるのに!!!
「触るな!この変態が!!!」
あ、やっぱり我慢できなかった。…気がついたら机ごと奴に渾身の一撃を…。
「せんせー!!!どうしたの?!」
「ちょっと静かにしてよ!!!」
「…わかんない…」
ああ!生徒たちが!!!
「あ、ごちそうさまでしたー!!!じゃ、また後で!!!」
机は…もとの位置にある…幻術か!?くそっ取り逃がした!!!
「先生!今のなんですか?!」
「先生!わかんない!」
ああ…。アレはお前たちのあこがれている上忍だぞ…って…言・え・る・か!!!
「今のは…ちょっとした訓練だ!みんなも良く知っている様に、訓練は毎日欠かさずすることが大切だぞ?」
忍耐力の訓練と言えなくもないしな。…ウソは言ってないぞ!!!
「「「「はーい!!!」」」」
なんとかごまかせたようだが…テストが…。
生徒たちは完全に集中力がなくなってしまって、遊んだりふざけたりし始めている。
…そりゃ、あれだけ騒がれたら無理だよな…。
だれか…助けてくれ…。
*****
100物語
「じゃ、次俺な!…昔俺が薬品部の倉庫に行ったとき…。」
今日はアカデミー教師たちで、100物語の練習だ。…毎年生徒たちを野外実習させるときに、コレをやることになっている。
…つまりは娯楽をかねつつ、恐怖に煽られた状態でも動けるよう訓練するため、たっぷりコレで怖がらせた後、夜中に生徒たちを脅かしに行くのだ。
兄弟のいる子も多いから、毎年そこそこ話の内容を変える必要があるし、ストーリーに合わせた小道具を用意する都合があるから、こうして 教員たちで予習するのだ。実際に100個も話す必要はないから、10から20ぐらいがせいぜいだが。
「ガラス瓶は良いけどさ。…骨とかってどうする?」
「あー…。ちゃっちいとばれるけど、一応まだ本物はまずいよなぁ…。適当に作るか?」
「去年使った骨子さんは?捨てちゃったんだっけ?」
「あ、アレはほら、びびった生徒が火遁で燃やしちゃったから。」
「あ、そうだっけ。…うーん。またアレ作るの面倒だな…。」
「石膏だと重いんだよな…。木だと燃やされちまうし…。幻術ばっかりもなぁ?」
準備のことで話し合っていると、何故か俺の横から聞き覚えのある声が聞こえた。
「イルカ先生は幻術好きですよね?」
「帰れ!!!どっから湧いた!!!」
まだ100話どころか2、3話しか話してないぞ!!!妖怪がでてくんな!!!
…ちょっと本物が出たかと思ったじゃないか!ぴったり背中に張り付きやがって…いや、怖くなんかないぞ!別に!
「えーと、じゃ、次俺行きます!」
何で自然に俺たちに入り込もうとしてるんだ…。お前らも止めろよ!びびってないで!!!
「この間、俺が第4倉庫に行ったときのことなんだけど…ストックがなくなった備品を取りに行ったら、備品部から人手が足りないから、 今日は直接倉庫取りに行くようにって言われたんだよねー…。で、次の任務の予定が入っていた俺は、急いでその足で倉庫へ向かった。 例の重い扉を開けるとかび臭い匂いが広がって、ちょっと気分が悪くなったけど、とにかく急いで補充しようと思って、俺は中に進んだ …すると…誰もいないはずなのに扉が勝手に勢い良く閉まって…しかも奥の方から……おかえりなさいって囁くような小さな女の子の声が…。」
ぎゃああああ!!!普通に怖えぇ!…いや、コレは単なる作り話に違いない!扉だってそんなに簡単に閉まらないはずだし、っていうか、 俺今度倉庫の整理当番回ってくんのに、なんて話しやがる!!!子どもは倉庫に入れないようにしてあるし、大体あの扉は術を使わないと 開け閉めできないんだ…そんなことはありえない!!!
「…子どものいたずらかと思って、声がした方を見たんだけど…気配もチャクラも感じない…で、コレはおかしいなって思ったんだけど、 放っておくわけにもいかないじゃない?…警戒しながらそのまま声のした方に進んだら…そこには!」
なんなんだよ!なにがいたんだよ!オチは!オチはまだか!?笑い話にさせてくれよ!!!
「…白い小さな手だけが…ふわふわと中に浮いていた…。流石に驚いて、とっさにクナイ投げつけたら…そこにはボロボロになった子供用のリボンが…。」
ぎゃあああああああああああ!!!
必死で漏れそうになった悲鳴を喉の奥に押し込める。同僚たちもこわばった顔で悲鳴を押し殺している。大体上忍で赤いぐるぐる目玉もちのコイツに 見破れない幻術…ありえないよな…。倉庫…もう一人で行けねー…。身近なところの怪談はやめてくれ…!
「う、うしろ!」
なんだよ、怖いんだよ。うしろって、変態上忍が俺にくっ付いて俺のケツ撫で回してるだろ、さっきから!
「あ、イルカ先生ごめんなさい。…連れてきちゃったみたい?」
連れてきたって何が…。
うんざりしながら後ろを振り返ると、変態上忍の後ろに白い手がぷかぷかと…
「ぎゃああああああ!!!!!」
それから、どう帰ったのか分からないが、気がついたら、俺は家中に塩を大量にばら撒いていた。
…変態も化け物ももう来るな!!!
そのとき…いやですーという囁くような声を、確かに聞いた気が、した…。
*****
そうめん
あー…あちい…。夏はそうめんが美味いんだけど、茹でるのがなー…。
「あ、美味しそうですねー!!!」
ああ、こう暑いとこの変態の相手をしてやる気にもならない…。…あの怪談以降、俺はきっぱり倉庫当番を断り、毎日部屋の周りに酒と塩を振りまいている。 怪異はあれ以来起こっていないが、…コイツには効果がなかった。変態よけには何が効くんだろうな…。
「あ、ねぎ!みょうがもありますね!後はしょうがも!美味そうだなー!」
だから貴様の分はない!…ああ、暑い。そろそろ出てって欲しい。覆面つけてんの見てるだけで暑苦しい。
「おい…でてうせろ…これから俺は飯だ…アンタの分はない!」
「あ!大丈夫です!イルカ先生をいただきますから!!!汗でほんのり塩味つきだし、イルカ臭たっぷりで美味しそうですよ!!!」
予想通りの答えしやがって!!!
「き・え・ろ!」
暑くて気が立っていた俺は、ゆでかけのそうめんを一部変態に投げつけてやった。
「あ、美味しい。そろそろ良いんじゃないですか?」
ちっ!やはり効かないか…。器用に食いやがって…!
もう、面倒だ…。暑いのに何でこんなに面倒なことに…。
話すのも億劫なので、サクサクそうめんをざるにあけ、用意しておいた氷水で冷やす。つもりだったが。
「ひゃあ!」
「あ、可愛い声ですね!!!」
…背中に氷いれやがったぞこの変態!!!!!一瞬殺意が湧いたが。
…だがこいつの相手をしていては、そうめんが伸びてしまう。…暑さと引き換えに美味いそうめんを食うのが夏というもの。
今回は見逃してやる!!!
氷が一個減ったが、気にせずそうめんをひやし、手早くざるに盛り付ける。
「せんせー。」
何を言われようとも無視だ無視!
「ねえせんせ。」
あ−うるさい!さて、さっさとそうめんを…。
「それ、麦茶ですよ?」
…変態も玉には事実を言うんだな…。だが、コイツに言われるのは癪だ。大体もう口の中に入ってしまっている。
…俺は無言で麦茶そうめんを完食した。

夏はそうめんに限るが、ソレは変態のいないときに限る。と俺は学んだ。

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夏なので夏らしくしようとして失敗。
そうめん…コレはおんなじことも逆もやったことあります…。…とてもまずいです。

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