暮らしの中の変態

目覚めれば変態
「おっはようございまーす!!!」
「あっ!アンタ!またか!!!」
 今日も今日とて、朝っぱらから、人の了承も得ずに、勝手に家に上がりこんでいるあつかましい上忍がいた。
勿論即刻たたき出すべく、奴のどてっぱらめがけて回し蹴りを決めてやった。コレで奴をしとめられるとは思っていないが、ある程度奴が満足するまで かまってやれば、今のところは出て行くので、適当に朝の鍛錬も兼ねて思いっきり殺気むき出しで奴と戦う。
「いやーん!今日もイルカ先生、ス・テ・キ!!!」
「…っ!!!くそ!!!…食らえ!!!」
 朝っぱらから、チャクラを練って、渾身の一撃をかます。変わり身の術を多用する奴に、攻撃は中々当たらないが、そこは気合だ!
「…はい、今日も元気でよかったです!!!じゃ、また後でー!!!」
ちっ!やっぱりよけられたか…。
「二度とくるんじゃねえ!!!」
腹立ち紛れに玄関に塩をまいてたが、奴はいつもどこからともなくやってきて、どこからともなく消えうせるので、玄関に塩をまいても効果があるかどうか、 我ながら疑問だ…。
だが、とにかく、こんなもんでも縋りたいほど、奴の出没率が高いのだ。俺の家に勝手に上がりこみ、アカデミーでは勝手に授業に紛れ込み、 昼飯を食おうとすればどこからともなく湧いて出て、勝手に飯を一緒に食っていき、受付所ではいつの間にか俺の腰にへばりつき、帰宅しようとすれば、 人の荷物を勝手に持って、どこまでもぴったり着いてくる。
何度か奴を教育しようと試みたのだ、だが、その時は納得したようなことを言っても、結局…この様だ。
奴とは会話が成立しないので、最初から防衛に力を注いだ方が得策だ。
…流石にそろそろ、里長に訴え出た方が良いんだろうか…。
悩みながらも、奴が勝手に用意した飯を食う。勿論薬物などが混入されている可能性も考えて、チェックした上で食べている。
というか、流石に最初は廃棄していたが、毎朝執拗に用意されているので、一度、薬品部に持ち込んで検査したのだ。結果がシロと出たので、 それ以来、割り切って食うことにしている。
…飯がもったいないし、結構美味いのだ。忍として無駄は出来るだけ省くに限る。奴の襲来で朝飯を用意する時間が中々取れないので、この際利用してやるのだ。
…奴は神出鬼没だ。そして…常識はない。
腹立たしいが、奴は最初のときのように、いきなり襲い掛かってきたりはしないので、何とかやり過ごすことを優先に考えている。…今のところは…だが。
*****
夏だ!プールだ!変態だ!
朝の疲労はまだ色濃く残っているが、今日はアカデミーで水練の授業なのだ。俺も水練は好きだし、生徒たちが喜ぶので毎年楽しみにしている。
はしゃいでふざける生徒たちをなだめ、十分に準備運動させたあと、生徒たちに続いて、俺もプールに入った。
水遁の練習もしなくてはならないが、まずは泳げるようになるところから始めなければならない。
「いいかー!先生がお手本を見せるから、息を吸って止めて、まず浮くところから始めるぞ!ちゃんとみてるんだぞ!」
「「「「はーい!!!!!」」」」」
こういう時だけ返事がいいな…。自分も、まあ、そうだったから何も言えないが。
息を吸って、プールに身体を浮かばせようとした。そのとき。
…いる。なんかいる!っていうか、アンタ任務はどうしたんだ!!!
思わずためていた息を噴出してしまった。
「せんせー!!!」
「せんせーが溺れたー!!!!!」
「だいじょうぶー!?」
ああ、生徒たちが騒いでいるのが聞こえる…。だが、コイツを排除しなくては、安全な授業が行えない!!!一旦身体を起こした。
「…すまんみんな!ちょっと待っててくれ!ちょっとな…プールにでっかいゴミが沈んでるんだよ。片付けたいから、一旦みんなもプールから上がってくれ。 …ついでに先生がおもしろい術、見せてやるぞ!!!」
「えーホント!?」
「わー!せんせー!はやくみせてよ!!!」
よし、何とか誤魔化すことに成功したぞ!
早速プールサイドにはしゃぐ生徒たちを集め、さっと印を組んだ。
「水遁!」
さあ!奴を水ごとたたき出してやる!!!
だが、その時。
「いやん!せんせーったらそんなセクシー水着で俺を誘惑して!!!股間の食い込み最高でしたよ!!!」
ゴミがざぶんとでかい水音を立てて、自発的に水面に上がってきた。全くぬれていない所をみると、どうやらチャクラを使っていた様だ。
…噂に聞く写輪眼とやらがぐるぐる回っている。術が発動しなかったのは、コイツがこの真っ赤なぐるぐる目玉で、俺の術を跳ね返したためらしい。
…何なんだよコイツ!!!どうしてそうまでして?!
「じゃ!…生徒たちに襲われないように気をつけて…!!!」
「…っ!!!貴様!!!待て!!!!!」
くそっ!無駄に早い逃げ足しやがって!!!
俺は怒りのあまり、自分史上最速で印を組み、水遁を奴に向かって放った。
…結果的に、生徒たちは術を使った水遊びに大喜びだったが、プールの水を半減させた俺は、一緒にいた先輩教師にお説教を食らい…始末書を書かされた…。
…今度あったら絶対奴をヤる!!!
決意も新たに、今日も奴の抹殺計画を立てようと改めて思ったが、奴は一応里で一番凄腕の上忍だ。正直勝てる気がしない。…だが、そこは中忍の意地だ!
ああ…上忍にあこがれてたキラキラした自分はもういないんだな…。悲しみとも諦めともつかぬ感情を抱えたまま、俺はその日の授業をこなしたのだった。
*****
迎えに来る変態
何とか授業と始末書の提出を終え、職員室でぐったりしながら帰り支度をしていると、…不愉快な大声が響いた。
「イッルカせんせー!!!かーえりーましょー!!!」
「断る!!!どの面下げてきやがった!!!この変質者が!!!」
 奴の再来に流石の俺も苛立ちを隠せず、思いっきりクナイを投げつけたが、またいつもの様によけられた。しかも、いつの間にか奴の手に俺の放った クナイが握られている。
「ちっ!」
来るなら来い!!!
「あーイルカ先生の握ってたクナイ…。何だかイルカ先生のぬくもりが伝わってきそう…。」
気持ち悪いこと言いながら、クナイに頬を擦り付けるなこの変態め!!!
「おい!返せ!いや、やっぱり返さなくても良いからそれ、ここに置いてけ!!!」
気持ち悪いんだよ!!!
「えー?いやですよー。だってこれ、俺へのプレゼントでしょう?」
「なんでだー!!!」
もうどうでもいいから、視界から消え去って欲しい。出来れば記憶からもこの里からも。…いや、むしろ俺のいるこの世界から消えてくれ!
 ぞっとしながら一瞬固まった俺を見逃さず、奴はいつもの様に俺のかばんを持ち、ついでに俺の尻を撫で回した。
「ぎゃー!!!なにしやがる!なにしやがる!なにしやがる!!!」
「イルカ先生のお尻チェックです!!!今日も良いお尻でしたよ!!!」
「知るか!!!!!」
なんだその表現は!俺は茶か!!!
「さ、帰りますよ!俺たちの愛の巣に!!!」
「あ!!!待ちやがれ!!!!!!!」
奴がかばんを持ち去ったので、慌てて俺も先輩や同僚たちに挨拶するのもそこそこに、アカデミーを飛び出した。…悲しいことにいつもの光景と化しているので、 先輩たちをはじめ、誰も俺をとがめなかった…。
*****
「くそっ!なんであんなに早いんだよ!!!」
奴があっという間に視界から消えたので、つい悪態をついた。ら、何か湧いた。
「えー俺は別に早くないです!長持ちです!イルカ先生も絶対大満足ですよ!!!」
「何の話なんだー!!!」
「いやん!恥ずかしい!!!そんなのこんな所で言えるわけないでしょ!もう。せんせったら、ス・ケ・ベ・さん!!!」
いつの間にか背後に回った奴が、俺の背中を指ですっとなぞった。その感触がまた気色悪い。
「…!!!!!」
「あら、真っ赤な顔!!!かわいー…。ね、今日こそ俺んちで夜明けのコーヒー飲みましょうよ!!!」
世迷いごとを!
「さっさとかばん返せ!クナイはもう良いから!」
俺は帰って休みたいんだよ!!!アンタのせいで疲れきってるんだ!!!
「しょうがないですねぇ…」
いかにもこちらがわがままで言っているような言い方に、絞め殺してやろうかと思うほど腹が立ったが、とにかくかばんがないと困るのだ。
「早く、返してください。」
割り切って下出に出てみた。…眉間の皺は流石に隠しようがないが。だが、奴は…。
「今日もイルカせんせのお家にしましょう。」
そういい残すと、またあっという間に奴の姿が掻き消えた。
…もう、どうでも良いような気がしてきた…。
俺は疲れきった身体と心を引きずって、とぼとぼと家路を辿った。
*****
「お帰りなさい!遅かったですね!!!」
奴が当然のような顔をして、俺んちの台所で料理をしている。…鼻傷のあるイルカのついたエプロンの入手先は怖いので考えないことにする。
「帰れ。頼むから帰ってくれ…。」
俺の懇願もむなしく、奴は食卓に次々と料理を並べていく。そして…いつもの科白を言った。
「さ!イルカせんせ!俺がいい?それともご飯?やっぱり俺?風呂?風呂と見せかけて俺?やっぱりここは俺ですか?!」
「飯、その後風呂。」
「とみせかけて…。」
「帰れ!」
「ちぇー。わかりましたよーだ。…じゃ。また明日―!!!」
俺はため息をついて床にへたばった。悪魔はやっと去った。…今日の所は。
この後、きっとまた風呂場に入り込んでこようとしたり、いつの間にか布団に入ってきたりするんだ…。
…もう、諦めて奴の毒牙にかかるべきなのか…。
いや!そんなことはないはずだ!!!中忍の人権いや忍権なめるなよ!!!いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる!!!
俺は決意も新たに、奴の手作りの飯をもりもり食った。
*****
あれから風呂に入ってきた奴をたたき出し、布団に入ろうとしたらすでに入っていた奴をたたき出し、寝ようとしたらお休みのちゅーなるものを 強請ってきた奴をたたき出し…。
疲れきった俺はやっとこさ眠りにつくことができた。
…明日もまた、きっと奴はやってくる…!というか、まだこの部屋のどこかに潜んでいるかもしれない…。
だが、絶対に負けるものか!!!
俺は、明日こそ奴に勝利することを夢見て、意識を沈めたのだった。

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おはようからおやすみまで、暮らしをみつめる変態。
…こんなんでましたけど。怪しい紙切れの続き的な何か。です。
アンケート結果につられてみました。

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