今年こそ!絶対勝つぞサンタサン!(あくまで子イルカ)


「何やってんだよイルカ…。」
俺は思わずつっこんでしまった。
なにせ任務から帰るなり又イルカが妙なことをやっていたのだ。
まず視界に入ったのは畳み一面に広がる真紅のビロードだった。柔らかく光をはじくそれは、イルカの手によって恐ろしい速さで 裁断され、しかも、それが着々と縫い合わされ、明らかに危険な形のものになっていっている。
しかも…イルカはそれはもう真剣な表情をしており、居間の空気を緊張感溢れるものに変えているのだ。
そう、多分コレはドレス。そして…。
「楽しみにしてろよカカシ!腕によりをかけてクリスマスパーティーのドレスを…」
やっぱり…!コイツは全然懲りていない!
嬉しそうというか、誇らしげにというか…まあ、興奮してるのは分かるが、全然全く欠片も…そんなコトは望んでいない!
「お前は!何度言ったら分かるんだ!俺はドレスもスカートも着ない!女装お断りだ!それに…」
俺の怒りの声を遮って、イルカは感動のためかキラキラした視線を返してきた。
「安心しろ!お前は最高にきれいになるって!舞台でも映えること請け合いだぜ!!!…今!正に!俺の手によって! 最高の芸術作品が仕上げられようとしてるんだからな!」
陶然とした表情ですっとドレスの元を広げて見せたイルカに、なぜか望んでもいない女装姿の美しさを力強く保障されてしまった。
任務でもないのに…こんな格好できるか!
「アホかー!!!だから俺はそんなものいらないと…」
イルカの手に握られた縫いかけのドレスをひったくろうとしたが、すばやく交わされた。
…こういう時だけやたら動きがイイ。
そのすばやさに舌打ちしながらさらに追尾の手を伸ばそうとしたが…イルカの手がそれを遮る様に動き、かわりにすっと 差し出されたのは…毛皮?
「見ろよ!こっちはアスマ兄ちゃんの…モード毛皮!」
そういってイルカの差し出してきた服…というかソレは、毛皮の塊にしか見えなかった。
「コレは…アスマ兄ちゃんのク…野性味たっぷりな魅力を引き立てるために精魂こめて縫いあげた…ク… 男前フサフサスーツだぜ!!!ちなみファーは100%クマ製!」
広げて見せられても、足首だの手首だの襟元だの…要所要所に毛皮のあしらわれたその服は…なんというか多分 その手の男には喜ばれても、普通の人間には冷たい視線を向けられそうだ。野性味というよりも、毛皮だらけ。 もっというと、どうみても原始人。もしくはクマの精霊とかがいるならこういう格好をしているかもしれない。
ク…アスマの体格は結構ごつい。しかも無精ひげまで生やしてるから、相当恐ろしい仕上がりになること受けあいだ。
「喜ばないだろ…それ…。」
冷静に、哀れみを持って突っ込んでやったが、イルカはフサフサの毛皮をなでながらきょとんとしている。
オマケにつぶやいたセリフもあさってなものだった。
「え?でもあったかいよ?カカシも味わってみろ!犬とはまた違って…イイ感じだぞ!ほら!」
「そういう問題か!!!」
すっと差し出されたソレを今度こそ叩き落とし、教育しなおさなくてはと焦る俺に、イルカがビロードに埋められた中から、 更に何かごそごそと引っ張り出してきた。
「もちろん俺は…」
「おわ!?何だ!?」
そういうなりバサッと赤い何かを広げたイルカはご満悦だ。
ところどころ白くてふさふさしたものがついていて、これはひょっとして…?
「すごいだろ!サンタサンだぜ!」
誇らしげに言うイルカに、俺はつぶやかずにいられなかった。
「なんか。違うぞ…?違うよな?違うだろ!!!」
「今年こそ…成功させなくちゃいけないミッションがあってな!安心しろ!カカシの美しさを引き立てるためのドレスには… 絶対に手を抜いたりしないぜ!」
俺のツッコミをサラッと流したイルカは、きらりと瞳を輝かせ、ぽんと俺の肩を叩いてきたが…。
「頼んでねぇ!!!」
俺の叫びは、冬の夜空に高く高く響いたが…勿論イルカの耳には届かなかったのだった。
*****
我ながら最高の出来だ!
美しいカカシにすばらしいドレス…そして側にはフサフサのアスマ兄ちゃん。
…これですばらしいクリスマスにならないわけが無い!
それに、ドレスだけじゃいやだっていう、カカシのかわいいわがままに答えて、一応上質なカシミヤの糸(高かったけどな!)を 手に入れて繊細に編み上げた手袋とマフラーも作ってやったので、きっととーたるこーでぃねいとも完璧だ!化粧も勿論! 俺が上から下まで完璧に仕上げちゃうぜ!!!
まあドレスに合わせて真っ赤なやつにしようと思ったら、どうしても黒がいいっていうから、ちょっとその辺は残念だけど。 それに、オマケでつけようと思ってた足袋も断られた。…まあこっそり作ったけどな!ちゃんと足元がわんこみたいになるヤツ! 肉球の感触までこだわって作った俺の自信作だ!…寝てる隙に履かせて写真とろうっと!
それに、例の計画も着々と進行中だ!
毎年毎年…ヤツにはまんまと出し抜かれてるけど、今年こそ!絶対に俺はやってやるぜ!!!
俺は決意を新たにしつつ、完成に近づきつつある今回のミッションの要を見つめながらニヤリとほくそ笑んだのだった。
*****
三代目に呼び出されたとき、まだ期限内なのに長期任務にでも就かされるのかと焦ったが、押し付けられた任務は… 全く関係ない上にむしろ脱力する内容だった。
「イルカにコレをプレゼントするのじゃ!」
どんと机の上に置かれたのは、赤い包装紙と緑のリボンで可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスだった。
「わざわざ呼び出さないで下さいよ!自分で渡せばいいじゃないですか!」
いくら相手が三代目とはいえ、こんな雑用のために緊急用の式で呼び出されるなんて…!
ついつい説教モードに移行してしまった。…最近イルカを説教してばかりいるから、くせになっているのかもしれない。
だが、三代目は俺の剣幕にもめげず、威厳を持って話し始めた。
「…話は最後まで聞け。…サンタ。というものを知っておるか?」
その気迫はやはり里を背負っているだけある。そこがただのエロジジイとの違いなんだろう。
…内容が全く雰囲気にそぐわないが。
「はあ、一応は。」
何を言い出したんだろう。三代目は。…やっぱりもうそろそろ…。
一瞬不謹慎な事を思った俺だったが、三代目のセリフがソレを打ち破った。
「なら、話ははやい。イルカのサンタとなれ!良いか!絶対にイルカに気付かれてはならぬ!そっと…枕もとの靴下に入れるのじゃ!」
…ボケてるんじゃなくて、頭がおかしいのか。
「三代目!アイツもう下忍なのになにやっちゃってるんですか!?」
冷静さを失ってる三代目の肩を掴んで揺さぶったが、すぐに振り払われた。
さすが…プロフェッサーと呼ばれた男…!
「仕方あるまい!アヤツは二親を無くし、一生懸命生きておるんじゃ!これくらいの事をしてやっても罰は当たるまい?」
情に訴えようと、声を荒げる三代目の言葉に、俺はすぐに切り替えした。
「なら、アスマ…」
だが、三代目は俺が言い終わる前にことばを遮った。
「アヤツでは無理じゃ。最近のイルカは、富に腕を上げた。おぬしの教育のお陰じゃな!」
「ナニが、言いたいんですか?」
妙に俺を持ち上げた。妙に鷹揚な笑みを浮かべている。…絶対に裏がある!
だが、振り返った三代目が、やけに悲しげな顔をしていたので、毒気をぬかれた。 「アスマでは…返り討ちに会う。」
「あー…なるほど。」
イルカならアスマの気配に敏感だから見つかってしまうかもしれない。…むしろ、喜んで縛り上げて吊るすだろう。
おそらく俺なら何とかなるとは思うが、任務続きで忙しい上にさらにイルカが何か企んでいるのを止めなければならないのだ。
…そんな面倒ごとを背負い込まされるのはゴメンだ。
「なら、俺の部下に…。」
「じゃから!無理じゃ!…今のイルカの反応速度ではな。」
「は?」
一番建設的な提案をしたと思ったのだが。何故かまた却下された。
「…試験的に暗部を送り込んだが…。トラップに阻まれた。」
「あー…なるほど。」
そういえば最近何故かやたらとトラップ作りに邁進しているイルカが、トラップが壊れてたっていってたな。
…任務から帰るなりイルカが手にトラップの残骸らしきものを持ちながら「偵察か…!?やっぱり重点的にこのあたりを…」とか 不穏なことつぶやいててそっちにばかり気を取られてたから気付かなかった。
又変なごっこ遊びに嵌ったんだろう。
「あー…じゃあ、プレゼントをイルカに渡せばいいんですね?」
「くれぐれも見つからんようにな。…それと、気をつけろ。おそらく今年のイルカは格段に実力を上げておる。」
「はあ。」
だったら三代目が自分でやればいいのにと思いながら、俺はその場を引き下がったのだが…。
後で猛烈に後悔することになるとは思っても見なかった。
…家に帰るなり、イルカが不審な行動を取っていたからだ。
トラップを建造しているのは分かる。そう、設置ではなく建造。
なぜならそのトラップは煙突状だったからだ。
「サンタサンは煙突好きらしいからな!ヤツの習性を利用しない手は無いぜ!」
一仕事終えた満足感を漂わせたイルカは、へへっ!と鼻傷を掻きながら笑っている。
また何か妙なことでも考え出したんだろう。まあ、よっぽどクリスマスを楽しみにしてるんだろうと、 ちょっとほほえましく思ったが…。
「…だからって煙突は…。!!!どうしてワイヤー張ってあるんだよ!?」
一瞬ほほえましいと思った事を全力で後悔した。覗き込んだ煙突の中には…巧妙に仕掛けられたトラップがギッチリ 詰まっていたからだ。
思わず肩を掴んで揺さぶったが、イルカは指を突き出して決めポーズまで決めながら宣言してくれた。…とんでもない宣言を。
「え?だって、捕まえるためには必要だからな!」
「…ちょっと待て。どうしてそうなる!?」
…もちろん突っ込まずにはいられなかった。
なにが!どうなって…捕まえるなんて結論になるんだ!どうしてコイツはありとあらゆるモノを吊るそうと…!?
思わず足元に手を叩きつけたせいで、屋根瓦ががたん!と大きな音を立てた。
そんな物音などものともせずに、イルカはものすごい勢いで語りだした。
「俺は…今までずーっと…サンタサンには出し抜かれてばっかりだった。ソレは認める。忍として情けないことにな…。 そして、ヤツにはトラップも結界札も効かない。だが!今年の俺は一味違うぜ!なんてったって…超絶舞台俳優で演技魂を 激しく燃やしまくってる…カカシという最高の師を得たからな!!!」
イルカがキラキラ下目で俺を見つめながら、何だか良く分からないサンタとの戦いの歴史みたいなものをマシンガンの様に 語ってくれたが…何でそうなるんだ…!?
「だからその呼び名は止めろ!!!それに何度も言うが俺は演技は…」
「安心しろ!今年こそ…ヤツを、サンタサンを捕らえ、里の平和をもたらしちゃうぜ!!!」
俺の必死の抵抗などどこ吹く風で、イルカは自信満々に言って、俺の手を握り締めたままにっこりと …胡散臭い政治家のように微笑んだ。
思わず身構えてしまったが、何とか体制を整える。ココで引き下がったら…永遠にイルカの誤った認識は正せない!
ココであきらめるわけには行かないのだ!
深呼吸をしてから、イルカの思考のつまずきをたどっていくことにした。
「ちょっと待て!そ、その…サンタさんっていうのは、お前の中でどんなものになっちゃってるんだ!?」
まずはコレが問題だ。何をさておいても確認すべきであることは間違いない!
「里中の家屋に不法侵入を果たし、しかもソレを誇るかのように何らかの物品を足跡の如く残していく…凄腕の忍だぜ!!! 流れ者か、または仮の姿として里の忍を装っているかもしれない…。しかもそこら中に出るらしいから、 もしかしなくても組織的な犯行が疑われ…」
「まてこら!そのサンタの定義はどこから来たんだ!!!」
やはり…最初からつまずいていたのか…!?
子どもの夢と希望の存在が…どうしてそんなにまで怪しいものに変換されてるんだ!!!
「え?とおちゃん。あと、経験と…自分的に考察を重ねた結果かな!きっと…あいつらの目的はその技術の誇示による木の葉の里からの 依頼横取りに違いな…」
放っておくとどこまでも組織犯罪者サンタサンについて熱く語ってくれそうだったので、大声でイルカの話を遮った。
「今すぐその思考をドブに捨てて来い!サンタっていうのは…」
ついでにサンタの一般的な情報を教育しようとしたのだが…。
「今年はカカシも協力してくれるんだよな!」
イルカの期待に満ちた…そしてちょっと甘えるような視線で見つめられて、俺は恐ろしい事実を思い出した。
「…あ。」
思わず間抜けな声が出た。三代目のサンタになれというセリフが俺の脳内をぐるぐるとまわり、ソレと共にイルカの組織犯罪者 サンタサンの説明までもが脳内を乱舞している。
「なんだ?もしかして…?」
言葉をとぎれさせた俺に、イルカが顔を覗き込むようにして心配そうに聞いてきた。
「いや、あの…そのな?」
どうやって誤魔化せばいいんだ!?
俺が慌てているというのに、何故か妙に大人びた笑みを浮かべたイルカが腕組みをしてうんうんとうなずいている。
嫌な予感がする…!
「そうか!やっぱりか!…クリスマス公演があるんだな!!!」
「なんでだー!!!」
やっぱりか!俺は…何度も俳優じゃないと言ってるのに!!!
「そんなに照れるなって!…もしかしてまたシークレット公演なのか…?」
「だから!」
否定に言葉を全て照れに変換するイルカには、全く言葉が通じない。
まるで子どもが始めてのお使いにチャレンジするときのように、優しく微笑んで、とんでもない約束をしようとするくらいには…。
「そうかそうか!…じゃあ、俺はカカシが帰るまでに、ちゃんとサンタサンを捕獲しておくぜ!!!」
「だから…なんでそうなるんだ…!?」
最初から最後までど子にも正しいものが無い!…イルカの親父さんが目の前にいたら、俺は間違いなく吊るしていただろう。
だが、イルカは更に俺の疲労を倍増させてくれた。 「じゃあな!俺はトラップの仕上げでちょっと手がはなぜないから、台所のチーズケーキボール食っていいぜ!自信作だ!多分な!」
「またお前は適当なことを…」
なんだか…だんだんどうでも良くなってきた。
説得の中断を決め、疲労した身体を引きずるようにしてそのまま屋根から下りようとしたとき、イルカがいきなり大きな声を上げた。
「あー!気をつけろよ!」
「わっ!なんだよ!」
いきなり呼び止められた上に腕も掴まれた。
…俺、一応暗部なのに…。ちょっと凹みながら、ソレを誤魔化すようにちょっと不満げな表情を作ったら、 ニコニコ笑ったイルカがあっけらかんと言った。
「トラップだらけだから!」
「先に言えー!!!」
…結局、俺が居間にもどるまでに、相当な時間を要した…。
*****
「三代目!アレ、何なんですか!」
翌朝すぐに、俺は三代目の所に駆け込んだ。
…当日は疲れきってた上に、結局俺より先に下に降りていたイルカにぐいぐい食い物を突っ込まれてそんな気力が残らなかったからだ。
こっちの剣幕をサラッと受け流し、三代目は遠い目をしている。
「イルカは素直な子じゃからなぁ…。」
「そういう問題ですか!?…サンタを組織犯罪集団だと思ってますよ!?」
イライラしながらどんっと机を叩いた。机を壊さなかったことを褒めて欲しいくらいだ。
だが、視線をそっとそらした三代目は、逆にぽんと肩を叩いてきた。
「まあ、その。…頼んだぞ!」
「お断りします!…コレも!置いていきますから!」
胡散臭い笑顔で言われても、信用できない!大体このエロ爺のせいで俺が…!!!
怒りのあまりそれ以上話す気にもなれず、プレゼントをつっかえしてさっさと帰ろうとしたのだが…三代目の大げさな ため息に足を止められた。
「イルカの忍びとしての技量を見る良い機会なんじゃがのう…。真剣にくるそ?こういう時のイルカは。…見たくは、ないか?」
「くっ!ですが!」
芝居がかった様子でにやりと笑う三代目の意図は見え見えだ。
確かにイルカの真剣なときの実力を知りたいとは思うが、だからといって…アイツのナニが仕込まれてるか分からないトラップに 突っ込む気になどなれるはずが無い!
「…どうしても難しければ応援を頼め。」
俺の心の動揺を悟ってか、三代目がさりげなく妥協案を提案をしてきた。
…確かに応援を頼めるなら、最悪の事態…つまり、俺がイルカに捕まって、俳優のほかに更に組織犯罪集団の一員という パラメーターが加わるという悲劇は防げるだろう。
だが…。
「…なんで、そこまでするんですか…。」
…力なく問いかけた俺からさっと視線をそらし、三代目はさっと席を立った。
「ゴホン!…よいな。確実にプレゼントを配るのじゃぞ!…ワシはこれから会議が…」
「あ、逃げるんですか!」
一方的に命令だけしてそのままいそいそと逃げようとする三代目を思わず縄で捕らえそうになり、イルカの影響に 恐れおののいていたら三代目はすでに扉の向こうに消えていた。
「気をつけろ。イルカは…お前が思うより強いぞ?」
…そんな捨て台詞を残して。
「…くそっ!」
これは…覚悟を決めなければいけないのか…?
気が遠くなるのを感じながら、それでも俺の足は動いた。…イルカの家に向かって…。

*****
あれからいろいろとイルカの行動を偵察したり、トラップの構造を確認したりと努力したが、この時期は任務も多いので 結局そのほとんどが確認できなかった。
…部屋に篭ってコソコソ何かやっていたのは確かなんだが…。
だが、今日はいよいよクリスマス。
気が重い。しかし任務がなくなるわけでもなく…。
「こ、これ…!?」
…任務が終わってから、ちょっと覚悟を決めて俺が家に足を踏み入れるといつもの居間の代わりに、すごい光景が広がっていた。
ちゃぶ台の変わりに見覚えの無いテーブルセットが置かれ、どこから持ってきたんだか知らないがろうそくだの花だのが並べられ、 変なランプまで設置されている。
…ついでに視界の端に獣セットを身につけたクマらしきものが縛り上げられて転がってるのも見えたが、ソレは無視した。
俺の驚愕を他所に、イルカは元気一杯に俺の口に何かをねじ込んできた。
「もごっ!お、おい!」
「へへ!今日はスペシャルナイトだからな!今から鳥焼くぞ!オードブルもサラダもスープも…もちろん! ケーキだって準備万端だぜ!!!楽しみにしてろよカカシ!あ、あと、ドレス着せてやるから先に風呂入って来い! 鳥焼いてる間に洗ってやるから!」
ニコニコ笑いながらテンション高く微笑むイルカは…なんというか恐ろしいくらいキラキラしていた。
口の中に広がるチーズとラスクとオリーブの香りを味わいながら、俺はどうしてココまで酷いことになったのかを 思い出そうとしてみた。
…結局、あの日怒り狂う俺をなだめてもすかしても…全くドレス作りの手を止めないイルカに業を煮やして、 さらに強烈な説教をしようとしたが、さっと立ち上がって食事の仕度をし始めたイルカに見事にスルーされた。
結果。例の真っ赤なドレスは完成してしまった…らしい。この分だと早晩俺もクマと同じくイルカのコスプレ魂の餌食に なってしまうだろう。
ただ、どうしてもドレスがいやだと主張したら、イルカが、「そうか!ドレスだけじゃいやか!…よっし!カカシのかわいいわがままに お答えして…!!!俺特性!手編みのステキマフラーと、ステキ手袋と…ついでにオマケとしてステキ足袋をつけてやる!!! にゃんこか?それともやっぱりわんこだよな!」と分かってるんだか分かってないんだか良く分からない発言をして、 一応外につけていっても大丈夫そうな代物も作ってくれたんじゃないかと思われるのでそっちだけで何とかできるかもしれない。
どっちも…頼んでないけどな…。
冷や汗を流しながらオードブルの一部らしいものを咀嚼していたが、すぐさまイルカにせっつかれて風呂場に連行された。
…任務でもこんなに驚いたことは無い。家に帰ったら何でココまでやるんだというくらい家の中が変貌してるなんて…想像できるか!
しかも、銀食器とか、妙に高そうな皿とか…出所を聞いたら恐ろしいことになりそうだ…。
ショックのあまりぼんやりとしている内に、イルカの手は休み無く動き、俺をやたら丁寧に洗い上げてくれた。
そして…風呂から上がった俺を待ち受けていたのは…目に刺さるほど真っ赤な例のサンタのコスプレだった。
先に上がったイルカがもそもそ何かやってると思ったら、どうもコレを準備していたらしい。
「はい!コレがドレス!…あと、手袋とマフラーもあるぜ!…マントは作んなかったんだけど、欲しければ…」
「いや!いらん!その前に…お前ソレ…」
なんで…サンタの衣装着てるんだ!確かに作ってたの見てたけど!
「ああ!俺のは作戦の一環だ!まあいいからドレスを着てみろ!見ろ!この大胆なファー使いと繊細なカッティングの織り成す…」
俺の驚愕など、イルカのドレスへの熱意には塵のようなものだったようだ。
「いらん!…あーもう!イイから!一旦出てけよ!」
とりあえず激しくドレスの美しさを語るイルカの言葉を遮って、脱衣所から追い出そうとした。
このままじゃ…変なドレスを着せられてしまう…!!!
「そうか…!ドレスを身にまとった姿で今宵の演出を考えるんだな…!!!さっすが超絶舞台魂に生きる男カカシ!!! …楽しみにしてるぜ…!!!」
俺の言葉のどこをどう理解したのか、イルカは訳のわからない台詞を残して、いそいそと台所に戻った。
脱力しながら手渡された袋を見ると、やはり中には例の真っ赤なドレスと俺の注文どおりに黒い手袋とマフラーが入っていた。
…おまけっていってた良く分からないモノが入ってなかったのが気にかかるが、その前に。
…着替えは他に何も無い。
すかさず俺はパックンを呼んだ。
「なんじゃ!?ココで呼ぶなと…その格好!服はどうしたんじゃ!?」
「…ゴメン。他の奴らはイルカに関しては…頼む俺の服を…。」
「分かった…。お主も苦労しとるな…。」
深い同情を示してくれた老獪な忍犬との心の絆に感謝しながら、俺たちはしばし見詰め合った。
その後…飛び出していったパックンが首尾よく服を持ってきてくれることを祈っていたが…。
「ぎゃあああああ!!!!!」
悲痛な叫び声がしたので、どうやら敵に見つかってしまったようだ。
「パックン!」
慌てて腰にバスタオルを巻いて飛び出したが、すでにコトは終わった後だった。
「あ、カカシ!まだ役作りで悩んでるのか?そんなお前に…見ろ!ブサかわいい犬友!くりすますばーじょんだぜ!!!」
誇らしげに、且つ無駄に元気良く語るイルカのてによって、掲げ上げられているパックンは、力なくだらんと両足をゆらし、 白目を剥いている。そして…。
「何で…着ぐるみなんだよ…!!!」
ふさふさもこもこの羊の着ぐるみに包まれたパックンは可愛らしかったが、…本人は全力で拒否したかったはずだ。 ぴくぴくと痙攣する足が、必死の抵抗の痕跡をとどめていて痛々しい。
それにしても…一応上忍クラスの強さを誇るパックンをココまで追い詰めるとは…やはりイルカには才能があるにちがいない! …全く正しい方向には活かされていないが。
今日は、その実力を知ることが出来るはずだ。
「え?この犬友にぴったりだろ!かわいいし!後でおそろいで写真…あ、なんでもない!」
「イルカ!今何言おうとしたんだ!?」
「まあいいから!そろそろアスマ兄ちゃんほどいて飯にしようぜ!」
そんな事を言いながらパックンを持って行こうとしたイルカから、何とか脱力仕切ったかわいい忍犬を取り返した。
「あ!肉こげる!」
慌てて去っていったイルカの隙を突いて、何とか普段の服に着替えることに成功したが…犠牲は大きいといわざるを得ない。
「すまん…!!!パックン…!!!」
俺の腕の中でぐったりとして白目を向く大事な仲間を抱きしめて、俺は今日の任務の困難さを改めて感じていた。
この任務を引き受けたのは失敗だったといわざるを得ない。いや、むしろ大失敗か…。
やたら美味い飯を、白目を剥いたぱっくんと、同じくさっきまで白目剥いてたけど、気合入れてやったら何とかうつろな瞳では あるが復活したクマと、ぐったりした俺と、俺がドレスを着ないことに不満げなイルカとで平らげた。
…クマはぼんやりしてたが、今日ばかりは俺だけでなくクマにも容赦なく飯がねじ込まれていた。…勿論俺にもたっぷりだった。
色鮮やかなオードブルと、サラダにスープに…丸焼きの鳥とケーキ、そして洒落たテーブルセットに似つかわしくない食事風景が 繰り広げられ、料理がやっぱり美味いのがより一層大きなダメージを俺に与えた。
クマは…今も変な服を着せられたまま床に転がっている。
どうしてコイツは…!
「ねぇねぇ!今からでも遅くないからドレス着て、美しい艶姿を俺にプレゼントしようぜ!」
悲喜交々…というか、イルカだけが楽しそうにしていた食事が終わって、今後のこと(今日及び今後の教育の方針についても)に 頭を悩ませていると、イルカがドレス片手に俺におねだりしてきた。
…客観的に言うとおそらく可愛らしい。
だが!騙されるわけには行かないのだ!
「だから、これから任務なんだよ。…こっちの手袋とマフラーは使わせてもらうけど。」
…ちょっと気弱な発言になってしまった自分が情けないが…ドレスなんか着れるか!!!
「そうか…じゃあ、ドレスは明日雪景色の中で気だるげな表情をしてもらって…」
「やるか!!!」
やっぱりコイツに隙を見せちゃまずい。それに早急に教育しなおさなければならない。
だが全ては…今日の任務を終えてからだ。
「まあ、ソレは後でイイや!まずは…帰ってきたら…一緒にサンタサン肴にシャンパン飲もうぜ!」
玄関から手をブンブン振りながら俺を見送るイルカは、相変わらずそれだけなら普通の子どもに見える。
「不憫なヤツ…。」
思わず口をついた言葉に、侘しい気持ちになった。
…イルカ特製のマフラーと手袋が何故か妙に感触が良く、逆に侘しさが深くなった。
*****
寝食を惜しんでちゃくちゃくと準備を進めた甲斐あって、今年のトラップの出来はすばらしい!我ながら感心しちゃうぜ!
ヤツはこっちがいたいけな子どもだと思って油断しているはずだから、ここまで綿密にトラップが仕掛けられているとは思いも しないだろう!カカシがいないのは、ちょっと戦力的に不安だけど、きっと何とかなるはずだ!
…まあ、毎年トラップしかけてたからわかんないけどな!
だが、きっと今年もヤツは来る!その挑戦を…今年こそ!
「やってやるぜ!!!」
俺は希望を胸に、ヤツの登場に備えた。
今日は、アスマ兄ちゃんにはステキなク…獣スーツを着てもらって写真取れたし、カカシにもプレゼントの一部をちゃんと 着てもらった!…ステキなドレスは着てもらえなかったけど…シャイなカカシには、今度二人っきりになったときにでも 着てもらおうと決めた。
そんな楽しかったプレゼント交換の後、俺は対サンタサン迎撃体制を整えるべく、部屋に引きこもった。
ドキドキしながら待っていたが、それからしばらくはサンタサン捕獲予定罠に動きはなかった。
だが、深夜0時丁度を回ろうとしたとき、静寂を打ち破る大きな鈴の音が鳴り響いた。
…煙突(偽)からだ!
やはりヤツは習性に逆らえなかったようだ。見事にトラップを作動させている。この分だと早晩…。
いや、まて!…ヤツがこんなに簡単に捕獲されるわけが無い!ってことは…陽動か!?
「えい!」
すかさず俺は第2の進入経路であるところの窓に仕掛けておいた罠を作動させた。
そのついでに煙突(偽)の様子を伺った。そっと中を覗きこんだが、やはり誰もかかっていない。本来ならサンプルにご協力 いただいたアスマ兄ちゃんのように、首元からなにからチャクラ入りロープ(ついでにラメ入り)でステキにラッピングされる はずだったのに…!
第一進入路の線は消えた。窓の方にも反応は無い。大穴で玄関という可能性もあるが、そっちはすでに対策済み。 この程度で…伝説のサンタサンが諦めるはずがない。
きっとヤツは…来る!
「今年こそ絶対…!」
逃がさないぞ!
*****
「ちっ!」
イルカのことだから複数のトラップが仕掛けられているだろうと予想し、まずは影分身にトラップを潰させることにしたのだが…。
一体を煙突に向かわせ、更に進入経路と想定されているだろう窓にも、もう一体でアタックをかけようとしたのだが、さっそく罠が 発動した。
煙突か…!?
作動までの速度が速い。分身の作動させてしまったトラップから、鈴の音が鳴り響く。
…まるで聖夜を祝福するかのように…。
一応引っかかったのだから、その時点でイルカが諦める事を期待したのだが…。
イルカはまだ警戒を緩めてはいなかった。すぐにもう一方の分身がトラップの餌食になったからだ。
…この熱心さが忍びとしての方向に全く活かされていない所が難点だが、正直感心した。現役暗部である俺でも引っかかるだけの トラップを作れるやつは、中々いない。
窓に近づいた分身を捕らえたのは、ワイヤーネットだった。おそらく以前クマを捕らえていたのと同じもの…。チャクラに 反応するとは予想外だった。
俺はまだそんなことまでは教えていない。イルカが熱心に何かをやろうとしているときの真剣さには舌を巻く。
…結局窓から進入を試みた一体もあっさりやられてしまった。残るは玄関のみ。
だが、ココからが本番だ。油断していたとはいえ正直ココまで簡単にやられるとは思っていなかったが、トラップは 大方破壊されたはず!
ここはやはり…再度煙突から行くべきだろう。
玄関に向かわせた分身と連携しながらそっと本体で煙突に向かった。
一応様子を見ようとそっと煙突をのぞきこむと…そこには大量のトラップが残っていた。一度中途半端に引っかかったせいで ところどころ連鎖して発動したためか、発動源となるワイヤーや拘束用の札などが良く見えている。
試しにもう一度影分身を作ってそっと解除を進めた。そのとき、何かが崩れる大きな音がした。
「やったぜ!捕獲!…アレ?いない?…まさか…!すでに入り込まれたか!?」
どうやら玄関にも何か仕掛けがあったようだ。一人で大騒ぎしているイルカのでかい声が聞こえる。これなら本当に侵入者がいても 引き返すだろう。少なくとも俺ならそうする。…任務だからむりだけど。
とにかく、イルカがこの程度のことで諦めることは無いだろう。
…となると、おそらくすぐにココに戻ってくるはず。
俺は下手な任務よりも集中して、手早く煙突を滑り降りようとした。
だが、やはり大量のトラップが依然として立ちふさがり、イルカの気配も消えた。
「チッ!」
思わず舌打ちがでる。
…すでに煙突の下にはイルカがいるはずだが、チャクラも見事に押さえられていて中々見事な隠業ぶりだ。 まあ、さっき大声出してたから台無しなんだけどな…。
とにかく早くしなければ…!下から更に何かされたら術でも使わないと避け様がない。こんなことで出来ればソコまでしたくない…。
…今まで任務でもココまで必死にトラップを解除しことはない。空しさを感じながらも、俺はとにかくすばやくトラップを 解除することに集中した。
その内、あからさまに怪しい雰囲気を漂わせるトラップに到達した。仕掛けられている札は俺でも見覚えのないものだ。
…コレはおそらくイルカお得意三代目禁術シリーズに違いない…!
慎重に解除する必要があるが、だからといってそんな時間をかけていてはイルカに見つかってしまう…!
「…くそっ!…しかたが…ないよな…?」
これ以上は危険だ。イルカが術の危険性を理解しないまま使う以上、この札だって予想外の被害をもたらす可能性が高い。
俺は、そっと睡眠効果のある薬を煙突に投入した。
「う?あ、あれ?」
まだ薬への耐性がついていないから、効果は抜群だった。
驚いたような声がした後、どさっと倒れる音がした。
一応下忍向けに効果の低いものを選択してあるが、このところ睡眠時間さえ削って熱心にトラップを作っていたイルカにとっては 十分な効果を発揮したようだ。
この機を逃さず、俺は残されたトラップを丁寧に除去していった。
「ふぅ…やっと…。」
俺がかなりの時間と労力を費やして寝室に到達したときには、大の字になったイルカが盛大に寝こけていた。
すーすーと静かな寝息を立てるイルカの顔は、とてもこんな事をしでかすようにみえない無垢で安らかなモノだった。
寝こけるイルカをそっと抱き上げて布団に移動させてやった。
「サンタサン…捕まえたぞー…」
寝言まで不穏だったがとりあえず楽しみにしていたことは楽しみにしていたんだろう。クリスマスを。
「メリークリスマス…か。」
なんとか任務達成だ。
ホッと一息ついて、枕元においてあった靴下にプレゼントを入れた。
…はずだった。
だが、靴下に入れた俺の手が何かぬるりとした物に触れた。
「な、何だっ!?」
慌てて引き抜いたが、どうやら何らかの薬剤であることは間違いがなさそうだ。べっとりと手にまつわりついて、 ソコから僅かな違和感が広がってきている。
今の所は耐性があるせいか、それほど効果が出ていないが…睡眠か、麻痺を狙った毒である可能性が高い。
「くそっ!」
とっさに窓を開け、水遁で洗い流そうとしたが、窓からも投網が飛び出してきた。
…避けられたからいいようなものの…一体いくつトラップしかけたんだイルカは!!!
それから、俺がイルカの靴下にプレゼントを入れるまでの攻防は、結局朝まで続いた。
「なんで…なんでこんなに苦労しなきゃいけないんだ!!!:
俺の嘆きに答えたのは、イルカの「…まずは…可愛くラッピングだぜ…!」という寝言だけだった。
***** 今年こそは…行ける!と思ったのに、やっぱりヤツの方が一枚も二枚も上手だった。だが…。
「今回は遅れをとったが、次回は…より高度なトラップで確実に仕留めてみせるぜ!」
俺はめげない!来年こそ、ヤツの姿を肴にシャンパン(ノンアルコール)を飲み干して見せるぜ!!!
「…ま、頑張れ。」
カカシも一応俺の宣言に同意してくれた!きっと来年こそは…!
「その時は一緒に祝杯上げような!」
慰めるように肩を叩いたが、なんでかカカシは浮かない顔をしている。やけに疲れた様子のカカシ…舞台が大変だったんだろうな…! きっとクリスマス公演で体力を使い果たしたに違いない!それでへろへろになっちゃったのかも…。 さっすが舞台に生きる男カカシ!!!
あ!それに、期待していないフリをしつつ、結構楽しみにしてたのかもしれない。サンタサンを…。
「ゴメンなカカシ…楽しみにしてたんだろ?…生サンタサン。」
「してるわけないだろ!…もういい…今日は、寝る…。」
沈み込むように布団に舞い戻ったカカシのファイトに報いるべく、今日の飯は肉たっぷりにするつもりだ!
それに…後で足袋着せてドレスも着せて…記念写真とってやろう!きっと喜ぶに違いなし!
俺は今日の献立と今年の反省点を考えながら、来年はより綿密な計画を練って望む事を、心に誓ったのだった。

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子イルカ的…戦え!!!クリスマス大作戦!!!子イルカの戦いは…今後も続く…!!!…かもしれません。
アスマ兄ちゃんはその辺で転がされたまま聖夜を過ごしたので、一番可哀相?
毎度毎度…変な話でお送りしましたが、御意見ご感想などありましたらお気軽に拍手などからどうぞ…。

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