俺だってやれば出来るぜ見せてやる!

「おいアスマ。」
「なんだよ…っておめぇ!何かあったのか!?」
任務開けに久しぶりにイルカの所に差し入れを持っていこうとしていたら、カカシの野郎に呼び止められたんだが…何でコイツ顔色以上に悪いんだ…?
いや、薄々想像はつくんだが…。
「イルカが…」
覆面で覆われてほとんど見えないというのに、あからさまに顔色が悪いと分かる状態のカカシが、うつむいたまま虚空を見つめている。
「そうか…」
イルカ…おめぇまた…。それにしても暗部に所属する忍びをココまで追い込めるなんてある意味将来有望か?
それにしても、会う度にコイツの顔色悪くなってるな…。見た目からはやつれた感じはしねぇんだが。いやむしろちょっと体重ふえてんじゃねぇか?
イルカの飯のせいで。
「まだ何にも話してないけど?」
死にそうな顔色の癖に、カカシはぎろりとにごった瞳で睨んでくる。…機嫌悪いな…そりゃそうか…。
「大体分かる。…で、なにやらかした?」
どうせ食い物関係か、変な本の悪影響か、それとも興味本位でとんでもないことしでかしたかのどれかだろう。…被害がすくねぇといいんだが…。
「この間修行中にさ…ほら、最近イルカ、ちょっと腕上がったから。…演習場借りて、修行してたんだけど。」
そうして暗い顔した箒頭が語り始めた内容は、いつも通り中々恐ろしいものだった。
*****
俺としたことがソイツの出現に気付いたのはギリギリだった。
…イルカの修行を見てやるのに熱が入りすぎていた事を悔やみながら、俺はすばやく術を放つべく印を組もうとした。
だが…イルカは元気一杯に大声でソイツを刺激してくれた。
「おお!でっけぇクマ!!!」
しかも嬉しそうに瞳を輝かせている。もちろん俺はイルカを止めようとした。
「ちょっと待て!喜んでる場合じゃないだろ!!!縄とか火遁とか!」
何せイルカは捕縛用の縄以外、まともな暗器を持たせていなかったし…何をしでかすか分からなかったからだ。
「ふっさふさ…アスマ兄ちゃんみたい…!!!いーなー…!!!」
俺の必死の制止にかまうことなく、イルカはクマにすたすたと近寄っていって、楽しそうに検分している。
「ちっがーう!!!お前何やってんだよ!!!戦え!もしくは追っ払え!!!」
あまりにものんきなイルカに業を煮やした俺は、とにかく何とかしてイルカを守ろうと、術で攻撃を仕掛けようとした。
幻術でも見せてやれば簡単なはず!…その時はそう思った。
が、イルカがちょろちょろと動き回るので、イルカごと幻術にかけるわけにも行かず、術を使い損なった。
急に近寄ってこられて警戒していた所に、きゃあきゃあイルカが騒ぐもんだから怒り狂ったクマはブンブン腕を振り下ろしている。
しかし、イルカは見事にそれを避け、しかもクマの手触りまで確認している。
…身のこなしは上手くなったけど…何やってんだー!!!
この際しょうがない…!とにかくイルカの安全確保が優先だ!
そう考えた俺は、すばやく印を切った。
「影分身の術!」
本体の俺はイルカ抱えてとにかくその場から離脱し、もう一人には火遁を使ってくまを追払わせようとしたのだ。
だが、俺に抱えられたイルカが…
「おおおおおお!!!すっげぇ!!!カカシが増えた!!!なになに!?どうやったの?ねぇねぇ!教えてよ!!!」
その喜びようは一体…そう思う間もなく、イルカは俺の腕の中でばたばたと暴れだした。
「わ!何やってんだイルカ!!!おい!!!」
驚いて、とっさにイルカを放してしまい、それを拾いに影分身が飛び出して…結果、影分身は術を放ちそこなってしまった。
「すっげぇなー!!!クマだぜ!!!生クマ!!!」
等と叫ぶイルカを扱いかねながら、その間も殺気だっているクマをどうやって追払おうか迷っている間に、イルカは影分身の腕からもするりと 抜け出してしまった。
しかも…
「大丈夫だって!俺も結構やる様になったからな!!!」
などという捨て台詞と決めポーズをかまして…!!!
「ちょっと待て!!!」
俺がそう叫んだときにはもう遅かった…。
…そうイルカが…
「ひゃっほう!!!やったぜ!!!今日はクマ鍋だな!!!」
縄でクマを捕縛していたのだ…。しかも見事に間接に決まっている上に、しっかり絞まっていて、クマの動きは完全に止まっていた。
「まてまてまて!!!」
必死な俺の制止もイルカの耳には届かず、クマ肉を手に入れたイルカは、ひたすら喜んで跳ねまわっていた…。
*****
「というわけなんだ…。」
「そうか…。あー…おめぇはよく頑張ったと思うぞ?」
そうか…前に俺を吊るしやがったのもクマ肉欲しさだったのか…?大物狙いってトコは男として評価してやりてぇが…。
相変わらず落ち着きねぇのはわかってたが、他人が術使ってるトコに割って入ったなんて…危険きわまりねぇ!
…アイツ本気で忍になる気あるのか…?
「でさ、普通そんなことしたらいくらなんでも俺が忍びだって気付くでしょ…?」
いつもは天を突くように突っ立っている箒頭がしおれそうな勢いで凹んでいるカカシが、相変わらず青白い顔で訴えてくる。
覆面をしている上にうつむいてるから定かじゃねぇが、…ひょっとするとコイツ泣いてる…!?
「まあ、その。…そうだな。」
俺も慰めてやりてぇのは山々だが…。
普通のヤツならそうだろうけど…イルカだからなぁ…。何も言えん…。
「でもイルカは…!!!忍術も使えるんだ!すっげぇなー!カカシ!!!…やっぱ舞台俳優って大変だな!!!とかって言ってたんだ!!!」
やっぱりな…。イルカだからなぁ…。
「あーその。なんだ。イルカはその…」
「なんで舞台俳優は固定なんだ…!?」
面をかぶったままうずくまり、ブツブツと何か言い続けるカカシの姿は、すでにホラー映画並みだ。こぇえっていうか…哀れだな…。
「…イルカだからな…。で、結局本題は何だ?」
放っておくといつまでも毒を吐いていそうなカカシに、俺はさっさと進路妨害を止めさせるため、何でわざわざ俺をひっ捕まえる必要があったのかを 聞き出そうと試みた。
「クマ鍋の誘いだ…共食いみたいでイヤかもしれんが、何せかなりデカイクマだったからな…肉がたっぷりあるからお前もいないとずっとクマ肉料理に…」
「俺は別にクマじゃねぇ!!!」
さっきから暗い顔してっから慰めてやろうかと思ったとたんにコレか!?クマクマ言いやがって…!!!
温厚な俺も流石に頭にきて、ちょっと箒頭の育児ノイローゼを軽く殴りつけてやろうと思ったときだ。
「肉…ホント好きだよな…イルカ…。」
ため息をつきながら囁くようにカカシがつぶやいた。
…相当クマ肉攻めに苦労してんだろうな…。
「あー…」
あまりにもカカシが哀れなので、結局俺に言えたのは、「クマ鍋って…鍋にはまだ早いんじゃねぇか…?」だけだった…。
*****
思いがけず肉が大量に調達できた!!!しかも今回は男性ホルモンの源!アスマ兄ちゃんを髣髴とさせるクマ!
…と言うことはきっと毛にも効果絶大に違いない!!!
折角の肉なので、朝昼晩とせっせとカカシに食わせていたのに、今日はクマ鍋だって行ったら、カカシが必死にアスマ兄ちゃんも誘うって言い出して、 ホントはちょっと心配だしイヤだったんだけど…カカシが言うならしょうがない…と諦めることにした。
やっぱりアスマ兄ちゃんは油断できない!いつかうちのカカシを攫って言っちゃうかもしれないので、犬友たちとも相談して、厳重な警戒をしつつ鍋の用意をした。
味噌仕立てでちょっと癖のあるクマ肉も美味しくいただけるはずだ!!!
それにしても…今回は共食いになっちゃうわけなんだけど、アスマ兄ちゃん的には大丈夫なのかな?いくらカカシの誘いでも、やっぱりこの肉の件については 伏せておいたほうがいいかも?
そっくりすぎて気分を害しちゃったら困るもんな!!!本物のクマを間近で見たのって初めてだけど、あそこまでそっくりだとは思わなかった!!! あんまりそっくりだから、アスマ兄ちゃんの親戚かと思った!!!
…でもじいちゃんはあんまりクマっぽくない…ひょっとしてアスマ兄ちゃんって…クマの…。
いや!それでもアスマ兄ちゃんの価値は変わらない!肉…じゃ無くて!いいクマ…でもなくて…イイ漢だよなアスマ兄ちゃんは!!!男性ホルモンと 野生の香りが漂ってるぜ!!!
そうと決まれば…今日は秘密の肉料理パーティだ!!!
そう思って腕まくりをしたとたん、タイミングよくカカシとク…アスマ兄ちゃんが帰ってきた。
「アスマ兄ちゃん!いらっしゃい!!!」
「あ、ああ。夕飯呼ばれるぜ。」
アスマ兄ちゃん…ちょっと顔色悪い?
「ただいま。イルカ。」
でもカカシはちょっと元気になったみたいだな!今朝よりスッキリした顔してるぜ!!!やっぱクマ肉は効くな!!!
「おう!お帰りカカシ!!!腹減ってるだろ!コレ食え!!!」
早速ウェルカムクマ肉をカカシに食わせてやった。
「んむぐっ!…今日のコレはなんだ?美味いけど…」
「ク…ううん。えっと…肉のフライ!!!」
俺的には今日の前菜のつもりだ!!!何せアスマ兄ちゃんが来るんだったら、一杯料理を用意しなければならない…つまり!腹持ちのする揚げ物の出番だ!!!
俺オリジナルのスパイスと隠し味のじいちゃん家から貰ったマムシ酒入りで、スパイシーに仕上げてみた!!!
「…何だソノ言いよどみ方は!!!…また毛関係なのか!?」
折角の自信作なのに、カカシは何でか怯えた顔をしている。毛…ということは、ひょっとしてアスマ兄ちゃんが何か…!?
「あーなんだ、取り合えず上がろうぜ。」
でも、いたって普通に俺んちに上がりこんできたなぁ…?何が原因なんだろう?
「ちょっとイルカ!そこ座んなさい!!!」
どうやらイライラしている…ってことはもしかして…
「あれ?足りない?ク…肉のフライもまだあるけど、焼いたヤツのほうがいい?鍋は後もうちょっと時間かかるんだけど…。」
うーん?他に出せるもの…デザートには秋めいてきた季節に合わせてさつまイモプリンなんだけど、まだできあがってないんだよな。どうしようかなー?
「頼む…質問に答えてくれ…」
「めんどくせぇ…」
何だか元気が無いのが気になるけど、当座は揚げ物でしのごう!
「さ、コレもっと食えカカシ!!!で、ちょっといい子で待ってろ!な!」
「ふぐっ…もう…いい…。」
「あー。座ってろ。そのうち何とかなる。」
「…俺!すぐ作るね!」
何だか仲よさそうな二人が気になりつつも、クマ肉でカカシを元気にすべく、俺は厨房に急いだのだった。
*****
「今日はク…肉フェスティバルだぜ!!!」
「もうなんでもいいよ…。」
「なあ…何でさっきから何か言いかけて止めるんだよ…?」
また言いよどむイルカが何かを隠している気がしてならないが、とにかく今回はクマそっくりのクマ…じゃないおっさんに、クマ肉を押し付けることが 出来るから、ちょっとは気が楽だ。
流石に全部は消費しきれないので、必死にイルカを説得し、近所の知り合いに配らせたし、冷凍庫に残ってる肉は、さりげなく忍犬たちにも分け与えるように 指示したので、きっと今日を乗り越えればクマ肉生活に終わりが来るはず…!!!
…もう1週間クマ肉ばっかり食ってて、美味いんだけど、目が覚めたらクマになってそうで不安だったのだ。
「肉!沢山あるから!!!」
「ほんとにな…。」
アスマのつぶやきさえ無視する勢いで、元気一杯に今日の俺に肉をねじ込んでくるイルカは、自分の腕を披露できる喜びに、つやつやと輝いている。
…因みにせっかく捕らえたクマなので、教材として全部丸ごと利用した。クマの解体方法や、クマのキモなんかを薬に加工する方法などは、 いずれ役に立つ日が来るだろう…。
そう信じたい…。
後は骨も使い方次第でいろいろできる。…戦場に行けばそこそこ役に立つ知識なんだが、コイツは…戦場に連れてっちゃいけない気がする…。
被害が…しかも主に味方の方に出そうだ…。
だが!コイツを一人前にするのは義務というかもはや使命だ!俺は…絶対に諦めない!!!
「どうしたカカシ?ク…肉もっと食えよ?後野菜も!」
心配そうに覗き込んでくるイルカに力なく微笑みながら、俺は無言でクマ肉をほおばったのだった。
*****
無言でクマ鍋を食っているカカシと、そのカカシの口に鍋の中身をぐいぐい押し込んでるイルカを眺めながら、俺も諦めて鍋を食った。
…美味いんだけどな…。イルカは料理人になったほうが幸せになれるんじゃねぇかな…?周りが。
でもなぁ…イルカの母ちゃんには世話になったし、コイツの捕縛技術も向上してるみてぇだし、なんとかまともな忍になってほしいよな…。 育児ノイローゼ暗部にまかせっきりにしねぇで、俺も何とかしてやらねぇと…。
そんな事を考えながら、後片付けを済ますと、イルカがひょいひょいと俺の袖を引き、思いつめた表情で話しだした。
「アスマ兄ちゃん…クマでも大好きだから…!あと、今日はひょっとして悪夢とかみちゃうかもしれないけど、俺が隣に寝てるから、 怖くなったら起こしていいぜ!!!」
心配する俺を他所に、イルカはとんでもない事を言いながらやたら心配そうに俺を見る。
「だから俺はクマじゃねぇ!!!」
イルカのその哀れみに満ちた視線に我慢できず、ついどなってしまったが…
「…何考えてるかうっすらわかんのがイヤだな…。」
カカシも流石にソコには突っ込みを入れていた。
「や、やだなぁアスマ兄ちゃん。今日の料理は肉料理であって、クマ料理じゃ…」
イルカは必死に隠そうとしているが、それ返って俺をクマ扱いしていることを証明している…。
「何で隠すんだ!!!なぁ…何で隠すんだよ…。」
クマじゃねぇ!俺は断じてクマじゃねぇ!…そんな目で見んな!心配になってきたじゃねぇか!!!今までだって親父に似てねぇって 何回言われたことか…!!!
俺がちょっと泣きそうになりながら訴えていると、カカシが話に割り込んできた。
「イルカ。アスマはクマであることに誇りを持ってるから、他のクマの肉食ったくらいじゃ落ち込まないから大丈夫だ。」
「そっか!!!さっすがカカシ!!!」
イルカは何でか納得してキラキラした目でカカシを見つめてるが…
「ちがうだろ!まず前提がおかしいだろ!!!」
何度も言うが!俺は人間だ!!!
「寝るか。」
「そうだね!!!あ、一緒に風呂入ろうぜ!!!」
「そうね。」
だが勝手に俺をクマとして処理した二人は、俺をすっかり無視してすでに寝る準備に入っている。
「聞けよ!!!」
勝手に人呼びつけといてこの扱いはねぇだろうが!!!
「髪とかつやっつやになるぜ!!!」
「そうね…って!またシャンプー変えたのか!!!」
「おうよ!!!今回はしるくぷろていん?だっけ?それ配合で、頭皮にも優しい洗い上がりだぜ!!!」
「だから良く分からんものを俺に使うなと何度言わせれば!!!」
だが、俺を完全に放ったイルカと箒頭は、楽しそうに親子漫才を繰り広げている。
流石にタフな俺でも、今回の件で疲労がピークに達した。
「俺、帰っていいか…?」
どうせ聞いてないだろうと思いながら、そっと言い出すと、急に眦を吊り上げた箒頭が、さっとこっちを睨みつけてきた。
「逃げる気か!?」
殺気まで出して完全に本気モードだ。…さっきまで空気みたいな扱いしやがったくせに!!!
「あのな!」
あまりの扱いの酷さに俺が怒鳴る間もなく、視界の端で何かが動いた。
「ていっ!!!」
掛け声と共に俺の全身に縄がまきつき…気がつけばすっかり身動きが取れなくなっていた。
「おわっ!!!おい!なにしやがるカカ…イルカ!?」
てっきりまたカカシの野郎が…と思っていたが、今回の犯人はイルカだった。
…腕を上げたな…!!!じゃねぇ!!!何で俺をこんなもんで縛る必要があるんだ!!!
「よっし!!!」
イルカがしてやったりといった表情でガッツポーズを取っている。確かに油断してたとはいえ、上忍である俺をひっ捕まえた腕はかなりのものだ。
でもな…普通に口で言え!俺は…俺はクマじゃねぇ!!!
「イルカ!すごいじゃない!!!」
俺の怒りと悲しみに満ちたチャクラは、箒頭の野郎には届かなかったようだ。イルカの見事な仕事ぶりを手放しで褒めている。…親バカが…!!!
「俺だってコレくらいできないとな!!!…予行演習した甲斐あったな…。」
それに答えるイルカも誇らしげだが…何かボソッと変なコト言ったぞ!
「おい!カカシ!今コイツなんか…」
だが感動に打ち震えるカカシには、俺の必死の訴えも耳に届かなかったようだ。
「やっぱり…頑張って忍になろうな!!!」
「おうよ!!!まっかせとけ!!!」
ひしっと抱き合うアホ親子に、俺は取り合えず今一番訴えたい事をつぶやいた。
「…せめてコレをほどいてくれ…」
…その願いがかなえられるのは、きっとずっと後になるだろうという予感を感じながら…。

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クマ肉。美味いらしいですが食ったこと無いので、かなり適当です…。突っ込みはご容赦を…。
…牡丹と桜と蹴飛ばしと…あと、セーターの主原料なアレとか、通知表的な2なアレとか… 奈良公園で群れてるヤツのお友達の肉は食ったことありますが…。
こうしてみると結構食ってるなぁ…。自分で狩ったことは無いですが。
で、アスマ兄ちゃんは風呂上りにちょっと冷静になったカカシに、
「なに?こんなもんもほどけないの?アンタ…ホントに上忍?」などといわれて更に凹むかもしれません…。

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