「で、なんなんだよ…?」 やっとこさ任務から返ってきたというのに、目の前の箒頭は黙りこくったままうつむいている。イルカ相手じゃ無理もねぇか…。だが、人を紐でんくくっといて 無言ってのは頂けない。その前に任務で疲れ果ててる人間をいきなり捕縛するってのはどういうことだ?! 「オイ!」 さっさと事情を説明しろ! 「イルカには…まだ早いと思ってたんだ…でも…。」 「だから!なんなんだよ?!」 カカシがやっとしゃべり始めたかと思ったら、ブツブツと要領を得ないことばかり言う。思わず怒鳴ってやったが…顔を見たらあからさまにパニクってやがる! てめぇそれでも暗部か!!! 「だってさ、まだあんなにちっこいんだよ?まあどこまでも傍若無人だけどさ!ああ…俺だってあの位の年じゃどうだったか微妙なのに…。でもさ、 こういうのって重要なんじゃないかと思うんだよね…。」 「だ・か・ら!!!詳しく言ってみろ!!!何が何だかさっぱり分からん!!!」 さっきから一方的に話すばかりで意味が分からん。それにこの紐さっさと解けよ! 「…イルカがね…最近朝起きると風呂場でコソコソなんかやってて、ホラ、風呂場に洗濯機あるじゃない?なんかさ…ひょっとしてひょっとするのかと…」 「?…あー…なるほど。」 そういうことなら確かにうろたえるのもわからんではないな。…そうか…イルカももうそんな年になったのか…。…だが、ちょっと待て…まだ早いんじゃないか? いくらなんでも…。 「って、アイツ今いくつだった?」 確かにでっかくはなったが、見た目も中身もまだ子どもだ。 「そういえば知らないな…?俺より3つは下だよな?」 カカシの方も疑問に思ったらしいが、俺よりって言われても覆面箒頭の年なんざ分からん。…俺の家にいた時に聞いたのは… 「…確か俺より5つ位下だったから…たぶん12かそこらか?」 …絶対無いとは言い切れない年か…?そういや俺んちにいた頃から比べると結構でかくなったしな…。 俺がイルカの成長を思い返していると、任務帰りの善良な上忍を紐でくくりやがった極悪暗部が言いがかりつけてきやがった! 「…ちょっとまってよ、おっさ…じゃないアスマって今いくつ?!」 おっさん…好きで老け顔なわけじゃねぇ!任務じゃ確かに役に立つが…俺はまだ10代だ!!! あまりにもしょっちゅう聞かれるのでなれたけどな…。 「…17だ。」 …箒頭の質問にも一応怒りを堪えて答えてやった。 だが、この白髪ヤロウは俺の厚意を無にしやがった!!! 「えーと27?」 誰が10も鯖を読むか!!!くのいちでもあるめぇし!!!堪えきれずに本気で不思議そうに聞いてきた白髪ヤロウに怒鳴ってやった。 「だから!17だ!」 「えーウソでしょ?年近いって聞いてたけど全然そうは見えないからウソだと思ってたよ?」 「真顔で言うな!!!」 自分でも不安になってくるだろうが!!! 「まあいいや。…それより、今後どうやって対処するかが重要でしょ?」 「お前が勝手に俺に言い掛かりつけてきたんだろうが…。ソレとコレ解けよ…。」 何が悲しくて道端で縛り上げられて、ウツっぽい箒頭暗部に詰問されなきゃならんのだ!意味が分からん。…ひょっとしてこいつイルカと一緒にいる間に 妙な知識がうつったのか…?! 「駄目。逃げるでしょ?それはいいとして…で、単刀直入に聞くけど。…経験済?」 「あ?ああ、済。だな。一応。」 俺の懇願はさらっと無視されたが、逆に切羽詰った表情のカカシに問い詰められた。しょうがねぇので戸惑いながらも答えてやった。 …俺、いやコイツもか…道端でなんて会話してんだろうな…。 「どこで?」 脱力する俺に追い打ちをかけるように勢い良く聞いてきやがった!…コイツには俺を解放する気はないらしい。というかおそらくそこまでする余裕が 無いんだろう。だがなぜここまで混乱してやがるんだ?コイツは?それに!そんなことに答えられるか!!! 「聞くな!」 大体人を縛っておいてなんでこんなに態度がデカイんだ?! 「大事なことだろうが!」 「そういうお前はどうなんだよ!」 「勿論済にきまってる!俺、上忍だし、暗部なんだけど?」 そんなこたぁ聞いてねぇ! 「そうじゃねぇ!どこでだ?」 「最初は…4代目に連れてかれた見世…。アレのあとすぐに、経験しときなよ!とか言われて放り込まれた…。」 「…俺もお、三代目に連れてかれた見世だしな…。忍たるもの色の道もしらねばならんとかなんとか…。」 …忍なんて家業やってると大体こんなもんだろう。…まあ回りのやつに聴いてみたらどうやらちょっと早すぎるみたいだが…。でもなぁ将来任務に役立つから とかいって情報収集かねてしょっちゅう遣いにやらされるのはどうなんだかな…。 「何だアンタも?じゃあやっぱりこの場合俺たちが連れてかないといけない訳?!」 「ちょっとまて、アレ連れてく気か?!」 まだ早いだろうが!!!それに危険だ!!! 「…無理だよな…。」 「まだ早いし…見世めちゃくちゃになるぞ…。」 イルカの知識じゃ、花街は綺麗なお姉さんと一緒に遊べる位の認識だろう。絶対に肉とか食いもんに気をひかれたり、走り回ったりしそうだ…。 うっかり酒でも飲んだ日にはどうなるか…。料理教えてもらおうとか言い出して、厨房にもぐりこんじまう可能性もある。 あとはクソ親父から得た断片的な知識で周りに迷惑かけたり…。 「それに、それでイルカが何とかできると思うか…?」 「いや…。」 二人の間を気まずい沈黙が流れた。イルカは…かわいい弟分だが、あんなところに連れて行くのは危険なことは確かだ。 視線をカカシのほうに向けると、ポンと肩を叩かれた。 「アスマ。お前の方がこういうのに向いてるだろ…?しょっちゅう郭行ってるんだし。」 好き勝手言いやがって!!! 「俺のは半分任務なんだよ…!…それにしても…イルカ大きくなって…!」 最初は縛られてたこともあって、そこまで頭が回らなかったが、よく考えればコレでイルカも大人の仲間入りだ。 …本当に、それこそ足元ちょろちょろするくらいの年から見てきたんだが、あんなにちびっちゃかった生き物が一応は一丁前になるなんて…感慨深い。 「先生に赤飯炊かれそうになったときは相当抵抗したけどさ…気持ちが分かるかも…。」 カカシも親みたいな顔してやがる。コイツの方がイルカと年が近いが、娘がよめに行くときの父親並みの感動振りだ。 「大人の仲間入りだな。イルカも…。」 俺も感動に浸ろうとしたが、カカシのヤツががまぜっかえしやがった。 「中身は…」 「それは言うな。今だけでも…。」 「そうね…。」 今はアイツの全体の成長具合はかんがえたくない。…ちょっとぐらい浸らせてくれ…!!! 「ソレはともかくとして…イルカに郭って意味あるのか?」 しばし二人で浸っていたが、その前にしっかり計画しとかないと、イルカ相手じゃとんでもないことになる。 「イヤ…案外モテるかもしれないし…。」 「モテるっても意味が違うだろ?」 モテるったって…子どもがかわいがられるレベルじゃどうにも…。まあ最初はそんなもんでもいいのか?イルカはまだチビだが、俺はそれなりに育ってたし、 でかかったからな…。 「…郭中の食いものあさったりしそう…。で、俺の口にねじ込んできそう…。」 「あー…やりかねん…。」 大体アイツは食いもんを食わせるのが好きで、相手がどんな状態でも食わせようとしてくる。美味そうに食わないとあの手この手で、とにかく沢山食わそうとして きやがるからな…。想像してげんなりしていたが、カカシがもっととんでもないことを言い出した。 「…その辺の客吊るすとか言い出したらどうしよう…?」 「ちょっと待て!なんだそりゃ?」 なんで吊るすなんて言い出すんだ?確かにこの間は妙に吊るされた俺に親切?だったが、ものめずらしかっただけじゃないのか? 俺の不審な表情を見てか、カカシがまた淡々と一方的に語り始めた。 「…最近さ、イルカに忍術仕込み始めたのよ。修行姿があんまりだし、忍としてどうかと思って。…それならむしろ忍術の修行を通して常識を学ばせればいい のかも!と思ってさ。」 「で、それがどうつながるんだ?」 どこがどうつながるのかさっぱりだが、修行自体はいいことじゃねぇのか?何だってこんな暗い顔してやがる? イルカだっていつかは上忍…は無理そうだが多分中忍くらいにはなるつもりだろうし、暗部のヤツなら腕はいいだろうから勉強にはなるだろう。 …教えるのが上手いかどうかは別の話だが。 「手先が結構器用だし、ちゃんと教えてやれば覚えも良いし、飽きっぽいのが玉に瑕かな?…でもしっかり頑張って上達してるし!でも…それよりもさ、 …アイツなんでか捕縛術教えたら、やたらと大物狙いの練習するんだよね…。」 「そりゃでかいもんでも逃がさねぇ様に練習してるんじゃないのか?」 捕縛相手が必ずしも自分より小さい相手とは限らねぇし、小さい相手を捕まえる訓練より大物狙いなのは別におかしいことじゃねぇだろうに…。 ちょこまか動くやつを捕まえる訓練も必要だが、イルカの性格から言っても獲物はデカイ方がいいだけなんじゃねぇかな。 「アンタはアイツを知らなさ過ぎる!!!今までずっと見てたんだろ!絶対なんかとんでもないこと考えてるに決まってる!大体…何獲る気だってきいても はぐらかすから、クマでも獲るのかってからかったらさ…」 「…なんだって…?」 クマ…嫌な単語だ…。 「さらっと、似た様なもんかなーって言い出して…どうしよう?…熊獲りの練習にその辺の人間を吊るしまくったりしたら…?」 そういやイルカは昔…巧妙に仕掛けたクマ用の罠に、うっかり俺をひっかけたことがあったな…。あの時は…確か捕獲用ネットに包まれて吊るされてる俺をやたら 楽しそうに見てたような…。いたずら小僧のすることだから、拳固一発で許してやったが、ひょっとして本気でクマ狙いなのか…?だが流石に…。 「いや、いくらなんでもそれは…」 俺がカカシの突拍子も無い発言に異議をとなえようとしたが、カカシは急にヒートアップした。 「だってさ、あいつやたら肉肉いってるじゃない!俺にも肉ばっかり食わせようとするしホルモンとかわけの分からないこといってさ…。アイツが… クマ肉欲しさに人間で練習し始めないって誰が言えるのよ…?!それにクマに勝負挑みに言っても今のイルカじゃトラップでも仕掛ければ別だけど、 縄で捕縛なんて無理でしょ?ウェイトも膂力も足りないし、絶対に返り討ちだよ?」 「落ち着けって!」 だんだん何を言いたいのか分からなくなってきてるな。こりゃ相当重症だ。 「どうやって落ち着けって!?アイツ絶対なんか隠してるのに!!!」 「まあ、とにかくとして、事実関係の確認が先だろ?」 俺がそういうと、やっとカカシは正気づいたらしい。…厄介なヤツだぜ…。 「…そう、だな…。」 「おめぇ…ちょっと育児ノイローゼ気味じゃねぇか?」 完全に子どものいたずらが酷くて悩む母親だ。一応俺とそんなに違わないはずなんだが、どうしてこんなに…? …そうか、イルカ相手だからか…。不憫なヤツ。 「…そうかも…何かもう絶対目が放せないし、俺の忍犬ともパックン以外とは結構仲良くて、そこそこ面倒見てもらえてるんだけど、逆にイルカに甘いから よっぽどとんでもないことじゃない限り子どものすることだからとかっていって止めてくれないんだよな…。」 「…昔っからアイツは年上ころがしが上手いんだよな…。」 慰めにもならんが、肩を落としているカカシに言ってやった。親父とか、他にもご意見番のジジババにも妙に受けがいいんだよな…。 近所のおばちゃん連中にも人気あって、食い物とか貰ってるし…。 まあ内情しらなきゃ可愛い顔してるし、結構細かいところに気が回せるから分からんでもないか? 「パックンも結構年だけど?」 「だから、イルカ的に自分より上だと思ったやつに甘えんのが上手いんだよ…。側にいねぇとアイツのことはわかんねぇんだろうし…。後、犬とか獣は駄目だろ。 弄り回すほうに集中しちまうから。」 昔うちの近所にいた猫を撫で繰り回して天敵扱いされてたしな…。餌で釣って、引っかかれてもめげないで、首輪つけたり、最終的にはまたたびまで使って ひざに乗せたりしてたな…。で、しっかり復讐されていた。しまいには猫の方が巡回ルートを変えてうちに寄り付かなくなったんだった…。 「あー…なるほど。…ってことはさ、アンタも俺も下っぱ扱いってこと?」 「…考えるな…考えると不幸になるぞ。」 聞きたくねぇこと言いやがって…。いや!だが俺はきっと身近だから色々オープンになってて…やんちゃされるのもそのせいだ!!!…きっと。 …そうであってくれ…!!! 「そうね…。」 すっかり凹んだ様子のカカシにとりあえず言うことがあったので、垂れ下がった箒頭にむかって怒鳴ってやった。 「オイ!いいからコレもう解けよ!!!」 ***** 肉…もとい、アスマ兄ちゃんが帰って来た!!!ずっといなかったから、カカシがへこんでても心配しか出来なかったけど、今度こそ!アスマ兄ちゃんに よるうりうりセラピーが出来る!!! それにアスマ兄ちゃんが抱えているあのお土産は、また肉と見た!!!この間の肉と包装紙が一緒だし、何よりアスマ兄ちゃんが持ってるのできっと 肉に違いない!!! 「お帰りなさーい!!!」 「おう!イルカ!…元気にしてたか?」 「もちろんだぜ!で、アスマ兄ちゃんはどうだった?」 ひょっとして腹減ってたりしないかなぁ…。肉の取り分が…イヤ、今日はカカシを癒してもらわないといけないから肉をケチっちゃ駄目だよな!!! 「イルカ…。今日お…アスマもここに泊まるから。」 ああ…やっぱりアスマ兄ちゃんがいるとそっちに興味が持ってかれちゃうんだな…。どうしよう?…背に腹は変えられないとはいえ、せっかくうちの子に なったのに…。 「カカシー…。カカシはうちの子だよな…?」 不安になってカカシにへばりついて聞いてみたら、いつもと逆に、カカシに頭をうりうりされた。アスマ兄ちゃんほどでっかくないけど、なかなかいい感じだ!!! なんか繊細な感じ?いかにもかあちゃんだよな!!! …和むなー…。カカシには肉食わせても、この最強かあちゃんオーラがあるから無駄なのかなー…? イヤ!諦めるのはまだ早い!!!…そのために地道な努力は続けてるしな!!!継続は力なり!!!だぜ!!! 気合を入れる俺に、ちょっと舞台でお疲れモードらしいカカシがさりげなく聞いてきた。 「これから飯、作るんだよな?」 「うん!!!」 今日はいつもより帰ってくるのが遅かったし何か妙に汚れてるから、きっと頑張りすぎて腹減ってるんじゃないかと思ったけど、そうでもないみたいかな…? こんなに穏やかなカカシは珍しい。 …ああ!!!ひょっとして、逆に空腹がきわまって変なテンションになってるのかも?! 大変だ!早く飯を与えないと!!!それでなくても最近へこみがちなのにより一層疲れが出ちゃうぜ!!! 犬友とは仲良くなれて、犬枕しまくりだし、毎日犬まみれ生活を満喫してるけど、カカシはなんだかまだ演技の極意がつかめないでいるみたいだし…。 とりあえずこのつやつやな毛艶だけでも維持しないとな!!! 「あ、イルカ。コレも。土産だ。」 おお!忘れてたぜ! なんでか妙に憔悴してるっぽいアスマ兄ちゃんが差し出してくれたお土産を、早速受け取ってすぐ開けてみた。 …うん!やっぱり肉だ!しかも焼肉用!!!量的にも3人分は確保できるな!!! うーん?カカシが買ってきた野菜もまだ結構あるし、今日は焼肉がいいかな!!!カカシには肉どんどん食わさないと!!!作戦がな!!! 「ありがとう!!!アスマ兄ちゃん!!!すぐ作るからー!!!」 お疲れなカカシとアスマ兄ちゃん!!!待ってろよ!!!すぐに目が飛び出ちゃうくらい美味い肉食わせてやるぜ!!! ナムルも作って、スープも仕込み済みだし!サラダもつけちゃうぜ!!!デザートだって完璧だ!!! 早速俺は土産物の肉を抱えて台所へ急いだのだった。 ***** 「で、どうやって確認する気?」 「おめぇも考えろよ!…まあ当座は…今日俺が泊まっていくから、その間に風呂場に音拾うのに適当に術か札か仕掛けとけばいいだろ?」 なんでそんな変態くさいことしなきゃいけないんだ!!!イルカはまだ子どもだっていうのに…ひょっとしてコイツも…アレの子どもな訳だし… 「…変態?」 俺はついつい本音を正直に言ってしまった。 「なんだそりゃ!!!じゃあ、おめぇが何とかしろよ!!!この箒頭!!!」 「うっさいよおっさん!!!…大体さ、イルカがもしそうだったとしても、音だけじゃわかんなくない?」 洗い物は他にもあるわけだし。イルカが実況中継とかするわけじゃない。無意味だ。 「…ならてめぇの忍犬使うとか…?」 「あーソレ駄目。イルカが最近犬センサーついてるんじゃないかってくらいあいつらの気配に敏感になったから多分無理。それに協力してくれそうな子が いないかも。喜んで遊んじゃいそう…パックンじゃ無理だしな…。」 あれ以来うちの忍犬が何故かやたらとイルカを庇うんだよな…子どもらしくてかわいいとかって言って…お前は子どもらしくなかったからとかいわれちゃうと 寂しいものが…。 …大体お前たちの主人は俺じゃないか!!! パックンは唯一俺のの味方をしてくれたが、度重なる攻撃(本人は可愛がってるつもりらしいが)のせいで、完全にイルカアレルギーなので、 無理はさせられない。これ以上イルカにつき合わせたら円形脱毛症とかになっちゃいそうだ…。 「それなら…おめぇが行け!」 「ちょっと!なによそれ!アンタが行きなさいよ!」 俺がパックンの憔悴具合を心配していると言うのに、またこのおっさんは勝手なことを言った。…やっぱりまだ逃げる気だな…?縄ごと持って帰るんでもよかったか? 当然俺たちの間に険悪な雰囲気が漂い始めたが、 「おーいカカシー!!!腹減ってんなら、冷蔵庫にデザート入ってるから先に食う?」 またイルカが空気読めないところを発揮し、俺に食い物を与えようとしてきた。毎日毎日うちに帰ってくるなり食い物…それも甘いもんばっかり勧めるのは 何でなんだろうな…?俺甘いもん嫌いだっていってんのに…。 「…後で食う。」 毎回のことなので、いつもどおりそっけなくあしらった。しかし… イルカ…今日に限って何でそんなに悲しそうな顔してるんだお前は? いくらなんでも冷たい言い方だったかと、慌てたが、イルカはまた完全にあさってなことを言い出した。 「アスマ兄ちゃん…カカシのことなでても良いけど持って帰ったら駄目だからな…?」 なんだそりゃ?! 「俺はこんなヤツいらん!!!」 「俺はものじゃない!!!」 間髪いれずに同時におっさんと俺がイルカに言い放ったが、イルカには自分に都合のいいほうしか聞こえなかったようだ。 「絶対だよ?アスマ兄ちゃん!!!あ、それと!今日は焼肉だぜ!!!」 「ちょっと待てイルカ!!!まずだな、人というのは勝手にやったりもらったり…」 「もういねぇよ…」 その後、教育のチャンス逸して、すっかり脱力した俺と、同情するアスマとの平和的な?話し合いの結果、 「一緒に行けばいいんじゃない…?」 「そうだな…。」 と言う結論が出た。 待ってろイルカ!!!ちゃんと何とかしてやるからな!!! ***** 俺特製タレをよく揉み込んだスペシャル焼肉は結構いい味だったと思うんだけど、カカシたちは、美味いっていってるわりには食い方がいまいちだ。 せっかくコラーゲンたっぷりテールスープとか特製激辛キムチとかナムル盛り合わせ(セロリのナムルが俺一押しだぜ!)とか、これはちょっと手抜きだけど 簡単サラダとか、それにデザートに杏仁豆腐とかも作ったのに…。 飯はちゃんと美味そうにモリモリ食ってほしいので、カカシに肉をねじ込んでみたが心は晴れない。 一応肉食ってくれるけど、いつもみたいに元気が無いカカシが心配だし…なんかアスマ兄ちゃんとコソコソしてたのが…。 やっぱりカカシはアスマ兄ちゃんのこと気に入ってるのかも…。 悔しいのでアスマ兄ちゃんには激辛キムチをたっぷりねじ込んでみた。 でも…こっちもいつもならヒーヒー言ってるはずなのに今日は何だか上の空だった。 つまんないなー。もっとさ、リアクションが欲しいよね? 「アスマ兄ちゃん!コレもどう?」 反応の無さがつまらなかったので、更にアスマ兄ちゃんの口に、コチュジャンだけたっぷりのせたレタスもねじ込んでみた。 「え、ああ。ありがとな。…」 つまんないな!!!全然反応しないし!!! 「…ねえ…本当に美味しい?」 「あ、ああ…。」 おかしい。絶対にアスマ兄ちゃんは何か隠してるに違いない!!! …ひょっとしてカカシのことが気に入って、今日のうちにこっそり攫おうとしてるのとかかな…? こうしちゃいられない!!!犬友にも協力を仰いで、アスマ兄ちゃんを見張らなくては!!! 大急ぎでカカシの口に肉をねじ込み、デザートもちゃんと食わせた。 アスマ兄ちゃんはひょっとすると敵かもしれないので、勝手に食べさせておいたけど、なんか目の前のを機械みたいに食べてた。 ほんとに…つまんないなー…。 俺がお風呂の支度してる間に食器をアスマ兄ちゃんに洗わせて、カカシとの接触を妨害しておき、こっそり犬友たちに相談に行った。 カカシは演技の構想に入ったのか、ちゃぶ台の前でぼんやりしていたので、気付かれずに庭に出てこれたと思う。 犬友たち(ブサ可愛い犬友除く)は今日も庭でくつろいでいたので、アスマ兄ちゃんがカカシを攫って出ようとしたら、捕まえてもらえるように 約束してきた!!!これでちょっと安心だ!!!ついでにみんなにわふわふと、なめてもらったし、ふさふさな触り放題をたのしんだ!!! やっぱりいいよな!!!犬が山盛りいる生活!!! さて、後は一応アスマ兄ちゃんの様子を観察すればいいか…。 あ!そろそろ風呂のお湯がいっぱいになるから、カカシ洗ってやらないと!!! ***** …やはり忍犬たちはイルカの味方のようだ。 上の空で食器洗いをしているアスマを放置して、ぼんやり食休みしてるフリをしてたら、忍犬たちとイルカがコソコソ何かやっていた。 音は拾えなかったが、あの様子からしてよからぬことを考えているに違いない! でも…きっとまた教えてくれないんだろうな…。たいしたことじゃないとかいってさ…。 流石に危険な行為は止めてくれるけど、それほどでもないと思ったら、やらかしてから教えてくれるからあんまり意味が無いんだよな…。 何をたくらんでいるのか凄く不安だったが、帰ってきたイルカがやり遂げた感漂う満面の笑顔でいつもの様に俺を風呂場に引きずっていったので、 それ以上追求できなかった。 …いいんだソレよりも今日はやることがある!!!さみしくなんかないぞ…。 ***** いつもどおりというかなんと言うかイルカを真ん中に川の字で寝たが、何故かイルカがカカシを背中にくっつけてまるでおんぶしたまま寝転がったみたいな 体制で、俺の方を睨んでくる。 …なんだ?新しい遊びか? 「なあ、イルカ。それじゃカカシもイルカも眠れないだろ?放してやれよ。」 俺がそれとなくたしなめると、何故かイルカは思いつめたような表情で縋るような眼差しを向けてくる。 「…アスマ兄ちゃん…信じてるからな…?」 いってることがよく分からんのはいつものことだが…。なんなんだ…? 「イルカ…寝ないのか?」 カカシもちゃんと寝かせようとしたが、カッと目を見開いたまま、中々寝ようとしない。困り果てていると、カカシが一瞬にして印を組み、 イルカがくったりしてしまった。…どうやら寝ているようだ。 「おい!何してんだよ?!」 慌てて俺がカカシに詰め寄ったが、カカシも何故か切羽詰った表情で言い返してきた。 「ちょっと!起きちゃうから静かにして!!!…何たくらんでるのか知らないけど、寝てれば大丈夫でしょ?明日のこともあるんだし。」 まああの体制じゃきついのはわかるが、子どもに術をかけてまで寝かせるのはどうだろうな…? 結局、その後もイルカのことが気になり、俺もカカシも眠れない夜を過ごした。 ***** 「行ったな…。」 「ああ…。」 「どうだった?」 「わかるわけないでしょうが!」 「静かにしろよ…!行くぞ。」 「偉そう…」 「うるせぇ!」 俺たちは朝っぱらから小声で言い合いをしながら、布団から飛び出したイルカをこっそりつけた。 やっぱりイルカは真っ先に風呂場に向かった。 …やっぱりか…?! 「さてと。さっさとしないとな!!!」 イルカが風呂場に入って何かごそごそやっている。そっと覗くと手に持ってるのは…俺の服? 「おい…アレ…おめぇの服じゃねぇのか?」 「そうみたいだけど…」 一体なんで?…まさか今から?!いや…それはいくらなんでも…?! コソコソ小声で話していると、イルカは俺のズボンを裏返し、広げて風呂場の床においた。その後どこかから取り出したスプレーで何かを吹きかけ始めた。 「おい!あれなんなんだよ?!」 「知るか!!!」 イルカはその後も俺の服を裏返してはスプレーをふりかけていく。かいだことが無い匂いだ。毒ではなさそうだが分からない。 「とにかく、ちがったみてぇだな。」 「あーうん。そうね…。」 …もっとたちが悪そうだ。 「これでよし!っと。さ、カカシに着せないとな!!!」 やっぱり俺用なのか?! 「じゃ、もう俺帰るわ。」 「待てコラ!」 さっさと逃げようとしたアスマにくっ付いて外に出ようとしたら、なぜか俺の忍犬君たちがわさわさのっかってきた。アスマの上に。 「あ!やっぱり!!!」 いつの間にかイルカが背後に立っていた。 …気付かれたか!!! 「アスマ兄ちゃん…信じてたのに…」 イルカが本当に悲しそうにアスマを見つめているが、一体何のことだ? 「なんだ…?オイカカシ!コレどけろ!」 慌てふためく伸しアスマは苦しそうだがちょっと笑える。…一人逃亡を図った報いだ。しばらくほっとこう。 俺がアスマを放置していると、忍犬たちが口々にイルカに報告しはじめた。 「イルカー捕まえたぞ!!!」 「でも別にご主人を連れてこうとしてたわけじゃなさそうだったよ?」 お前たち!何で俺よりイルカになついてんだ!!!任務でもないのに一糸乱れぬその動きはなんなんだ!!! 「ちょっと!!!なんなのコレ?!」 「カカシー!!!出てっちゃ駄目!!!…アスマ兄ちゃんちの子になりたいの?」 なんなんだ!!!イルカは半泣きだし、アスマはつぶれてるし、忍犬たちはそろって冷たい目で見るし…。…誰か説明してくれ…。 ***** アスマから忍犬をどけ、しっかり縛り上げて居間に運び、イルカの手を引いて一緒に家にもどった。 「で、何してたのよ?」 「カカシは!もううちの子なのに!アスマ兄ちゃんの馬鹿!!!」 「…だから俺はこんなヤツいらんって…」 「話きけって!!!」 全員が事態を把握していないので、その場は大混乱だった。 「イルカー。そいつさ、勝手に逃げようとしたからご主人が捕まえただけみたいだよ?」 「大丈夫だって!ね。」 「泣くなよー!」 俺の忍犬たちが、そろいにそろってさっきからぐずっているイルカを慰めている。 …犬まみれのイルカを見るにつけ…なんでそんなにもその危険生物に優しいのか問い詰めたくなったが、イルカはやっと落ち着いたようだ。 「そっか…アスマ兄ちゃんまたカカシと喧嘩したんだ…。なら、いいや。」 「そうそう。コイツ勝手に逃げようとしただけだからさ!」 何だか完全に弟の面倒を一生懸命見る兄たちみたいになってる。 イルカの機嫌は直ったようだが、あの不審行動の意味を知りたい。いつからやってたんだ?…今着ている服からは、においがしないんだが。 無臭の液体なんて危なすぎる!!! 「イルカ。さっき俺の服に何してたのか言いなさい。」 まさか暗殺…な訳ないしな。イルカに限って。…でも騙されてやった可能性はある。はっきりさせなければ。 「カカシをモサモサにしたくて!!!風呂に育毛剤入れたりしたけど、カカシはシャワーあびちゃうからながれちゃうみたいで全然効かないから、 バスタオルとかにも塗っといた方がイイかと思って試してみたんだけどさ。…でもどうせなら服に直接塗った方がきくかなぁって!!!」 なるほど。俺をモサモサに…いらん!そんな気遣い!!! …最近風呂から妙な匂いがするから極力入らないようにして、シャワー長めに浴びてたし、バスタオルからも妙な匂いがするから、害はなさそうだから 洗剤変えたのかと思って、わざわざパックンに家から運ばせてたのに…今着てる俺の服は一応無事っぽいけど…。結局犯人はコイツか!!! 「イルカ!ちょっとこっち来なさい!!!」 「ご主人!悪気は無いんだって!」 「そうそう!」 忍犬たちが一斉にイルカを庇うが、何だって育毛剤なんか塗られなきゃいけないんだ!!!俺は別にハゲてない!!! 「そういう問題じゃない!」 イルカの説教を開始しようとしたが、その前にイルカが危険な作戦の全容を話し始めた。 「カカシに肉たっぷり食わせてるのに、全然すね毛が生えてこないし、犬友とかと遊んでても全然極意がつかめないでなやんでるみたいだからさ、 犬役になりきれないのって毛が薄いからかなって!!!」 キラキラした瞳で元気一杯に言われても突っ込みどころが多すぎてどうしたもんだか…。 「それに…銀色のすね毛って見てみたいし…」 イルカのあまりの自由奔放さに呆然としていたら、イルカがこそっと小声でなんか言った。 …イルカ…まだなんか企んでたのか…? 「ぅ…あ、あのな、イルカ。すね毛ってのは別に肉食っても濃くはならねぇぞ?」 あ、アスマ、生きてたんだ。ちょっと苦しそうだけど一応しゃべってる。 …役立たず!余計な苦労かけやがって!!!無駄におっさんくさいし!!! 「えええ!!!だってアスマ兄ちゃんはモサモサじゃん!!!それに肉は大事だって!!!」 イルカはイルカで当然のことに驚きすぎだろ…。 「モサモサって…まあ、そりゃ多分体質だろ?コイツは…」 「…そんな…じゃあやっぱり育毛剤で…!!!」 「いらん!!!そもそも頭に塗るもん服に塗って効くか!!!さっさとさっきの薬出しなさい!!!」 「えー?なんで?」 「それ、本気で聞いてるのか…?」 ***** 超絶無敵舞台俳優カカシを犬になりきらせるぜ大作戦は失敗に終わった。あの後、風呂場に大切に仕舞っておいた育毛剤をすっかり全部捨てられちゃったのだ。 結構高かったのに!!! カカシとかから食料の供給が安定してるから、お金が結構たまってて、それを火影岩の上からチャクラなしでダイブする覚悟で買ったのに…。 やっぱり真の舞台俳優にとっては、薬で無理やり生やした毛じゃだめなのかな?育毛剤をしみこませた服も洗われちゃったし…。 とにかく、毛を生やすには、肉だけじゃ駄目なことが判明したので、今後はアスマ兄ちゃんをしっかり観察してすね毛力の秘密を探ろうと決めた。 今朝誤解から犬まみれにしてしまったことは謝ったけど、今後もアスマ兄ちゃんからは目を離せないな!!!毛の秘密も探らなきゃだし、やっぱりカカシが 興味を示してるから、今後も注意しとかないと!!! …でも昔とおちゃんからも男は肉食っとけ!!!っていわれてるから、カカシの飯は今後も肉を中心に食事を作ろうと思う。すね毛は駄目だったけど、 毛艶は良くなったしな!!!やっぱり男は肉だ!!!もちろん野菜もたっぷりとらせるぜ!!! そうそう!今日は何だか二人ともちゃんと飯をモリモリ食ってくれたのでご機嫌だ!!!飯はこうやってモリモリ食ってもらわないとな!!! アスマ兄ちゃんがよろよろしてるのは、まだとおちゃんロード初心者だからしょうがないにしても、カカシまで何だか無言なのが気になるな…。 でも、昨日までと違って、結構飯を食ってくれるので、いつもみたいに卵焼きとかねじ込んでやりつつみんなで食事タイムを楽しんだ。 次のカカシモサモサ大作戦を考えなきゃだけど、今日は充実した時間を過ごすことができたな!!!毛の秘密とかのヒントも得たし、今後もカカシをつやつやに 保つべく努力しよう!!! 「イルカ…まだなんか…?」 俺が決意を新たにしていると、無言で飯をモリモリ食っていたカカシがおそるおそる聞いてきた。 「なんにも!!!」 不安そうにしている心配性なかあちゃん風味カカシを、今日もしっかりうりうりしてやった。かわいいやつめ!!!そんなに心配しなくても、 絶対しっかりモサモサにしてやるから!!! 俺はふさふさのカカシの毛を確かめながら、今後のカカシ完全犬化大作戦に思いを馳せたのだった。 ********************************************************************************* またまたこんなんでましたけど……。 アホ話です。相変わらず…。無駄に長いです…。 次回辺りそろそろイルカがカカシの正体に気づいてもらおうかと思いますが…どうなるやら…。 |