「おはようイルカ。ご飯できてるよ。」 「うぅー…?あれ、おはようございます。カカシさん。」 寒くなってきてから、中々布団から出てこなくなったイルカを起こしにきたら、もそもそと布団から這い出たイルカが、俺に挨拶をした。 …こうなってからは始めてだ。 「?」 俺が怪訝そうな顔をしているのには目もくれず、イルカは自分で立ち上がって、目を擦りながら布団を直している。 「ご飯…起きなきゃ…着替えて顔洗ってきますね。」 「うん…!?」 とてとてとイルカは洗面所に走っていく。 いつもなら足音なんてしないのに。しかも何だか動きが鈍い。それになにより、俺にくっ付いてこない。 心配になった俺は食事のしたくの手を止めて様子を伺っていたが、やっぱりどうもぼんやりしているようだ。 …おかしい。 「…ねぇどうしちゃったの?」 俺はすかさず洗面所から出てきたイルカに聞いた。 「え?なんでもないですよ?ご飯作ってもらっちゃって…ありがとうございます。」 イルカが俺に礼を言った。ちゃんと頭下げた。ご飯に飛びつかない。 …普通だ。普通すぎる。ありえない! 「ね、一緒に三代目の所に行こう?」 どこか具合が悪いのかもしれない。最近めっきり寒くなったから、結構寒がりなイルカが心配だったんだけど不安的中だ。 きっと風邪を引いたに違いない。いや、ひょっとしてもっと怖い病気とかだったら…!? 俺の脳内に、具合を悪くして寝込むイルカの姿が広がり、冷や汗と共に心臓がばくばくしているのがわかる。元々、めったなことじゃうろたえないのに、 どうしたらいいか分からないくらい、焦燥感が這い上がってきた。 「はぁ…何かあったんですか?」 こっちが焦って体温だの、目の色だの、鼻水出てないかだの…とにかく全身を色々とチェックしているというのに、本人はいたってのんびりしている。 因みに全部問題がないように見えたので、返って俺は未知の病を疑った。大体本人が無自覚だというのも恐ろしい。本当に怖い病というものはこうやって かかるんじゃないだろうか? いつものように抱きしめても、噛み付かないし、頭を擦り付けてこないし、抱きしめ返してこないイルカ…。どう考えても何かが起こっている違いない。 「自分で分かってないの?」 「?」 俺の問いかけにも不思議そうな顔で答えていて、可愛らしいのは変わらないが明らかに様子が変だ。 「いいから、行こう!」 とりあえず服は着てるんだしそのまま担いで運んでしまおうと思ったが、当の本人は腕の中でもがくでもなくぼんやりとしている。 オマケにあくびまでして…完全に普段のイルカじゃない。 …これは、本当に具合が悪いのか…? 極わずか、ほんの少しだけ冷静になった俺に、イルカはのんびりと話しかけてきた。 「ご飯、食べてからにしませんか?」 にっこり笑ってて、すっごくかわいいんだけど…。 「そういうマイペースな所は変わってないのね…」 イルカの様子がおかしいのは確かだ。だからといって明らかに具合が悪そうな所があるわけでもない。 …どうしたらいいんだ…? 俺は必死に原因を考えたが、その間もイルカはもそもそと俺の腕の中で納まりのいい場所を探してしがみついてきている。 「ぬくい…。」 これって…もしかして…最近急に寒くなったから…! 「うー…寒いと眠いですね…。カカシさんは朝早起き出来てうらやましいです。」 そんな事を言いながら、もにょもにょと俺にくっ付いて寝ぼけ眼を擦るイルカは明らかに寒そうにしている。 温かくすればいいのか…? とっさにヒーターを全開にしてみたが、イルカは俺から離れただけで、まだうすぼんやりした顔をしたままだ。 とにかく…こうして悩んでいても結論は出ない。 「イルカ。ご飯食べたら、一緒に三代目の所に行こうね?」 「はぁい…。」 食卓にふにゃふにゃしたイルカを運びながら、俺は一体何が起こっているのか早くはっきりさせなければと思った。 とにかく!三代目の所へ行かなくては…! ***** 「…終わったんじゃな。時期が。」 「へ?」 時期…?そうか、今もう冬になるな。ってことは、イルカはもう猫じゃなくなったのか。なんだか眠そうにしてる所は猫っぽいままだけど。 「三代目…。この部屋寒いですね。」 イルカは、二の腕を擦りながら俺からはなれて立っている。 …今朝はまだよかったんだけど、目が覚めるに連れてだんだんいつものイルカじゃなくて凄くよそよそしい感じになっていったのだ。 食事の片付けもするし、服も自分で片付けるし、朝の仕度を全部一人でしていた。それに、食事中に、全然、全く、これっぽっちも… 俺から食わせてもらおうとしなかった。 …いつもなら始終くっ付いて離れないはずのイルカが、だ。 可愛さはそのままだ。だが、ショックは大きい。 言われてみれば、普段の動きも格段に遅くなり、ちょっとトロくさく見えるくらいだ。 思い返せば、最初会ったイルカはこんな感じだった。そういえば。 「で、どうすれば…?」 病気じゃないのは分かったけど、こんなにぼんやりしてても大丈夫なんだろうか?その辺でこけたり、その辺の悪いヤツに攫われたりしそうで、 心配が止まらない。 なにせ、今までは口に肉をくわえているか俺に噛み付いているかだったのが、今朝はゆっくりとご飯を自分で食べていたのだ! 取り乱す俺に、三代目が呆れたような口調で言った。 「放っておけばよい。特段具合が悪いわけでもないんじゃろう?」 「それは…そうですが。」 確かに怪我してるわけでも、熱があるわけでも、鼻水がでてたりするわけでもない。 …ただただずっとぼんやりしているように見えるだけだ。 というか、今までのイルカの動きが早すぎたせいなのかもしれないが…。俺の皿から肉を奪うときの姿は並みの上忍を超えていた。 「普段のイルカに戻っただけじゃ。…まあ、また春がくればどうなるか分からんがの。」 「そうですね…。」 心配していたようなことはなかったので、ホッとしたが、ちょっと複雑だ。 なにせ違いすぎる。イルカはイルカのままなのに…。 がっくりと肩を落とす俺に、三代目が哀れみ深い視線を向けてきていて余計いたたまれない。 そして…その間中、イルカはのんびりと俺たちのやり取りを眺めていた。 ***** とりあえず、温かくすれば少しは動きが活発になるかもしれないと、コタツを買って来てみた。 「イルカ。どう?」 「んー…。ぬくい…。」 結果…さっきからずっとこの調子だ。 買って来たときは、ちょっと嬉しそうに「温かそうですねぇ!」なんて感想を言ってくれたが、一度入ったら最後、ずーっと中から出てこないのだ。 「ね、ねぇ。どう?気分は?」 別に無理やり猫モードになってほしいわけじゃないけど、やっぱり馴れてないイルカをどう扱っていいか戸惑う。 「気持ちイイです…。」 頭だけコタツから出して目を細めているイルカは、それはもうかわいい。かわいいんだが…。 「どうしたらいいんだろうね?」 俺はイルカとの距離をいまいち測り損ねていた。 まあ、ちょっとボーっとしてて、後は自分のことは自分でやる様になっちゃっただけなんだけど…ちょっと寂しい。 それに…猫じゃなくなったイルカとの生活は、それなりに楽しいんだが大きな問題があった。 …まあ、要するに欲求不満というか…全然そういう雰囲気にならなくなったのだ。 今までは、イルカの方からしたくなった激しくいちゃいちゃしてたのに、今のイルカは日がな一日のんびりと過ごしていて、かわいいんだけど非常に 手が出しにくい。 猫らしいわがままは鳴りを潜め、代わりのように本人の天然さに磨きがかかり…にこにこ笑ってくっ付いて眠られちゃうと、 そんな気になるのが悪い気さえしてくる。 だからといって、シテない分はたまるわけで…。 それなのに、イルカは風呂上りにパジャマ姿(今のイルカは自分で着る…。)でイイ匂いさせてふらふら歩いてたりするのだ。 もはやこの生活は拷問に近い。 だが、本人は、自分が変わったという自覚が薄いようなのだ。 俺の姿が見えないと探し回ってたのが、普通に授業とか受付とかこなしてるし、だからといって、俺のことが嫌いになったわけじゃないらしいのが救いだけど…。 ちゃんと寝るときは一緒に寝てくれるし。まあ、逆に拷問だみたいになってるが。 とにかく、俺は今ものすごい忍耐を強いられている。 …現在進行形で。 今正に、布団の中で洗い立てのイルカ(でも自分で風呂に入った…。)が、俺にくっついて幸せそうに寝ているのだ。…むにゅむにゅいいながら俺に暖を求めて。 思わず襲ってしまいたくなったが、覆いかぶさって腕を掴んだ瞬間ににこっと笑ってくれちゃって…まあなんとか…ぎりぎりまで我慢することに決めた。 勢いを増す股間に、今日も眠れぬ夜を過ごすことになりそうだと思いながら…。 ***** 「あの、カカシさん。」 「ん?どうしたの?イルカ。」 こうなってからイルカの声の掛け方も変わった。ちゃんと礼儀作法に則って行動する様になったからだ。 食事中に警戒しなくていいし、いきなり任務中に襲われることもないし…いいこと、のはずだ。はずなんだが…俺にとっては…。 色々考えてちょっと乾いた笑みを浮かべてたら、イルカがものすごく悲しそうな顔をしていた。 「具合悪いんですか…?」 「え!いや!大丈夫だから!そんな顔しないで?」 俺の腕をぎゅっと掴んで、うっすら涙目になってるイルカはとてもかわいい。 別に具合が悪いんじゃなくて、色々たまったものとイルカの可愛さのせいで眠れないだけの話だ。イルカに心配されるようなことは全くない。 それにしても、俺はこの顔に弱いんだよなぁ…。何でも言うこと聞いてあげたくなる。 猫のときに、俺がちょっとでも側から離れると必死に探して、こういう顔してたっけ…。 思わず遠い瞳をしてしまったが、ソレがよくなかったようだ。 「カカシさん…!俺が、季節が終わったから?だから…俺のこと嫌いになった?」 「そんなわけないでしょ!」 ひっくひっくと泣き出してしまったイルカを抱きしめて、顔の涙を指で拭ってやった。 嫌いになれるわけがない。外見は勿論、性格も大本の所はあんまり変わってなくて、唯ちょっと傍若無人さがなりを潜めて、俺を襲うことが なくなっただけだから。…寝ぼけてるときの姿なんてあんまり変わってないし。 「嫌いになっても駄目!カカシさんは俺の!」 イルカは駄々っ子の様に俺にすがり付いて、噛み付きこそしないものの俺の所有権を主張している。 …このイルカも、やっぱりイルカだ。 そう思ったらより一層、この状態を我慢するのが厳しくなってきた。こんなに引っ付かれて温かくて可愛くて…我慢できるやつがいたら連れてきてほしい。 俺は、さりげなくイルカの腰に手を移動させながら、最大限の努力で襲うのを我慢して聞いてみた。 「イルカ。嫌いになったんじゃないんだけど…その、イイ?」 「え?」 最初はぽかんとしていたのに、徐々に真っ赤になって言ったイルカが、コクンと首を縦に振った。 …勿論俺の理性はそこで限界を迎えた。 ***** 「んっ!あ…っ!」 俺の下でもだえるイルカは、やっぱりどこか猫のときと違っていた。…何より態度が。 「ねっ…、気持ちイイ…っ?」 俺がこんなことを聞くと、猫のイルカならにっこり艶っぽく笑って噛み付いてきたけど、今のイルカは照れた様にうつむいて、 声も出来るだけ殺そうとしてるみたいだ。 「んんっ…!そんなっ…言えな…っ…ぁ!」 堪えてももれるかすれた声で俺を煽り、恥らってぎこちない動きで俺に縋ってくる様子が…たまりにたまったものを直撃した。 結果的に今すでにもう結構な数をこなしてしまっているのだが…止まれない。 「イルカ…。」 「カカシさん…っ!」 態度は全然違うのに、それでも…今も俺に向けられる、この食い入るような視線は猫と一緒で…たまらなくなって。 縋りつくように俺の腰に絡められた足を掴んで、ひきよせて…俺はイルカと共にもう今日何度目になるか分からない絶頂を迎えた。 ***** 「イルカ…大丈夫?」 俺は、隣でぐったりしているイルカの頭と腰をなでながら、伏せられたままの顔を覗き込んだ。 …タガが外れるというのはこういうことなんだろう。昨日…いや今朝まで、我慢していた分を一気に解消するが如く、 それはもうきっちりやり倒してしまった。正直自分もちょっと腰がだるいくらいだ。まあ、イルカが猫状態のときは良くあったことだったんだけど…。 …秋と違って体力が減っていたらしいイルカは、俺より酷くて今もぐったりとベッドの上に横たわっている。一応身体は拭いたが、 服を着せるのも辛そうだったので、とりあえずはそのままの姿だ。 …我慢できずに無理をさせてしまった。イルカの可愛さに目が眩んだとはいえ、明らかにやりすぎだ。いまさらだが、後悔の念が湧き上がってくる。 俺は、自分の思考にはまり込んで思わず手を止めてしまった。 だが、イルカはそんな俺の手にすりすりと頭を擦り付けてきた。…猫のときのように。 「カカシさんが、元気になって良かった…!」 そんな事を言いながら、ふわっと笑ったイルカは、それはもうかわいくて。猫だからとか猫じゃないからとかじゃなくて、やっぱりイルカのことが好きだと 思った。 「だから…くっ…!」 「ゴメン!今度から気をつけるから…!」 イルカに魅せられて思わずぼうっとしてしまったが、イルカが痛みに呻いたので、正気に返って慌てて謝った。 「そうして…くださいね…?」 それに答えた可愛らしいイルカの笑顔と、しどけない姿に…俺はまたも己の理性との戦いが始まったことに気付いた。 だが、流石に今日はこれ以上は駄目に決まってる。イルカの季節にあわせて好き放題やってきたせいで我慢が利きにくくなってるんだろうか…? 「あの、がんばるけど…。やりすぎたらゴメン。」 「やりすぎたら怒るから大丈夫。もうちょっと寝ましょう?」 そういって俺に手を伸ばしてきたイルカを抱きしめると、温かくて、幸せな気分になった。 「そう、ね。寝よう。」 俺は今日だけは今後のことは考えるのをやめることにしたのだった。 ********************************************************************************* 冬ぬこはちょっと理性があるから返ってかわいいという話。 イイ目見てるなぁ…。カカシ。 リクエストして下さった亜珠花様〜!!!ご意見ご感想ご要望などはいつでもその辺の拍手などからどうぞ…。 |