肉食獣のいる生活―狩りの季節―

朝目覚めると、何故かいつもの様にご飯の催促もせずに、イルカが何かもそもそやっていた。
「イルカ。なにやってるの?」
「狩りに行く準備。」
俺が声を掛けても振り向きさえせず、手を休み無く動かしているイルカは、わくわくした様子を隠そうともせず、簡単な返事を返した。 用意しているのは縄とクナイのようだが、任務だろうか?この時期のイルカには任務がよく振られるからおかしくは無いのだが、狩りの任務など聞いたことが 無い。
「狩りって…?」
「じゃ、行ってきまぁーす!!!」
疑問に思って聞き返したが、興奮したイルカは俺に返事することさえ忘れ、勢いよく飛び出していった。
…窓から。
「大丈夫かなー…?」
心配だが今は秋、人で狙われるのは俺ぐらいだから、そうたいした被害も出ないだろうと思いそのまま見送った。
その結果がどうなるかわからずに…。
*****
「狩りに行ってきた!」
嬉しそうにニコニコ笑うイルカは、相当ご機嫌がいい。と、いうことは、きっと狩りとやらは、満足のいく結果だったのだろう。
そんなイルカの足元に目をやると、確かに獲物らしきものが転がっていた。僅かに見える毛並みからして獣だろう。
「あーなるほど。狩り、ね。」
納得したと同時にほっとした。もし他の人間まで食おうとしていたら大事だ。
イルカがずるずると縄で括った獲物を引きずって持ってきたことで、その全貌が明らかになった。
「カカシさん!お土産!!!」
自慢げに胸を張るだけあって、獲物はかなりのものだ。
「イノシシに、クマか…確かに大物狙いだな。」
三代目の口からでまかせかと思っていたが、どうやらこの様子からすると本気だったのかもしれない。
イノシシもクマも丸々と太っていて、いかにも食いでがありそうだ。こう考えることがすでにイルカに毒されている証拠かもしれないが。
そして、お土産だといってもってきたイルカが、その獲物を目をキラキラさせながら見ている。
「食べていい?」
案の定目の前の美味そうな獲物に我慢が出来なくなったようだ。
「生は駄目。後でね?」
今は秋で消化機能も上がってるんだろうから問題ないのかもしれないが、何かあったら困るし、何より俺がいやだ。美味そうに何か食っているイルカを 見ているのは楽しいが、生肉むさぼってるのを見ると、ちょっと心配になるからだ。寄生虫とか心配だしね。
今にも食いつきそうなイルカをなだめて、一旦肉を検分する。
…これから皮を剥いで、内臓抜いてからうちに入れないといけない。それにしても狩り方が見事だ。クナイで急所を一閃した後がある以外は、 他に傷一つ見当たらない。この狩り方はやはり猫を思わせる。暗部生活が長い俺でも驚くほどだ。
感心しながら肉を捌く方法を検討していると、イルカがはっと思い出したように大声を上げた。
「そうだ!もう一個ある!!!」
「どれどれ…」
誇らしげに宣言したイルカが引きずってきた次なる獲物は、とんでもないものだった。
「うそ!ちょっと!なに狩られてんのよ!暗部のくせに!…イルカも!駄目でしょ!人なんか狩ったら!」
しかも…後輩だ…お前、イルカに狩られるって…いったい何やってたんだ!?見境無く襲い掛かるって事は無いはずなのに…。
それに、もしそうなるとしても、この場合ターゲットになるのは確実に俺のはず。
驚きのあまり、縄をほどくのも忘れて呆然としていると、足元でぐったりしていた後輩暗部が、ぼそぼそと何か話し始めた。
「あの…自分は、イルカ中忍に…任務を、伝えに…」
だが、全部言う前にイルカが獲物後輩暗部に唸りかかった。
「カカシさん!コレしつこく着いて来た!狩りの邪魔した!」
怒っている理由は分かった。おそらく狩りに夢中になっているイルカ宛てに伝令を頼まれたはいいが、スピードと変則的な動きについていけなくて、 結果的に狩りの邪魔をしてしまった結果。 …イルカの癇に障ったのだろう。
うちで俺の分の肉を奪おうとするときの動きを考えるとありえそうなのはそれくらいだ。
不満そうに足元の後輩を睨みつけているイルカに説教するために、頭を掴んでこっちを向かせた。
「コラ!イルカ!めっ!」
「うぅぅー!!!」
「唸っても駄目!もう!人は俺だけにしときなさいよ!!!」
どうしても自分が悪いって事は認めないので、こういうことをしたら怒られるということだけでも仕込んでおかなければならない。この季節でなければ、 こんなことは怒らないのだが…。
ため息をつきつつ、どうにかして理解だけでもさせようとしていたら、足元の後輩が足首を掴んできた。感心感心。一応縄抜けできたのね。
「いや!自分も悪いんです!本来なら担当するべき猫飼育経験者が、急な任務で全員出払ってしまったので代わりに自分が…」
「なにそれ?そんな決まりあったの!」
猫って…確かに猫っぽいけど、イルカは人間なのに…。三代目もそういうところ実利的っていうか、…適当だよなー…。
足の縄は解けないでいるらしい後輩を手伝ってやっていると、頬をぷっくり膨らませたイルカが、飛びついてきた。
「俺は悪くないー!」
耳元で訴えながら噛み付く。いつもながらこれが結構痛い。
「噛まないの!」
頭を軽くぺしっと叩くと、イルカがそれでも諦めずにカジカジと齧りながら涙目になっている。…狩りの邪魔が相当頭にきたんだなー。
しょうがないかと噛まれるままでいたら、後輩暗部が慌てて自分のポーチから細くてちょっと固そうなものを沢山束ねたものを取り出した。
「あ!その!先輩これ!」
「なにそれ?」
何か…無駄にピカピカってて…武器じゃなさそうだけど?
噛み付くイルカの頭をなでながら、ピカピカ光りながらシャラシャラと音を立てるものを見ていると。…イルカが急にソレに飛びかかった。
「ピカピカ!」
「わあ!」
猫らしく非常にすばやい動作で、そのピカピカしたものを持っている暗部を引き倒すと、楽しそうにばしばしと叩いてじゃれている。
そして…勢いに押されてまた倒れたために、後頭部から鈍い音を立てていた後輩は、起き上がれずにぐったりしている。
「こらイルカ!それに!アンタもうちょっとしっかりしなさいよ!」
怒鳴りつけても、パクパクと口を開閉するばかりで、返事が無い。…おそらく痛みで声も出ないのだろう。
それにかまわずイルカが手の中のキラキラしたものをつついては、暗部の方に催促している。
「ねえねえ!これ!!!もっと振って!!!」
「先ほどもこれで…」
ぐったりしたまま、後輩が喋ってくれた。…納得は出来た。
だが、お前もうちょっと修行しろ。
「ああもう分かったから。任務内容は?」
「火の国の外れの野党の捕縛です。回収は別部隊が。地図は…コレです。」
「そ、…他の担当は?」
「う…自分、です…。」
「じゃ、俺が行く。イルカ!後で遊んであげるから!ちょっとおいで!」
コイツじゃ無理だな。どう考えても。任務どころか、この調子でイルカに遊ばれて終わりだ。なにせイルカは一回気に食わない行動を取ったヤツのことは ずっと覚えてて、執念深く復讐するからだ。イルカに一度でもいやなヤツと思われた時点で任務は失敗するだろう。
俺は深いため息をついて、イルカからおもちゃを取り上げた。
「んな?あー!とっちゃだめ!」
「お出かけの後一杯遊んであげるから!!!」
不満げな声を上げて抗議するイルカをなだめながら、ピカピカするものを弄っていると、光るのがやんだ。イルカの興味もそれでそれたらしい。
俺の話の方に興味を持ってくれた。
「そっか!お出かけ!で。今度はどこで遊んでいいの?」
「任務だけど、ここ。わかる?」
遊ぶ気まんまんなのは仕方ないにしても、任務のときは何とかしなくてはならない。
当座は俺がいるから問題ないと思うが、盗賊のかなり規模が大きいので、注意は必要だろう。といっても、俺なら一人で行けるし、 後輩は…ちょっと無理か。イルカがサポートとして呼ばれたのかな?
俺がこれからの事を考えながら地図を差し出すと、イルカは匂いをくんくんとかいだ後、嬉しそうに笑った。
「わかる!鹿が狩れるところ!」
「こんなトコまで遠征して狩りしてたの…?ま、いいか。」
フラフラ遊びに行っちゃうのは危険だなぁ…。気をつけておかないと。
「先輩!ですが!」
「俺明日休みだし。今日中に終わるでしょ。」
任務を奪い取った形になるから、気にしてるんだろうけど、俺はイルカと一緒にいられるから問題ない。
「申し訳ありません…。」
「ま、ちょっとは修行しなさいね。」
「はい!」
しょんぼりした後輩を慰めてやっていると、ヤル気満々のイルカが俺の肩に手をかけてきた。
「カカシさん!まだ?」
「うん。いこっか?」
「お出かけ!!!」
ウキウキしているイルカに、一抹の不安を感じながら、俺は出かける準備にかかったのだった。
*****
以前から被害が多発していると聞いたポイントには、人気がなかった。
まあ襲撃場所に、自分たちは盗賊でございって顔でうろうろしてたら、あっという間に捕まっちゃうからそれはありえないけど。
とにかく敵のアジトを探らなければと、忍犬を呼び出そうとした俺の手を、イルカが止めた。
「…カカシさん。こっち。こっちから武器のにおいがする。」
そういえば、猫って犬には劣るけど、そこそこ鼻いいんだったっけ。
「行ってきまーす!!!」
納得している間に我慢できなくなったらしいイルカが飛び出していってしまった。
「ちょっと!待ちなさい!!!」
やはり秋なだけあって、イルカの速さは本気を出さないと追いかけるのがちょっとキツイ程すばやい。
通常の忍と違って野生の獣を思わせる無駄のない動きで、イルカは風を切って跳んでいく。
「あ、いた。」
追いかけている間に、ターゲットを見つけたらしいイルカが、更にスピードを上げて飛び掛った。一瞬の内に、持参してきた獲物括り用の縄で しっかり動きを封じられて地面に転がった。
まずはひとり。他の奴らも捕縛しなくては…。
だが、俺がそう思ったときには、すでにイルカが何人目かの盗賊をきっちり捕縛している所だった。
「イルカー。残り何人?」
「んー?たくさん!!!あ、みっけ!」
そうだった。今聞いても無駄だったんだっけ。…集中してるとなー…人の話聞かないんだよなー…。
ため息をつく俺を尻目に、ゲーム感覚で張り切って敵を捕縛しまくったイルカは、ほとんど全員きっちり縄で括って転がした。
…俺が捕まえようとすると、横からすごい形相のイルカが飛び出してきて、獲物確保に奮闘するため途中から俺がリタイアした結果だが、 イルカは満足げだ。
「いっぱい獲れた!!!」
「んー。ひの、ふの…。ちょうどかな?」
コレで全員捕獲したみたいなので、さっそく式を飛ばして回収班を呼んだ。これからコイツラは火の国の法律で捌かれることになるだろう。
さくっと抹殺でもイイと思うんだが、どうやらこの件は、やんごとなき方の政治的配慮だかなんだかに利用されるらしいので、それはそれだ。
国境だから色々あるんだろう。ま、それよりも…帰ったらちゃんとイルカと遊んでやらないと。
そう思いながら振り返ると、足元に無造作に転がしておいた盗賊を、イルカがつんつんつついて遊んでいた。
「ああ!駄目でしょ!イルカ!」
慌ててイルカの手を止めたが、俺を見上げたイルカは、不満げに訴えてきた。
「カカシさん…。コイツらもう動かない!つまんない!」
ばしばしと敵を叩きながら、動かないのを確認しては、頬を膨らませている。
イライラしているのが良く分かったので俺は慌ててイルカの腋の下に手を突っ込んで吊り下げ、白目を剥いてひっくり返ってる盗賊から引き剥がした。
「ああ、うん。コイツらの捕縛任務だからそのままちょっと待っててね。今式飛ばしたから。回収が終わったらうち帰って…」
だが言い終わらない内に、イルカは俺の腕からとんっと飛び出して、振り返って俺を見据えた。口の端を吊り上げてにんまりと笑ったイルカは、 明らかに興奮したままだ。何か…嫌な予感がする…。
「カカシさん追いかけっこしよう!!!」
「え?」
追いかけっこ…ということは今のイルカと…。相当キツイ。どっちが鬼かにもよるが、イルカの興奮具合からして…。
「鬼は俺で、カカシが逃げる方ね!」
「ちょっ!」
やっぱり!!!
「いーちにーいー…」
勝手に鬼を決めて、勝手にカウントし始めたイルカは、目をまん丸にして興奮を露にしながら、俺の首筋をじっとりと見つめている。
これは…あの時と同じだ!!!ってことは…ヤバイ!!!
「っ!」
慌ててイルカから距離をとり、そのまま一気に手近な樹上まで跳んだ。
「さん!行っくぞー!!!」
次の瞬間、楽しくてたまりませんという顔をしたイルカが、宣言と共に駆け出した。…もちろん俺のほうに。
…速い!
掛け声とともに飛び出したイルカは、先ほどよりもずっと速く、ずっとしなやかに動き、俺を追ってくる。さっきまでも相当な速さだと思ったが、 全力は出していなかったようだ。
しかもどんどんスピードは上がっていっている。
「あ!逃げた!待てー!!!」
追いすがり、飛び掛ってきたイルカを交わしたが、そのことが返ってイルカの興奮を煽ったようだ。
「逃がさない…!」
その真っ黒な瞳を興奮一色で染めて、俺だけを見つめているイルカは、とても美しい。
その研ぎ澄まされた動きに、俺のほうもだんだん真剣になってきた。
とんで、よけて、逃げる。
そのたびに、イルカの顔から理性が剥がれ落ちていく。
ああ…そろそろマズイ。
そう思うのに、そんなイルカに魅せられて、ついついもうちょっとだけ…と、俺の方も真剣に追いかけっこを楽しみ始めていた。
その時。
「先輩!回収。無事終了いたしました!」
「あら、そう?」
併走しながら声を掛けてきたのは、どうやら回収班を任された暗部のようだ。しかも、こいつも知り合い。…暗部の人材不足も深刻だな…。
折角楽しくなってきたのに…。
ちょっと残念に思いながら、なおも追ってくるイルカを交わしていると、側の暗部がまだ話しかけてきた。
「…イルカ中忍は、暴走しているようですね。…止めますか。」
「ちょっと!何する気!」
そのセリフに驚いて、術でも使うつもりかと慌てて振り返ったら、その手に握られていたのは、白いふさふさした…いわゆるねこじゃらしだった。
ああ…そういえば猫飼育経験者っていってたっけ…。
あまりのことに力が抜けた。
そして…すっかり狩りモードのイルカがその隙を見逃すわけが無かった。
「捕まえた!」
がばっと俺の背後からしっかり首筋にかじりついたイルカは、カジカジと俺の首を甘噛みしながら、うっとりと目を細めている。
「先ぱ…」
暗部はそれに慌てたらしく、イルカの前に対猫モードイルカ最終兵器らしきねこじゃらしを構えたが、俺が止めた。
「あ、もういいから。帰って。」
「…は。」
視線で俺の意図を汲んだのか、スッと立ち去った邪魔者を見送り、俺はスリスリと俺に頬ずりするイルカの頭をなでてやった。
「つかまっちゃったなぁ…。どうするの?これから?」
「これから?カカシさんを食べます。」
イルカはご馳走を前にした猫らしく、舌なめずりするような表情だ。
目を細めてにんまり笑い、さっさと俺の服に手をかけている。
まあ、回収班もさっきので事情は飲み込めただろうし…。
「じゃ、いいよ。ここで…」
「いただきまーす!!!」
俺が言い終わる前に、俺の口に食いついてきたイルカに応えながら、自分の獲物を味わう興奮に陶酔しきったイルカを楽しんだ。
すぐにその興奮は俺にも伝染し…外だというのに互いに溺れる様に行為に没頭した。
二人そろって獣のように。
*****
「ねえ、ちょっと。」
「先輩!」
俺はこの間イルカのことを止めようとした暗部を捕まえることに、やっとのことで成功した。
ちょっと不安そうな顔してる…っていっても面してるから、勘なんだけど、とにかくどうしても聞きたいことがあったのだ。
「あのさ。…イルカに効くおもちゃって…何?」
「え?」
アレ以来、イルカはすっかり追いかけっこの楽しさに目覚めてしまい、…おちおち昼寝も出来ない有様だ。
一度など、気付かないうちに任務先に着いてきてしまったこともあった。
もの凄く可愛いんだが…このままでは任務に支障を来たす。いろんな意味で。
「あのさ、この間のねこじゃらしとかが売ってる店教えて欲しいんだよね。俺が忍犬用のフード買ってる店に無いんだよね…。」
多分犬専門だからだと思うんだけど、折角イルカにあげるのに、変なものはイヤなので経験者に聞くことにしたのだ。
なにせコイツは確実に猫飼育経験者。安全且つ効果的なおもちゃをよく知っているに違いない。
「あ、はい!それなら…!!!」
俺はびくびくしている後輩の口から、どんどん飛び出すペットショップの名前と使用方法のコツを書き取りながら、新しいおもちゃに喜んでじゃれるイルカを 想像して、にやりと笑ったのだった。

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まだ秋なのでぬこモードな話にしてみました。
そしてやっぱり噛み癖のある猫でしたとさ…。
ご意見などはいつでもその辺の拍手などからどうぞ…。

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