三日遅れのプレゼント


「こんな真昼間に任務が終わるなんてね」
上忍師なんてものをやっていた頃ならまだしも、こうして上忍としての任務につき、休む暇もないほどに忙しい日々を送っているというのに降って湧いたように休めるとは思いも寄らなかった。
昨日の深夜に里を発ち、つつがなく任務をこなして帰ってみれば、今日はもう休めと火影直々に命じられたのだ。
働きすぎだという言葉は確かに真っ当すぎるほどに真っ当だが、見てくればかり若いが当代は先代以上に狸であることを良く知っている。
賭場でカモにされるような抜けた所もあるが、里長に必要な度胸ともちろん外連味も持ち合わせている人だ。使われる側としては十分に警戒が必要だろう。
どうも裏があるような気がしてならない。
勿論休息を取ることに否はない。むしろ大歓迎だ。とはいえそれになにかしら厄介ごとが付随するとしたら、どちらを取るかは言うまでもない。
厄介ごとはごめんだ。…もしかしなくても休み明けにとんでもない任務を押し付ける気なんじゃないだろうか。
「AAS、その次はAだっけSだっけ…?」
今日こなしたものも時間的にはさほどかけずに済んだとはいえ、Aランク任務だった。
与えられたものを素直に喜べないあたり虚しいが、今日というこの日が休みということには少しだけ感謝すべきだろうか。
偶然とはえ恐ろしいものだ。
まあとにかく多少落ち着かない気分ではあるが、こうなったら与えられたものを享受するべきだろう。
泣こうが騒ごうが、あの女傑が我を通さないことなどありえないのだから。
「帰って、寝るか」
道徳心など疾うに捨てたが、真昼間から飲むほど酒好きでもない。鍛錬を怠ったわけじゃないが、この所の激務のおかげで睡眠不足は少しずつ確実に体を蝕んでいるのは確かだ。
女と遊ぶのも面倒なほどに疲れているし、今はそんな気分でもない。
それならば、ゆっくりと自分の安心できるものだけに囲まれて休むというのもありだろう。つまり、犬たちを呼び出して昼寝をすること。…なんて平和で穏やかで…贅沢な時間だろう。
平穏だの平和だの、大抵の忍としてはそれが一番得がたいものだ。折角だから堪能するのも悪くない。
そうと決めると少しだけ気分が浮上した。
ああそういえば、折角だからちょっと休んだらあの人に声でも掛けてみようか。
一度やりすぎて失敗したが、きっちり謝ってからはむしろなんだかんだとつるむ機会が増えた。
あのお人よしの中忍教師なら、からかい甲斐があってきっと楽しめるに違いない。
あと少しで憩いの…というには殺風景だが己の塒にたどり着ける。
…はずだった。
「え…」
ゆらりと真昼間の里を歩くには似つかわしくないものがそこにいた。
男が一人、凄まじい血臭を纏い、赤黒く張り付いたもので顔を汚して突っ立っている。
覚束ない足取りでふらつきながら歩く男の目はぼんやりと虚空をさまよい、何も見ようとはしていないようだ。
そう、目の前の俺さえも。
「何があった…!ちょっと!しっかりしなさいよ!…イルカ先生!」
呼ばれたことに僅かながら反応があったから、一応耳は無事なのだろう。
「う…」
だが次の瞬間、呻くともつかぬ声を上げて男の体はくず折れるように傾いだ。…俺に向かって。
「ちょっと…!しっかりして!」
乱れてはいるが呼吸はある。血も乾いたものが多く、出血はとまっているようだ。
内臓までは分からないけど、チャクラの流れからするとそう重症って訳じゃ無さそう。
とにかくどう見ても訳ありのこの男を、このまま放っておくこともできない。深夜ならともかく、昼日中の里内でこんな格好でうろつくのは、この男には一番似つかわしくないように思える。
術をかけられているような気配はないが、ここにいても埒が空かない。
それにしても、なんて日だ。
腕に倒れ込んできた血塗れのアカデミー教師を抱き止めて一人ごちた。
「俺、今日誕生日なんだけどね」
この人ならそういうどうでもいいモノでも祝ってくれそうだと思ったばかりだったのに、どうやらそれも叶いそうもない。
ため息一つ吐いて、抱え込んだ身体ごと飛んだ。
休日なんてものには縁がないらしい己を少しだけ嘆きながら。
*****
「怪我はこの腕と背中のだけだね。毒も抜いたからしばらく寝かせときゃ大丈夫だろう」
「そりゃ良かった。で、どうします?」
「何があったか聞き出せ…といいたいとこだが、この子のことだ。いいやしないだろうよ。怪我が治るまで面倒見ておやり」
「りょーかい。…って任務どうすんですか?」
「三日やる」
「えーっと?」
「休暇だ休暇!しっかり休めよ?」
お荷物つきで休暇もないもんだと思うんだけど、どっちにしろこの女傑には敵わない。
「じゃ、ありがとうございました。五代目」
「ったく…!折角誕生日だからと気を利かせてやればこれだ。お前もつくづく厄介ごとを呼び込むねぇ?この子もだけど」
この人のこういうところにいつも驚かされる。小娘みたいな顔してるからかねぇ?
本当に気を遣ってくれていたとは。少しだけ申し訳なく思った。
「はいはい。ま、しょーがないでしょ。拾っちゃったものは」
照れ隠しにもならないが、この人を拾ってよかったかもしれない。警戒しながら過ごすよりは大分ましだ。
…ベッドは占領されちゃったけどね。
「…じゃあな!それと…」
「はい?」
「そいつはあたしからの餞別だ!受け取っときな!」
投げつけられた小さな袋の中身は…どうやら丸薬のようだ。
「えーっと?」
「黒いのはいつもの兵糧丸。お前向けに多少強化してやったが。それから…赤いのは」
そこで言葉を切った女傑はにやにやといやらしい笑みを浮かべて見せた。
なんなの。ちょっと気持ち悪いんですけど。感謝したばっかりなのに。
「…この匂い」
「ふふん!それでさっさと女作れ!何なら子どもも連れてきてもらって構わないよ!」
「あーはいはい」
媚薬か精力剤か、とにかくそんな所だろう。
祝い事に贈るにはどうかと思う代物だが、何かというとオムツを取り替えてやっただの言う人だ。孫子を楽しみにしているような感覚…なんだろう。
「じゃ、その子を頼んだよ」
颯爽と去っていく火影を見送ると、家の中には静寂が戻ってきた。
規則的な寝息を立てる男の存在は、多少の違和感を齎したがそれはそれだ。他人を家に上げたことなど殆どないが、興味もあった。
クソがつくほどまじめなこの人に、何があったのか。
深い眠りの内にあるその顔は、今の所穏やかで、意外と彫が深いのだと知った。
今更血に怯える訳もないが、あれだけの赤に染まったのを見て意外に思ったのかもしれない。どこまでも平和な里の象徴みたいな人だから。
かがみ込んで乱れた前髪を撫で付けてやると、懐でカサリとなにかが音を立てた。
さっき渡された薬を包んでいた油紙だ。そういえばこれも誕生日プレゼントになるのか。
「相手、ねぇ?」
そんなことを考えたこともない。女が嫌いという訳じゃないが、身近な相手など別に欲しくはない。そんなものより上忍仲間のように適当に距離がある方が楽だ。
それにこの部屋には傍らで眠る男しかいないのだ。
あの女傑の見立ては正確だ。休暇中は目覚めても寝込んでいるに違いない。
「ま、おもちゃは適当に使えばいいでしょ」
任務に使うには正確な効能が分からない分不便だが、花町で遊ぶときの話の種くらいにはなるだろう。
とにかく、自分も疲れている。
「ソファ…ってこの部屋から離れたらこの人起きちゃったらちょっと面倒よね」
疲れ果てて帰っても休めることを優先しただけに、玄関を入ってすぐのこの部屋はほぼベッドしかない。
見知らぬ場所で目覚めた男がどんな行動を取るか予想がつかない。起きるなり騒がれるのは面倒だ。勿論そのままうろつかれるのも。
「ま、いっか」
犬と一緒に眠れるように、寝床の広さはそこそこある。隣に潜り込んでもそう大して困らないだろう。
もそもそと布団をめくり、男に背を向けて瞳を閉じた。熟睡している男の規則的な寝息は、犬たちの短い呼吸よりは自分に近い。それにこの男はどうしてか無害だという気がしてしまう。
あー…なんかよく眠れそう。
寝首をかかれるほど間抜けじゃない。何かあれば目覚めることくらいできるだろう。
結局、襲い来る眠気に俺は逆らわなかった。
*****
「う、…え?あ…」
傍らで眠る生き物が身じろぎした気配に目を覚ました。
陽の高さを見る限りじゃまだそうたいして時間は経っていないらしい。
「おはよ」
「うわぁ!?え、えーっとですね!?ここはどこですかあなたは誰ですか!?」
そんなに矢継ぎ早に言わなくてもいいのに、どうやら本当に俺が誰だかわからないらしい。
「ここは俺の家で、俺はほら、こうしたら分かりますか?」
アンダーを引き上げた途端、なんともいえない顔をしてため息をつかれた。なんなのもう。大概失礼じゃない?
「カカシ、せんせい」
「そーですそーです。で、あなたは何であんなことになってたんですかね?」
里内で血まみれになってただけでもおかしいが、毒まで盛られていた。今更なにもなかったとは口が裂けても言えないはずだ。
「あーその。任務、で」
「はい嘘。あのね。状態が酷かったからもう医者にも診せましたし、裏も取ってありますよー?」
あえて綱手姫に見てもらったことは言わないでおいた。この人なら勝手に妙な覚悟決めちゃって、却って口が堅くなりそうだしね。
「…なんでも、ありません。ちょっと修行中にしくじっただけです」
隠し事は下手そうなのに、意地を張るつもりらしい。
それとも自分の状態を見て、誤魔化せそうだと誤解したか?
「怪我はふさいでもらいましたけど、結構深かったようでしたよ。毒もね。遅効性でいきなり動けなくなるヤツだった。中々タチが悪い。あんた倒れたの覚えてないんですか?」
「覚えて、…あ…あのあったかいのまさか…!」
蒼白だった顔色がさらに色を失った。どうやら黙っていることへの罪悪感があるらしい。
「任務帰りに血まみれのアンタに倒れこまれたおかげで大変でしたよー?それなのに理由教えてもらえないなんて酷いなぁ?」
「う、その…!」
もう一息ってとこか。あとは…ああそうだ。ちょうどいいのがあったじゃないか。
「俺、今日誕生日だからって休暇をもらえたんです。でもアンタ拾っちゃったから…」
「そんな…!ずっと休みナシだったじゃないですか!」
なんでかしらないが怒り出した。うーんやっぱりおもしろい人だ。普段はにこにこしてるけど、ナルトを叱るときなんかあまりに声が大きすぎて耳が痛くなったくらいだもんね。
「そーですね。でもま、怪我人ほっとくわけにも行きませんし。…言えないって言われたら、それまで、ですよね…」
上忍仲間がみたら大笑いしそうな大根芝居だ。だがこの人なら多分。恐らく確実にひっかかってくれるだろう。
何せ今も眉を下げてひたすら申し訳無さそうにしている位だから。
「すみません…俺のせいで…。ただその、本当に勝手で申し訳ないんですが、他言無用でお願いします」
やれやれ。やっと言ってくれるみたいだねぇ?
視線を合わせた途端、真っ赤になった理由はよく分からないけど。
「…もうすぐナルトの誕生日なので、色々用意をしていたんですが刺激してしまったようで。…ちょっとその。まあ自力で切り抜けましたし、多少怪我はさせたかもしれませんが」
なんでそんなこといいながら鼻傷掻いて暢気に笑ってるんだろう。この人。
なるほど言いたがらないはずだ。綱手姫のことだから察しはついていたんだろう。
容認する気はないが、この人を追い詰めるのもマズイってとこか。
あの女火影が放っておく訳がないから、恐らく手は打ってあるだろう。
…俺に聞き出せたらなんて言ったのも、この人にいい加減覚悟を決めさせるためかもしれない。一人がサンドバッグになってたって、何も変わらないってことを。
「で、どーすんですか」
「長々とお邪魔して済みませんでした。失礼します!」
今にもこの家を飛び出していきそうだ。ああなんだろうねこの人。
…そういう所、イライラする。
勝手に怪我して勝手に納得して身体もがたがたの癖に逃げるなんて許さない。
「帰るの?その格好で?」
「へ?うわ!あ、まさか洗ってくださったんですか…?」
見る見るうちに涙目になった。さっきまで平気だって顔してたくせに。
どろどろのままベッドに寝かせるのがためらわれたのと、怪我の状態を見るために風呂場に直行した結果、この人が今来ているのは俺の服だ。パジャマなんて持ち合わせてないし、忍服は着せるのが面倒だったせいで着せてあるのは浴衣だけ。帯を締めるのも面倒で適当に巻きつけただけに等しい状態だ。
起きたら着替えさせるつもりだったけど、この際コレは好都合だ。
「洗うっていうか、捨てました。血と毒まみれだったんでね」
嘘だけど。綱手姫にきっちり引き渡してある。いまごろとっくに分析にまわされているはずだ。どうするかまでは知らないけどね。
「あ…そうですか…。その、申し訳ありませんが、これお借りしても…?」
「いいけど。ねぇ。どうせならもうちょっとうちにいなさいよ」
「へ?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔しちゃって。隙が多いよね。この人。
「ナルトのお祝いはするのに俺のはしてくれないんですかー?一人なんですよね。こんな中途半端な時間じゃどこかに出かけるってのも無理そうだし」
さも楽しみにしていたとばかりに落ち込んだ顔をしてやった。
確かこの人は誕生日に温泉に出かけたとか言っていたことがあるはずだ。花町だのなんだのにも縁遠そうだから、思いつきもしないだろう。
「う…その…本当に申し訳ありません…!でも俺なんかじゃ…」
案の定罪悪感で一杯の顔をした男を、再度追い詰めてやることにした。
「お祝い、誰もしてくれないんです。家族なんて疾うの昔にいなくなっちゃったしね。ま、祝うような年じゃないんですが、一人でいるのもね」
ベッドの上でうつむいて見せたらイチコロだった。
「分かりました!お祝いしましょう!えーっととりあえずらーめん…じゃなくてケーキか寿司か…!?」
真っ先に食い物が出てくるあたりナルトの先生だよねぇ。
「病みあがりでしょ?ちゃんと寝てなさいって。で、晩飯付き合ってくださいよ」
「え、は、はい!」
よし言質取った。無駄に義理堅いこの人のことだから、確実に約束は守るだろう。
後は口八丁手八丁で丸め込んで、しばらくうちにいてもらえばいいだけだ。
「じゃ、よろしくね?」
そうして簡単につけ込まれるこの人をしっかり家の中で軟禁すること3日。素顔のまま寂しいと訴えれば絆されてくれるのをしっかり堪能した。
そのたやすさに不安を覚え、快活に笑う顔に胸が高鳴った辺りで自分の気持ちに気付いた俺が実力行使に出たのはその日の夜のこと。
驚かれて抵抗もされて、だが懇願するとあっさり折れたというか、でもまだ早いと思うというのを宥めすかしておいしく頂くことに成功した。
顔が良すぎるし、甘えん坊だし、そのくせ強引でわがままだし!しかも上忍のくせにかわいいとかアンタどうなってるんですか!なんて、翌日腰をさすりながら説教されたのもいい思い出だ。
それから、三日遅れの誕生日プレゼントはずっと家にいてくれて、愛を囁くたびにかわいい顔をしてくれている。


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例の薬も使ったとか使わないとか。
綱手姫に感謝しまくった上忍が酒瓶もってったおかげで気味悪がられたとか。
ほだされた中忍がしっかりめろめろとか言う話はまたいつか?

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