ふわふわの布団で目覚める幸福感は、なにものにも換え難い。 それも隣にもっと手触りのいい生き物が一緒ならの尚のこと。 「ん…イルカせんせ…?」 もぞもぞと布団の中で俺の名を呼ぶこの男が、どうして俺の家にいついてしまったのかは覚えていない。 ただ、なんとなく一緒に飯を食い、眠くなれば適当に寝床にもぐりこんでくる。 そういう生き物が家にいるというのは、意外と幸せだと知った。 子どもができたら…とか、嫁さんもらったらこんな感じなんだろうかと考えたこともあったっけ。 でも、どっちかっていうとこれは。 「ペット…」 寝ぼけた自分の口から零れた言葉に、自分で納得した。 そうだ。ペットだ。だからこうして好き勝手に振舞われても納得できるんだきっと。 何をしていてもかわいいし、擦り寄ってくるとなんというか…胸がキュンとする。 こっちが忙しくても何を手伝うというわけでなし、構ってもらえないと知ると愛読書の怪しげな本を読み始めてしまうだけで。 …外見がいい生き物は得だという見本のような人だ。 それでも腹が立たない。というかきっと、この人に何かして欲しいなんて思わないだけかもしれない。 側にいる。 それだけで俺にとっては十分だから。 「どしたの?眠れない?」 …落ち込んでるとこうして寄り添って慰めてくれもするのだけれど。 どうしてなのか、こっちが何もいわなくても察してくれる人だ。 以心伝心というか、お互いに思いや過去を言葉にするのが上手くないくせに、何もいわなくても妙にしっくり来るこの関係は、俺にとってはありがたかった。 「なんでもないですよ?…任務で疲れてるんだから、寝ちゃってください」 側に、いてくれる。 たとえそれが今だけかもしれなくても。 …だから、今日見てしまったことは胸の中にしまってしまうことにした。 だって、何の約束もしていない。 かわいらしいというより美しいという言葉がぴったりの女性が、この男に熱心に愛を囁いているのなんか、見たくないと思ってしまった。 それに笑顔をみせる男なんて、もっとだ。 本当ならそれは望むべきことなのに。理不尽な怒りに任せて男を責めてしまいそうな自分が嫌だった。 少なくとも俺みたいな男と、今のように居心地はよくてもあいまいな関係のままでいるよりは、綺麗な女性と家庭を作る方がずっといいはずだ。 …今は俺になついているだけで、本当は別に俺じゃなくてもいいんじゃないか。あんな風に寄り添っても自然な相手がいくらでもいるなら。 そう思うことが苦しかった。 こうして側にいてくれるようになったのはこの男の気まぐれで、だからいつかふらりと出て行ってしまってもおかしくない。 適当に相手をしてくれるそこそこ居心地のいい場所だってくらいしか、男が俺の家にいる理由を思いつかなかった。 そんなこと気づきたくなかった。いや、気づかないフリをしたかっただけだろうか。 何もいわずに、側にいてくれる間だけこのぬくもりを独り占めできればいい。 誰にも渡さない。渡したくないなんて…そんなのは無理に決まってる。 俺だけだ。きっと。…こんなにも身勝手な思いに溺れているのは。 気まぐれになつく男をどう思っているのかなんて、忘れてしまったほうがいい。 手にはいるものだけで満足していれば、いつか出て行ってしまっても、少しは寂しいだろうが、耐えることができるはずだ。 今は、まだ無理だとしても。 だから俺にとっては男は上忍でも写輪眼でもなくて、…恋人でもない。 ただのうちのペットくらいが丁度いい。 「うそ。…ねぇ。そんな顔してるくせに、どうして言わないの?」 …男のこういう聡い所が嫌いだ。優しくなんてしないで欲しい。 いつかきっと、それもきっと遠くない内に出て行ってしまうかもしれないくせに。 「…寝ます。いいから黙ってあんたも寝なさい」 抱きしめたいと思った。今だけでも。 でもきっと、こんなにも無自覚に、与えられるぬくもりに貪欲だった自分が、今だけなんて我慢できるはずもない。 そもそも不自然なんだ。こうして側にいること自体が。 「んー?寝るけど。ねぇ。もう日付って変わったよね」 「え?あ。ホントだ」 くさくさする気分のまま、早々に寝床にもぐりこんだから気づかなかったが、時計の針は12時を越えている。 …そうか、そういえば今日は。 「お誕生日おめでとう」 嬉しいのに胸が苦しい。 そんな顔で笑うな。…幸せそうに、俺を大事なものみたいに見ないでくれ。 俺が勝手に勘違いしただけで、そのせいで自分の中はどろどろしたものでいっぱいなのに。 「…ありがとう、ございます」 どうにか礼だけは言えた。 滲んだ涙は気づかなかったことにして貰おう。涙もろいと知られているから、どうにでも言い逃れできるはずだ。 「今日明日、イルカ先生のお仕事はお休みです。プレゼントを受け取ってもらうから」 「は?」 沈んだ気分は一気に吹き飛んだ。明日は普通に仕事のはずだ。誕生日だの、その翌日だからだのって休みが取れるわけがない。 確かに有給は溜まっているが、仕事に穴を開けてまで休みをとるのに気が引けたせいだから、申請をした覚えもない。 上忍なら、それもこの男なら中忍一人の休暇くらいどうとでもできるのは想像できたが、あまりに唐突過ぎてしばらく意味が理解できなかった。 「本当はお祝いのご馳走とか、雰囲気とか色々考えてたんですが…我慢できない」 抱きしめたいと思っていた生き物に、抱きしめられている。 心地よさとこみ上げる切なさに、訳が分からなくなりそうだ。 「我慢って…なにが」 普段から比較的好き勝手に過ごしているこの生き物が、我慢なんて言葉を口にしたことに驚いた。 任務なら別だが、うちにいるときはきまぐれになつく獣そのものだったのに。 「おいしそうなイルカ先生を食べることかなー?」 全部あげるから全部下さいね? にこりと笑った笑顔は、まるで天使のようだった。 …その後の不埒な行為とは、正反対に。 ***** 散々喘いで、幾度も達して、意識なんてもうとっくに怪しかった。 ぬるりと抜き出された他人の熱と共に生温かい体液も零れ落ちて太腿を汚し、そのなんともいえない感覚に、やっと開放されたのだと理解できたくらいで、それでもまだ頭の中が与えられ続けた快感で白く染まっている気がする。 食べるという表現はまさに正しかった。 強引に、だが確実に快感を引き出して俺の抵抗を奪った男は、怯える暇さえ与えずに最後までことを進めた。 流石に同性の性器を受け入れる段になったら、多少抵抗した気もするが、痛みとそれを凌駕する充実感に途中で思考を投げ出した。 鼓動が重なって恐ろしい程近くにいる。 それが馬鹿みたいに嬉しくてすがり付いて、そのうちそれすらもわからなくなるくらいぐちゃぐちゃにされた。 …この男がいついてからも性欲は確かにあったし、思いを自覚してからは欲しいとも思っていたけれど、こんな風に交じり合う所まで想像したことなどなかった。 いきなりこんなことになって、戸惑うことすら出来なかった。 それなのに長く居座っていたもののせいで未だうずく下肢が、眠りにさえ逃げさせてくれないのだ。 心も体も綺麗に平らげられてしまって、もう俺にはなにも残っていないんじゃないだろうか。 「動けないでしょ?だからお休みにしておいたんです」 ちょっと誇らしげに言う所に呆れる余裕すらない。 力なく投げ出したままの体に、まだ物欲しげに腰に当てられた。 「え、あ…?」 なんでまだこんなに硬いんだ。ついさっきまで散々やってたのに。 「どうしよ。しあさっても休みにしたら、週末中ずーっとできるよね?」 その台詞でやっと正気に返った。 「無理…というか、なにすんですかいきなり…!」 「…ま、いっか」 「説明…っん!」 「考えるより気持ちいい方がいいでしょ?イルカ先生は。だって余計なことばっかり考えて、俺のことみてくれないんだもん」 喘いで俺の名前呼んで、俺だけみてればいいのに。 物騒な呟きに感じたのが、歓喜だなんて笑えない話だ。 「ひぅっ!あ、あ…!」 結局その隙をついてというか、人の足の間に収まって、ちゃっかり自身を俺の奥の奥まで埋め込んだ男が、ふぅっと甘いため息を吐いた。 「誕生日まで我慢するのって、大変だったんですよ?」 ゆるゆると腰を揺さぶりながら、決定的な刺激を避けるように動かれて、もどかしさにシーツを掻いた。 まるで焦らされているようで苦しいのに、きわどい所を撫で回してさらに煽ってくるから、男にすがりつくしかなかった。 「や、なんで。…あぁ…!」 「先生なら心の篭ったプレゼント、返品したりしないでしょ?絶対に」 にんまりと笑うその顔は、悪巧みが成功した子どものようだ。 そんな理由で今まで、そもそもいつから。 投げかけたい質問も形になる前に膨れ上がる欲望に押し流されてしまう。 「う、もっと、ちゃんと…!」 「ん。じゃ、言って?…欲しいって」 唆す声に抗う何かは、蕩け始めた意識と一緒に溶けてしまっていたらしい。 「欲しい…!」 「あげる。だから絶対捨てないでね?」 勝ち誇ったような笑顔で激しく俺を揺さぶる男にすがりついて、待ち望んだ快楽だけを追った。 頭が白くなるような快感と満足感にひたりながら。 ***** 「おはよ」 「うぅ…」 結局何もかも考えるのを放棄してしまったのは失敗だったと思う。 朝になってみれば散々蹂躙された体では動けないし痛いし、にやにや笑う男を殴ってやることすら出来ない。 「これで晴れて正式にイルカ先生のモノになったんだし、お休み中はずーっといちゃいちゃしましょうね!」 …そう夢見心地に語る姿に、こんな目に合わされたっていうのにかわいらしいと思ってしまった。 指先を動かすのでさえだるい体を抱きしめられてもされるがままだ。 そうでなくても経験したことのない違和感を覚える体では身動きもつらいというのに、それに気を良くしたらしい男は、せっせと口付けやら愛撫染みた行為を続けている。 もうこれ以上絶対に無理だと思うのに、こっちの都合などお構いなしだ。 …これが今年の俺の誕生日プレゼント第一号ってことか。 今までそれこそ飴玉1個から酒に至るまで、色々なものを受け取ってきたけれど、その中でも飛びっきり上等で、誰よりも何よりも嬉しいプレゼントだ。 こんなに自分勝手なのに。 「…お祝い、嬉しいです。ずーっといちゃいちゃは却下ですが、えーっと、その…!」 「なぁに?…プレゼントは返却不可だからね?」 毛を逆立てた猫みたいに警戒している男を、今度は俺の方から抱き寄せてやった。 「…返しませんよ。だからアナタはずーっと俺のモノですから」 「ん。そうして?…ずーっと、ね?」 極上の笑みを浮かべる男がどうやら勝手にいちゃぱら計画を実行しようとしているのに身を任せた。 最高の誕生日プレゼントをじっくりと味わうために。 ********************************************************************************* 大分やっつけながらおーいーわーいー!!! イルカ先生お誕生日おめでとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ではではー!ご意見ご感想つっこみなどお気軽にどうぞー!!! |