変態の傾向と対策

朝起きるなり変態が俺の部屋に入り込んでいた。
悲しいことにコレはいつものことだ。毎朝俺の目覚めをじっとりと見つめ、そして…その、不本意ながらああなってからはより一層しつこく、 布団の中に入り込んだり、ケツだのなんだのを触ったり揉んだり…果てはそのまま…いや、今はソレはどうでもいい。というか記憶から抹消したい。
まあとにかく、何故かその日の変態はどこか違っていた。
「犬…。」
「はぁい!アナタの犬にして最愛の伴侶にして…永遠の番!カカシでぇす!」
いつもの様に期待に満ち満ちた邪な瞳で俺を見つめ、気持ち悪い言い回しでニコニコ笑っている変態は…耳が増えていた。
首輪は…まあいい。馴れた。馴れたくはなかったが。だが、なぜコイツに耳が…白くてフサフサでちょっとなでたくなるような耳が生えてるんだ!?
うっかり手を伸ばしそうになったが、変態が俺の布団の中で腹を見せて身もだえして見せたので冷静になった。
「ご主人様ぁ!かまってください!むしろ踏んで!」
「言動は変態のままか…。」
コレで可愛らしい犬みたいな性格してたら思わず騙されたかもしれん。まあ、どっからどうみても変態だが。
「俺はアナタの犬!だから…どうぞ好きに扱ってください!!!今すぐ抱きしめて!でもめちゃめちゃにして!でも、犬プレイしたい!でも…」
延々と無駄にテンション高くまくし立ててくる変態は、そんな事を言いながら俺に絡みついたままだ。とりあえず犬らしく扱ってやることにした。
「犬。とりあえず…どけ!」
「はぁい!」
嬉しそうに命令を聞いた変態は、ソレからも徹底して犬を演じ続けた。
飯の用意なんかはいつも通りしてあったが、飯を食ってる最中も犬らしさを徹底的に貫き、端も使わず犬食いしていた。汚れた口をこれ見よがしに アピールし拭いて欲しそうにしていたのでティッシュでごしごしとふき取ってやった。かなり力を入れたので、変態の白っぽい肌は赤くなってしまったが 本人は幸せそうにやに下がり、スリスリと頭をこすり付けてきたのでいいことにした。
食器をいつも通り片付け、アカデミーに向かった。
張り付いてはがれないのはいつも通りだが、アカデミーに着くまでの様子はやはりおかしかった。まず、「あぁ耳がかゆい!かゆいなー!」などと わざとらしく宣言し、目をキラキラさせてアピールしていた。
勿論スルーしたら、変態は俺の目の前で足で耳をかいて見せた。体の柔らかさにおどろきつつ、いつもの様に知りに張り付いてくる変態を引き連れて アカデミーに向かった。
ところがいつもと違い、下駄箱どころか職員室につながる廊下にまでまで着いてきたのだ。普段なら正門前でサンダルを舐めさせてやるのだが、 今日はそれを強請ることもせず自然にくっ付いてきたので俺は慌てた。
普段は正門前で教育に悪い物体は排除するのだが、ココまで着いてこられたのは初めてだ。
殺気で周囲を威嚇して、迷惑極まりない。まあ、いつもいつの間にか職員室の俺の机の上にはいるんだが…。
とにかく。邪魔でしかたがないので、正門の前まで変態を引きずっていった。
首輪に犬耳。…視線で、かまってかまってむしろ踏んで!とアピールし続ける変態は、どうやら新しい遊びを勝手に始めたようだ。
変態に付き合うのは業腹だが、仕方がない。俺はため息をつきながら、変態に命令してやることにした。
「犬。お座り。」
「はぁい!」
「…待て。」
「はぁーい!」
ニコニコしながら犬座りして俺を見つめる瞳は…邪なはずなのに、純真さをアピールしていてちょっと心がうずいた。
「お、おい。いいのかよ!」
同僚も心配してくれたが、とにかくこんなもんをアカデミーに入れるわけには行かない。
「大丈夫だろ。そこそこの所で諦めて俺のトコにくるだろうから。」
俺は自分にもそう言聞かせながら職員室へ戻った。
*****
昼休みになって、弁当のふたを開けるといつもなら、速攻現れて、俺が飯食ってる口元を気持ち悪いくらい凝視してくるはずの変態がいない。
もしかして任務か?
そう思いながら何気なく校庭を見ると…そこには未だに正門前に座り込んで俺を待っている変態がいた。
弁当のふたを慌てて閉め、瞬身まで使って駆け寄って物陰に引きずっていった。
慌てているのは…変態をアカデミー生に見られてしまったせいだと自分に言聞かせながら…。
「おい!貴様何やってるんだ!」
首根っこを掴んで持ち上げながら変態を問い詰めた。
低学年の子は、演習のときにこの変態と会ってるからうっすら俺関係の生き物だと認識されてるし、高学年だとこの格好でどこの誰だか丸分かりだ。
だが、変態は涙目で首元を掴んだ俺の手を舌を必死で伸ばして舐めると、震える声で訴えてきたのだ。
「ご、ご主人様!ずっと…ずっと待ってました!!!褒めてください!!!」
涙と、どうやら鼻水もたらしているらしく、ぐしぐしと男立てながら俺にすがり付こうとしている変態に驚き、気がついたら頭を撫でてやっていた。
「あー…?よしよし?」
だが、コレはどういうことだ?
変態は、嬉しそうに目を細めているが、ココまで変な行動を取ったことはなかったはず。
動機は…一体…!?
動揺するあまりかなり力強くごりごりと変態を撫で回していると、ちらちらと顔色を伺っていたい駄犬が、期待をこめた瞳で訴えてきた。
「も、もっと別の所も撫でて欲しいなぁ…!むしろ…舐めさせてください!」
「調子に乗るな!」
いつもの変態に戻ったようなのでとりあえず地面に転がして軽く腹を踏んでやる。
「あぁん!もっと!」
幸せそうにしてる所を見ると役に立っているのかは疑問だ。だが、何はともあれコイツの行動を確かめなくては。
…とりあえず一番気になっていた事を聞いてみた。
「おい犬。お前、任務はどうした?」
「犬なので。任務なんか知りません。」
普段ならニコニコしながら無駄に自分の活躍を語る変態は、今日に限って、ふいっと顔をそらしてみせた。
そう。まるで拗ねた犬のように。
「馬鹿か!?ひょっとしてナルトたちをすっぽかしたりは…!」
「犬だから下忍なんて知りませーん。ご主人様とイチャイチャするのが仕事です!」
えらく嬉しそうにそんな事を言った変態は、俺の足に顔を擦り付けて撫でて欲しそうにしている。
これは…何があったか知らんが許せん!
「お前は…犬なんだったな。なら、お前なんかもういらない。捨てる。」
犬に限らず、飼っていた動物を捨てるなんて最低なのは分かってる。だが、コレは見過ごせない!
躾けの一環として、これからこの駄犬をしっかり働かせなくては!
俺にそっぽを向かれたのがよほど堪えたのか、泣きそうな声で抱きついてきた変態が、絡み付いて身をよじりながらぶーぶーと文句をたれはじめた。
「そんな!酷い!俺のこと捨てるんですか!!!」
…計算どおりだ…!
「…まともに働かん駄犬なら、な。…ちゃんと働く上忍師なら、かまってやらんでもない。」
コレで、コイツは確実に…。
「今すぐ!行ってきまーす!!!」
よし!やはりこの手は有効だな!
一目散に駆け出した変態は、俺に見棄てられるの怖さに、いつもよりちゃんと働くことだろう。
「…全く迷惑な駄犬だ…!!!」
俺はため息とともに駄犬を罵倒して、通常業務に戻った。
ちょっとした胸騒ぎを感じながら…。
*****
職員室に戻るなり、何故かやたら青い顔をした同僚に話しかけられた。
「イルカぁ…あのさ、お前…昨日豆腐屋の犬、かまってただろ。」
「そういえば…」
久しぶりに湯豆腐が食いたくなって、たまたま変態が留守だったのもあって、豆腐を買いに行ったんだだった。
…あそこの犬は子犬のときから知っている。俺の生徒たちが子犬を拾ってこっそり飼ってて、コソコソやってるのに気付いた俺が後をつけて… みつけたらみつけたでビービー泣かれて…。
確かに同じような経験が俺にもあるもんなあ。うちは両親共に忍びだったから飼えないって言われて、結局よそに引き取ってもらったんだよな…。
まあ、今度は俺がその役目を担ったわけだ。
ポスター作って、商店街に頼みに行って、知り合いにも当たってみて…やっと番犬を探してた豆腐屋のばあちゃんが飼ってくれることになったのだ。
そんなわけで、引き取ってもらえるまで面倒を見ていた俺に、あの犬は未だに懐いてくれる。久しぶり会った俺にしっぽをブンブン振って、 嬉しそうにわふわふ言われたら…撫でないでいられるわけがない!
まあ、要するに豆腐屋のばあちゃんと世間話しながら犬をずっとなでてたんだが…。
「で、それがどうしたんだよ?」
「それでさ…お前が犬なでてるのをずーっとはたけ上忍が凝視しててさ…。」
「はぁ!?」
いつのまに!?でも昨日の晩飯には帰って来なかったぞ?夜になってから俺の布団に入り込んだんだと思ってたが、実はストーキングされてたのか!?
「だからさ、それで、今日のアレだったんじゃないか…?」
そうか…そういうことか…!
駄犬の分際で嫉妬でもしたに違いない。
「すまん。ありがとう。迷惑かけた。」
「いや、いいけどさ。…ちゃんとかまってやった方がいいかもな。…安全のために…。」
同僚がぎこちない笑顔を浮かべてうつむいてしまった。…どんな監視の仕方してたんだか…。
まあ、いい。原因はわかった。それなら俺の対処の仕方も変わる。
「手間かけさせやがって…。」
俺はさっきみた心底悲しげな顔の変態を思い出しながら、今後の対策を考えることにした。
*****
うちに帰るなり、元気一杯の変態が、いつものセリフをほざいた。
「お帰りなさい!イルカせんせ!まずは俺?それともご飯?やっぱり俺?風呂?風呂と見せかけて俺?やっぱりここは俺ですね!!! …浮気されても諦めません!あんな間男に負けない!」
ちょっとだけ語尾が変わっていたが。
「おい。犬。」
カバンを持っていかれて、靴も脱がされて甲斐甲斐しく世話をされながら、俺は駄犬を呼びつけた。
「いいえ!俺はちゃんとした上忍師なんですー!だから…捨てないで…?」
泣きそうな顔というか…すでにちょっと鼻水すすってる変態は、哀れっぽく訴えてくる。とりあえず、頭をなでてやった。
「お前は、俺の犬だ。で、俺の犬はお前だけだから安心しろ。あの犬は…昔俺が世話してたことがあるから、懐いてる。それだけだ。」
何だか浮気のいいわけみたいで気が引けたが、変態の被害が豆腐屋のばあちゃんや、犬に及んだらコトだ。
変態は頭をなでている間中、すんすんと鼻を鳴らしていたが、俺の言葉で少しは落ち着いたようだ。
「間男…じゃないんですね?隠し子なんですか…?」
ちょっと言動が普通じゃないが、まあ、正常の範囲内だろう。こいつなら。
「泣くな。いいから…飯。」
「はい!」
気まずくなって変態に飯の催促をしたら、それはもうすばらしい速さで俺を食卓まで運び、料理も何品あるんだか分からないくらい並んでいた。
「…美味そうだな。」
おそらく今日の俺の言葉の影響だろう。哀れに思ったので一応褒めてやった。
まあ、無駄になったが。
「そんな…!イルカ先生の美味しさに比べたらこんな料理…!イルカ先生のおしりはもう最高で…!!!ああ…今すぐ食べたいなぁ…!!!」
邪な視線とくねくねした動きが、俺に迫りつつある危険を知らせてきた。
コイツは…俺が一回してやられて以来調子付いたのか、なにかというと結構な強引さでコトを進めたがる。前の調子で油断していて、 すでに数回負け戦を経験済みだったりする…。
つまり、今の俺の貞操は…大ピンチか!?
とにかく飯を食うことに集中しつつ、変態から視線をそらした。
その間中、粘りつくような視線を感じたが、できる限り気にしないようにして、山盛りあった飯を食った。
飯が結構美味かったので、その内変態のことも気にならなくなって、がつがつ食っていたが、…途中で様子がおかしいことに気がついた。
「なんだ…お前は食わないのか…?」
いつもならなんだかんだ言いながら俺と一緒に飯を食う変態が、さっきからニマニマしながら俺を見てるばかりで、はしをつけていない。
忍の身で、数日食わないくらいなんてことはないが、ココは里だ。飯は食えるときに食っておくべきだというのが俺の持論なので、変態に飯を勧めた。
「おい。お前も食え!」
だが、俺の言葉など聞こえていないかのように、変態はふわふわと陶酔しきった笑みを浮かべて俺を見つめている。
そして、弾んだ声でこう言った。
「イルカ先生の犬は俺だけ…。幸せです!」
普段から、コレくらいおとなしくしていればいいものを…。
だが、何故かちょっと動悸がした自分に驚いた。
それにしても、駄犬は自分では飯を食わないつもりでいるらしい。
だが、まだまだ山盛り残ったこの飯…もったいないにも程がある!
しょうがない…コレはもったいないからであって、別にコイツのことが心配なわけじゃない!
そう思いながら、俺はまず、手近にあった春巻きを一本はしで持ち上げた。
「おい。これを食え。」
目の前にもっていってやったら、一瞬不思議そうな顔をした後、ものすごい勢いで食いついてきた。
ついでに、俺のはしまでしゃぶっている。
「イルカ先生の味がする…あぁぁ!なんて!おいしい…!!!」
まあ、そうだったな。コイツは変態だ。
「アホだなぁ…」
とりあえず飯を食う気はあるようなので、残りをねだる変態の鼻をはじいてやって自分で食わせた。
その間中ニマニマしていてちょっと気色悪かったが、とにかく飯も食い終わったのでそろそろ寝る仕度でもしよう思い、席を立った。
「風呂入って、寝るか…。」
そうつぶやいたとたん、変態が豹変した。
いきなり羽交い絞めにされて、気付いたら服を着たまま風呂場に突入していたのだ!
今まではなかった展開だ…!!!
俺は慌てながらも変態の様子を観察したが、すでに全裸で、とある部分のヤル気も十分に見て取れた。
何とかして逃れようと、股間を狙って後ろ蹴りを放ったが…。
「おぉっと!今日もぴちぴちに生きがイイですね!!!このイルカは!!!」
見事によけられて…距離を取れただけに終わった。
「くそっ!」
俺は最後の砦…つまり服を守るべく、奮闘した。だが、やはりヤル気満々の変態は中々しぶとく、殴っても蹴っても当たらないばかりか、 嬉しそうに笑っている。まだ帰ったばかりだったの、比較的変態に有効な武器である鞭を持っていなかったのも痛い。
俺はそれでも諦めずに戦うつもりだったが…いつの間にか背後に回りこんでいた変態が嬉しそうに笑いながら、俺に言った。
「つ・か・ま・え・た!!!」
俺の背後から、ぴったりと密着した変態は、はあはあと荒い息を吐きながら臨戦態勢のものをこすり付けてくる。
…服は着ていても感触は伝わる。
俺は、冷や汗が滝の様に流れ出すのを感じた。
「放せ!っこの!」
もがもがとあがいても、変態はすりすりと頭と…股間を俺に擦り付けながら、とろけそうに甘い声で俺を呼ぶ。
「イルカせんせ…!」
その声に、俺は思わずビクッと震えた。
マズイ!ヤバイ!
…そう思っているのに。
振り返ってみたら、変態な駄犬が引っ付いてそれはもう嬉しそうにしているので…思わず動きを止めてしまった。
…まあ、ソレが敗因となったわけなんだが…。
俺がちょっと動きを止めただけだというのに、変態はさも感動したかのような口調で、こういった。
「イルカ先生!イルカ先生も…待っててくれたんですね!俺とのコト!!!勿論ご期待にお答えします!今すぐ!」
あとはまあ…服ひん剥かれて、膝の上に乗っけられてされたり、浴槽の中でされたり、ぐったりしてたら布団にまで運ばれてさらにとんでもない マネをされたり…エライ目に合うことになった。
…今日の教訓。塩らしい変態に隙を見せてはいけない。
俺は…まけねぇぞ!!!
「あぁ…幸せです!!!」
布団の中で息も絶え絶えな俺に、いろんな意味でくっ付いたままの変態を退ける力のない己に歯噛みしながら、そう心に誓ったのだった。

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今日も生きのいい変態さんに苦労させられるイルカ先生だったとさ…。
ほだされやすい性格が禍しがち。
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