結局予想通り食事の後も盛り上がった変態に散々好きにされた。 …変態特製の美味いが妙な成分入りの飯を食ったせいで、結構体力は回復していたのにもかかわらず。だ。 そして…目覚めた俺の視界に入ったのは蕩けるような笑顔で、せわしなくはぁはぁと呼吸を荒げる変態の顔だった。 …いつのもことだが。 こんなことに慣れてしまいたくなどなかったが、常習的に俺の布団にもぐりこみ、変態行為に及ぶ変態のせいで、俺はすっかりこの光景とおなじみになってしまった。 「どけろ!この駄犬!」 勢い良くけりつける。あれだけ修行してもこの状態では当たらない。だが知っていても、何もしないでいられるほど俺は寛容じゃない。 せめてもの抵抗は、これもまたいつも通り蹴り上げた俺の足を舐める変態のお陰で無に帰した。 「ああ…美味しい…!」 「ひっ!離せ!」 どうしていつもいつもこいつは…!!! 同じ男の…それもかなり体格のいい俺の足なんか舐めてナニが楽しいんだ!? ギッと睨みつけると、何故か頬を赤らめた変態がものすごい勢いで余計なセリフを垂れ流し始めた。 「良く眠っているイルカ先生…!凄くステキでした…!半開きの口から零れ落ちるイルカ先生の体液がもう…!!!」 「ちっ!気色悪いことばっかり言いやがって…!!!」 視界がにじむのは涙なんかじゃない…!こんなヤツのせいで泣いたりなんかしないぞ!!! 己を必死に保とうと努力したが、変態はやはり変態だった。 「はい!勿論美味しかったです!!!」 「な、なにしやがった!?」 「輝くその美しい雫がイルカ先生の一部だったかと思うともう俺…!!!舐めてすすって味わって…!!!」 …寝てる間にまで変態行為の餌食に…!? だ、だが!幸いにして覚えていないんだ!これ以上の情報は必要ない! 「…っ!もういい!黙れ!服を着ろ!」 動揺がにじみ出る悲鳴じみた声だったが、抵抗は諦めなかった。 変態にこれ以上好きにされてたまるか!俺は…コイツに打ち勝つんだ! 気合を入れた段階でやっと気がついた。 何故か森の中だというのに布団が敷かれていて、そして変態は全裸で俺は…! 「ステキですね…やっぱり!そのベスト、イルカ先生の色気たっぷりの生肌にとってもよく似合ってます…!!!もうなんかにじみ出ちゃいそうなくらい…!!!」 「ぎゃあああああああ!!!!!!」 普段は静寂に沈む森に、俺の絶叫が響き渡り、今日も今日とて飛び立つ鳥や、逃げ出す動物たちがざわざわと森を揺るがして…。 コイツと俺がいる限り、この付近の生き物に平安など訪れそうもなかった。 ***** 「ああん!脱いじゃうんですか!似合ってるのにぃ!…も、もしかしてもう一度脱がせて欲しいって言うおねだりですね!!!」 「うるさい!黙れ!そんな訳あるか!」 素肌ベストへの異常なこだわりを見せる変態のせいで、またもおかしな格好をさせられていた俺だったが、意識が戻った今、当然のことながらそんな格好は断固拒否した。 変態の前で全裸になると言う危険を冒すつもりはなかったので、入念に素肌ベスト姿で変態を踏んでやって、着替えを用意した後ではあったが…。 …それだけで大分時間を食ってしまったのが痛い。 まだうだうだと文句を言っている変態は不愉快だし、踏んでやっている間中、ベストの下からナニかを凝視し、うっとりと目を細めていた変態の顔はもっと不愉快だったが、それはそれだ! …これ以上ダメージを受けないために、ある程度の譲歩は必要だ…!!!泣くな!俺!まだ負けてなんかいない! 己を励ましながら急いで忍服を身に着けた。 「さ、修行しましょうか!」 さっきまで俺が服を切るコトにうだうだと文句を言っていたくせに、やはり変態は打たれ強いというかなんというか…。 一見爽やかな笑顔で両腕を広げて見せているが、全裸で…しかもヤル気満々の股間を晒されては説得力の欠片もない。 …コイツの脳内には、俺と変態行為に及ぶことしか詰まっていないんじゃないだろうか。 「勿論修行する。…但し一人でな!お前はソコで飯の支度でもして待ってろ!」 駄犬にお預けを食らわせるためにはまだまだこれだけでは甘いだろう。 次はどんな手を打つか…!? 迷っている間にも、変態は活動を続けている。 「はぁい!勿論!おいしいおいしい朝ごはんが用意できてますよー!!!ま、イルカ先生のかわいいお尻の美味しさにはかないませんけどね!」 いそいそと膳を持ち出す変態は、相変わらず甲斐甲斐しい。 そしていつでも変態なセリフを付け加えることを忘れない。 朝っぱらから…というか、既に大分時間が経っているが、とてつもない疲労感だ。 だからと言って、何も言わずに放置すると勝手に盛り上がって危険なのでしつけは欠かさない。 「黙れ!とっとと飯だ飯!」 「…あ、バナナ丸しゃぶりも勿論いつでも…!!!」 「しまえー!!!」 …疲れた…なぜ変態のナニをこんなにもしょっちゅう見なければならないんだろうか?毎朝毎朝…むしろ酷いときになると毎時間…! 不本意ながら既にその形状はしっかり脳に焼きついてしまったし、体の方も…いや!考えたら負けだ! 「て・れ・や・さん!ささ!ご飯食べましょうねー!座ってください!」 どこのだれが男に…全裸で、さらに覆面で、しかもはぁはぁと荒い息を吐き出しながら興奮も露なナニを晒している…そんな男に膝を叩かれて座るだろうか? そもそも男が男の膝に座ると思っている辺りで大間違いだ! 飯は食う。残すなんてもったいないコトはできない。 だが、ケツに変態のナニをくっつけて変態行為を受けながら飯を食うつもりなど微塵もない。 俺は無言で変態の横にある飯に手を伸ばそうとした。 だが…。 「く、口移しがいいんですね…!!!」 「なんでだー!?」 変態は、朝から晩まで変態だから、変態なのだというコトを忘れていた。 爽やかな朝であろうと、変態にとってはいつもの活動時間帯…というか、コイツに休止する時間などないので、俺も一時も気を抜けない。 修行…そう、日々修行していると思うしかないのだ。 …何故か妙に悟りを開けたような気が…! そんなコトが頭によぎったが、変態が口にくわえた卵焼きは避けきれず、既に口内で変態の舌と一緒に十分に攪拌された後だった。 「うっうう…っ!」 無理やり嚥下させられた。卵焼きと変態の唾液がまざったモノを。 美味いが、そういう問題でもない。それ以前に執拗に俺を味わおうとする変態の舌の動きがすさまじすぎて、十分に味わえる状態になかった。 …最終日だからなのか、変態の変態行為には躊躇いという物がない。…というか元々ないが、レベルが上がっている気がする。 俺の怒られるても退く様子がないのが気にかかった。 …ヤツは、きっと何か企んでいる…! 「泣くほど美味しかったんですね!俺の卵焼き…それとも、俺のテクニックですか…!!!ああんもう!涙目のイルカ先生…っ!」 「ふざけるな…っ!」 腹は減っている、だがこのままでは…! そう思う俺をよそに、変態はさっと次の焼き魚を口に咥え様と…! とっさにその焼き魚を奪い取り、口の中に放り込んだ。 「いやん!そんなにおなかが減ってたんですね…!な、なら…!」 何故か激しく興奮しながら股間を盛り上がらせていく変態をサクッと無視し、とにかく茶碗によそってあった飯をかきこんだ。 …やたら美味い。美味いが、味わっている時間はない。 股間を擦り付けながらなぜか新たなベスト片手ににじり寄ってくる変態がいるからだ。 …今着ているものは恐らく変態が用意した新しい物のようだが、変態が握り締めているものがそうとは限らない。最悪何らかの仕掛けが施されている可能性だってある。 「行ってくる!貴様はソコで待機だ!」 覆いかぶさってくる変態を修行の成果か避けきって、俺は一目散に走り出した。 …とにかく、今目の前にある危機から逃げ切るために…。 ***** 食ってすぐ走ると胃が痛い。 …だがそんなコトを言っていられる状況じゃなかった。 分身を放ってかく乱しながら全力疾走したが、チャクラコントロールが良くなったせいかそれほど消耗していない。 修行の成果は、確実に出ている。 その手ごたえに、俺は僅かな希望を見出した。 今回、たった3日間だけの修行ではあったが、確実に変態を退ける能力は向上した。…気がする。 …つまり、今後とも修行を重ねることでいつか変態を…もっと何とかできる日がくるはずなんだ! のろいの指輪に関しても、きっと何らかの手立てがあるはず! 「ちっ…それにしても、これ、緩みもしねぇ…!」 最近とある事情…というか、変態と不本意ながら激しい運動に励む羽目になっているというやむをえない事情により、俺は結構痩せた。 だというのに、この指輪はぴったりと俺の指にはりついたまま、緩む気配さえ見せないのだ。 …まるで、四六時中俺を見つめ、にべっとりと張り付き、離れることのない変態自身のように…。 苛立ちのあまり強引に指輪をひっぱってはみたが、ただ痛いだけで…俺の苛立ちは更に酷くなった。 だが、苛立っても現状は変わらない。 現状は…きっと最終日にふさわしい演習だと思う。なにせ敵はホンモノの変態。そしてヤツはとてつもなくヤル気だ。もしかして全裸のまま俺を追ってきてるんじゃないかと思うくらいに。 大分走ったが、確実に距離を詰めてきているであろう変態の気配を警戒しつつ、俺は気合を入れなおした。 木々の間を吹き抜ける風は冷たくて、俺の頭に上った血を冷やしてくれる。 背後の気配に気付けたのも、きっとそのせいだ。 何かが、俺をじーっと見つめている。その視線の執拗さ。 …間違いなくヤツがいる! 分身ごときでヤツを止められると思っていたわけじゃない。 ヤツの性格からして分身の方から抱きついてその感触を楽しんでから襲ってくるだろうと予想しただけだ。 距離は、十分。そしてチャクラを練る速度も昨日の修行でかなり上がっている。 「…っの変態が…っ!食らえ!」 俺は、一応昨日の修行で培ったチャクラコントロールを活かし、大技を変態に向けてはなった。 勿論、俺が得意な水遁だ。 「ああんもう!イルカ先生ったら物覚えが良くって…!あ、あっちの方も勿論!!!」 …サクッと術返しされた。 霧散する大量の水しぶきが俺をぬらし、変態がそれにうっとりと目を細めている。 その向こうでヤツは…赤くてぐるぐる回る無駄に高性能な目玉がさらしながら、嬉しそうに笑った。 写輪眼すげぇ!ってそんなコト言ってる場合じゃなくて! 「なんで!俺の服!?」 ヤツが着ているのは昨日俺が着ていた服に間違いない。 …ヤツのほうが若干!足が長いからすぐ分かった。それに昨日の汚れがそのまま…! あんなもんが染み付いた服を…! 「愛のメモリー…肌身離さず味わいたくて…!」 うっとりと自分の体を…いや、恐らく俺の服を抱きしめている変態の手には、さっき逃げ出して時に押し付けられそうになったベストが握り締められている。 「うふふ!そのベストもぉ…とっても良く似合ってます!あ、因みに俺のお手製で、それはもう愛情とかいろんなエキスとか術とかたっぷり…!!!」 …俺の修行は…!結局、変態ベストツアーなのか?! というか、普通の支給服にしては軽くて扱いやすい気がしたのは気のせいじゃなかったのか!?妙な成分が仕込まれていたなんて…! 大分長い間身に着けていた。もしかすると変態の仕込んだ薬か何かでまた怪しい作用が…!? 想像するだけでぞっとした。 「ふ、ふざけるな!こんなもんいらん!」 とっさに、俺はベストを脱ぎ捨てていた。 …もう、変態の何かがしみこんでいる代物に耐え切れなかったから。 だがすぐに、それが失敗だったと思い知った。 「はぁい!お色直しですね…!!!こ、こっちのベストを是非…!」 しまった!? 一瞬で距離を詰めてきた変態を、今度は避けることさえできなかった。 …もしかしなくても、今朝逃げ切れたのも…!あれは、今まで来ていたベストを着て動き回る俺を堪能したかっただけに違いない。 なぜなら、俺はとめるどころか、変態の動きすら捕らえることが出来なかったから。 「そんなわけの分からんものはいらん!とっととお前は里に帰れ!離婚されたいのか!」 何もかもかなぐり捨てていっそ里を抜けてしまいたい…!この変態が着いてくるのは確実だからやらないけどな! もがく俺などものともせずに、一瞬にして、変態は俺にベストを着せてしまった。 …勿論、素肌に。 いつの間にか脱がされた上半身に、しっくりと馴染むベストが俺の怒りと疲労を倍増させる。 「ああんもう!これもステキ…!!!」 よだれをたらさんばかりに俺を見つめる変態…。 さっきまで来ていた物とデザイン的には全く同じのようだが、こちらの方が軽く、暖かい。 なんでこんなもんにこだわるのか俺には一生理解できないだろう。 …もう、どうでもいい気がしてきた…。どうあがいても俺はこの変態に勝つことなんて…! 「な、なめちゃおうかなぁ!?それとも…むしろかけて…!」 生暖かい感触が肩口を這う。そして密着する変態の股間は何故かギンギンにみなぎって…。 「諦めきれるかー!!!!!何しやがるこの変態!駄犬の分際でご主人様に逆らうんじゃねえ!」 「ああん!もっと…っ!!!」 駄犬のしつけも兼ねて思いっきり踏み付け、ついでとばかりにこれまで鬱積していた怒りを全部ぶつけてやった。 「この変態が…っ!誰の許しを得て俺のケツもんでやがる!匂いも嗅ぐな!もだえるのは勝手だがアカデミーに湧いて出るんじゃねぇ!存在そのものが18禁のくせに!」 「はい…!も、もっと…!もっと言ってください…!!!」 「いいか!離婚されたくなかったらおとなしく俺の命令に従え!飯は自分で食う!妙な物は混ぜるな!服は着ろ!全裸でうろつくな!」 「イルカセンセ…そんなに俺のことを…!!!」 「なにがだ!?」 この会話の流れでどうして感動できるのか訳が分からんが、変態はもだえながらうっとりと俺を見つめている。 …ヤツを踏みつけている俺の足の指をしゃぶりながら。 「俺の体は…いえ、全ては!俺の永遠の番!魂の片割れ!イルカ先生のものです!安心してください!!!」 「誰もそんな話はしていない!」 「イルカ先生のためなら何だって…!」 「ぬ・ぐ・なー!!!!!!」 その後も踏んで欲しさに擦り寄ってくる変態の調教に勤しんだ結果。折角の修行最終日は駄犬とのじゃれあいで終わりを迎えることとなった。 まるで、最初にコイツを説教した時のように。 ***** 夕日が沈んでいく。山の輪郭を輝かせながら。 それに照らされて赤く染まっているのは、怒鳴りすぎて痛む喉でぐったりした俺と、全裸で嬉しそうに転がっている変態と、そしてすったもんだのすえに脱いだり着たり投げ捨てられたりした結果泥だらけになったベスト。 …俺の努力は…いつか叶う日が来るんだろうか…? 深い深いため息は森の静寂を乱さなかったが、足元の変態のとある一部分がビクッと反応して俺の気力を更に削いでくれた。 長い長い時間かけて分かったのは、変態が素肌ベストを味わいたかったということと、普段からペアルックを決めるために、もっとも俺に似合い、かつ機能性と着心地を兼ね備えたベストを決めたかったというコトだけだ。 それを聞き出すまでに何時間掛かったかなんて考えたくもない。 …それに、何処まで舐められ…いや、もう一日は終わったんだ。 「…そろそろ帰るか。」 明日から通常業務に戻らなければならない。あまり疲れきってしまっても良くないし、何より夜になるとこの変態が野外で暴走する可能性が高い。 …正直夕日が輝きだしたのに気付いた時には、変態の暴走をとっさに警戒したほどだ。 疲れた。だがまだ気は抜けない。 「そうですね…!」 変態は俺の言葉に同意するフリで、いい加減飽きないのかと思うくらいしつこく俺のベストをかけてきた。 「それは、お前が着ろ!服は何処に捨ててきたんだ!?この野生の変態が!」 全裸でうろうろ出来る忍なんてありえない! …そもそも全裸でうろうろ出来る一般人でさえありえないんだから当たり前だ。 言っても、無駄だが。 ああ…!コイツと一緒にいると常識がだんだんずれてきそうで恐ろしい…! 「嬉しい…!ベストシェアですね…!!!」 感動の涙らしきもので瞳を潤ませながら、いそいそと俺の投げ捨てたベストを見に纏い、変態は俺にぎゅっと抱きついてきた。 オープンすぎるほどオープンな股間がみっちりと俺に張り付いて非常に不快だ。 もはや、いまさらだ。 常識…それはこの変態に通用しないというよりむしろこの変態の脳内にそんな言葉は存在しないに違いない。 「下もちゃんと覆っとけ。この際ダンボールでもなんでもいい。不愉快だ。」 里の誇る上忍のこんな変態さを広げたくないと思ったこともあったが、すでにアカデミー生の間にも広まっている以上、俺が不愉快な思いをしないことを優先しても許されるはずだ。 疲れきった俺が投げやりに言った言葉に、変態は下半身を反応させながら笑った。 「はい…!ほ、本当ならイルカ先生の熱く絡みつく媚肉に包まれたいんですけど…!そんな状態で里に走ったらイルカ先生のステキなお尻が見えちゃいますもんね…!!!」 「…なんでもいいから。服を着ろ!この駄犬が!」 「あぁん!も、もっと…!」 …もだえ方にも気合いが入ってる気がする…。 もしかして、最近あまり踏んでやらなくなったのが悪かったんだろうか…!?そのせいで今回こんなことしでかして沢山踏んでもらおうと画策したとか…!? …変態の思考なんぞ俺の想像の範疇外だから、考えても無駄だな。 「行くぞ!」 「はぁい!まずは里ですね!それから…て、天国まで!」 「黙れ駄犬!」 相変わらず下らん戯言ばかりを繰り返す変態を踏んでやるのももうウンザリだったので、疲労しきった体を引きずって、変態に後ろを取られないよう気を配りながら歩き始めた。…はずだった。 「うふふふふ…!里に帰ったら…色々頑張りましょうねー!!!」 抱き上げられた。いつの間にか一応忍服を着ている変態に。 …しかも所謂お姫様抱っこ状態。 何だこの羞恥プレイは!? 「下ろせー!!!」 「はぁい!勿論!俺たちの愛の巣に帰ったら…!!!」 駄目だ!すっかり興奮してる! 次の手を考える間さえなく、変態は既に走り出していた。 ***** 「やっとか…!」 少し離れているとはいえ演習場だ。それほど里から離れているわけでもないのに、変態が俺を抱きしめて走るというシチュエーションに興奮したせいか、山のてっぺんまで登って降りたり、といった意味の無い移動を繰り返したせいで無駄に時間が掛かった。 日は既にとっぷりと暮れてしまっている。 「さ、俺たちの愛の…アレ?」 変態が、俺の家…つまり、勝手に変態も住み着いているかつてに憩いの我が家の扉を不審そうに確認している。 「ちっ…侵入者か…!?間男め…!」 一気に膨れ上がる真っ黒なチャクラ。それに殺気。 「イイから下ろせ!敵なら対処しないと!」 また九尾がらみのことなら、ナルトだって危ないかもしれない。 怒鳴りつけると、変態は俺をそっと下ろした。 「気配はないですが…いいですか?俺の後ろから着いてきてください。…本当は安全な所にいて欲しいんですけどね!」 上忍の顔だ。真剣で冷静で…恐らく何も知らなければ信頼できる忍の顔。 今回のケースならあえて逆らう気もしない。ヤツにとってもこの事態は屈辱的だろうから。 ゆっくりと変態が扉を開くと…俺の家が空っぽになっていた。 「な!?」 空き巣とかそういうレベルじゃない。電気スタンドからちゃぶ台からなにから…全部家具がなくなっている。 代わりとばかりに待っていたのは一匹の鳥。 「あ、三代目の式?」 「何だ一体!?」 もしかして…俺が修行にいってる間にこの部屋でなんかあったんだろうか!? 妙にこぎれいになっている空っぽの部屋に不安を募らせていると、鳥がふわっと俺たちの方に飛んできた。 そのまま変態の手にそっと乗り、すぐさまそれは紙切れに変わった。 「なんだ!?なんて書いてあるんだ!?」 「きゃっ!もう!三代目ったら!うふふふふふふふふ!!!」 良く分からんが変態が頬を赤らめてもだえている。…気色悪いがとにかくこれでは明日アカデミーに出勤することすら出来ない。 変態の手の平から紙切れを奪い取ると、そこには…。 「な、なんだって!?」 書かれている文章は三代目らしい達筆。それに簡潔でわかりやすいものだった。 結婚祝いに新居を用意した。この地図に従ってくるがよい。引越しも済ませておいた。 「も、もう少しだけこの狭い家で一緒にいるのもいいかなぁって思ってたんですけど!確かにそろそろ一件目の家作ろうかなぁって思ってたんですよねぇ!!!」 変態が嬉しそうに俺のあずかり知らぬ計画をまくし立てているが、つまり、これは…。 「三代目の、仕業なのか…!?」 知らん間に引越しさせられていた。…しかももうボケちゃってるのか、時々俺と変態を木の葉のべすとかっぷるじゃのうなどと頭の螺子が抜けてそうなことを言い出す三代目の手で。 しかも、不幸にして俺は良く知っている。 …三代目はお祝い事には金に糸目をつけない人だ。 「い、いそがないと…!」 変態が畳みの染みを眺めながら、「このお部屋もメモリアルとして保存しとかなくっちゃ!この染み…イルカ先生とお風呂上りビールプレイをした時の…」等とろくでもない思い出に浸っているのを放置して、俺は地図を片手に必死で足を動かした。 ***** 「ここか…!?」 想像以上だ。門がデカイ。多分広い。それに表札が…! 「何だこのハートマークは!?」 はたけかかし、うみのイルカ…そう達筆で書かれた表札には、しっかりピンクでデカイハートマークがくっ付いていた。 意味が分からん! ただ、筆跡からして三代目直々にこのけったいな代物を作ったんだろうことだけは分かった。 恐る恐る忌まわしい表札の掲げられた門に触れると、ぱちっと音を立てて結界が破れた。…俺のチャクラに反応したようだ。 目の前にあるのが家だろう。だが、三代目の庭園ほどじゃないが庭が広い。やたら広い。俺なんかまめな方じゃないからあっという間に雑草でモサモサにしてしまうだろう。 疲労感を隠せない。しかも俺が入った途端にまた結界が閉じられた所をみると、オートロック状態らしい。 恐ろしさに震えながらそっと家扉に手をかけた。 「お帰りなさい!イルカせんせ…!!!」 「うっぎゃあああああああ!!!」 変態が、全裸で、エプロンで、おたまと…ベスト片手で…! 笑顔全開、勿論股間も全開で出迎えられた。 信じがたい現実に眩暈がする。 ふらふらしている俺のサンダルを変態は甲斐甲斐しく脱がし、ついでに舐め、そのまま俺の手を引いて家の中を案内していく。 「キッチンが大きいんです!これからもイルカ先生の美味しい美味しい…俺の愛といろんな成分がたっぷり入ったご飯を作れますよー!!!それに、ココなら二人でくんずほぐれつ交じり合っても狭くないからやりたい放題!」 「ほうら!お・ふ・ろ!広いでしょう!しかもヒノキ!これでお風呂プレイがやりやすくなりますね!!!ほら、前のお風呂は狭いから狭いならではの密着感が楽しめるコトは楽しめたんですけど、開放的なお風呂で全てをさらけ出すのも最高ですよね!!!もうイルカ先生に溺れ放題!」 「お待ちかねの…ベッドルームです!!!広くて…スプリングもしっかり!し・か・も!ほうら!天蓋つきです!二人の秘め事を盛り上げること間違いなし!!!壁も防音しっかりしてるし、ココ、庭が広いから声も出し放題ですよー!!!」 …説明のポイントが全て色事関係なのが…! だが、つまり、それだけ危険性の高い家に強制的に移住させられてしまったということだ。 見覚えのある家具だけじゃなく、他にも色々家具が増えてるから、これは変態の家からの可能性が高い。…つまり、危険な道具もきっと…!!! しかも、今までは一応!ヤツと俺の寝る部屋は分かれていた。 …数々の対変態用結界、お守りなどの障壁をものともせず毎晩勝手に俺のベッドに入り込んできてたとはいえ。だ。 これはもう…俺の、俺の平穏は…! 「イルカ先生…!涙が出るほど嬉しいんですね…!うふふふふふ!!!俺ももっと早くお家選んで置けばよかったです!次のお家は早めに探しますね!天井の張りがしっかりしてて吊るせるのとか、地下室が充実してるのとか、あとはぁ…屋根裏部屋があるお家もイイですよね!!!」 妄想を垂れ流し続ける変態を前に、俺のは今度こそ声を上げて泣いた。 「うっぅっ…!三代目…!」 「そうですね!お礼に行きましょうか!…たっぷり天国を味わってから…ね?」 寝室のベッドに当然のように俺を連れ込もうとする変態は、俺の苦悩など欠片も分かっていない。ふりふりの純白エプロンの前が湿っているあたりからもバレバレだ。 …その湿った地点目掛けて、俺は拳を思いっきり叩き込んだ。 手ごたえはなかった。いつも通りに。 だが、俺はそのまま後ろを振り返らずに三代目の家に向かって全力疾走した。 ***** 「さ、だんだいめぇ!!!」 「おお、イルカ!どうじゃ?気に入ったか?」 好々爺然とした三代目は、初孫の結婚を祝うただの老人のようだ。 …まるっきり望んでいないのにもかかわらず、この人にこうやって聞かれるとついついイイ返事をしてしまいそうになる。 俺は三代目を悲しませたいわけじゃない。だが、…俺の人生を犠牲にしたいわけでもないんだ…! 「俺は、普通の家で普通に暮らしたいんです!一人で!」 「ほっほっほっ!そう案ずるな!結界も万全!お主一人で全てを背負わんでも大丈夫じゃ!しかしカカシを危険から遠ざけようとするおぬしの心意気で、ヤツも一層奮闘することじゃろうて!」 違う…そんなコトは欠片も心配していない…! 「俺は…あれと結婚した覚えなど…!」 俺は、なんとか、この既に高齢の域に達して、色々と脳に障害が出ていそうな三代目に納得してもらうつもりだった。 「三代目…!お、俺…イルカ先生にすっごく愛されてるんです…!」 俺の肩を抱いて、うっすらと涙さえ浮かべているのは…! 「貴様!さっきからどうやって移動してやがる!?」 次いでとばかりに俺の尻まで揉んでいるのは見間違えようがない。 変態だ! 「愛の力です!!!!!!」 「力いっぱい不確かなこというんじゃねぇ!」 意味が分からん。そもそも火影邸だというのに、こんなにほいほい入り込めてイイもんだろうか!? だが、三代目は何故か涙を流して喜んでいる。 「お主も…生い立ちからなにからで辛い思いをさせてしまったが、こうして…お前のために修行、そしてお前を守るために別居まで申し出る愛の深さ!うむ!これからも決して離すでないぞ!」 「はい…勿論!この命尽きても永遠に離れません…!!!」 …なんだこれ!?何が起こってるんだ!? 「本当ならおぬしらが帰還し次第簡単な披露宴でもと思うたが、イルカが奥ゆかしいしの。それにお主は火影になってからでないとと硬く心に決めておるようじゃし。わずかばかりじゃがワシからの祝いじゃ。」 「あの!お心遣いは嬉しいんですけどね!?」 駄目だ…このままじゃ…! 「ありがとうございます!三代目!俺たち…幸せになります!!!」 無駄に誓いの言葉まで…!? 「いや!だから!俺は…!」 どっちの口を止めたらイイんだ!? 変態か!?それとも三代目か!? 「ほっほっ!まあよい、早く返って体を休めさせてやれ。イルカのことじゃから限界までがんばったんじゃろう?」 「ええ…!俺のために…!」 「誰がだー!!!」 「そうテレんでも良いわ!のう!イルカ!」 楽しそうな三代目は変態に掴みかかった俺を、変態の腕の中に押し込んだ。 「さ、帰りましょうね!!!」 「あ、ちょっ待て!うわぁ!」 変態の腕が俺を抱き包む。…それはもう大切そうに。ついでに尻も揉まれたが。 にこにこと微笑む三代目の笑顔は一瞬で遠ざかり、気がつけば俺は逃げ出したはずの寝室にいた。 …それも、変態が覆いかぶさっている。 「うふふ!幸せです…!!!」 「ひっ!」 勿論俺は逃げ出そうとした。トラウマ狙いで殴ってでも抵抗してやるつもりだった。 だが…変態は、修行中のように強引な行為には及ばなかった。 ただ、ぎゅっと俺に抱きついて、すりすりと頭を擦りつけ、無駄に整った顔をふにゃふにゃと緩ませているだけ。 「何だお前!?悪いもんでも食ったのか…!?」 「いいえぇ!食べたのは美味しい美味しいイルカ先生だけです!」 「黙れ!この駄犬が!」 …相変わらず頭がおかしいのはいつものことだし…いったい何が…? いぶかしむ俺に、変態が甘い声で囁いてくる。 「だぁいすきです…!俺、籍は入れたけど、何か結婚したって言う感じがまだまだ薄くって…!イルカ先生がどっかいっちゃったらどうしようとか、間男とか泥棒ネコとかすっごく不安だったんです…!」 「結婚に関しては同意してねぇ!だが俺には泥棒ネコ所か間男なんてありないから安心しろ!里抜けの予定もない!」 そもそも俺はもてない。…それに里抜けしたところで里抜けの動機が追っかけてくるなら無駄なことだ。だが、こいつなりに必死だったというコトはなんとなく分かった。 それにしても…なんだか知らんが、急に甘えてこられると調子が狂う。 まるで子どもみたいだ。しがみ付いて、どうでもイイコトでも一生懸命に話して、甘えてくる。 小さく、幸せそうに笑う変態相手だと、ちょっとやりにくいが、それでも引き離そうと肩を押してやった。 …その手をするりと捕まえられて、頬ずりされてしまったが。 「それでも…!イルカ先生が俺のために修行までしてくれて、それに、今日、三代目がお祝いまでしてくれました。だから…何か急に嬉しくなっちゃって…!俺もイルカ先生も親がいないけど、三代目が認めてくれたら、両親もイルカ先生の親御さんも認めてくれたんじゃないかなって…!!!」 それはそれは嬉しそうに、変態が子どもみたいに無邪気に笑っている。 あれだけ人のケツもんで、素肌ベストに執着したのと同じ人間とは思えないくらい、儚げに。 「それはどうかわからんが。…まあその、対外的に認められちまってるのは事実だしな…。」 そう、決して、欠片も嬉しくない事実だ。そのはずだ。 ぎゅうぎゅうしがみ付いてくるこんな子どもみたいな…だが確実に中身は変態な駄犬と結婚してしまっているなんて。 それなのに、どうして俺は…コイツが幸せそうにしてるのにほっとしてるんだろう? 「うふふ…!あ、まだご飯食べてませんでしたね!イルカ先生も美味しそうだけど…お昼も抜いちゃったし!一杯食べてくださいね!俺の愛といろんな成分がたっぷりのご飯!!!」 「妙な成分はいらん!…だが、飯は食う。さっさと用意しろ!」 「はぁい!!!」 はるか昔に失った家族…俺も、コイツもずっと一人だった。 だから、きっと…こんな雰囲気に騙されているだけだ。 そう思うのに、いそいそと台所に消えていく変態を、今日だけは怒れないと思った。 勿論奴との戦いは諦めない。 だが…たまにはこういう夜も悪くない。 「さあ!できましたよー!!!」 テーブル一杯に並べられていく美味そうな飯と、幸せそうな笑顔全開の変態。 望んだ物なんかじゃ決してないが、何故か胸が締め付けられる。 「飯は普通に食うからな!」 「はぁい!口移しはまた今度にしましょうね!!!」 怒声にも動じずにこにこと笑っている。 …一瞬でも可愛いと思った自分が恐ろしい。 今日は、早く寝てしまおう。明日から普通に仕事だし。 飯を食いながら、そんなコトを思った。 だが…。 風呂場で体の流しっこと称してあらぬところを触ろうとする変態を踏んでやり、着替えを選んでいる最中にもぴったりと腰を押し付けてくる変態を踏んでやり、寝室に変態を押し込んで居間のソファで寝ようとしてたら連れ去られて、結局踏んでやったが抑えきれず襲われて…。 変態に甘い顔をするのは危険だと改めて実感する羽目になった。 普段より妙に丁寧に俺の体をたどり、時折嬉しそうに俺の名を呼んで涙を零す変態に逆らいきれなかった理由など考えたくもない。 …危険な道具やベストを持ち出さなかったところに一条の希望を見出しながら、俺はすでに顔を出しつつある朝日に、こんなコトでくじけないことを誓ったのだった。 修行の成果として、今朝一発だけとはいえ変態に俺の蹴りがかすったことを、心の支えにして。 ********************************************************************************* やっとこさ!誰も待ってないかもしれない変態さん修行編最終日! 変態さんとの新居でのイチャイチャ初夜は…ニーズがない気がするんだ…! 変態になりきれていないような気がしますが、どんなもんなんでしょうかねぇ…? ではでは!ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ! |