変態と精神修行 新居初夜編

「お待ちかねのお風呂タイムですよー!!!」
飯を食い終わるなり変態にしがみ付かれた。ソレも縋りつくように俺の膝になついてすりすりと…まあ勿論ついでのようにケツももまれたので踏んでやった。
さっきまでの変な様子は見られない。…まあ比較的いつも通りの変態だ。視線が…なんかちょっと違う気がするけど。
何だか妙にホッとしたことには気付かなかったコトにする。
「風呂には入る。が、勿論俺は一人ではいる。駄犬はハウスだ!」
股間に伸ばされつつあった手を振り払い、変態を踏みなおすと、またももだえながら妙なセリフを口にした。
「ひ、一人で…!お風呂プレイの構想を練るんですね!すっごく楽しみです…!!!」
「練らんが、お前は食器を片付けておけ!俺は疲れてるんだ!」
「はぁい!!!」
いい返事をしてきた変態を適当に無視し、とにかく俺は風呂場に急いだ。
何か小声でキッチンプレイは俺に任せてくださいねとか言ってたが、その辺にはあんまり関わりたくないので勿論スルーだ。
それと…何故か風呂が沸いている理由もだ。
着替えは一応浴衣と下着だけは用意されているからそれでいいだろう。
…いきなり引越しさせられてものが何処にあるのかさっぱり分からないからな。妥協も時には必要だ。
今更変にうろついて変態の餌食になるのも馬鹿らしいし、あんなに、うっとりと俺を見る変態の視線に晒されたくなんかない。
何故か妙にイラついて、落ち着かない。これも全部あの変態のせいだ。
乱暴にさっき案内された風呂場の扉を開けた。
変態の宣伝文句で大分げんなりしてはいたが、広いし、俺のマイホーム計画では欠かせないと思っていたヒノキ風呂だ。
疲れていた体に、それだけで僅かに力が戻ってきた気さえする。
ちょっとわくわくしながらかけ湯をし、それからすぐに湯船を堪能した。
「あー…サイコーだな…!」
変態が進入してくる可能性もあるが、それはもういつものことだし、あの分ならもうしばらくはキッチンでブツブツ言ってるはずだ。
…あとは、実行させないように気をつければいい。
久しぶりにゆっくりと安心…はし切れないが、足を伸ばして入れる風呂に、感慨もひとしおだ。
ヒノキの香りが鼻をくすぐり、変態の踏みすぎで疲れた体を癒してくれる。それに、変態に嘗め回された後も、きっちり洗い流して湯船に浸かると何だか清められたようにすら思えるから不思議だ。
まあ、ソレすらも一瞬だったが。
体も一通り温まったし、とりあえず一回体を洗おうと湯船から出た瞬間。俺は、羽交い絞めにされていた。
「流しっこしましょうね…!!!」
「貴様か…!」
既にヤツの手は俺の股間に回り、ぴったりと背後からくっついたヤツの股間は既にヤル気満々で…。
「ぬ、ぬるぬるプレイですよね…!」
等と不穏な呟きを零した変態を、とりあえず思いっきり踏みつけてやった。
「この駄犬が…!風呂は一人ではいるといっただろうが!」
「あ、あぁん!イルカ先生の色々が、み、見える…!!!」
もだえながら非常に不愉快なコトになっている変態のとある一部分を視界から外し、もう一度味わう予定だった湯船でのくつろぎのひと時を諦めることにした。
…変態の食らいつくような視線に耐え切れなかったともいう。
不本意ながら引越しさせられてしまったわけだし、逆に考えればいつでも入れるからな。何事もポジティブに考えないと。
確実に逃げるために、洗い場で腹を見せてはぁはぁと荒い息を吐く変態に向かってとりあえずボディソープをかけてやり、それに変態が「イ、イルカ先生の白濁が…!」などと一人激しく興奮しているのを打ち捨てたまま、俺は瞬身まで使って脱衣所に急いだ。
…そこには、想像したとおりの現象が発生していた。
「ちっ!着替えが…!」
浴衣がなくなっていた。勿論下着も。
ヤツがやりそうなことだ。恐らく全裸でいる所を狙い撃ちにするつもりだったんだろう。
俺の入浴時間が予想以上にながかったから、たまりかねて風呂場を強襲しにきたに違いない。
とにかく、こんな格好では簡単に変態の餌食にされてしまう。
着替えを手に入れるために、俺は手早くバスタオルを身に着けると、急いで俺のたんすをさがした。
…ちなみに、当然というべきか、脱衣所の洗濯機に放り込んでおいた俺の下着や忍服は既に影も形もなかった。
新しい家は広いが、たんすは比較的すぐに発見することが出来た。
寝室にはやたらゴージャスなベッドが置いてあったが、その隣の部屋には一応元俺の家の寝室に近い形で家具がレイアウトされていたからだ。
アカデミー用の資料なんかが入った本棚と、それから俺の父ちゃんと母ちゃんも使ってた思い出のたんすに、ぼろっちいけど初任給で買った文机。
何だかここにいると俺が変態の巣に強制移住させられたなんて夢なんじゃないかと思えてくる。
感傷的な気分になりかけたが、今油断している余裕などない。
ヤツがいつ襲い掛かってこないとも限らないのだ。
とにかく着替えを手に入れようとたんすを開けた。
…が、変態が詰まっていたので思いっきりもう一度閉めた。
「…い、今のは一体なんだ!?イリュージョンか!?」
確かに俺の使っているたんすは結構深くて使いやすい。だが、だからと言って、みっちりとたんすに詰まってるなんて…!しかも蕩けそうな満面の笑み。しかも全裸。しかもさっき脱いだ俺の下着を頭に…!
幻覚と思いたかった。
そっともう一度たんすを開けてみるかどうか逡巡している俺の腰に、ゴリゴリした何かが触れるまでは。
「ああん!もうイルカ先生ったらぁ!そんな格好で…!新居で大胆にくつろいじゃうそんなところも愛してます!!!」
…幻覚…だったんだか何だかは良く分からないが、とにかく急いで着替えなければならないコトは確かだ。
「バ、バスタオル…透ける形が…!」などともだえている間に、俺の安全を確保…するのは無理でも出来るだけ確率を上げないと…!
「着替え…!この際パジャマじゃなくても…!」
必死でたんすの中を漁ろうとするが、その間も変態が非常に不愉快な微妙に硬い物体をこすり付けてくるので気が散る。…しかもその手には何故かまたベストだの、ふりふりした妙なドレスのようなものだのが握られていてさりげなく俺にアピールしているのが危機感を煽った。
「メイドさんもいいけど、俺としてはイルカ先生の可愛らしさはニーソックスだけでも引き立つと…!」等といいながら、やや粘ついた感触のものまで…!
…限界だった。
「ふざけんなこの駄犬が!俺は着替えを探してるんだ!どけ!」
蹴り飛ばし、ソレがかすって怯んだ隙に、おもいっきりまた踏みつけてやった。
「あぁぁあん!も、もっと…!!!もっと強く…!バスタオルサイコー…!!!」
「ちっ!」
変態は踏まれながらも俺のバスタオルの隙間を凝視している。
…ソレはもう不愉快極まりないが、今はとにかく着替えだ。
いそいでひっぱりだした忍服のアンダーを適当にひっつかみ、俺は駄犬を捨ててトイレに逃げ込んだ。
さっきやつが案内しなかった所だから、多少は安全だと思ったのに…!
俺がなんとか下着は着損ねたがズボンを履き、上着もなんとか着込んだ時、トイレのドアからカリカリと不快な音が…!
「入れさせて下さい…!奥の奥まで…!」
最悪だ。
だが、俺もアカデミー教師。それに修行もたっぷりこなした後だ。
この際絶対にヤツの思うままにされるのは真っ平だ!
「おい駄犬。」
「はぁい!なんですか!」
相変らず返事だけは異常に素直なことにより一層苛立ちながら、俺はこいつから逃げるために策を講じるコトにした。
「聞いてるか!駄犬!」
「はぁい!なんですかー!トイレプレイですか!」
ドア越しにも変態のハァハァ言っている声が聞こえてくるが、ここで諦めるつもりはない!
「ちっ!いいか。寝室で待機だ!俺の命令に従えるな!」
苛立ちながらそれだけ告げると、変態のすすり泣くような声が…!
「ぅっぅっ…!イルカせんせぇが…!俺との夜をそんなに…!」
…また何か勘違いしてもだえているようだが、何はともあれ身の安全の確保が最優先だ。とりあえずしっかり服を着込んで…
あとは…駄犬の排除のみ!
「さっさと行け!」
「はぁい!…待ってますね…!」
それだけいうと変態の気配は一瞬にして寝室に移動した。
つまり、何とか変態を寝室に押し込むコトに成功したようだ。
ほっと安堵の息を吐きながら、それでも警戒を怠らずにトイレから出た。
…床に何らかの液体が零れ落ちているが、何なのかは深く考えない。
そんなことより、今晩の俺の寝床をどこにするかの方が重要だからな。
恐らくこの家を出れば間違いなくヤツに気付かれる。…あの結界のせいで。
防犯性能は高すぎるほど高いが、俺がココから逃げ出すのも困難にしていることを思うと、素直に喜べない。
何よりこれからあの変態と同居…いや、深く考えたら負けだ!
「居間にソファがあったよな…。」
この際床で寝てもイイが、正直疲れ切っている。里にいるのに、修行している時よりも寝床に困るなんて…!
厭世観が俺を包み込もうとしたが、何とか堪えた。…隙を見せるのは得策じゃない。今だってヤツは俺の気配を探っているだろうから。
ヤツを見習ってそっと気配を消し、俺は居間へ急いだ。
白くてふかふかしたソファ。それもどう見ても高級そうなデザイン。
…十中八九ヤツの私物だがその辺には譲歩しよう。
そっと腰掛けてみると、その感触のよさに眼を見張った。
「ふかふかだなぁ!」
思わずちょっと体を揺らしてみたが、それでも成人男子で結構大柄な俺の体重をやすやすと支え、むしろ弾むような感触だったのだ。
ココでならゆっくり眠れそうだと横になった…はずだったんだ。
「イルカ先生ったら…!寝室は…こ・っ・ち!ですよー!!!迷っちゃうなんて可愛いんだからもう!」
「うぎゃあ!」
変態が俺の足元にすがり付いて…な、なめ…っ!
とっさに足が出ていた。
「あぁあん!もっと…踏んでください…!」
「駄犬が!驚かすんじゃない!」
…時間稼ぎくらいは出来たと思ったが、やはり甘かったようだ。
その美しい瞳をきらきらと邪な輝きで満たし、俺を…俺だけを見つめている。
そうしてその瞳が一瞬ドキッとするほどの輝きを放ち…。
「はぁい!心細かったでしょ!大丈夫!今度こそ俺がちゃあんとベッドまでお連れします!」
「は、離せ!」
股間にすりつく変態を踏みつけても、やはりやつは上忍だった。
「はぁい!到着です!」
気がついたら輝くような笑顔全開で、ついでに全裸の変態が、股間を激しく盛り上げながら俺の上にのしかかっていたのだ。
「うっぎゃあああああ!」
…もちろん、俺の悲鳴は分厚い結界に阻まれて外には漏れなかったらしい。
*****
ヤツ好みのベッドに、ヤツ好みの誰も来ない環境、そしてヤツ好みの風呂上りの俺。
絶体絶命だ。
俺は変態に好き放題にされる己を想像してぞっとした。
なにせここはある意味ヤツのテリトリー。ヤツのことだからまた道具だの何だのを持ち出してきて、強引に行為に及ぶだろうことが予想できたから。
だが。
「イルカせんせ…!ふふ…これでずっとずっと…一緒ですね…!」
ほにゃっとその見てくれだけは最上級の顔をだらしなく蕩けさせ、変態がすりすりと俺の胸に顔をうずめている。
その手はそっと俺に触れては確かめるようにゆっくりと伝い、それだけで変態が幸せそうに甘いため息をつくのだ。
ヤツは…普段なら一瞬で己の服も俺の服も脱ぎ捨てるはず。それなのに今はただ普段とは違いすぎるその態度に…俺は警戒心を爆発させると共に怯えた。
柔らかい微笑みは普段のギラついた光ではなく、蕩けるような甘さを湛え、その瞳には俺だけが映っている。
…股間はしっかりヤル気だったが。
むずがゆい空気に耐え切れなかった俺は、早々に変態を正気に戻すコトにした。
「おい変態!どうしたんだ!頭でも打ったのか!?」
元々変態は変態だが、いくらなんでもこの様子はおかしすぎる。
修行のときの暴走具合がウソのようだ。
…そう、飯の前から。つまり例のあの世迷いごとにうっかりぐらついた己に気合を入れた頃からだ。
ふわふわと微笑み俺に懐く姿は、変態というより、やっと親を見つけた迷子のようだ。
思わず、頭を撫でてしまいたくなる。もう大丈夫だと。
だが、コイツは変態でさっきから俺の太腿にこすり付けられている存在感たっぷりのモノからしてヤル気満々だ!
騙されるな俺!かわい…いや!はかな…だから!つまり!…見せ掛けだ!こいつはただの変態なんだ!
そのゆらゆらとゆれる潤んだ瞳を見ていると、ついつい頭を撫でてしまいたくなるので、俺は必死で視線を逸らした。
「頭は打ってないですよー?ただ、イルカ先生には酔ってますけどね!…俺、すっごくすっごくすっごく…幸せです…!!!」
熱い吐息でかすれた言葉には確かにウソを感じない。擦り付けてくる頭も、まるで甘える犬のようだ。
なんだか、うっかり、もういいんじゃないかって気がした。こんなに欲しがってて、懐いてるんだから、ちょっとだけ撫でてやるだけなら…。
こういう底の浅い同情は良くないって分かってたのに。飼ってやれない犬に餌なんかやっちゃだめなんだ。
…でも、コイツは勝手に俺の側にいて、むしろすでに住み着いてて、今なんか正式に家族だ。…認めた覚えはないけどな!
そう考えると、今日だけ、ちょっとだけなら、頭撫でてやるくらいいいんじゃないだろうか?
昔からダメなんだ。こういう視線には。いつだって俺は…見棄てられないから。
「おい駄犬!…ちょ、ちょっとだけだからな!」
言い訳を重ねて、自分を納得させて…駄犬のふさふさの頭をくしゃくしゃと掻き混ぜてやった。柔らかくて、くせの強い毛は手に良く馴染み、感触もイイ。
俺の駄犬は、頭に俺の手が触れた途端、くふんと子犬のように鼻を鳴らしてすりすりと擦りつけ、それからそれはもう嬉しそうにとろっとろの顔をしてみせた。
「馬鹿な犬だな。やっぱり駄犬だ。」
コイツ変態だけど一応里で一番とまで謳われる上忍なのに。
それなのに俺なんかに撫でられて目を細めて至福の表情でくっ付いて満足そうにしてるなんて。
…コイツの人生の幸せは大分…いや、相当間違っていると思うが、少しだけならコイツに与えてやってもいい。
馬鹿で間抜けで変態な犬が懐くのは、幸か不幸か…いや、不幸にして俺だけみたいだから。
「いいんですー…!俺は犬ですーイルカ先生だけのね?」
くすくす笑いながら、駄犬が俺の服に手をかけた。
ゆっくりとめくり上げられた忍服に、駄犬の頭が入り込み、またさっきと同じようにすりすりと懐いている。
普段ならもうとっくに服なんか着ていないし、やることやられて不本意ながらぐずぐずに蕩けている頃だ。
今日は、俺もおかしいし、駄犬もおかしい。
コイツのせいで、俺までなんだか…妙に胸がふわふわする。それと、じりじりした感じも。
…もどかしいなんて思いたくないのに!
「駄犬。その、離れろ。俺は寝る。お前も寝ろ。重い。」
ぞんざいに俺の飼い犬の頭を押してやると、その手をぺろりと駄犬が舐めた。正に犬そのもののように、上目遣いで俺のご機嫌を伺いながら、もっと構えと眼で訴える。
「イルカせんせ。いじわるしないで?側にいさせてください…!」
こんな甘え方は初めてだ。
ウルウルと今にも泣きそうな瞳は、俺のひとかけらの愛を乞うている。
いつもは勝手に全部持っていくくせに、今更殊勝な真似をしても…だ、だまされたりなんかしないぞ!
「い、いいか!くっ付いてるだけだぞ!何もしない!」
それだけ言い捨てて、俺の上に乗っかった駄犬を撫でてやった。
今日駄犬にくれてやるのはこれだけだ。…これ以上はダメだ。だって今日の俺はおかしいから。
自分でも何がしたいのかわからない。ただ焦燥感に駆られて落ち着かないのが分かるだけ。
「ん、わかりました。ずーっとイルカ先生とくっ付いてます!ここと、ここで。」
「んあっ!?な、なにしやがる!」
触れられたのは俺の尻、それから触らされたのは駄犬の…!
やっぱりコイツは変態だ!
驚いて、俺はとっさに力いっぱい握ってしまったらしい。
「あん!だ、だめ…でちゃいます…!」
「わー!出すな!引っ込めろ!むしろしまえ!」
身もだえしてかすれた声を出されても、俺には慌てるくらいしかできない。
悲鳴じみた声を上げながら、とにかく何とかして目の前の危険物を何とかしようと考えたが、ろくに考えが浮かばない内に、駄犬にしてやられてしまった。
「イルカせんせ、もう我慢できないですよね!俺も、お返し…!」
にこっと爽やかにすら見える笑顔で、変態が俺の俺の下半身に…!
熱い粘膜に包まれて、ぬるぬると湿った感触が這う。
「うぁ…っ!」
勝手に腰が浮いた。それに声も。
…当然、変態がソレを見逃すわけがなかった。
じゅるっと音を立てて吸い付かれて、思わず視線を向けるとそこには…。
「ん。ふ…っ…!」
一心不乱にというか、とろんとした眼で必死になって俺の…その、不本意ながら血液の集中しだしたそれを咥えている変態がいた。
顔だけはいい変態が、時折苦しそうに眉をしかめて、それでも嬉しそうしゃぶっているのだ。
自分でも訳が分からないのに、勝手に熱が上がっていく。
「だ、め…っだ!」
頭をひっつかんでもすりつけられるだけで、しかもその振動が直に伝わるから余計に追い詰められて…。
「んぁ…っ!」
一際強く吸い付かれて、俺は…変態の口の中に…!
「おいし。」
ごくりという音がして、変態が何をしたのかが分かったから、俺の背筋は凍った。
だが、吐き出した快感で何もする気が起きない。
というかなんでそんなに幸せそうに…!
もう、めちゃくちゃだ!
「ね、もっとさせて下さい…!気持ちよくなって?」
「や、ふざけ…!」
自分のものと思えない甘ったるく腰の抜けた声が間抜けに聞こえる。
ソレなのに、変態の懇願する瞳と、声と、表情に…俺は…!
なんで、手が動かない?押し返せない?
「大好き。イルカせんせ…!」
また抱きつかれた。
ぎゅっとしがみ付いて、ふぅ…と満ち足りたため息をついて、それから無邪気に笑う。
…俺は、きっとこいつを拒めない。
どうあってもこいつの好きにさせないつもりだったのに。そんな顔は反則だ!
悪態は言葉にすらならず、睨みつけるはずの視線は力をなくして…。
嬉しそうに触れてくる変態に抵抗が出来なかった。
******
こいつは時々俺のことをまるで壊れ物みたいに触る。
最初に、してやられたときもそうだった。
俺を確かめて、でも触れるコトに急に怯えてみせる。
…あれだけ変態行為を仕掛けておきながら。
今日もそうだ。
「気持ちイイですか…?」
眉を下げて俺に問いかけてくる。
…俺の中に指なんか突っ込んでるくせに。
「あ…っ!んぁ!」
そのくせ手癖に悪い駄犬はやっぱり無駄にこの道に長けていて、言葉もろくにつむげないくらい喘がされている。
コイツは俺の体を俺よりも知り尽くしているんじゃないだろうか?刺激が強すぎて意識が飛びそうだ。
「イルカせんせ…!」
なんで、笑うんだ!
みっともなく大股開きにさせられて、急所晒して…しかも口から出るのはだらしなく蕩けた声だけだって言うのに!
腹が立ってるのかそれとも情けないのかも分からない。…ただ、コイツが…こんなことで馬鹿みたいに嬉しそうに笑うから。俺が拒まないことを、馬鹿みたいに喜ぶから。
…これからすることが分かっているのに止められない。
「もう、入ってもいいですか…?」
でかいなりして不安そうに小首をかしげて、口にするのもはばかるような行為に許しを請う。
普段なら勝手にガツガツ腰振って俺を喘がせて、俺の意識が飛んでも止めないくせに。
どっちが本当の駄犬なんだろうか?
不安がって俺に縋りつく今のコイツと、変態性を隠しもせず俺にへばり付いてはがれないコイツと。
共通点なんて…どっちも俺に執着してるってことだけ。
「好きに、しろ!」
頭を殴りつけてやるはずのては、やっぱり変態につかまれた。
だが、ソレからが違った。
普段ならねっとりと見せ付けるように舐めてくるはずの変態が、俺の手のひらにうやうやしく口づけて、そのまま唇を例のコイツの呪いの指輪まで滑らせて、笑ったのだ。
「これからも、ずーっとずーっと…幸せにします!」
言葉は感動的なのかもしれないが、やはりコイツは変態だ。
こんなコトで喜んで、男のくせに男の俺に変態行為を仕掛けることばかりに夢中になって。
ソレを止められない俺が、一番馬鹿だ。
押し付けられた熱を感じながら、ため息をついた。
「ん…イルカせんせ…きもちい…!」
ずるりと入り込むソレは、可愛げがないことこの上ない。いつも傍若無人に振舞うし、しょっちゅうさらけ出したまま俺に見せ付けてくるし、…俺よりデカ…いや!ソコは別にいい!
とにかく、苦しいくらいに中が一杯になる。足が震えるような感覚…認めたくない快感と共に。
「…っ!う、あ…っ!」
堪えるためにこぼれた声が、また妙に熱っぽくて自分でもいやになる。
腰から這い上がる熱は、すぐに全身を支配してしまうのに、どうしても俺はソレを認められなくて、いつでもこうやってそれを拒むのに。
「イルカせんせ…!」
腹が冷たい。…何かが俺に滴って…。
ふぅふぅ息を逃がしながら見上げると、変態が泣いている。笑いながら。
勝手に入り込んでおきながら、余韻に浸るように俺の足をなで上げて中途半端な刺激にイライラした。
「ん、も、さっさと…!」
終わらせろと続けるはずだった言葉は変態の口の中に消えた。
変態が泣きながらむしゃぶりついてきたからだ。
変態は馬鹿とかこの駄犬とか、泣くんじゃないとか…そんな言葉も全部飲み込んでしまった。
ゆるやかに始まって、すぐに激しさを増した律動に、すぐにそんなコトも気にならなくなったけれど。

ただ、残っているのは変態の甘い声。
ずっとずっと俺の名を呼ぶ馬鹿な男の声だけだった。


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お待たせしすぎの変態さん新居初夜編!のようなもの!
何か無駄になげぇので、☆じゃなくて開き直ってあげてしまうコトにしました…!
ではでは!ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ!



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