狙われている…。あの中忍に… 最近どこへ行っても何故か視線を感じる。…気配は消しているつもりなのだろうが、俺は上忍だしコレだけ執拗に見つめられては気づかない方がおかしい。 大体、本人も忍なんだから、気付かれているんじゃないかとか、疑問に思ってしかるべきだろう。 でも…ずっと、それこそ本当に朝から晩まで延々と視線が追いかけてくるのだ。 実力的には絶対にこちらが上だ。おそらくいきなり襲撃されても一蹴できるだけの能力差はある。だが、ただひたすらに自分を見つめ続ける瞳に、 だんだん得体の知れないものを感じ始めた。 最初は元生徒を心配しているのかも…とか、元暗部の上忍が珍しいとか?などと考えていたが、ソレは付回す理由にはならないだろう。性格的にこういうことは しなさそうだし…。 だが、上忍待機室にいればドアの隙間からそっと見つめてきているのを発見したり、7班との任務中にも気がついたら見つめられていたり、家に帰ろうとすると こっそりついてきていたりなどの行動が続けられた。 …俺、何かしたか…? 目立った実害は無い。無いのだが正直とても気持ち悪い。…もしかしてこれはいわゆるストーカーなのだろうか? どうにも不安になったので、とりあえず手近なところでと、ヒゲクマとウワバミに相談してみたが、結果は…微妙なものだった。 「アンタがうさんくさいからじゃないの?」 「イルカは理由もなしに他人付回したりしねぇぞ?…てめぇの噂とか聞いて、不安だからとかそんなんだろうよ。元々アイツはアカデミーと受付 兼任してて忙しいしな。」 開口一番こんな科白ばかり…正直自分もそう思っていたので反論もしにくい。だが、イルカならこういう場合馬鹿正直に当たって砕けてきそうに思う。 それに、コレが始まったのは最近なのだ。自分が他の忍たちから色眼鏡で見られやすいという自覚はあるし、それをイルカが知っていた可能性は高い。 だが、それならばむしろ出会ってからすぐに直接聞いてくるなり、それこそ観察してくるなりしてきたはずだ。 ソレなのに何故7班との任務を大分こなした最近になって…? 一体…何が原因なんだ…? 「大体さ、俺を付回したってなにも…」 事態の理解に苦しむあまり、ついつい愚痴が出てしまったが、それへの返事はなかなか恐ろしいものだった。 「あ!そうだわ!もしかしてイルカ…」 「なんなのよ?」 「好きなんじゃない?カカシのこと。」 なにそれ。 …爆弾発言に一瞬自分の時が止まったが、すぐに正気に戻った。あまりにもありえないことだったからだ。 いやいやいや…あの人男だし、そういう趣味…っていうか、その前にあの人恋愛とかできなさそうだよね。ナルトの変化なんかで 鼻血吹いたって聞いてるし、三代目の紹介で見合い結婚とかして、幸せな家庭とか築いちゃいそう。 「それは…ないでしょうよ。」 「たしかにそうだな。アイツ、奥手すぎてこんなことしてんのかも…?」 「ちょっと待ってよ!それってあの中忍にも失礼なんじゃない?」 「あら、カカシもまんざらでもないんじゃない!応援してあげようか?」 「だから!」 何でこんな展開になってるんだ!まんざらじゃないも何も、いつも俺を付回してくる元ナルトの担任熱血教師ってことぐらいしか知らないって! 「あー…まあがんばれや。」 人が苦労していると言うのに、クマは心底面倒くさそうに煙を吐き出し、さっさと出て行ってしまった。もちろん諸悪の根源であるウワバミも一緒にだ。 「がんばってねー!手助け必要なら声かけてくれれば手伝ってあげるから!」 「いらない…。」 そんなこんなで結局孤立無援のまま現在に至る。 そして…今日はそんな生活に終止符を打つべく、こちらから逆にイルカを待ち伏せしている所だ。 目的が分からないので徒に不安な日々を過ごしていたが、ここらではっきりさせるべきだ。何しろ最近むしろ視線を感じないと不安になる自分に気付いただけに 事態は深刻だと言わざるを得ない。ただ見られているだけであっても。だ。 アカデミー正門前で、ちっとも頭に入ってこないイチャパラ片手に、もう結構な時間待っているが、イルカはなかなか出てこない。忙しいというのは本当 らしいが、それにしては気がつけば俺を見つめているのでどうやっているのだか是非一度問い詰めたい。 イライラしながら待っていると、イルカがものすごい速さで校舎から飛び出してきた。おそらく向かう先は俺が今いるはずの上忍待機室だろう。 だが、俺が門柱に寄りかかっているのに気付いた瞬間、イルカは急ブレーキをかけた。 …土ぼこりが舞い上がっているが、本当にこの人中忍なんだろうか…?付回してるときも、困ってるお年寄りとかに手を貸しちゃったり、子どもが泣いてると そっちにいっちゃったりしてるし…。任務ちゃんとやってこれてるんだろうかと疑問に思う。気配の消し方は比較的上手いだけに、かなり不思議だ。 胡散臭げな視線を向けている俺に、イルカが真っ赤な顔で話しかけてきた。 「こ、こんばんは!いい月夜ですね!」 緊張した面持ちのイルカは、とてもストーカーなどという薄暗い行為に手を染めているようには見えない。 やはり何か理由があるんだろうか。任務とか…。 カカシが無言であることに慌てたのか、イルカがワタワタし始めた。 「あ!あの!お疲れ様です!ではコレで!」 そしてそのまま全力疾走の構えにはいったので、襟首を掴んで捕獲した。 「あのね。イルカ先生。ちょっと付き合ってくれる?」 口調は一応疑問系だが、断らせるつもりは無い。びっくりした顔で固まっているイルカを、さっさと背中に担いで歩き出した。 ***** 「で、単刀直入に聞くけど、俺に何の用があるわけ?」 行きつけの飲み屋の個室にイルカを放り込んだが微動だにしないので、カカシの方から聞いてやった。ここまでされれば観念するだろう。 任務だと言うなら上忍命令と言う最終手段があるし、最悪襲い掛かられても返り討ちに出来る。 机をはさんだ正面に正座したまま固まっているイルカを睨みつけてやったが、うつむいたまま答えない。チャクラからは隠し切れない動揺が伝わってくるから、 やはり何かカカシに隠しておきたい理由だということははっきりした。 「ちょっと!答えなさいよ!…何なんだよ!アンタは?!上忍に喧嘩売る気なの?」 沈黙に耐え切れず詰問すると、イルカは更にチャクラを乱した。 …だが、次の瞬間、俺は恐怖を目の当たりにすることになった。 「…いえ。カカシ先生にちょっとした興味があるだけですよ。…ちょっとした。ね…。」 にやーっと不気味に瞳をゆがめて、唇の端を持ち上げたイルカ。…表情としては笑っているのかもしれないが、笑みになりきれていないその表情は、 まるで何かの妖怪のようだ。 …ストーカーっていうより、単なるあぶない人である可能性が一気に高まった。 得体の知れない空気が飲み屋の一室を染め上げる。…どうしたらいいんだ?! 「あ、その。そうですか。」 「あ、はい。そうなんです。」 何で普通に受け答えしてるんだ俺! 「じゃ、何飲みましょうか?」 「あ、そうですね。」 慌てれば慌てるほど、上忍としての習性で自然に振舞ってしまう。 気がつけば料理と酒が目の前にずらっと並んでいた。 …何やってるんだろう…俺…。 まあ注文したのは自分なのだが、何故かイルカは不自然な表情のまま固まっているので、恐怖に駆られて注文を無駄に大量にしてしまった。 「とりあえず、乾杯で…」 「あ、はい!」 おもむろに口布を下ろすと、二人そろってビールを一気飲みした。ジョッキを置いてみてみると、酒が緊張をほぐしたのかやっといつものイルカに近い表情に 戻ったが…どうもこわばっている。しかもこんなに近くにいるというのに、ちらちらとこちらを伺っている視線を感じるのだ。 今までこの中忍よりはるかに強い相手と戦う日々を送ってきたと言うのに、その時は全く感じなかった恐怖を今ひしひしと感じている。 今の自分はまるで野良猫に睨まれた鳩のようだ。飛んで逃げればいいだけなのに、ソノ視線で釘づけにされて食われるのを待つばかりの。 目的が分からないと言うことがココまで自分を不安にするとは思っても見なかった。これまでも写輪眼の上忍目当ての女に狙われたり、外見から勘違いした男 に狙われたりといったことはあったが、こんなに得体の知れないのは初めてだ。 要は目的をはっきりさせればこんな恐怖からは逃れられるはずだ。 …それならさっき頼んでしまった酒をガンガン飲ませてしまえばいい。たかがビール一杯で仮にも忍ともあろうものが赤い顔をしているのはどうかと思うが、 この際利用させてもらう! 「さ、どんどん飲んでください!」 方針が決まってすっきりしたので、俺は目の前で怪しい表情を浮かべる中忍に酒を飲ませることに意識を集中させた。 ***** 「そろそろ…いいかな…?」 イルカはさっきから頭をふらふらさせているし、顔はより一層真っ赤だ。 「あにがれふかー…?酒!持ってこーい!!!あ、これうまーい!!!」 ちょっと調子に乗って飲ませすぎたのか、さっきからあからさまに管を巻き始めたイルカだが、この状態なら上手く誘導できるだろう。 なぜこんなにもしつこく自分を付回していたのかを聞きだせるはずだ。 早速ぐらぐらふらふらと落ち着きなくゆれている頭を掴み、こちらと視線を合わさせた。 「イルカ先生は、どうして俺のことつけ…追っかけてくれてたわけ?」 そういうと、固定済みの頭が見る見るうちに真っ赤になり、視線がうろうろと彷徨い始めた。 …コレって本当に…恋愛沙汰だったわけ?! 危うく頭を取り落としそうになったが、イルカがにへっとさっき違って邪気の無い笑みを見せたので、慌てて掴みなおした。 「こえでおれもちよくなれまふよね!かかひへんへーいの顔みた!かっこいいでふね!」 今何だか意味の分からない言葉を吐いたが、重要なキーワードが含まれていたような…。顔…顔か!ひょっとして最近流れてるあの噂…!!! 「あのさ、俺の顔見るとどうなると思ってたの?」 「つよくなれるって!!!もうすっごくつよくなれるってききまひた!!!なるともだからほんとうらったんでふねー!!!」 「あー…なるほど。」 顔を隠しているのは単なる習慣のようなもので、大して意味は無いんだが、人というものは隠されていると理由を求めたくなるらしい…。 顔に大きな傷があるからだ隠しているとか、最近はたらこ唇だからだとか、ひどいのになると口がないなんてのもあった。…そのいい加減な噂中に、 確か俺の顔を見ると寿命が延びるとか強くなれるっていいうのも入っていたな…そういえば。 一応中忍だよね…このひと…。何でこんないい加減なうわさに騙されるかなー…?それに酒に飲まれるって中忍としてどうなのよ? 「えへへへへ!!!」 嬉しそうにしているので事実を告げにくい。…だがそれならなぜさっきあんなにも不審な表情を…? 「あのね。さっき俺に興味があるって行ってたのは、なんで?」 「きょうみあります!かおみたい!みれた!…のどかわいたー…ねむいぃ…」 「わーわー!ちょっと待って!肉じゃがどかすまで待って!顔突っ込む気!?」 元気良く話していたイルカが、突然トロンとした顔で頭をどんぶりに突っ込もうとしたので慌てて支えた。…すっかり寝てしまっているようだ。 ヨダレはたれてるは酒臭いは…どうしてこんなのが怖いと思ったのか。自分でも疑問に思った。 とにかく飲ませてしまったのが自分である以上、責任は取らなくてはなるまい。確かに不審な行動で大分迷惑したのは事実だが、このひとも 一応噂に踊らされた被害者と言えなくもないのだ。…まあいくらなんでも中忍にしては素直すぎると思うが。 三代目がやたら重用するのも分かる気がする。見ている限りでも仕事が出来るのは確かみたいだけど、それよりも、放っておくと心配だから だろうと推測が出来た。 この純粋さがナルトをあそこまで真っ直ぐに…そして意外性満載に育てたんだろう。ある意味親子のようにそっくりだ。 …ま、しょうがないか。 会計を済ませると、来た時同様イルカを担いで一旦家に持ち帰ることにした。 ***** 「あれ?俺?ココ?」 「あ、目ぇ覚めた?」 イルカはきょとんとした顔をしているが、こっちは結構な疲労具合だ。何せ酔っ払って寝てしまったイルカを自宅に持ち帰ったとたん、 けらけらと笑い出し、寝かしつけようとしても「ふろ入る!」の一点張りで、勝手家中の扉を開けて回ったり、風呂場が見つからないと 「ない…」と泣き出したりしてくれたのだ。 …金輪際この人に酒は飲ませない! そう決意してしまうくらいの見事な酔っ払いぶりだった。 飲ませたのが自分でなかったら、さっさとどこかに捨ててきただろう。 だがあいにく自分が飲ませたのは事実なので、泣き出したイルカを風呂場に連れて行き、風呂をすすめたが、何故か服を着たまま風呂場に突入し、 シャワーを全開にしてくれた。結果的に慌てて止めようとした自分もしっかりびしょぬれにされたので、諦めて一緒に風呂に入った。 なぜだか俺の顔を見てはご機嫌な笑みを浮かべるイルカを洗ってやり、落ち着き無く動き回るのに苦労しながら拭いてやり、忍犬たちに持ってきて もらった寝巻き代わりの忍服を着せて布団につっこんでやったのだ。 だが、カカシがソファに横になろうとしたら、何故か急にイルカが泣きだしたのだ。 どうしようかと思っていたら、「いっちゃだめー!」と布団に引きずり込まれ、ぐりぐり頬ずりされて抱きしめられた。 急に静かになったイルカの顔を覗いてみると、満足そうに眠っていたので離れようとしたが、しっかりと抱き締められていて、離れそうにも無い。 …諦めて野郎二人で同衾と言うしょっぱい展開を我慢することになった。 だというのに… 「えーっと?どちらさまですか?」 朝になったらぽかんとした顔してそんなコトをいうのだ、この中忍は! 顔見た顔見たと、うるさいくらいに騒いでいたというのに…。 「あー…アンタが最近付回してた上忍師ですって言ったら分かりますか?」 「じょうにんし…えーっと…もしかしてカカシ先生ですか…」 今更冷や汗垂らしながら上目遣いに言われても、昨日のことがあるのであまり同情できない。 「ま、理由が分かったからいいですけど。」 「…!すみません!!!何したか分からないんですけど、ココ俺んちじゃないし!相当ご迷惑をおかけしてしまいました!!!」 …今日だけじゃないんだけどね。迷惑は。 だが必死で謝るイルカを見ていると、ちょっとかわいそうになってきた。この中忍は頭の中身はちょっとアレだが、別に悪いひとじゃないんだろう。 その証拠に今にもココを飛び出していきそうなくらい慌てているしすまなそうな顔をしている。 「いますぐ!出てきます!…うっ!」 案の定ベッドから飛び上がるようにして身を起こしたが、急に頭を抱えてうずくまった。 …二日酔いか…コレってやっぱり俺の責任? 「薬はこれ、ベッドは使ってていいから。今日は何時出勤?」 「今日は休みですが…すみません…。」 「いいから、コレ飲んで。ちょっと寝てたらすぐ治ると思うけど。今は何か食うの無理でしょ?」 「…吐きそうです…。」 「薬は我慢して飲んどいた方が後が楽だから。飲んだら寝てなさい。眠くなるはずだから。」 「はい…うぅ…」 やっとこさっとこ薬を飲み下し、うずくまって呻いているイルカはありえない顔色をしている。自分は酒に酔うことなどないので、 加減が分からずついつい飲ませすぎたのがまずかったようだ。 「昼過ぎには一旦戻ってきますから。」 今日はもう任務開始時間を大分過ぎているが、まあいつものことなので大丈夫だろう。 「ふみまふぇん…。」 薬が効き始めたのか眠そうな顔をしているイルカに見送られながら、部屋を後にした。 ***** 「あら色男じゃない。」 「…なんのことよ?」 上忍待機室にいるとこれだからな…。今の自分は暇をもてあました上忍たちの格好の餌食だ。どうやら自宅に酔いつぶれたイルカを運び込んだのを 誰かが見ていたらしく、翌日には、純真な中忍を酔わせた挙句にお持ち帰りし、翌日寝込むほど好き放題にしたという噂が流れていたのだ。 確かに寝込んでいたが、アレは単なる二日酔いだ。確かにイルカは忍としてはどうかと思うレベルの無垢さが庇護欲をそそるかもしれないが、 そういう対象にはならないだろう。 「隠さなくてもいいじゃない!だれもとらないわよ?アンタの恋人なんて。」 「だから違うって言ってるでしょ…。」 「お持ち帰りの後アレだけつるんでて、今更何も無かったなんて誰も信じないわよ?上手く言ったんでしょ。教えなさいよ!」 「ああもう…」 そうなのだ。あの後イルカの面倒を見ているうちに、その無防備さが心配で目が離せなくなり、ついつい一緒にのみに行ったりしていたらこんなことに なってしまったのだ。 下らない噂を本気で信じていたり、あの時やたら酔っ払うのが早かったのも、俺を付回すのに疲れていたからだと判明したりしたら …放って置けるわけが無い。 しかも保護した事をやたら感謝したイルカが、子犬のように真っ直ぐになついてくるので無碍にも出来ず…。だがこんな噂が流れては、 イルカの方も困るだろう。そろそろ距離を置くべきなのかもしれない。 「ちょっと!どこいくのよ?」 「…野暮用。」 「今度は全部吐きなさいよー!!!」 俺は野次馬根性丸出しのウワバミを無視して、アカデミーに向かった。 ***** 「イルカ先生。」 「あ、カカシさん!」 イルカの今日の予定はアカデミーだけだったはずだ。…気がつけばこうしてイルカのスケジュールまで把握している自分がいる。良くない兆候だ。 このひとはこんなだが一応中忍で大人なのに…。 「ちょっと。いいですか?」 「はい!もう終わりますから!」 机の上を片付けたイルカと一緒に、気がつけばいつものように自宅に帰ってきていた。しかも一緒に台所で飯を作っているという体たらく。 …だからどうしてこうもこの人のペースにのせられてしまうんだ!笑顔か?この無邪気な笑顔がいけないのか? 「カカシさん!こっちはもう出来ますよ!」 「あ、コレも。」 「じゃあご飯よそいますねー。」 「あ、じゃあ俺は味噌汁を…ってちがう!」 このままではいつもの様に飯をくったら、風呂入って寝てしまう! 「どうしたんですか!塩と砂糖間違えたんですか?」 「いやそうじゃなくて…食事終わったら、イルカ先生に話があるんです。」 「ああ!俺もあるんですよ!」 なぜだか明るく返されて、気がつけば食卓についていた。 …そんなこんなで、俺は食事をしている間中、今後に考え込むことになった。 この人は…何を言いたいんだろう?そして俺はこの人をどうしたらいいんだろう…? 途中までは眉間に皺を寄せながら飯を食っていたが、気がつけば頬を緩ませてイルカを眺めており、相変わらずこのひとは美味そうに飯を食うなぁと 思っていることに気付いた。 冷や汗をかきながら確信した。…もうすっかりこの生活が日常化している。 そもそもこのひと、二日酔いが結局治らなくてしばらく泊めてやってたらあんまりにもそそっかしいと言うかなんというか…仕事は出来るのに会話の 端々からどうも危険なくらい真っ直ぐな思考をしていると判明して、ついつい観察のために留め置いたらうっかりそれが普通に…。 「ごちそうさまです!」 「あ、おそまつさま…っていうかごちそうさまです!」 「で、話ってなんですか?」 「あ、イルカ先生からどうぞ。」 …俺が話したいのは山々だけど、このひとが何考えてるかわかんないと話しにくいしね。 「じゃお先に。あのですね。俺、ココに住み着きすぎだと思うんですよ。だからそろそろお暇しようかと。…ここにいると居心地がいいもんでついつい 長居しちゃいましたが、すっかり二日酔いも良くなりましたし!」 「あ、そうですか…。」 こっちから言おうと思っていたのに拍子がはずれた。 すっかり板についたポーカーフェイスでそう返したが、内心は複雑だ。 …この人大丈夫かなぁ…一人で。 …後片付けをしている間中何だかもやもやしていた。足元から這い上がってくるような焦燥感。…何なんだろうコレは? 「じゃあ今日はコレで失礼します。長い間お世話になりました。」 イルカはさっさと食器を片付けて、帰ろうとしている。 俺は何だかソレがたまらなくなった。 「あのさ、いっそのことココに住まない?」 「へ?」 「だからさ、ここに住んじゃう分には別に問題はないでしょ?」 「あのでも、家賃とか…」 「引っ越してきちゃえばいいじゃない。ココは広いし。持ち家っていうか部屋だから別にお金要らないし。」 「そういうわけには行きませんよ!せめて光熱費は俺もちで!」 「ああ、そういうの気にする?じゃ、折半ね。」 「でも…。」 「食事と洗濯は当番制で、あと…忍犬洗うのまた手伝ってくれる?」 「もちろん!」 「決まりだね。」 イルカがその一言に照れくさそうに笑った。 「ホントはちょっと寂しかったんで嬉しいです!」 「俺も一人より二人の方が色々便利だしね。」 当然のようにそう返してから、やっと自分がまずい事をしてしまったと気付いた。 …何やってんだ俺は! 気がつけばしっかりイルカを囲い込んでいる。何故だ! 「あ!お風呂入れてきまね!」 「おねがいします。」 それでもどこまでも冷静に返す自分がどこか滑稽でさえあった。 ***** 「で、どうなの?同棲生活は。」 「だから!」 「イルカ泣かせてんじゃねぇだろうな?」 「あのね…」 気がつけばすっかり二人の暮らしが当たり前になっている。 確かにこの暮らしは便利なのだ。飯の支度や洗濯も分担してやれば楽だし、買い物も、一人より二人の方がいろんなものが買える。 だが、どうしてこんなことに…? 「イルカ先生ったら純情そうだから色々悩んでるんでしょ?」 「おい!イルカが嫌がってんなら無理させんなよ?」 相変わらず外野は好き勝手な事を言ってくる。 そのせいに違いないんだ!最近風呂上りのイルカにドキドキするなんて!それ以外にもふとした瞬間に見せる笑顔とか、忍犬たちを洗っていて 楽しそうにしているのを見ててもドキドキするが、コレは…コレはそんなんじゃない!だってあの人普通に男だし。 「ちょっと、出てくる…。」 「あらヒゲクマの言うことなんか気にしないでガンガン行った方がいいわよ?イルカ先生って天然なんだから。」 「だからなんでそんな話になるのよ…?」 「イルカを大事にしてやれよ?」 「もう、いいよ…。」 外野も理解しがたいが、何より自分の行動が一番意味不明だ。何だってあそこでイルカを引き止めてしまったのか…。 …やめだやめだ!別に困ってないんだし、噂は噂だ! 「カカシさん!」 「イルカ先生?どうしてココに?」 「はあ。ココ職員室ですから。」 「…そうでしたね。」 いつの間にかいつもの様に迎えに来てしまったらしい。どうしてこんなにも…。 「あの…今日はちょっと遠回りして帰りませんか?」 「いいですけど。砂糖も塩も大丈夫ですよ?」 買い物なら昨日の夕方割引セールで済ませたばかりだ。 「買い物じゃないんですけど、あの、ちょっとだけですから。」 「はあ。」 別にちょっと位帰るのが遅れても問題は無いが、この場合何かあると考えた方がいいだろう。 …洗濯機が小さいから買い換えようとかそういう話かな?自分しか使わないし、シーツや忍犬用のバスタオルなどの大きいものは適当に 手で洗っていたので小型のものしかないのだ。イルカの分を洗うとなると、ちょっと厳しいときがあった。 だが、イルカは人気のない川原へずんずん歩いていく。…何か他の用事があるようだ。 もしかして…彼女が出来たとか?!って何でこんなに驚いてるんだ俺は!普通だろ!この人はこれでもいい年した男なんだから! 「あの。カカシ先生。」 「あ!ああ、なんですか?」 ちょっと自分の思考に取り乱しすぎた。イルカは最初に飲み屋で見たときのようにちょっと変な笑顔でこっちを見ている。最初は驚いたがもう慣れた。 コレはイルカが緊張しているときの表情だ。あの時はついつい想像力を働かせすぎていたし、飲み屋の明かりが薄暗かったから相当恐ろしかったが、 今はむしろほほえましく思える。 でもなんに緊張してるんだ?…ひょっとしてやっぱりうちを出て行くとか…? 「あの!」 「イルカ先生。好きです!」 アレ?俺今何言った? 「お!俺も好きです!一緒に暮らしてて、もう貴方しかいないって…!今俺のほうから言おうと思ってたのに…。」 感想の涙を流すイルカ先生を、夕日の輝く川原で抱きしめているのは…俺だ。それで死ぬほど幸せな気分になってるのも…間違いなく俺。 「俺も。貴方だけがいい。先に言っちゃってごめんね。」 勝手にすらすらと言葉をつむぐ口に驚くが、非常に納得した。今まで天然だから、男だからなどと否定しつづけていたが、この感覚は誤魔化せない。 俺はこのひとのこと好きなんだ。 「帰りましょうか…。」 「ええ…。」 浮き上がるような衝動に支配されたまま、俺はたった今恋人になった人を抱きしめたまま跳んだ。 ***** 「カカシ。どうしたのよソレ?」 ウワバミが不審そうな顔で聞いてくる。相変わらずだな…。 「やりすぎだって怒られたの。でもさ!あんな可愛い顔されたら無理でしょ普通!」 イルカ先生の方だって最初はノリノリだったし!ま、ちょっとやりすぎたのは認めるけどね。でもその分当番代わったし、それに… 「どんな顔かしらねぇが、イルカを困らせるんなら…」 ヒゲクマもうるさいなぁ…なんていうか…兄馬鹿? 「別に困ってないよ?ちょっとしたコミュニケーションっていうか…」 「でもソノ手形結構本気よね…。」 「だからーイルカ先生はテレやさんだからしょうがないの!この後ちゃんと仲直りのちゅーもしたし!」 そう!…可愛かったなぁ…!ちょっとそのついでに色々しようとして怒られたけど。 「だからさ、俺たち結構幸せよ?」 「ソレはよく分かるわ。その顔見せられたらね…。」 「めんどくせぇ…。」 「あ、イルカ先生迎えに行かなくちゃ!」 うだうだ言っているヒゲクマとウワバミを置いて、俺は愛しのイルカ先生の下へ急いだ。 ***** 「イルカ先生!」 「カカシさん!」 いきなり抱きしめてももう誰も何もいわなくなったなぁ。最初は結構五月蝿かったけど。 「帰りましょう?」 「はい!」 一緒に思い出の場所になった川原を手をつないで歩く。 「イルカ先生。キレイですね!」 夕日もそれに照らされたこの人も。 「カカシ先生こそ!」 はにかみながらそんな事を言うイルカは夕日のせいだけじゃなくて真っ赤な顔をしてるんだろう。 あ、何か我慢できなさそう。 「早く帰りましょうか!」 「ええ!……」 走り出した俺にイルカ先生が何か言ったみたいだったけど、風に流されて聞こえなかった。 ***** 「…見つめてた甲斐があったなぁ…」 さっきも思ったけど本当にこの人を見ててよかった! 最初見たときから欲しいと思って、ずっと見てたからこの人が寂しがり屋だってすぐ分かった。 だから途中から気配も分かりやすくした。、変な噂が流れてるのも知ってたし、上手くいくと思ってたけど、案の定この人は予想以上に 簡単に引っかかってくれた。 途中でちょっと引いて見せたら引っかかってくれたし、でも中々自分の感情に気がつかないみたいだからこっちから行こうとしたら、 結局告白は向こうからだった。 色々あったけど。キレイな顔とキレイな心のこと人は…もう俺のものだ。 俺の横でだけぐっすり眠るようになったこの人の髪をそっとすいてやりながら、俺も眠りに落ちていった。 ********************************************************************************* サイコホラー風味…。 どこまで天然でどこまで計算か分からない話を書きたくなったので…。 ちょっとどうなんだろう…?と思いつつこの辺においておきます。 ご意見・ご感想などがありましたら適当に拍手などからお知らせ下さい…。 因みに次はちゃんと?天然成分満載な例の妖精ちゃんシリーズの予定です。 |