「今日はありがとうございました!!!」 相変わらずやわらかく微笑むイルカの笑顔は輝いて見える…。 「いえいえ!」 今日は休日だったので、カカシはイルカと一緒に畑仕事の手伝いなどをして、最後にイルカに言われて、ざるのようなものにのった何かをひっくり返し終わった ところだ。 日の高さをみると、もうそろそろ昼すぎになろうとしているようだ。先ほどイルカお手製の弁当を食べたばかりのような気がしていたが、集中している内に 結構な時間がたっていたらしい。 …それはいいとして、作業している間は、イルカのほうばかり見ていたので気にも留めていなかったが、コレは一体なんなのだろう? 手にとって見てみると、どうやら見覚えがあるもののようだ。 「これは…梅干し?」 手のひらに乗せたものをまじまじと見てみると、どうやら梅干のようだ。辺りに梅干のすっぱいのに、うす甘いような香りが漂っている。 …梅干と言うからには干すのは当たり前なのかもしれないが、あいにく実際に作ったことなど無いカカシには未知の領域だ。 ざるに広げるとなにか変わるんだろうか…?そう思いながらもついつい不思議そうにつついてしまった。 「ああ!これは土用干しです!」 イルカがそんなカカシをみて、まるで生徒にするようにやさしく教えてくれた。今日も以前と同じ、花柄の農家のおばちゃんな格好ではあるが、 見慣れた今となっては、むしろそれがかえってイルカを魅力的に見せている。 ついついうっとりと見つめてしまったが、せっかくイルカが教えてくれているのだから、それに応えたい。カカシはちょっと意識して顔をまじめそうに整えると、 イルカに聞きなれない単語の意味を問いかけた。 「どようぼし?」 「梅干しを漬けたあとは、こうやってざるに広げて干すんですよ。干した方が色もきれいになるし、美味しくなるんです!」 楽しそうに話すイルカはまさに天使と呼ぶにふさわしい輝きをはなっている。優しげに微笑むその姿は、むしろ聖母かもしれない。 …イルカは男だが。 「へー!すごいなあ。流石イルカ先生!」 「もう!褒めても何も出ませんよ?」 「あーそれにしても…暑いですねー。」 「ああ本当だカカシ先生…汗が…」 無防備に顔を近寄せてくるイルカに、…ついつい理性のたがが緩んでしまった。 「え!」 あ!まずい! そう思ったときにはもう遅かった。 …イルカの顔に光る汗をついつい舐め取ってしまったのだ。 「いや!汗がしょっぱく無くなると危ないって聞いたのでつい…。今日はその…暑かったですし!」 カカシはとっさにわけの分からない言い訳をしてしまったが、イルカは…いくらなんでも騙されてくれないだろう…。どうしたら…。 そう不安に思ったが、イルカは暑さのせいだけでなく赤くなった顔で微笑んでくれた、 「あ…そうですか!ちょっとびっくりしちゃいましたよ!」 朗らかに笑うイルカに、毎度毎度カカシの理性は擦り切れていくばかりだ。騙せたことに安堵して、慌てて必死で笑顔を取り繕ったカカシをみて、 急にイルカも顔を近寄せてきた。 「あ、でも…」 その瞬間、カカシの額に湿ったやわらかいものが触れた。 …今、額にぬれた感触が……今の感触は…?!ひょっとして…!!! 思わず固まってしまったカカシを他所に、イルカは思案顔でのたまった。 「うーん?大丈夫かな?一応はしょっぱい様な…?でもどうせなら味見しましょうか!この梅干!塩分とれますし!」 「あ、はい!」 何気なく返したつもりだが、胸が早鐘を打ち、イルカから立ち上る色香にめまいがしそうだ。 …たぶん本人は何の気なしにやったのだろうが、思わぬ積極的な行動に、興奮が治まらない。 イルカはそんなカカシの様子に気づいていないのか、干したての梅干を一個とると、半分に千切って、口に運んだ。 …その口がさっき俺の額に…!!! カカシは思わず生唾を飲み込んだ。 「うん。今年の出来はまあまあかな?…カカシさん。どうですかね?」 当然のように、イルカは残りの半分をカカシに差し出した。混乱したまま丸ごと口に放り込み、咀嚼する。 「はい!おいしいです!」 確かに美味いが、それよりも日盛りに干したのでまだ温かい梅干が、イルカの体温を思わせて落ち着かない気分になった。 こんなものより貴方が食べたい…などとは流石に言えず、梅干を飲み下す。 「さて、カカシ先生が手伝ってくださったおかげで、大体片付きましたから。…風呂でも入ってさっぱりしますか!」 「え!」 「あ、外で行水の方がよかったですか?」 外で…!それはマズイ!!! 「いえ!お風呂がいいです!!!」 イルカは当然のことの様に言うが、今いつもの様に一緒に入ったら、熱に浮かされた頭が我慢できるとはとても思えない。 もちろん…行水などもってのほかだ!!!絶対に失敗できない相手にがっつくと危険だと、アスマも言っていたのだ。今手を出してしまったら、 一生イルカが手に入らないかもしれない…。 カカシは、いつもの様に自分に差し伸べられるイルカの手を握り締めながら、暴走しそうな己の本能と戦う決心をした。 ***** イルカが一緒に入ると言い出さないか危惧したが、幸い何かまだやることがあるからと、カカシが先に風呂場に押し込められてしまった。 手伝いたい気持ちもあったが、思い余ってイルカに何かしてしまうことの方が恐ろしかったので、結果的には助かったのだが。 …頭から冷水を浴びてみたが、イルカの行為でもたらされた到底熱が冷めそうにも無く、憂鬱な気分で風呂からでると、イルカが麦茶と 冷たいデザートなどを用意して待っていてくれた。…どうやら用事とはこのことだったらしい。 「これは水饅頭なんで、食べててください!あんまり甘くしてないから、カカシ先生でも大丈夫だと思いますけど…無理はしないで下さいね。」 「そんな!無理なんて!美味しそうですよコレ。」 確かに甘いものは得意ではないが、イルカの作るものはカカシの好みに合わせてくれるので、美味いのだ。そう…イルカが作ってくれたからという だけでなく、相変わらず料理の腕はプロ並だ。今回の水饅頭もあんこだけではなく、梅や抹茶など、変り種のものもまじっていて、見た目も涼やかで美味そうだ。 早速水饅頭をほおばるカカシをイルカはが嬉しそうに見つめている。 口に入れたときは確かに美味かったのに、イルカのそのやわらかい視線を感じると、だんだん味が分からなくなってきた。 …もちろんいつもの様に美味かったのだが、そんなものよりイルカの視線の方が気になって仕方がない。 焦りもあってあっという間に一個目を食べ終えてしまった。落ち着かない気持ちを誤魔化すために麦茶を一気飲みしていると、イルカが微笑んで 「今日は暑い中頑張ってもらっちゃいましたから!ちゃんと食べてくださいね!」 と言い残し、入れ替わりに風呂場に向かった。 …今日、いつもの様に風呂場を覗いたり、一緒に入ったりしたら、間違いなく理性を飛ばす自信がある。 あんなことをされては我慢が出来るはずもない。なにせいつもはこちらから仕掛けてはいたが、イルカからカカシに…しかもあんなことをされるのは 初めてなのだ。 カカシはもんもんとした気持ちを抱えながら、当り散らすように水饅頭を食い尽くしたのだった。 ***** カカシが味の分からない水饅頭を食べ終えた頃に、ちょうどイルカが風呂から上がってきた。 「ああ、全部食べてくれたんですね!よかった!…夕食は何にしましょうか?今食べちゃったから、ちょっと遅めにするか、軽いものの方がいいですよね?」 本当に嬉しそうに水饅頭の残骸を片付けるイルカは、腰にバスタオルを巻いただけだ。 …いつもの風呂上りスタイルだが、今日は勘弁して欲しい。 「あの!イルカ先生!!!」 最初はそれとなく服を着てもらうつもりだったが…いつの間にかイルカが不思議そうに自分を見つめていた。 …カカシの身体の下から。 「どうしたんですか?」 イルカは相変わらず何をされているか分かっていない様子で、きょとんとした目をしている。…コレで何度目だろう。確かに言葉ではっきり言わない自分も よくないのだろうが、コレだけ触られたりしたら…あまつさえ今日など舐めたりしているのだ。 …普通うすうすこちらの意図に気付くものではないだろうか。 大体イイトシした男が、一緒に風呂に入っても寂しいんですかで片付けるイルカの方がおかしい。 …俺は悪くない! 頭に血が上って、気がつけば勢いのまま、イルカに口付けていた。 間近で輝く黒い瞳は、驚きだけを表していて、嫌悪などは見受けられないが…暑さで暴走していたのは認める。だが、いくらなんでも告白前に押し倒すのは早すぎだ! 自分でも制御できない熱にかられてしまった。 イルカは…どう思ったんだろう? 不安と期待で我ながら情けない顔をしながら、自分の下に敷いたイルカを見つめた。 …だが予想に反して、イルカはちょっと焦った様子で聞いてきた。 「あの!えと?コレも何かの確認なんですか?」 確認。確認と言えば確認と言えなくもない。 「…あの!愛の確認です!」 とっさに言ってしまったが、…どうしたらいいんだ?! さっきからペースを崩されっぱなしだ。この無垢な瞳がいけない。しかし、カカシの下敷きにされているというのに、むしろイルカはホッとした顔をした。 「…えーと。カカシ先生はおもしろい人ですねぇ。」 「え…?」 なぜそうなるんだ?! 「あはは!暑かったから、今日はちょっとさっぱりしたものにしましょうか!!!」 「…はい。」 イルカの楽しそうな様子に、それ以上何も言うことができず、結局その日も夕食をご馳走になって帰ったのだった。 ***** 「…と、いうわけなんだ…。ヒゲ。お前何とかできないか…?」 「だからなんでソレを俺に聞くんだ!この間てめぇが何やったのか忘れたのかよ!」 アスマが口答えするが、この間一戦やらかしたあと、一応アドバイスをしてくれたので、今回もさっさと答えを知りたい。なにしろ腹の立つことに、 カカシよりもこのヒゲクマの方がイルカの生態に詳しいのだ。 「うるさいな!!!あーもう!どうしよう!!!嫌われたかも!!!」 イルカの様子が普段どおり過ぎて、返って怖くなってしまい、あれ以来イルカの前に出るといつもよりさらに緊張してしまうのだ。 「あー…イルカは本気で気にしてねぇとおもうぞ。とにかく!…泣かしたら…ゆるさねぇからな!」 ヒゲクマらしくアドバイスしてくれたが、なんなのよ!その態度は! 「何よヒゲのくせに!なんでそんなにえらそうなの!イルカ先生のこと気軽に呼ばないでちょうだい!!!」 俺だってイルカ先生って言うのが精一杯なのに!!! 「おまえなぁ!!!」 アスマがが再度口答えをしようとしたとき、上忍待機室の扉がゆっくりと開いた。 「あ、カカシ先生。」 イルカ先生だ!手にかばんを持っているところを見ると、もう仕事がおわったのかも。 「はい!イルカ先生!!!」 さっそくいつもの様に元気良くイルカに返事を返した。 「今日は買い物に行ってから帰りたいんですが、いいですか?」 「はい!!!」 イルカとの買い物は、野菜の選び方まで教えてくれるので時間がかかるが、その間真剣に説明するのをずっと見つめていられるので、 とても充実した時間を過ごすことができるのだ。 「…ホラな?って…おまえ完全に普段どおりにしてるじゃねぇか…。」 「黙れヒゲ。…邪魔すんなよ?」 イルカ先生にばれたら気まずくなっちゃうだろうが!!! いつも心の中で叫びながら、表面上はなんでもないように装っているのだ。…イルカに嫌われないために。 「あーあー勝手にしろ。」 ヒゲクマは生意気な口を叩いているが、そんなことよりイルカとの買い物デートの方が優先だ。 「どうかしたんですか?」 「いえいえー!!!」 不思議そうに聞いてくるイルカに、何気ない風で答えながら、さっさとさっきまで座っていたソファから立ち上がった。 さりげなくヒゲクマの前に回りこむことも忘れない。 「…イルカ。…気をつけろよ…。」 ヒゲクマは俺という壁にもへこたれず、こそっとイルカ先生に余計なことを言った。 ヒゲクマの分際で何勝手な真似してやがる!!! 腹が立ったが、イルカはあまり気にしていないようだ。相変わらずニコニコしたままカカシを待っている。だが。 「え?ええ、はい。今日も暑いですもんね!あ!アスマ先生はご存知でしたか?汗…」 ああああああ!!!!!ヒゲクマ汁なんて摂取したらイルカ先生がクマになってしまう!!! さっさと危険物を遠ざけるために、カカシはイルカの手をにぎって、慌てて扉の方へ向かった。 「さ、イルカ先生!行きましょう。」 「はい。じゃあアスマ先生また!」 イルカは律儀にもヒゲクマにも挨拶している。 「…ヒゲ。後で覚えとけよ!」 威嚇のためにもきっちり毒を吐き、さっさとイルカを外に連れ出し、扉も思いっきり閉めてやった。扉の向こうでヒゲクマが、ため息と共に 「あー…めんどくせぇ…。」 などと言う声は、聞かなかったことにした。だから…その後ヒゲクマが 「イルカだって中忍だぞ?気付いててまんざらでもねぇに決まってんのにな。」 という呟きを聞きそこなったのだった。 ***** イルカと一緒に上忍待機所を出て、商店街へ向かう道すがら、夕飯についてイルカが話してくれる。 「今日は豚肉が安いから、この間の梅干を使って、角煮でどうですか?」 「そうですね!!!イルカ先生の作るご飯は美味しいから!何でも!」 「もうまたそんなこといって!」 イルカ先生とたわいもない会話が出来ることに感謝しながら、絶対次のチャンスは決めてやる!と俺は決意を新たにしたのだった。 ********************************************************************************* 続き的な何か。…微妙です…。書き直すかもですが一応のせてみました。 土用干しは実際にやると結構面倒くさいです。 |