「ねぇイルカ。これ、着て?」 …カカシだ。相変わらずコイツは玄関から入ってこない。 「何すんだよ!」 いきなり帰宅の挨拶もなく背中にぺったり張り付いたカカシは、俺が振り払おうとしても簡単に避け、背後から黒っぽい何かを差し出してきた。いつも通りのマイペースさに呆れながら、しぶしぶ渡されたものを広げてみる。 「え?なんだこれ?…って!これ暗部装束じゃねぇか!?」 どう見てもこいつが今着てるのと同じ服。サイズ的にもほぼ同じ。…ちょっとウエストが大きい気がするけど。さわり心地もコイツの服洗濯したときと同じだ! 俺の驚愕を他所に、カカシは俺の方に顎を乗せたまま勝手な事を言っている。 「自分が着てる分にはどうでもいいんだけどさ。イルカが着たら似合うと思うのよ。…見てみたいんだよねー?」 …流石に腹が立った。暗部といえば忍を志すものなら一度は憧れるものだ。俺だって小さい頃は暗部ごっことか色々…。 それを軽々しく…!第一ばれたらきっととんでもないことになるはずだ!…多分!俺もよく知らないけど! 「馬鹿か!これは火影様直属の忍の証だぞ!そりゃ憧れの…一度は着てみたいっておもってたけど…」 語尾がちょっと小さくなっちゃったが…。 とにかく!このまま素直に着るわけには…!それはその…憧れてはいるけどな!うちの中だけならばれないよなー?カッコイイよなー…ちょっとだけ…。 は!?いや待て待て俺!駄目だ流されちゃ!これはきっとまたカカシの罠に違いない! 「ね、ちょっと着てみせてよ?」 俺の逡巡を読み取ってか、にっこりと笑ったカカシが、さらに暗部装束勧めてくる。 カカシ=暗部…ってことは、暗部の許可があるわけだし…ちょっとだけならいいのかも…?ちょっとだけなら罠だって回避できるかもしれないし…! 結局…俺は、目の前にある憧れの衣装を我慢することができなかった。 「うぅ…!一回だけなら…。」 俺が誘惑に負けたとたん、カカシはテキパキと俺に暗部装束を差し出してくれた。 「じゃ、はい。まずアンダー。」 「これが…暗部服…!俺、昔暗部ごっことかしてたんだよなぁ…!」 手にとって見ると改めて感動した。 ばったばったと敵をなぎ倒し、闇に生きるカッコイイ忍…!影を背負ってそれでも里と…仲間とか恋人とかを守るんだ!!!あ、なんか手が震えてきた…! 「はい面。プロテクターもあるから。」 「おぉぉぉお!すげー!…あ、でもコレどうやって着るんだ?」 面だのなんだのは、昔テレビ番組とかでみた暗部特集とそっくりだけど、いまいち着方が分からない。 まずアンダーがやたらぴっちぴちだし、白いこてとか胸当てとか手袋とかやたら見につけるものが多くてどうすればいいんだ…? 俺が困ってたら、すかさずカカシが手を差し伸べてくれた。 「ん、手伝ってあげる。」 「ありがとな!…へー!こうなってるんだ…!」 「後はこっちとこっちを…」 「なるほど!」 もうすぐ俺は憧れの暗部(の格好)になれるんだ…! 俺はわくわくしすぎるあまり、カカシが妙に楽しそうなのに気付かなかった。 ***** 「うん。やっぱり似合うね。」 「そ、そうか!へへ!ちょっと鏡見てくる!」 「どーぞ。」 「おお!俺結構似合うな!」 …褒められて調子に乗っちゃったのはちょっとマズイかなー?と思わなくもないけど、自分がこの格好になれたっていうのは、正直嬉しい。面の視界が結構いいこととか、ぴっちぴちのくせに伸縮性があって、結構動きやすいこととかも感激だ! ああ…かあちゃんととおちゃんにも見せたかったなぁ…!!! 鏡の前で色々ポーズとってたら、カカシが背後からぽんと肩を叩いてきた。 「…じゃ。準備できたよね?」 「え?」 準備?何のことだ? ぽかんとしてたら、当然のようにカカシが手を引く。…どうやら外に向かっているみたいだ。 「行こっか?」 「え?おい?どこに?」 この格好で外うろうろするのは流石に問題だろう。 怒られるし、怖がられるかもしれないし…。…いや、待てよ?そもそもカカシはどうしてこんな服持ってきたんだろう? もしかしなくても…!? 「んー?任務かな!」 「なんだそれ!?俺が!?もしかしてまた!?暗部の任務なんて無理に決まってるだろうが!!!」 予想通りというかなんと言うか…!相変わらずコイツはとんでもないことばっかり考え付きやがる! 「だいじょーぶ。俺がついてるし。簡単だから。」 にこにこ顔のカカシが、ぐいぐい俺を引きずっていこうとするのに堪えるだけでも一苦労だ。 前回の任務だってサポートだけのはずだったのに散々だったし、結局俺は任務らしいこと全然しなかったけど酷い目にあったんだ…! 今回はバリバリ暗部の任務なのは間違いない。 簡単とか言ってるけど…!暗部の任務で簡単なものなんかあるはずがない! ただの中忍の俺がそんなコトできるわけないだろうが!!! 「おかしいだろ!さ、三代目は!?」 「サポートに借りるって言っといた。大丈夫でしょ?」 「大丈夫なわけあるかー!!!」 「行くよー!」 「わぁ!?」 …必死の抵抗と説得というか、文句の甲斐なく、俺は今日もカカシの肩に担がれて闇の中に飛び出すことになったのだった。 ***** 「…で、ここはどこだ?俺は何をすればイイんだ?っていうか里に帰してくれ…!!!」 何で俺は木の上で…しかもカカシに担がれたまま運ばれなくちゃいけないんだ!? 俺の取り乱しようとは対照的に、カカシは相変わらず至ってのんびりした口調だ。 「ここは任務先。イルカはココで待っててね?任務終わったらちゃんと帰るよ?」 「不思議そうな顔してんじゃねぇ!そういう問題じゃないだろ!」 なんで…普通のコト言ったのに、こいつにこんな顔されなきゃいけないんだ! 里に帰りたがるのがそんなに不思議なのか!? 小さいながらも確かに怒気を込めてカカシを睨んだのに、適当にソレを流されしまった。 「まあまあ。あ、いたいた。みっけ。」 「へ?」 なんだ?見つけた? 「じゃ、ちょっとヤッてくるねー?」 「な、なにをだー!!!」 一瞬の風が動いたと思ったら、カカシはもう既に俺の前から姿を消していた。 じっと気配を殺してあたりを伺うと、闇の中で風を切る音と、術でも使っているのか、強いチャクラが感じられる。 「くっ!」 「うぐっ!」 僅かな悲鳴が俺の耳に届き、どさりと何かが倒れていく音もしている。 …どうやら、任務なのは確かなようだ。 手伝おうにも何が何だか分からない。 とりあえず敵襲を警戒しながらカカシの気配を探っていると、程なくしてカカシが舞い戻ってきた。 「じゃ、早速ちょっと手伝ってもらおうかな。付いてきて?」 そう言い残してふわっと闇の中を飛ぶカカシの後を追うと、激しい戦闘の痕跡が…! 焼けこげた木に、抉れた地面、散らばったクナイ…音はそれほどしなかったのにすさまじい有様だ。 驚いたけど…ごろごろと足元に転がってるのが、多分今回のターゲットなんだろう。 「…手伝うって…これか…?」 恐る恐る様子を伺うと、息はしているようだ。というか…むしろ傷は殆どなくて、これだけ激しく抵抗されたのに始末してないってコトは、多分何かの目的があって生かしてあるんだろう。 俺がこの状況に固まってる間にも、カカシはサクサクと戸惑うことなく転がってる人間を一人、麻袋に詰め込んでいる。 忍ばかりの中でなんとというか…ソイツだけがちょっと浮いていた。外見としてはその辺のごろつきとかちんぴらみたいだから、護衛にでもやとってたんだろう。 生きているのに抵抗ひとつせず詰め込まれたところをみると、幻術か毒で使ったのかもしれない。 改めてコイツは暗部なんだと思った。 ごっこ遊びでこんな格好してるのがカッコ悪く思えてきた。 落ち込んでる俺に、相変わらず飄々とした顔のカカシがサラッと言った。 「さ、コレ持っていこうか。」 まるで荷物でも運ぶようにひょいと袋を担ぎ上げているカカシは、忍なんだから当たり前といえば当たり前だけど、なんでもないような顔で俺を促す。 「これって…任務は捕縛なのか?」 「そ。俺一人はキツイからねー?」 「そうだな…これ何人いるんだよ…?」 「いるのはコイツと…コレだけ。後は放置でいいよ。回収に来るから。」 それだけ言って、無造作にカカシが差し出したものは、小さな桐の箱だった。 小さいくせに結構重い。…でもカカシがこれを一人で持てない訳がないから、これだけが俺を呼び出した理由ってコトはないだろうし…。 「何でコイツだけ?」 恐る恐る聞いてみたのに、カカシにはサラッと流された。 「ま、色々あるのよねー。」 「…おまえ、やっぱり強いよな…。」 「ま、そこそこね。」 「俺…。」 飄々としてるのも、強さに裏打ちされてるからじゃないかとか、いっつもそういえばコイツのペースに飲まれてるとか…色々考えてちょっとへこんでる間にもカカシはサクサク印を組んで式みたいなものを放った。 「あ、そうだ。イルカはソレお願いねー?」 「ああ…。ってこれ何だ?」 カカシはついでのように軽い口調で言ったが、これだけの戦闘が繰り広げられるんだから、きっとこれもそれなりに価値があるもののはずだ。…こんなに無造作に扱っていいんだろうか? 「大事なモノ?俺はコイツ持ってくから。ソレはイルカが持ってて。」 「俺がそいつら運んだ方がいいんじゃないか?コレ、重要なモノなんだろ?」 まあ、カカシも大事なモノといいながら適当に俺に放ってよこしたから、壊れやすいものじゃないんだろうけど…。不安だ。 「ま、いいからいいから!行くよー?」 箱片手に悩んでるっていうのに、カカシは捕まえた男を担いで走り出してしまった。 「わっ!待てよ!」 慌てて追いかけながら、今度は一体何をやらされるんだろうとか、二度とコイツとの任務には行かないって決めてたのにとかぐちゃぐちゃ考えたたから、…このときも俺はカカシの変なテンションに気付きそこなった。 ***** 屋根の上から見渡すと怪しい灯りと華やかなで艶やかな女性たちが…! 何でこんな所にこんな大荷物持ってこなきゃいけないんだ! 「お、おい…ここって…!」 「花町。」 「そうじゃなくて!なんでこんなもんもってこんなトコに!?」 「依頼人が来るから。」 慌てる俺に返ってくるのは簡潔すぎる返事だけで、カカシ自身は堂々と…屋根の上を移動していく。目くらましの術でもかけてるんだろうが、見つかるんじゃないかと冷静でいられない。 これから…一体どうなるんだ!? 「くそっ!」 他にどうしようもなくて、俺も諦めて後を追うしかなかった。 誰かに見つかるんじゃないかとか、そもそもこういうところは苦手なんだとか思いながらカカシの後をおっかなびっくり着いて行ったら、カカシがひょいっと屋根伝いに部屋に入りこんだ。 「お、おい!」 「着いて来てー?」 「…なんなんだよもう…!」 振り返りもせずに勝手に足を勧めるカカシの後を、ひよこよろしく着いていくしかできない自分に腹が立ったが…。 …カカシと一緒に滑り込んだ部屋には、先客がいた。 どうやら依頼人のようだ。カカシの袋を見ても、俺たちの格好を見ても満足そうな顔を見せるだけで驚きもしない。 「ようやってくれた。…して、例のモノは?」 …えらそうな口調といい、脇息に寄りかかったままのデカイ態度といいいけ好かない。 カカシが袋下ろして中身をめくって見せてるって言うのにその態度かよ!? この袋の中身より、例のモノっていうヤツのほうが重要らしい。 こんな状況でもカカシがわざわざ膝を突いて頭を下げている。 …なんだか凄くイライラした。 「…ご依頼のとおりに。」 何だか良く分からないが、カカシが視線で指示を飛ばしてきたので、適当に頭を下げながらさっきの箱を差し出した。 「こちらでございます。」 俺も一応カカシに倣って頭を下げてみたけど、何だか気分が悪い。 「では、以降はこちらで手を打つ。これを盗もうなうなどと考えねばもう少しは…。娘には灸をすえてやらねばの。まあ、よい。…木の葉の暗部は優秀だのう。」 「恐れ入ります。」 にやにやといやらしい笑みを浮かべて満足そうに言われても嬉しくもなんともない。 確かに木の葉の忍は優秀だけど、見下したような視線が気持ち悪い。 …こんなヤツらの相手ばっかりしてたから、カカシはあんなに適当な性格になったんだろうか? 俺なんて面がなかったら…きっと依頼人が怯えるくらい怒った顔してる。 「報酬はすぐに支払おう。…がその前に。」 えらそうなおっさんはもったいぶって言葉を切った。 …何でもいいから早くして欲しい。カカシに説教とか家に帰って飯とか風呂とか…俺には色々やりたいことがあるんだ! 「なんでしょう?」 俺がさっさと言えと啖呵を切る前に、カカシがそつなく次の言葉を促した。 やっぱりこういうのに馴れてるんだな…。 「わしはもうこれで出るが、この部屋は朝まで押さえてある。…女を上げるなり、飯を食うなり好きにするといい。払いは気にするな。」 それだけ言うと、無駄にもったいぶった男は、小さい箱だけ持って出て行った。 すぐに男の部下たちが足元の袋も回収していったから、…あの中身の男の運命はきっと碌なもんじゃないだろう。盗んだって言ってたけど、どっちもどっちな感じがする。 …まあ、何はともあれ。 「これで…任務完了か…。今回も明らかに俺要らないだろ?荷物運びにもならなかったぞ?」 前回の時も次いでっていうか、どっちかっていうとカカシが遊びたかったから付き合わされたようなもんだし、今回は買い物こそしなかったけど、戦闘もしなければ諜報もなし。 …やったのはアカデミー生でも持てる様な軽い箱持ってカカシにくっ付いてっただけだ。 俺がため息混じりにぼやいたら、カカシがまた適当なことを言い出した。 「えー?だってイルカにあんなヤツ触らせたくないじゃない?それにいちゃいちゃしたいし。あ、そうだ!ココのご飯美味しいよ?」 触らせるとかなんとか…任務なんだから当たり前だろうが!それにイチャイチャってまたソレか!…でも飯美味いのか…! 「え!…いや待て!だから!」 俺が説教と煩悩の間で激しく葛藤していると、更に追い討ちがかけられた。 「温泉もあるんだよねー。」 「おんせん…!」 思わず思考がそれそうになったが…。 …いや待て!前回も同じ手を食らったはず! 「まずは部屋とってあるから移動しようか?」 「部屋?…っ!だから!俺はもう帰るぞ?」 よし!何とか踏ん張った! …いくら温泉があっても、こんな赤くて高そうな匂いがしてるような部屋は落ち着かない。 それにカカシと一緒だと、俺が温泉を楽しむより、カカシに俺が楽しまれてしまうから却下だ! さっさと部屋を出ようとしたら、ぐいっと腕を引かれてそのまま廊下まで連れ出されてしまった。 「ココは依頼人が取った部屋だから。俺が別に取った部屋あるからそっち行くよー?帰るにしても怪しまれるからその格好じゃ駄目でしょ?」 「あ、うん。なんか、凄いんだなお前。」 こんな任務だから、多分人払い済みだろう。呼ぶまで誰も来ないと思うけど、確かに移動するなら早い方がいいだろう。この格好してるのなんだか申し訳なくなってきたしな。 …これは、ちゃんと戦ってる者が着るべき服だ。 「そーお?」 飄々としてるけど、こいつはずっとああいうのを相手にしてきたんだ。 俺はまだ下っ端中忍だけど…。 「俺にできるこ…」 俺の言葉を遮ったのは、ぐーっというなんとも間抜けな腹の音だった。…自分の。 「あはは!ご飯すぐ用意してもらおうねー?」 「うぅ…。」 あまりにも情けなくて恥ずかしくて…俺は腕を引かれてカカシの案内する部屋までおとなしく着いていってしまったのだった。 …裏があると疑ってたのに。 ***** 着替えようとしたけど、白いプロテクターだけ外した所でいつのまに頼んだのか美味そうな飯が運ばれてきてしまったので…面だけ外してガツガツ食った。 最初は遠慮してみたけどカカシが差し出してきた何だか分からないけど、とろっとしたあんの掛かった黄色いのがふわっふわの何かが美味くて、気がついたら無心に食い物をほおばっていた。…我ながらちょっと食い物に弱すぎるな。俺…。 散々食べて、ついでに酒も出てきて、またそれをタイミングよくカカシが差し出すもんだから、苛立ってたのを吹き飛ばすように一緒になって飲んで…酔っ払っていい気分になった俺は、もはや羞恥心なんかどうでもいい気になってきていた。 「あの服動きやすいなー!防御はいまいちっぽいけど!」 なんて暗部装束談義を始めてしまうほど。 暗部装束は、カカシみたいに大荷物担いでたわけじゃないからそう思うのかもしれないけど、露出してるトコは心配だけど、意外とプロテクターなんかの装備は軽いし、ぴっちりしてる割に動きやすくて、戦闘用にはイイと思った。 何で俺たちにも…あ、でも里の忍びが全員あの格好だと色々困るかもな…。威圧感あるし、くのいちってみんな痩せてるくせにああいうの気にするもんなー?なんでなんだろう? まあこれ、かっこいいよな。やっぱり何よりカカシみたいに身のこなしがキレイだと、なおさらソレが強調されてたと思う。 …でも夜はともかくとして、昼間は結構目立つよなー?どうしてるんだろう? つらつらとそんなコトを考える俺に、もう何度勧められたか分からない徳利が差し出された。 「まーねー?お酒もっと飲む?」 「飲む!…っとまて!でもいいのか?任務中だろ?」 …散々飲んどいて、しかも飲ませといてから今更なんだけど、ちょっとだけ気になった。 任務内容によっては酒飲むことだってあるけど、こういう任務だとしらふじゃないとまずいんじゃないのか?追っ手は…ああでも全部潰したから大丈夫なのか?でもあのおっさんなんかちょっとヤな感じだったしなぁ?満足そうだったから大丈夫だと思うけど、警戒しとくに越したことない気がする。 不安に狩られる俺に、カカシはさっさと杯を持たせ酒を注いだ。 「ココ来て何にもしない方が目立つからねー。」 「そう、なのか…?」 ちょっと不安は残るけど、とりあえずカカシの方がこういうのに馴れてるのは確実なのでとりあえず従っておくことにした。…花町なんて殆ど来た事ないし。こんな任務より単なる戦闘とか伝令とか護衛ばっかりだし…。あ、何か自分で言ってて凹んできた…。 …とにかくこの格好はまずい。 とりあえず当初の目的どおり、着替えようと立ち上がったときだった。 「お風呂、後でイイよね?」 「は?」 「やっぱり似合うねぇ。イルカに。」 「え?」 うっとりとそうつぶやくカカシに、ひょいと引き寄せられてしまった。 …ソレもいとも簡単に。 警戒はしてたけど、こういう方面じゃなくて敵襲の方だ!酔っ払ってたせいじゃ…!うぅ…!でもやっぱり酒のせいか…!? 酔っ払うことなんかない暗部のくせに、カカシはまるで酔漢が絡むように目を細めて執拗に俺の肌をたどる。その手は酔っ払ってるなんて思えないほど正確に、俺の感じる所ばかり触れてくるっていうのにだ。 膝に乗せられてがっちりつかまれて…ぴっちりした服の上からそんなことされたら…! 無駄にこういうコトに長けたカカシのせいで自分の興奮が露になってしまった。…つまり、服の上からでも、その、盛り上がったモノが…! 何でだ!?何で俺はカカシにまたこんな目にあわされてるんだ!? 「あのね。仲間がこの格好だと興奮するって言ってたんだよねぇ?試してみたくなったの。」 アンダーに指を滑り込ませ、首筋に下を這わせるカカシは確かに妙に楽しそうだった。ずっと。ってことは…!!! 「アホかー!!!そんな理由で!俺にこの格好させたのか!?」 確かに変だった。ちょっと所でなく罠の気配がすると思ってた。 でも…まさかそれだけのために俺引きずってくると思わないじゃないか! 俺は、おもちゃじゃない! 「似合うからいいじゃない?脱がせるのもったいないから後ろからヤル?」 「そ!?そんなこと聞くんじゃない!そもそも任務中だって言うのにだな!」 俺の怒りをものともせずに、くすくす笑いながら卑猥な言葉ばかりつむぐ口をふさいでやりたかったが、 嬉しそうに弓なりにたわんだそれは、またとんでもない言葉を吐き出した。 「じゃ、やるねー!」 爽やかにさえ見えるくらい楽しそうな笑顔での、明るく元気の良い返事。…そんなモノは欠片も求めていない! 「決意表明もいらん!わっ!?何するっ…うぁっ!?」 抱えられていた体をいきなり前に倒されて、驚く間もなくズボンをずり下ろされた。 四つん這いにされて、そんなコトされたら、…丸見えだ! 慌てて引き上げようとしたのに、冷たい手が露になった尻をなでた。 「うぁっ!?」 「熱いね。…酒のせいかなー?」 冷たさに驚いてる間にも、カカシが勝手に俺を弄り回す。 確かめるように勃ち上がり始めたモノを嬲り、にじみ始めたものを塗り広げるように先を指の腹でなぞる。 「んぁっ!やっ…っ!」 ああ…酒なんて飲まなきゃ良かった!振り払おうにも動きが鈍ってるし、イヤなもんみて気分が悪かったからってついつい飲みすぎたし…! 酒飲んでなくても変わらなかったかもしれないなんてコトはとりあえず考えない。 畳に爪を立て押し寄せる快感に耐えたが、声は我慢できなかった。 それに気を良くしたのか、背中に覆いかぶさってきたカカシが背中で囁く。 「かわいー声…。今日は変な任務で疲れたけどイルカがいてくれたから…」 あんなに腹が立ってたのに、その言葉だけ抵抗出来なくなった。 身体を寄せてくるカカシが、これまでどれだけ里のために…あんな暗い部分を引き受けてくれてきたんだろう? …単純な戦闘よりずっと辛かったはずだ。 普段能天気に見えても、俺にこうやって縋るほどコイツは…。 何だか悔しくて悲しくて…何も出来ないもどかしさでたまらなくなった。 「カカシ…。」 出来ることが他に思いつかなくて、腹に回されていた手を慰めるようにゆっくりとなでてやった。こんなことで慰めになるとは思えないけど、何かしたい。 いつか俺だって…こんな格好だけじゃなくて、コイツを支えられるように強くなるんだ! そう決心したって言うのにこいつは…! 「あ、足りないよね。…いくらでもしてあげる。」 どうしてそういう解釈になるんだ!!! 「馬鹿野郎っ!そんなことだれも…あぁっ!」 身体をねじってカカシにどなろうとしたけど、前を弄ってた指がいつの間にか中に入り込みはじめてて、固まった瞬間を狙ったみたいにまた押さえつけられて…。 気がついたら腰だけ上げた姿勢でカカシに執拗に中を嬲られていた。 「あー…でも、足りないのは、俺かなー?…早く入りたい…。」 「あっ…あぁっ!」 勝手なことを言いながら、カカシがソコ性急に押し広げていく。中の酷く感じる所を狙ったように擦り上げ、そのせいで上がる声に息を荒げながら…。 くちゅくちゅと湿った音がしてるのは、多分カカシが何か使ったんだろうと思う。 でも、その音だけで自分が酷く淫らな生き物になった気がする。 あんなトコに指つっこまれて、あられもない声を上げて、堪えても追い上げてくる熱にじわじわと追い詰められて…まるで獣のように。 こいつはやりたいだけなのかとか思うのに、さっきのちょっと…本のちょっとだけど確かに疲れたような声を思い出すと、何だか抵抗するにもどうしたらいいかわからなくなった。 こいつに言ってやりたいコトは山ほどある。それなのに、吐き出せるのはただ荒い息と鼻に掛かった声だけで…。 「ごめん。もーむり。…何でそんなに似合うかなぁ?サイコー…!」 歯がゆさと追い上げられる気持ちよさでカカシの言葉を聞き落とした。 …すぐにその意味を身体で分からされたけど。 「え!あぁぁっ!」 まだ無理だ。 そう思うのに馴れた身体は、いきなり押し付けられたカカシのそれを受け入れていく。 「力、抜いててね…?」 極僅かに上ずったような声を吹き込まれて、それにぞくっときて、自然に力が抜けた。 カカシは本当に我慢できなかったのかそのまま奥まで一気に突かれて、それだけで限界が来た。 「あぁっ!…あ、…あ…。」 俺が吐き出して、それに釣られるように中にも熱いモノが広がっていく。 あんなに強引で性急だったのに、しっかり快感を拾い上げてしまった。 それだけでもショックで、力が入らなくてそのまま畳につぶれるように倒れてたら、また腰をカカシに引き戻されて…。 「もっと。ね?」 興奮したような声でそう囁かれたのだけは覚えている。 ***** あれから結局どろどろでぐちゃぐちゃになるまでされた。 カカシも俺も中途半端に服脱いだ状態で始められて、散々突き上げられて吐き出して吐き出されて…ぐったりしてたら次の間になんでか布団が用意してあって、抵抗できないまま運ばれてソコでもことに及ばれた。…それなのに服はやっぱり脱がせてもらえなかった…。 それで最終的に元凶に横に抱きかかえられたまま温泉に入ってるって言うのが情けないというかなんというか…。 「やりすぎなんだよ!」 俺に言えたのはそれだけだった。 何が良かったのか分からないが、どうしていつもいつもこんなになるまでやられなきゃいけないんだ!結局ごっこ遊びどころか…あんなことに憧れの暗部装束を使ってしまった…! かすれた声しか出ない喉をうらみながら、カカシを睨みつけてやっても、いつも通りどこかスッキリした顔で嬉しそうに笑うばかりで勝手なことしか言わない。 「そーお?いいじゃない。気持ちイイんだし。あんなに似合うと思わなかったんだよねぇ?」 「馬鹿野郎!大体どうしてお前は任務に私情を挟むんだ!」 忍のくせにどうしてこんな…!そりゃ俺だってDランク任務の次いでに、依頼人のばあちゃんに勧められてお茶とかお菓子とか飲みながら孫の話とか聞くことあるけど! …そもそも依頼書だってみてないから、俺の任務がどういう扱いになってるかさえわからない。暗部への任務は依頼書がないっていうから、もしかしなくても俺もそっちでかぞえられてるんだろうか…!?こんな、ただ小さい箱1個だけ運んで、あとはでカカシにつき合わされただけなのに…。 …絶対いつか実力で任務こなしてやるぞ!その前にコイツの更生が先だけどな! だが、俺の当然の説教に、やっぱりカカシは不思議そうに返事してきた。 「えー?イルカだって抵抗しなかったじゃない?気持ちよかったでしょ?」 「くっ!…あのな?俺はお前が辛くっていうか…その、ちょっと心配なだけだ!なんでこんな…!」 抵抗は、確かにしそこなった。…だってコイツ何か疲れていそうだったし、慰めたいと思ったのは事実で…でも!俺はあんなことで慰めるつもりはなかったんだぞ! ああ…どうせならせめて一回でも殴っとけば良かった…!!! 後悔に沈む俺を他所に、俺のぬれた髪を弄びながらカカシが楽しそうに言い出した。 「今度はどこがいいかなー?」 …コイツは全然全く俺の言葉を理解する気がない。…いつものように。 それでも我慢できなくて、ついついカカシの頭を引っ張りながら説教してやった。 「任務はちゃんとやれ!…出かけたいなら候補言ってくれれば探しといてやる…。」 語尾がちょっと小さくなったけど…。 だって結局、コイツは任務一緒にやりたいわけじゃなくて、出かける口実が欲しいだけみたいだ。 …それならどこへ行くか二人決めて出かければいい。 いくらカカシが忙しくても、近場ならきっとなんとかできる!…はずだ。 俺の言葉に輝くような笑顔をして見せたカカシに、もっといろんなものを見せてやりたい。 「ホント!じゃ、次はねぇ?遊園地とかにする?」 …だがどうしてこういう候補が出てくるのか理解に苦しむ。 「野郎二人で行くトコじゃないだろ…?」 遊園地なんて小さい頃一度行ったきりだ。 そもそもどうやって遊園地で遊ぶのかも知らなそうなカカシを引き連れてそんなところ言ったら、悪目立ちしに行くようなもんじゃないか! コイツ絶対良く分かってないし、変なことばっかりしそうだし…! 無碍に却下するのもと思ったが、口調にはそれなりに本音がにじみ出てしまった。 俺の表情を読み取ってか、カカシがまた候補を追加した。 「なら映画館?で、その後は美味しいもの食べてホテル?」 「どこ情報だ!?」 どうしてこういう候補ばっかり出てくるんだこいつは! すぐ気付いた。一昔どころか二昔以上前のデートコースみたいなこと言い出したのは、絶対に誰かの入れ知恵にちがいない! そもそもコイツは任務がない時は如何わしい本読んでるか、俺にちょっかいかけてくる以外してないから、多分録に趣味もないんだろう。 …習慣にしてるのは、多分時々付き合わされる修行ぐらいだ。 ってことは、誰かがきっとカカシに変なコト吹き込んだのは確実で…。 案の定、情報の出所については淡々とカカシが報告してくれた。 「俺の仲間っていうか、部下。この間のお土産の酒勧めてくれたの。」 「…そうか…酒の趣味はいいけどそっちはからっきしなんだな…。」 あれだけ趣味のイイ物選べるんだから、もしかするとものすごい年上の人なのかもしれない。それか、オクテなのか…? 人事ながらちょっと心配になった。 俺の顔にそれがでてたみたいで、カカシは自信ありげにさらに新たな候補を出してきた。 「それとも…料亭とかがいい?」 「りょ、料亭か…!飯が美味そうだよなぁ…!」 行った事殆どないし、美味いモノは大好きだ! でも…ソレって、完全に俺の趣味だしなぁ? 「決まりねー?今、席とっとく。」 嬉しそうに式を飛ばそうとするカカシの手を慌てて止めた。 「待て待て待て!…お前が行きたいところはないのかよ!」 そもそもコイツと出かけるのもは、こいつが一緒に出かけたいからなのに、俺の行きたいトコ…しかも物食うためだけの場所に行ってどうする!? カカシに何とか楽しいと思ってもらえそうな候補を必死で考えてるっていうのに、本人はさらっととんでもないこと言い出だした。 「イルカと一緒ならどこでもいいよ?でもたまには違うトコですると盛り上がるって…試したくなるじゃない?」 「そっちばっかりか!!!ちがうだろ!自分のやりたいこと考えろ!」 「そうねぇ?」 不満げというかどうでもイイと思ってそうな適当な返事に、流石にいらっときたが、ココはもっと重要なことがある! 「後!俺がちゃんとビンボーでも美味い飯が食えるってこと証明してやる!まずは…一楽からな!」 俺の趣味にとりあえずあわせるんだとしても、今度こそ俺の方が美味い店紹介してやるって決めてたんだ! いつも奢ってもらってばっかりだけど、俺はしがない中忍で、間違っても料亭なんかにはいけない。でも、絶対に安くても美味い店は沢山知ってる。…絶対にカカシを満足させてみせる! 「いちらく?どこの店?」 都合の良いコトに、カカシも興味を持ってくれたみたいだ! コイツの色事の時以外には変化にとぼしい表情を絶対笑顔に変えてやる! 「帰ったら連れてってやる!」 自信満々にそういいきったら、カカシは淡々と一言だけつぶやいた。 「じゃ、あと2,3日したらだねぇ?」 「なんでだよ!」 ホントなら明日にでも食べさせたいのに! カカシの耳を引っ張って不満を言ってやったら、にやりと笑ったカカシに尻をなでられた。 「だってイルカ歩けないでしょ?」 「誰のせいだー!!!」 「あはは。」 早朝の温泉に俺の怒声が轟いたって言うのに、カカシはヘラヘラと嬉しそうに笑ってて、…こいつにちょっとでも普通の喜びって言うのを教えたい気持ちが更に強くなった。いつか絶対にコイツを…! 意地でも美味いって言わせてやる!!! 決意も新たに、とりあえずすっかり力の抜けた腰を直そうと思った。 「2,3日あれば…他にも色々できるかなー?」 「なんだそれー!!!」 前途はあいかわらず、多難そうだけど。 ********************************************************************************* 気まぐれ風味に毒暗部続きアップ! 相変わらずなカカチと相変わらずなイルカてんてーということで…。 ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ…。 |