出会い

布団の中でまどろむ俺の意識が、ふっと浮上した。
「ん…あれ、寒い…。窓開いてる…?」
布団に包まっているはずなのに、何故か肩口が冷える。それなのに妙に体が温かくて、まだ起きたくないとごねる意識をなだめすかして瞳を開けるとそこに…何かいた。
「おはよ」
「へ?」
「まだ寝てたら?」
「…そうします…。見知らぬ全裸男の幻が見えるなんて…!」
それも色男。にこやかに微笑むその表情は、女性なら一瞬で恋に落ちたりするんだろうけど。…あいにく俺は男なので、ただひたすらに驚愕を覚えるだけにとどまった。
とにかく眠って意識が夢から覚めることを祈ってみたんだが。
「イルカも着てないけど」
するりと俺の身体を抱き寄せた腕の感触が生々しくて、男の言葉がなくても、確かに俺が何も身に着けていないことを教えてくれた。
「わー服!?な、名前!?本物!?」
夢じゃないことは分かったけど…どうしたらいいんだ!
シーツを引っ張っても男が一緒にくっついてくるので身体を隠すことも出来ず、俺の手はあわあわと空を掻くばかり。
その様子をにんまりと笑う男が憎らしい。
「脱がす前に汚しちゃったからねぇ」
何でこうなってるのかは分からないが、せめて女性!こんなに見た目が良くなくてもソコは譲れない!
…朝っぱらから鼻血はいやだけど!
笑われている理由が良く分からないが、この人だって見知らぬ野郎と同じベッドで目覚めるなんていやじゃないんだろうか?
それともこの人そっち系の人なのか?
じっと見つめると、妙に爽やかな笑みを返された。
それにちょっとだけ冷静さを取り戻した俺は、思考があっちこっちに飛んでいくのを何とかなだめ、何より一番に確認すべきことをやっと口にすることが出来た。
「あ、あんた誰だ!?」
「カカシ。はたけカカシ。その分だとおぼえてなさそうね?」
「覚えてって…お、俺に何したんだ!?」
誓って言うが、俺にこんな優男の知り合いはいない。というか、そもそも銀髪の知り合い自体いない。
とりあえず心当たりのある物以外で…状況からして想定出来る最悪の事態である、そういった行為を連想させるような痛みはない。
だが、どこまで何をされたのか、想像するだけでぞっとした。
「んー?血まみれだったからねぇ」
…淡々とソレだけを言われるまでに、冷や汗を滝のように流していたと思う。
血まみれ…ということは、恐らく任務がらみで巻き込まれたんだろう。
というか、それ以外の理由は受け付けない!想像するのも恐ろしい!
「そ、そういうことは早く言ってくれ…!」
とりあえず、なにもなかったようだ。…そういうことにしておきたい。
安堵のあまり崩れ落ちそうになったが、待ち構えている男が今後も無害だとは考えられない。そもそも服を脱がすまではまだわかるが、勝手に家に上がりこむこと自体、おかしいことこの上ない。
「じゃ、じゃあその格好…?」
恐る恐る男の姿…俺と同じく服を着ていないことを問いかけたのが失敗だったと後で後悔した。
「それは、これからしようかなって」
さっきからじわじわと近づいてきて、しかもさわさわと身体を撫で回すその手が何を意味しているのか分からないままでいたかった。
「あの…なにをって聞いてもいいですか…?」
その瞳がやけに凶暴な欲を湛えているのも、普通殆ど知らない野郎の太腿をなでたりしないってことも、全部全部分かっていたけど。
…信じたくなかったんだ。
「んー?じゃ、体に教えるってことで」
「いや!あの!全面的にお断りします!」
「もう無理―」
「うぎゃぁ!」
覆いかぶさってきた男の体温が自分の身に何が起こっているのか突きつけてきて俺は悲鳴をあげることしか出来なかった。
「痛がる声よりいいよね。やっぱり」
…ご満悦な男の甘い溜息と興奮した瞳に怯えながら…俺は、こうなるまでに何があったのか必死で思い出そうとしていた。
*****
任務帰りに、中忍らしき男が襲われているのを見たのは偶然だった。
もう里の中だというのに、戦闘の気配を隠そうともせず、怒号や金属のぶつかり合う音が響いていた。
ふらりと気配を消して近づいてみれば、黒髪を尻尾のように括った男が戦っていた。
平凡な男。目立つといえばその鼻筋を横切るようにのこる傷くらいか。
ただ、男はたった一人で奮戦していたが、相手の数が多すぎる。
それに、男は武器を使う様子を見せなかった。
ただ振り下ろされるクナイを交し、術を避け、やり過ごそうとしている。
理由はすぐに分かった。
襲撃者の額宛も…木の葉のものだ。
「狐憑きめ!」
男に向かって闇雲に切りかかるものたちの言葉から、男の素性はすぐに知れた。
もうすぐ、自分の受け持ちとして押し付けられるだろう子どもの担任だ。
不器用だと老いた火影に愚痴交じりに零されたことはあったが、ここまでとは。
さっさと術なり武器なりで相手を止めることは出来たはずだ。
実力がないわけじゃないのは戦い方を見てもわかるし、そもそも実力のないモノをアカデミー教師にはしない。
だが、この男は決して相手に武器を向けることはないだろう。だからこそ、止めるべきだと頭では分かっていた。
それなのに。
「うるせぇ!狐がなんだ!ナルトはナルトだ!」
啖呵を切って相手を刺激した挙句、頭突きなんかで反撃しているのだ。
「わー。あったま悪いこと言ってる」
わくわくした。それに興奮した。散々逃げ回って乱れた髪がうなじに落ちているのもたまらない。
となれば、することは一つ。
もっとこの男を見ていたい。…このままではあの男は嬲られ、消されはしないまでもそう保たないだろうから、頃合を見て攫ってしまえばいいだけのこと。
中忍にしては良くやる方だが、いかんせん頭が悪い。…というか真っ直ぐすぎるのだろう。
とどめも刺さず生ぬるいやり取りを繰り返していれば早晩チャクラが切れるはずだし、それでも最後まであがくだろうから、傷は深くなるに決まっている。
わざわざ敵を挑発してどうする気なんだか。
そう思っても、まだ手を出す気にはなれなかった。
当然のように、男の一言で一気に殺気だった襲撃者たちが一斉に男に襲いかかる。
「馬鹿だねぇ…?」
そろそろか。そう思って背にしていた木から身体を起こしたときだった。
爆発音と共に降り注ぐクナイ。それに煙玉。…すべて襲撃者たちに向かっている。
それらに何か仕込まれているのは確実で、そしてソレが致命傷にならないのもすぐに分かる。
だが、正直驚いた。
…トラップだ。それも、多分この男が仕掛けた。
「へへ…!ばーか!…怪我するからもう止めろって言っただろうに…」
最初は威勢が良かったのに、最後はしょぼくれたように呟いた男は、思わぬ反撃に逃げ惑う襲撃者たちを置いて、走り出した。
自分もトラップの余波を受けてよろついている上に、度重なる攻撃を避けきれずに怪我してるくせに、このまま相手を見逃して自分は逃げるつもりらしい。
だが、走っていた男の足が急に速度を落とした。
「あー…くっそ…チャクラが…!」
よろよろとふらつきながら、それでも男は足を止めない。
…あのまっすぐな瞳を前に向けたまま、どうあっても前を目指すつもりのようだ。
その姿に鳥肌が立つほど興奮した。
「そろそろ。いいよね?」
ほっといたら危ないんだし、元々貰っちゃうつもりだったし、今すぐにでも押し倒したいくらいだが。
まずは攫って楽しんで、それからにしよう。
「え?…暗部…?」
舞い降りた俺にきょとんとしているのも可愛らしい。
だが、近寄ってみて分かったが、予想以上にもう結構な量の血を流しているようだ。
それなのに、自覚もなく…。
逃げ出そうともせずに俺を見つめているのをいいことに、幻術にかけることに躊躇いなど欠片もなかった。
赤い瞳。借り物のソレは十分にその威力を発揮してくれる。
ゆらりと、今度こそ倒れこんだ男を自分の腕に閉じ込め、血で汚れるのにも構わずそのままかついで里に向かった。腕の中の体が冷たいことに、激しい苛立ちを覚えながら。

自分の家に連れ込んで、服を剥ぎ取り、すぐに血まみれの身体を洗い流した。
細かい傷は多かったが、出血の割りに深いものはない。
ただ、新旧問わず怪我が、そして怪我の痕も多いことに気付いた。
任務だけでここまでの傷が残ることはないだろう。
つまり、おそらく襲撃はこれが最初じゃない。…まあ、ある意味当然か。
里の憎しみをすべて受ける存在に、ああも真っ直ぐな愛情を注いでいるのなら、きっと。
やり場の無い怒りをぶつける対象としては最高だっただろう。
納得はしたが、ちりちりと胸が騒ぐ。やたらと真っ直ぐなこの男の性格にか、それともそれだけこの男に上を向けられている子どもにか…ソレは分からなかったけれど。
「…ぅ…っ」
思わず身体洗う手付きが乱暴になったせいか、意識がないはずの男が低く呻いた。
苦痛の色の濃いその声に…思わず喉が鳴る。
真っ直ぐすぎて女から見ては魅力がないだろうが、その無垢さは逆に男を惹き付ける。
目覚めた瞳が真っ直ぐに俺を射ることを思うだけで心が躍った。
全部、これからだ。
「ねぇ…早く目を覚ましてね?」
意識の無い男が寄せる眉間の皺をつつき、むずかるように身じろぎするのを楽しんだ。
その様子が面白かったので、服は着せてやらないコトに決めた。
きっと目覚めたら驚くだろう。それとも、あのトラップのようにまた予想外の反応を見せてくれるだろうか?
すっかりこの男に嵌ってしまった。本人は俺のことなど知りもしないのに。
まあ、それはいい。あとでどうとでもなる。
理解できない執着の正体を考えるのは後回しにして、今はこの状況を楽しもう。
湿った髪を掻き揚げて、相変らず唸っている男に口づける。
楽しい。無骨な男相手にこんなに楽しい思いができるとは思いも寄らなかった。
案外と自分はゲテモノ好みだったらしい。
その事実すら楽しく思いながら、意識の無い男と布団にもぐりこんで…その瞳が開くまで、そのぬくもりを楽しむコトにしたのだった。
*****
そうだ。確か俺はまた襲撃されて、そんで適当にあしらってたんだけど数が多くて…それから途中で意識がブッツリ途切れている。
最後にみたのは…赤い光。
赤い物なんて居酒屋のちょうちんくらいしか心当たりがないが、俺はもしかして飲み屋の前でぶっ倒れたんだろうか?
人通りの無いあの森で、そうそう都合よくぶっ倒れた俺を見知らぬ誰かが見つけて、しかも拾ってくれるなんてこともないだろうし。
まあその拾ってくれた相手が問題なんだが。
もしも襲撃してきた連中に拾われてたらきっと今頃俺の命はなかっただろうから、その辺は感謝したいようなしたくないような…。
何はともあれ、できることならゆっくり記憶をたどりたい所だが、状況がそうはさせてくれない。
「頼むからちょっと待ってください!さわんな!あと状況を説明してくれ!」
太腿をなで上げていた手は危険地帯にあっさりと踏み込もうとしたので、なんとかその手を握って止めているんだが、その際にとてもとても見つけたくないモノを見てしまったのだ。
むき出しの肩に刻まれた、この男がどこの所属か証明する刺青。
部隊の名前さえ口にするのが恐ろしい所に所属してるってことは、この見かけが以上に良くて、常識がなさそうな男は俺よりはるかに強いってことで。
…つまり本気出されたら俺は絶対に敵わない。
要するに今俺の貞操は絶体絶命と言ってイイ状況だということだ。
「んー?終わったらね」
言葉も通じねぇし!
「終わりません!むしろ始まりません!服着ろ!夕飯も食いはぐったのになんでこんな目に合ってるんだ俺は!」
だんだん自分でも何言ってるのか分からなくなってきたが、こんなわけの分からんのに関わらなきゃいけない筋合いはないはずだ。
昨日の襲撃者の一派だっていう可能性もないではないけど、火影直轄部隊にそんなのが混ざってるなんて考えにくい。
恐らく、コイツはただの変態だというコトだと俺は判断した。
むくつけきとまではいかずとも、明らかに男だと分かる俺を当然のようにまさぐっちゃう当たり、本物の人かもしれない。
暗部って過激な任務が多いらしいから、どっか壊れているに違いない。
「話し終わった?」
「終わってねぇ!だから!さわんな!」
同じ男のナニを、俺の手の上からとはいえ揉んでくるその神経が分からない。
なにより、どうしてこんなことになってるのかがわからないのが恐ろしかった。
殴る蹴るなら耐えられるし、反撃のしようもあるが、こんな目に合ったことがないからどうしたらいいんだかさっぱりだ。
俺の不安と混乱は、きっと顔に出ていたんだろう。
男が、にやりと笑ってその手を止めた。
「状況ねぇ?…アンタがかっこいいから一目ぼれ。で、倒れたから持って帰ってきてあげたんだけど?」
「前半が!?でもあの、ありがとうございます。お礼は改めてしますから、どうかお引取り下さい」
お礼は言いたい。確かに危なかったんだろうし。でも持って帰るって…俺はモノじゃないんだが。あと、前半は聞こえなかったコトにする。深く考えちゃいけない匂いがするからな!
正座してる股間に忍び込んでこようとしてる男の手を挟んだままという間抜けな格好で、とりあえず頭を下げてみたんだが。
「命の恩人なんだけど?」
一言、そう言われて頭に血が上った。
「だからって…こ、こんな!」
もぞもぞと股間で蠢く手を何とかするのも忘れて怒鳴ったら、するっと、あまりにも自然に男に腕をつかまれ、押し倒されていた。
目の前にはにんまりと笑う男の色悪な顔。
しかも、だ。
「ま、アンタが欲しかったからどっちにしろ抵抗しても無駄だけどね!」
あっさり爽やかにこんなコトを言い切りやがった!
「爽やかに言うんじゃねぇ!」
「強姦も嫌いじゃなかったみたいなんだけど。挑発したのそっちだからいいよね?」
そういうなり、あっさりひっくり返された。
油断していたのは確かだったが、あまりにも簡単にひきたおされた上、男の長い腕が俺の腕を拘束し、あっさりとマウントを取られてしまったことに驚きを隠せない。
それも、こっちが中忍だからとはいえ、片腕だけで身動きすら取れなくされるなんて!
男の速攻振りはとどまることを知らず、今度は生暖かい物がむき出しの下肢を滑っていく。
舐められているのだと気付いた途端、自分でも驚くほど掠れた悲鳴が上がった。
「い、やだぁ…!」
ぬるりとした感触は自分でも触ろうと思わない所を暴き立てるように舐め上げる。
涙が滲む。きっと恐怖と驚愕で。
痛みなら耐えられても、こんな目に合うなんて想像もしていなかった。
こんなに情けない格好を晒しているというのに、男は熱い溜息を吹きかけてくる。
「あーもう。そんな煽ってどうするのよ」
「な!?なんだそ…っ!ひっ…!」
くちゅりと湿った音がして、息が詰まった。異物が、多分男の指がねじ込まれたのだ。
はっと息を吐いて衝撃を逃がしても、異物感は消えてくれない。
何か得体の知れない液体で濡れているせいか、痛みがなかったのが却って気持ち悪さを助長した。
「欲しい」
呟くようなその声が、男の本気を感じさせて恐ろしい。
抵抗しても無駄だとわかっている相手に剥き出しの欲望を向けられているのだから。
「そんなの、知るか…!」
虚勢を張ってみても、声が震えているからきっとびくついてるのはバレバレだ。
次に何をされてしまうんだろうかとか、何かまた妙なことを言い出されるんじゃないかとか戦々恐々としていたのに。
「その瞳、真っ直ぐすぎる所とかがさ。好き」
男は、やってることはとんでもないのに、恐ろしく甘い声でうっとりとそう呟いた。
「え…?」
「好き。…だからアンタは、怪我してるのもそそるけど、俺以外になんかされてるのは最高に腹が立つ訳」
めちゃくちゃだ。
怪我してるのがそそるとか、全然さっぱり理解できないし、したくない。
ただ向けられる熱の篭った瞳を見てしまってから、バクバクと勝手に心臓が騒ぎ出したのが分かった。
「なんだよそれ…。そんなの好きなんていわない!」
強引な手、強すぎる瞳。
怒りは確かにあったのに。…飽和しそうな思考の片隅で、どうしてか、目の前の男が哀れなほど真っ直ぐに見えた。
ただ欲しいものに躊躇いなく伸ばすことの出来るその手をうらやましいとすら思えて…。
だからそれが自分に向けられている物だというコトを一瞬忘れてしまった。
「誰にも渡したくないし」
「うぁ…っ!」
ぐいっと、中を抉る指が何かをかすめて、目の前が白くなった。
ソコに何があるのかを知らないわけじゃなかったが、ここまで強烈な刺激だとは想像もしていなかった。
わけがわからなくなりそうなそれから逃れようと身じろぎしても、男は嬉しそうに行為を続けるばかりで、そんなところに指を突っ込まれたまま動くのも怖くてただ震えることしか出来ない。
「そういう顔、俺以外に見せたくないんだよね。だからこれが好きってことでしょ?」
舌なめずりでもしそうな…でも切なそうな表情でそんなコト言われても、納得なんか出来るわけがない。
「勝手なこというな…!そんな顔したってダメだ!好きって、好きならいきなりこんなことしない!」
突っぱねてなんとしてでも抵抗しようとしたが、それが男を煽ってしまったらしい。
「既成事実って重要だよね?」
「んっ!」
くちゅくちゅと響く水音が激しくなり、性急なそれに息が上がった。
それだけでも頭が焼ききれそうなのに、いつの間にか立ち上がり始めた自分の欲望が視界に入って、叫びだしそうだ。
…実際こぼれたのはかすれた喘ぎにしか聞こえないものだったけれど。
散々に嬲られて、こんな相手にと堪えているのも限界に近づいてきている。
ただ吐き出したいという思いが、思考を削っていくのがわかって、それでも俺は堪えるつもりだった。
眉を寄せた男がそっと俺に口付けてくるまでは。
「もう止まらない。…だから、ほだされて?」
苦しそうな声に、切羽詰った男のモノが内股に触れているのにようやく気付いた。
いつからこんな状態だったのかわからないが、こうなったらもうどうしようもないのは分かる。自分も男だから。
「うぅぅぅ…馬鹿野郎…!終わったら殴る!」
諦めたわけでも許したわけでもないが、これ以上はお互い…限界だ。
フルフルと震える己のこらえ性の無い分身を不甲斐なく思いながら、睨むだけ睨みつけてやった。
「いいよ?…ま、できたらね?」
嬉しそうに笑って食らい付かれる様に圧し掛かられて、すぐに強引に押し入られた。
「いあっ!あ…っ!」
痛い。質量が違うしそもそもそんなことをするために出来ているわけじゃないそこに、無理やりねじ込まれているのだ。
うっとりと目を細めてふぅっと溜息を疲れたのにもまた腹が立つ。
…気持ちイイなんて思ってしまった自分にも。
「ん。きもちい。…ね、動いていい?」
「ばか、だまれ、も…!」
息をするのも苦しい。なんでもいいからさっさとしろ!
そう詰ってやろうとした口は、男の口にふさがれてしまったし、すぐさまガツガツとうがたれてまともな言葉などでようはずもなく。
ただ熱い吐息と喘ぎ声がこぼれるのをとめることもできず、覚えていることといえば…気持ち良さそうにしている男と、その瞳に映る蕩けきった表情の自分ぐらいのものだった。
*****
朝寝を楽しむつもりだったのに、狙ったように任務を知らせる鳥が舞い降りた。
自分でなくてはならない任務じゃなかったら、そのまま無視を決め込んでしまうつもりだったがそうも行かないらしい。
しぶしぶながら、隣でまどろむ…というか、ほぼ失神していた男の後始末を終え、自分の身づくろいも適当に済ませた。
俺が装備を身に着けていくのを恨みがましい目で睨んできたが、昨日の行為の聖で目の端を赤く染めたままでは、甘い時間を思い出させるだけだ。
だが、殴ろうにも殴れないようだ。後始末した時もモガモガとあがいていたが、すぐに痛み固まっていた。
思わず頬が緩む。あまりにも痛がるので、後始末の時に思わず喘がせ過ぎたののを思い出したのだ。
帰ってきたら…すぐに捕まえよう。そのためにはさっさと任務を片付けなくては。
普段より心持急ぎながら身支度をしている俺に、ぶすくれた男がぼそっと話し掛けてきた。
「アンタ、暗部なんだろ?顔」
そういえば、面は男を連れ込む時にさっさと外してしまったままだったのを思い出した。
一応規律違反ということにはなるだろうが、顔も名前も売れすぎた自分にとってはそうたいした問題ではないのだが。
その心配そうな顔を見ているとからかいたくなってきた。
「今更だねぇ?ま、もうすぐ辞めるからいいんじゃない?」
「はぁ!?やっぱりアンタそんなだから辞めさせられるのか!?」
この反応も予想外だ。…やっぱり楽しい。それに胸が熱くなるようなこの思いは…。
「ちがうけど。…また、会おうね?」
子どもの出来はわからない。…だが確信があった。
この男が導いたのなら、きっと自分の目に適うだろうと。
「…知るか。俺も忘れる。お前なんかその辺の野良犬と一緒だ。噛まれても…忘れられる」
ぼそぼそと零しているくせに、寂しそうな顔をしている自覚はないのだろう。
人肌に弱いというか、一度でも受け入れた相手はきっと見棄てられない。
付け入る隙は十分だ。…他によりつくのを排除するのには苦労しそうだが。
「そ?じゃ、忘れられない内にまた…今度はもう暗部じゃないから、その時は」
「うるさい!とっとといっちまえ!」
「またね」
怒鳴りつける男を置いて、窓から家を後にした。
すぐにも駆け出そうとした足を止めたのは、男の呟きだ。
「…あーもう…なんだよもう…サイテーだ…」
ベッドの上で呻き、顔を真っ赤に染めているのが扇情的で、もう一度くらいヤッてから行こうかと思ったほどだ。
だが、うつむいて頭をフルフルと振ってから頭を上げた時には、最初にみたあの真っ直ぐな瞳をしていて…。
「今度あったら…絶対殴ってやる!」
決意にみちたそれが、自分に向いているのだと思うだけで、ふわりと自分の中を何かが満たしていく。
この任務が終わったら。
…今度こそ捕まえて離さないと決めた。

まあ、いそいそと任務を片付けたというのに、律儀に片付けられてもぬけの殻だった家に溜息をつく羽目にはなったのだが。
そうして…。
初めて下忍として引き受けた子どもたちは、やはり面白い育ち方をしていた。
あの男が育てただけはある。個性的で破天荒で…手を焼かされそうだ。
その分将来も楽しみでもある。
だが…誇らしげな子どもたちを引き連れて、受付所で再会するなり宣言どおり思いっきり殴られた。
「アンタかー!」
怒鳴り声と共に子どもたちが何事かと騒ぎたて、混乱は混乱を招いて忍の里とは思えない大騒ぎに発展した。
イルカ先生になにしたんだ!から始まって、酷いわ!だの、最低だなだの…当然のように自分が何かしたのだろうと断定されたのには苦笑するしかなかったが。
「アンタってやっぱサイコー」
結果的に受付所を騒然とさせた男はその事実に激しくうろたえてくれたので、我慢できずにそのまま攫ってしまい…さらなる罵倒を浴びたのも、まあそれなりに楽しかった。
*****
髪の色も態度も声も、間違いなくあのはた迷惑な男なのに。
…改めて自己紹介してみるまでもなく、間違いなくコイツはナルトたちの上忍師だ。
「今後とも宜しくね?」
名乗りついでにさらっと今後を匂わせる当たり卒がない。
といっても、流石上忍と褒められるほど俺の心は広くない。
いつの間にかいつぞやの部屋に連れ込まれているという事実にも、全く寛容になれないにきまってる。
「はぁ…手のかかるのが卒業したと思ったら…!」
やり場の無い怒りというか…諦めと呆れというのが正しいだろうか?
思わず盛大に溜息をついたら、その溜息が色っぽかったなどと言い出して、押し倒されて、怒鳴りつけて…それなのに、そのままなんだかんだといいようにされてしまった。
なにせ、当然のようにくっ付いてきたから、咎めそこなったのだ。
…そういうコトにしておいてくれ。可愛く見えたとかそんなこと…!
その結果、なぜか翌日には広まりきっていた噂には辟易したが、後の祭りで。
気がつけば男と俺は里一番のバカップルになってしまったらしい。
「ま、いいんじゃない?こんなこともあるでしょ?」
そう嘯く男には毎度毎度拳固をくれてやってはいるが、反省の色は全く見えない。
「もう知るか!」
ニヤ付く男を置いて歩き出しても、どうせすぐに追いついてくると知っている。
「かーわいいよね。ま、諦めてよ?」
「さあな!」
ぎゅっと後ろから抱き着いてくる男の頭を腹立ち紛れになでてやりながら…俺は、人生何が起こるかわからないもんだよなぁと思ったのだった。


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