馬鹿みたいに晴れた空。 秋の澄んだ空気は、ただそれだけで俺の気分を良くしてくれたはずだ。 …こんな状況じゃなけりゃ。 「…ってー…」 身じろぐだけで痛む。それも全身が。情けないコトに目じりに涙までにじんできた。 忍とはいえ、こんな痛みには慣れていない。 なにしろ、酷使した腰だのあらぬところからの鈍痛が全身にひたひたと染み渡っているから、動く気にさえなれない。 報告だってあるし、なにより体が気持ち悪いし…だが、もう指一本だって動かせない気がする。 「ねぇ。もう抵抗しないでね?怪我させちゃったじゃない。痛くさせないくらいのテクはあるんだからさ。」 …で、その原因がこれだ。 お使い程度の簡単な手紙の配達をこなし、気分良く里への道を歩いていたら、いきなりこの…見知らぬやたらめったか逆立った銀髪の暗部に掴まって、茂みに連れ込まれたのだ。 おもむろに面を外して微笑むその姿が…顔に刻まれた傷さえも…あんまりにも綺麗だったので、思わず見とれてる隙に肩をがとつかまれて…。 「ちょっといーい?」 なんて、小首をかしげていいながら、ちょっとどころかとんでもないことを仕掛けられて、当然いい訳がないので全身で抵抗した結果。 全身泥まみれで、ついでにコイツの吐き出した体液と不本意ながら俺の分まで残っていて、さらに腕にはワイヤーが。 要所要所だけ剥かれた服には先ほどまで強いられていた不本意な行為の残滓が染み付いて、取り返しのつかない気分にさせられる。 捕虜になったってここまで意味の分からないまねはされないと思う。 …とりあえず、おもちゃにされるにしても、目的があるだろう? そもそもこの男は、風体からして木の葉の暗部。味方であるはずなのに。 それを…!ちょっといーいとは何だちょっといーいとは!? 挙句の果てに…なんだってこんな目に…! 女でもないのに、通りすがりの…それも味方相手にナニしでかしてるんだコイツは! しみじみと己の不運を嘆いたり、苛立ったりしながら身をよじっても、ワイヤーは当然緩みもしない。 …中忍である俺が本気で抗っても敵わなかった。そして、今も…縄抜けすらできないことに、実力差をひしひしと感じて、どんどんヤル気がそがれていく。 もう、この際だ。この変なのがどっか行くまでここで伸びてた方がマシなんじゃないだろうか? 一瞬全てをあきらめてしまいそうになったが…もしこの見知らぬ男の目的如何によっては、このままここで消されることもありうる。 なけなしの体力で、俺は果敢にも男に向かった。…破れかぶれになったとも言う。 「な、…でっこんな…!」 かすれて引きつった声で問い詰めては見たものの、見知らぬ男は嬉しそうに俺の肌をまさぐるばかりで埒が開かない。 「えー?だって、アンタすっごい好みなんだもん!なぁに?初めてだと思ったけど、ひょっとして男いるの?」 「いるわけあるか!」 せめてそこは彼女だろうが!…生まれてこの方いたことないけど…! コイツは…こんなに見てくれがいいからその辺不自由してなさそうなのに!何だって…普通に平凡に生きている俺に…男なんかにこんなコトしやがるんだ!? 俺の怒りに男はうふふーっと頭の足りない笑い方をしてみせた。 「じゃ、いいじゃない!アンタ、俺のね!」 まるで気に入りのおもちゃを手に入れたかのような笑顔は、無邪気で、無駄に整っているだけに可愛らしくさえあるが、その内容にはびた一文同意できない。 「俺のってなんだー!?」 俺の叫び声は思ったよりちゃんと声になっていて、だがそれを出すことで全てを使い果たした俺は、…そのまま危険人物の前で失神するという愚行を犯した。 ***** 「え?なんだ?ここどこだ?」 「おはよー。」 目覚めた俺の前には、例の頭のおかしい銀髪の暗部が嬉しそうに笑っていた。 それだけならまだしも。 「ふざけんな…!抜け!…うぁ…っ!」 気を失う寸前まで、この男にはとんでもない行為を強いられていた。その上今も…! それもさっきよりもっと酷い格好だ。全裸で、足を持ち上げられて、その間に腰を押し付ける男は、嬉々として俺を揺さぶっている。 深々と入り込んだ楔が、ぬちゃぬちゃとぬかるんだそこを水っぽい音を立てながら出入りして…。 なんでなんだ!なんでこんな…それも、気持ちイイなんて…! 抵抗することもままならぬほど激しい行為に、生理的な涙で視界がにじむ。はぁはぁと荒い息を吐き出すばかりの口は、か細くかすれた女のような声しかだせなかった。 ソレを情けないとか思うこともできず、ただじわじわと押し寄せる快感の波に必死で抗うのが精一杯。 「あー…やっぱり気持ちイイ…!」 人の話しなんか聞きそうにもない男は、やっぱり俺の抵抗も、文句も、抗議の視線も全て無視した。 …その結果、俺は朝まで見知らぬ男に蹂躙される羽目になったのだった。 ***** 「ね、名前は?」 機嫌のいい猫のような表情で、男が俺の乱れきった髪を掬い取り、耳元で囁く。 「…っ…いうもんか…っ!」 こんな…とんでもないヤツに名前なんか言えるはずがない。 何されるかわかんないじゃないか!…忍の里で、しかも暗部の男相手に、俺の個人情報なんてあっという間に分かってしまうとしても、言いたくない。 ギッと睨みつけると、男は困ったようにため息をついた。 「任務の報告まだなんでしょ?」 まるで、手のかかる子供を相手にしているかのような口調。 …馬鹿にしてんのか!? 「…っ!そ、離せ!報告に行かないと…!」 抱き込まれたままでは色々不安だ。…第一未だに服を着ていないのだ。 久しぶりの人肌の温かさにうっかり馴染んでしまっていたが、これ以上何かされるんじゃないかと思うと恐ろしくなってきた。 報告は確かにしなくちゃいけないし…! 渾身の力で振り払おうとした腕は、だがしかし、当然のようにぴくりともしなかった。 「だーかーら。引退前の報告ぐらい俺がしてあげるから。ね?」 子どもに言い聞かせる母親のように、ちょっと眉を下げて困った顔をされた。 困ってるのはこっちだ! 「なんだそれはー!?」 さっきから、俺がわがままを言ってるみたいな扱いを受けていて、非常に不愉快だ。 俺がわがままを言ってるわけじゃない。コイツがおかしいだけなのに!大体引退だななんて…!まだそんな年じゃないぞ! あんまり困った顔するから、一瞬俺が悪いのかと思ったじゃないか! …顔がいいやつは得だ。なにしても様になるからな…! 改めて気合を入れなおし、とりあえず殴るか怒鳴るかどっちにするか迷ってたら、男が急にべらべらと喋り始めた。 どこか自慢げで、楽しそうな…期待に満ちた瞳で。 「こないだ知ったんだけどさ。誕生日って誕生日プレゼントっていうのもらえるんでしょ?」 「は?」 突然すぎて訳が分からない。 誕生日プレゼントと今までの傍若無人な振る舞いとの間にどんな関係があるのかさっぱりだ。 俺の怪訝そうな表情に気付いた男が、何故かきょとんとしている。 「あれ?ちがうの?」 「いや、それはまあ、もらえる…かもしれないけど…。」 年齢的にそろそろもらえない…いや、恋人とかがいたら別だろうけど! そう思ったが、何が何だか分からないので、うかつな発言は慎むことにする。 とにかく相手に出方を伺わないと…! 語尾をぼかして次の発言を待っていたら…意気揚々ととんでもない宣言をかましやがった! 「それ、俺貰ったことないっていったらさ、三代目が今度欲しいもの言えっていってたんだよね?だから、アンタ貰うから!」 元気一杯でイイ返事ですとアカデミーなら言ってやるかもしれないが、その内容が問題だ。 「…ちょっとまて!前半はイイ話しだけど後半は明らかにおかしいだろ!」 常識的に考えて、欲しいものの中に普通は人間は入らないはずだ。 それを…なんでこいつはこんなに嬉しそうに当然の顔して同意も得ずに…! 「えー?どこが?」 口を尖らせて子どものようにむくれていて、その表情だけなら可愛らしいと思いそうになったが…コイツはどうみても俺と同じくらいの年だ。 それなのに!常識は何処へ捨ててきた! 「どこもかしこもだ!」 …っていうか…こんなのが暗部やってて大丈夫なのか…!?うちの里の未来は…!? プレゼントに人間送るなんて…!俺の人権どうなってるんだ!? 俺の当然の主張は部屋に響き渡ったが、男は急に泣きそうな顔でシーツを握り締めだした。 「…プレゼントって、貰ってみたかったのに…。」 うるうるした瞳は、今にも涙を零しそうに見えて…子どもを苛めてしまったような気分になる。 「か、可愛い顔しても騙されねぇぞ!…プレゼントって言うのは、おもちゃとかあと、ケーキとか…」 可愛いなんて思うのは…コイツの頭の中身は…アカデミー生並みだからだ…! 別に俺は悪いことなんかしていない! コイツは…俺にとんでもないことをした犯罪者で、頭がちょっといかれてて…! 何故か己に総必死に言い聞かせても、胸の痛みは引かなかった。 「甘いもん嫌いだし。おもちゃ…?いらない。」 ぶすくれた顔ですねる男は、要するに誕生日だった…らしい。 それがなんだと叫ぶには、男の表情があまりにも哀れっぽいものだったので、俺は慌てた。 「ほ、他に欲しいもんないのかよ!」 この年齢だったら欲しいモノは山ほどあるだろう。 …暗部なんてきっと金持ちだろうから、なんでも簡単に手に入るせいで感覚がおかしくなってる可能性のほうが高い。 だから、俺が罪悪感なんて感じる筋合いはないはずだ。 そう思ったのに。 「欲しいモノ、ねぇ…?どうせモノなんか、なくなっちゃうじゃない。…人だって。」 その声が孕む喪失の苦痛と諦念めいたものには、俺にも覚えがあった。 手に入れても一瞬で無くしてしまう位なら…その痛みに耐えるくらいなら、もう何もいらないと思った時期が俺にもあったから…。 忍なんてやっていると、その辺とは上手く折り合いを付けられるようになるはずだが、この男は恐らく強いんだろう。 だから、きっとソレができるようになる前に、任務漬けにされたのかもしれない。 そして、そこでまた失って…。 …胸が痛い。俺は、なにもできない。…諦めることしかできなかったから。 「だけど…アンタ頑丈そうだからさ。」 「な!?」 男の失礼な表現は、しんみりした雰囲気を台無しにした。 確かにそこそこの実力の中忍で、それにまだ若い。…頑丈っていえば頑丈だ。 だからって、いきなりなんだ!モノみたいに…失礼な! 「だから…あんたが楽しそうに可愛い顔して歩いててさ。欲しいなって思ったの。」 男のその言葉に、いいたいコトはなんとなく分かったけど、ソレとこれとは話は別だ! いきなり訳のわからん目に合わされて、こんなコト言われれば腹は立つ。 だが…ちょっとだけ、怒りを持続するのが難しくはなった。 「頑丈だけど…プレゼントに人間はダメだ!」 一応基本的なことが分かってなさそうな男に、説教するにとどめると、男は目を伏せて上目遣いで俺の顔を見つめてきた。 「…だめ?どうしても?」 戸惑うようにおずおずと俺の腕に触れる指先も、叱られた子どものようなその表情も…最初の傍若無人な態度と180度違っている。 ああもう!怒りにくいじゃないか! 「プレゼントは他の物考えてやる。…お付き合いって言うのは普通、お友達からっていうか…そもそも俺は男だ!」 「え?だから?」 心底不思議そうな顔をされると、自分でも何が言いたいのか分からなくなってきた。 なんだってこんな奇行に出たのかは良く分からないが、男なりに寂しかった…のかもしれない。 そこへきて、誕生日プレゼントなら何でも貰えるときいて、トチ狂った行動にでたということか…? とにかく、確実に分かるのは、この男には突拍子もない行動力だけがあり、常識の方は欠片もないということだけ。 「…わかった。お前は放置すると危険そうだから、友人くらいにならなってやってもいい。」 本来なら強姦魔相手にこんな配慮をしてやる義理はないが、今度コイツの毒牙に掛かる相手が女性だったら洒落にならない。 時として、里は実力のある物の血を残すために非道な真似もしかねない。…三代目は別として上層部の一部はその非道を許すだろうから…。 「わー!やった!じゃ、どれくらい経ったらアンタもらえるの?」 俺の苦渋の選択に、歓声を上げて抱きついて、男が期待に満ちた瞳で俺を見る。 …その瞳は遊んでもらうのを待っている子犬のような輝きを孕んでいて…。 「もらえねぇって言ってるだろうが!」 前途、多難だ。 歓声を上げて抱きついてきて、次いでとばかりに俺の体に手を這わす男の暴虐を許すつもりはなかったが、いい加減脱力しきっている。 だって絶対にこいつ分かってねぇし! そう思いながら、とりあえずぶん殴るにとどめた。 ソレさえも嬉しそうにする頭の足りない男に意味のある行為だったかは疑問だが。 ***** 結局、その後もこりない男との三度目の不本意な情事にも連れ込み、大分遅くなってから三代目の元に報告に行くことが出来た。 男のコトは何とか言いつくろうつもりだったが…。 報告にまでのこのこ着いてきて、ついでに「俺の誕生日はこの人がいいです。」なんて嬉しそうににこにこと頭の悪いことを言い出した男のせいで、俺は散々舐め似合うコトになった。 三代目は男のとんでもない宣言に涙を流し、「これでこやつも一安心じゃな…!これからもよろしく頼むぞ!」なんていわれて、今までお世話になっていた三代目を無碍にも出来ずうっかりうなずいたら…当然のように男の家に持ち帰られてしまった。 …誕生日プレゼント、だからだと。 「なんでだ…!?」 「え?なぁに?もっとしたいの?」 俺の叫びに、男は相変らず明後日な反応を返ってくる。 引越しの片付けをものすごい速さで終わらせて、うふふーっなどと頭の悪い笑みを浮かべながら俺に無体な真似を仕掛けてきた男は、完全に俺の理解の外だが…。 …バカは、放っておくと危険だからな。 相変らずめちゃくちゃなこと言いながら抱きついてくる腕が心地よいコトは気のせいだと思うことにして…後はただ、そっと頭を撫でてやった。 目を細めて「誕生日プレゼントってサイコー!」なんてにこにこ笑ってる馬鹿のために。 ********************************************************************************* とりあえずカカ誕一発目。 アホの子カカチとうっかりほだされるイルカちゃんの話??? 次は…いじめっ子かなぁ…? ではではー!御意見ご感想つっこみなどありましたらお気軽に拍手などからどうぞ…! |