青空

「空が青い、なぁ…」
馬鹿馬鹿しいくらい青く澄み切った冬の空。…それはそれは、目を見張るほど青く輝いて美しい。
こんなのも悪くない。
ひゅーひゅーと耳障りな自分の呼吸音も、きっともうすぐ聞こえなくなる。
幸いにして痛みの方も先にあきらめてくれたらしく、もはやその感覚を止めている。
自分から流れだしていく赤い液体よりも、この…美しい空を見ている方がずっと建設的だ。
救援は期待できないのだから。
…捨て駒だと知っていて引き受けた。
もう育ちすぎるど育ったかつての教え子は、仲間を得て強くなった。
火影になる。その夢もきっとかなう日は近いだろう。
だから、俺はもう用済み…むしろ邪魔でしかなかったはずだ。
俺がいれば、あの子を支配しにくくなるから。
里長が倒れ、取って代わったのは得体の知れない…三代目がその動向を常に探らせていた相手。
だが、あの程度が支えられるほど、里は甘くない。
きっとあの子が、そしてその仲間たちが覆してくれる。あの、偽りの支配者を。
引き受けなければと突きつけられた条件はとても飲めるものじゃなかった。
まだ外の世界を知らない生徒たちを、捨て駒にするくらいなら、もう役目を終えた俺が消えるくらいなんてことない。
まだまだやりたいこともあった。でも、今はもう…。
こんなに綺麗なものが見られたから、もう、いいか。
世界に別れを告げられるほどゆっくりと終われることに感謝した。
あの災厄の日のように一瞬で消し炭に変わるより、きっとずっとましだ。
「…っは…うん。いい人生だったかな…」
里は未だに危機の中にある。…でもきっと変えてくれると信じられる。
あの子は…きっと泣くだろう。そしてきっと…里長を名乗る反逆者に気付く。
なにせあの子の側にはあの人がいるからな。火影という、責任の重さと同等に老獪なものたちと対等に渡り合えるあの人が。
そうだな。最後に思うならあの人がいい。
銀色の、人。
あの子を支え、強く、ひねくれモノだけど里を守ることには真っ直ぐな人。
どこかもろく見えた人へ抱いてしまった思いは、墓場まで持っていくつもりだった。
あの日、出会った日に青い空の下で飄々としたそぶりで、でも子どもたちをいとおしそうに見ていた瞳を知っている。
優しい人。きっと俺のことも悼んでくれるだろう。忍にはつきものなソレを、きっと小さいけれど大事にずっと覚えていてくれそうだ。
脳裏に移るあの人の思い出が、掠れ始めた視界にも影響し始めたらしい。
青い空を隠すように銀色の人が見える。
そうだな。どうせ最後なんだし。
「好きです。カカシさん」
とびっきりの笑顔で言えたと思うんだけど…。
「なによそれ…!」
苦しそうに呻かれてしまった。
なんだ?俺の妄想力もたいしたことないな?もっとこう…笑って欲しかったのに。
…最後なんだから。
「ああもう!俺だってまだ言ってないのに!なに諦めてるのよ!ふさけるな!」
ああでも、どんな表情でもいいなぁ。
我ながら馬鹿だと思うけれど、惚れた相手への感想なんてそんなもんだろう。
まあ、いいや。なんでも。幸せな…甘く苦しく切ないこの思いを抱いたままいけるのなら。
あれ?でも…。
「痛い…?」
温かい何かに包まれている感触があるのに、散々苦しめた挙句にやっと感じなくなったはずの痛覚が戻ってきてしまった。
流石に笑っても入られなくて、眉をしかめて、でも動ける力なんてないから息をつめていたら怒鳴りつけられた。
「うるさい!ちょっとじっとしてなさいよ!」
良く見れば、銀色の人以外にも回りに見知った顔がある。
どれもこれも青白く泣きそうな顔。
「あれぇ…?」
流石におかしい。だって、俺の妄想なのに、知らない顔が混じっている。
「カカシ先生!間に合うわ!」
切羽詰ったこの声には聞き覚えがある。
頑張りやで、寂しがり屋で、今もずっと諦めないで一緒に追いかけると言っていた…。
「サクラ…?」
「黙ってないと殴りますよ!塞がった!特製の造血丸と兵糧丸と…!」
殴られはしなかったが、ぐいぐい口の中にざらつく丸薬を突っ込まれて苦しい。それとともに、えもいわれぬ悪臭と得体の知れない刺激的な味わいが口の中一杯に広がった。
呻きながら何とか動きの鈍い舌で格闘していたら、いきなり何かにふさがれた。
「うぐっ!ふ…っ!」
ふさがれた口が苦しい。だが流れ込んできた水と、生暖かい蠢く何かのせいで、何とか厄介なものを飲み込むことが出来た。
「カカシ先生って、こういう時は大胆ですよね」
呆れたような教え子のコメントからして、どうやらカカシさんが手伝ってくれたようだが、その方法には鼻血がでそうなのでこれ以上想像するのは止めた。
「しっかり治して。こんな馬鹿な任務引き受けて…!治ったら一発殴るから」
物騒な口を利きながら、抱き上げられた。
まだ痛みはあるけれど、冷え切った体は温かい体温がしみこむようだ。
「それ、私の後にして下さいね?」
「サクラは止めときなさい。洒落にならないでしょ?」
じゃれあうような会話を聞きながら、混乱の中で、俺は意識を手放した。
*****
「あれ…?」
動けない。それは視界に入る俺の手も足も体中包帯だらけであるだけじゃなく…。
「なんで乗ってるんだ、この人が」
怪我人のベッドの上に我が物顔でその長く均整の取れた体躯を横たえ、ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめているのは…。
「ああ、起きたね?でもしばらくここから出さないから」
怒っているのは分かる。そしてここが病院じゃないことも。
…病室にエロ本が堂々と並べてあるなんてありえないからな。それにしても崩壊した里のどこにこんな立派な本棚が…?
だが、ちょっとまて。それ以前に。
「え?あれ?生きてる…」
ということはだ、俺があの時見たのは幸せな幻なんかじゃなくて…。
「本物…?」
「本物ですよ」
心底あきれ返ったとばかりに言い捨てられると惚れた相手なだけに傷つくが、それよりも…。
「うわぁ!俺!あの!」
そうだ。うっかり言ってしまったはずだ。それも最悪のタイミングで。
だって、幻覚だと思ったんだよ!
絶対に言わないつもりだったのに!…だって、望みがない上に、気持ち悪がられたら最悪だし、そもそも…家族の縁が薄いこの人には普通の幸せが似合うと思ってたから。
己のうかつさに身もだえして、この状況はどうなのかなんて考えもしなかったけれど。
「寝ぼけるのは自由だけど、することはするんで宜しく」
「へ?」
乗っかられているのは変わらない。変わったことといえば、カカシさんがどんどん何かのサービスかと疑うくらいにばさばさと勢い良く服を脱ぎ捨てていくことだけ。
あ、なんか鼻血でそう。
「怪我はさ、多少痛いくらいのほうが分かるでしょ?あんた馬鹿なんだし」
「馬鹿…」
頭に火影岩が崩れてきたって、ここまでショックじゃなかったと思う。
好きな人に馬鹿って言われてうれしいわけがない。
呆然として、多分ちょっと涙目になってたっていうのに、カカシさんは容赦しなかった。
「馬鹿でしょ?なんで誰にも知らせなかった?俺たちがいなかったからって、方法はあるのになんで?馬鹿以外にありえないでしょ?」
その言葉にますます落ち込む前に、俺にかけられていた毛布が容赦なく引き剥がされた。
露になったのは、予想通り包帯だらけの俺…で、これはどういうことだろう?
「ぎゃー!せめてパンツ!武士の情け!」
そこだけ包帯が巻かれていないというか、他にも包帯がないところもあるんだが、なにしろそこは隠すべき所で、しかも秘めた恋の相手に見せたくは…って、もう秘められてもいないのか…。
「黙って。傷はふさがってるけど、暴れると開くよ?」
股間を隠すはずだった手は簡単に戒められ、そうすると目の前に綺麗なその顔が一杯に広がった。
怒ってても綺麗だなぁ。
…なんて、暢気に見ほれてる間に、自体はどんどん進行していったのだが。
「ふっ…ぅ…っ!?」
口をふさがれた。薬も水も入ってこなかった代わりに絡み付いてきたのは、まるで別の生き物のように蠢く…これは、カカシさんの…!?
一気に頭に血が上り、もがもがやってる俺に構うことなく、カカシさんは散々俺の口中を味わった。
「可愛い乳首は隠れちゃってるけど、いいか。これからいくらでもみられるんだし。」
やっと開放されたと思ったら、こんなコトまで言い出す始末。
「な、ななななな!?え?え?」
「痛いのヤでしょ?ま、初めてだし多少は痛いだろうけど。我慢してもらうから」
宣言は一方的で、行為はもっと一方的だった。
包帯のせいで曲げるのも苦しい足を抱え上げられ、容赦なく弄り回されて、自分の口から信じられない声がこぼれていくのを驚きとともに聞いた。
甘い痛みと快感とさっぱり分からないこの事態、ただ喘ぐことしかできない自分…全てが処理能力を超えていた。
「入れるよ」
荒い呼吸とともにその声が聞こえて、ぐりぐりと何かが己の内に入り込んでくるのを痛みと快感とともに受け入れて…。
すぐに叩きつけられるように動き出したカカシさんのせいで、俺の頭は焼ききれるような快感にすっかり真っ白になった。
*****
これはどういう状況だろう?
「はい、あーん」
予期せぬ運動と任務での消耗を残したままの体は、目の前の美味そうな飯を求めてひっきりなしに喚いてくれているんだが、この体勢が。
「あのう…俺、自分で食えます…!」
怪我だらけの上に無茶な運動したせいで立つのもきついであろうことは予想できたが、さすがに赤ん坊のように食べさせてもらわなければならないほど重症じゃない。…重症でもそんなのは無理だ。こんな情けない状況、羞恥でしねる。
羞恥といえば、あんなことしちゃったのに、どうしてこの人平気な顔してるんだろうか?しかも、どっちかっていうと、夕べの切羽詰った様子はなりを潜め、満足げというか嬉しそうというか…とにかくやたらと嬉しそうだ。
「だーめ。もう俺のなんだから、いうコト聞きなさい」
「へ?」
ぽかんと開けた口に放り込まれたのは、焼きたての魚と飯。空腹に染み入るその美味さに思わず顔がほころんだ。
「ほら、次」
次に差し出されたは黄金色に焼きあがったこれまたうまそうな卵焼きだ。こげた甘い香りからして、きっとこれは俺の大好きなハチミツ入りの卵焼きに違いない!
気が付いたら、俺はソレをとっさにほおばっていた。
「美味い…!」
「まだあるから、食べてね?」
どんどん差し出される俺の好みをしっかり押さえた食事に没頭して、俺は思考を止めてしまったコトに気付かなかった。
冷静になったのはしっかり綺麗に飯を平らげた…というか、食べさせてもらった後だった。
「俺の…?」
さっきなんかこう…さらっとそんなこといってたような…?
我ながら反応が鈍いと思うが、ソレはそれでしょうがないはずだ!だってこんな状況で、どうして冷静になれる?
自問自答しながら差し出された湯のみのお茶を飲ませてもらってたら、カカシさんが笑った。
「そ。ああでも、言ってなかったか。…好きです」
幻覚…どこまでが幻覚なんだろう?俺の体はまだあの冷え切った美しい空の下で最後の時をまっているんだろうか?
だって、こんなのありえない。
「言わないつもりだった。子ども欲しいって聞いたことあったし、安全な所で幸せに暮らして欲しかった。でもさ、アンタ勝手にあんなことするんだもん」
だからもう我慢しない。
そういって輝くような笑顔を向けられた俺は…。
「…ぅぅ…!」
意識を手放すことを選んだ。らしい。
記憶にはないけど、後でたっぷり怒られたからなぁ…。
*****
目覚めるなりもう一度やり直しと宣言して告白されて、俺ももう一度告白して、気付いたらまたベッドの中に引きずり込まれて…それはもう濃厚な時間を過ごした。
怒って甘えてくる人が側にいてくれることにももう慣れた。
同じようなことで悩んで、お互いを諦めようとしてたなんてウソみたいだ。
そうして…カカシさんにせっせと世話をされて、ついでに体も心もしっかり絡めとられている間に、色々なことが分かった。
俺が帰れないであろう任務についたのを知らせてくれたのが、俺の同僚で、実はずっとカカシさんに俺情報を流してたとか、サクラが今も俺を殴るといきまいて怒っていることとか、後輩に建築が得意な人がいて、家を速攻建て直させたとか…まあ、それがこの間しにかけた時にみた知らない顔の人だったんだけど。
危惧していた火影代行は、どうやら派手に失脚して遁走中らしいので、任務に関しては怪我が治ったらその分取り返すだけ頑張って働くつもりだ。…その前に同僚は一度締めるけど。
で、まあ、どうしてるかって言われたら。

「カカシさん。重いです…」
「いいじゃない?重い分だけ愛があるんだから」

こんな感じにべったりと懐いてくるようになった、あの時の恐ろしいくらい美しい青い空よりずっとずっと綺麗で愛しい人と、ちゃっかり幸せに暮らしている。


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粗品になるはずだったのにー…?なぜだ!
ながいのでこっちにおくこととするのでしたが、なぜー…?
一応ー…ご意見ご感想などお気軽にどうぞー!!!

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