カキ氷


カキ氷は一気に食うと頭が痛くなるのが玉に瑕だよな。
しゃりしゃりと氷を削る音も耳に心地良いし、なにより見た目が涼やかで、一口食べればひんやりした氷がふわっと溶けて広がっていくのがまた美味い。
こんなものを引っ張り出したのは久しぶりだ。
ナルトも一時期はまっていたけど、際限なく食おうとして腹を壊すからしまいこんでおいたんだ。
その内アイスに興味が移って、しまいこんだ自分すらコレを持っていたことを忘れかけていた。
思い出させてくれてよかったかもしれない。まさに夏を満喫している気分になれる。
「つめたい」
「そりゃそうですよ。氷ですから」
「しかも甘い」
「シロップですしね」
カキ氷を食べてみたいと主張した男は知り合いの上忍で、何かと突拍子もないことを言い出しては駄々をこね、挙句嘘泣きまでして見せる事がある厄介な人だ。
今回もナルトから夏はやっぱりカキ氷だと聞いたのが切っ掛けで、俺の家に強請りに来たらしい。
「美味いっていってたのに…」
「甘いもの好きですからね。ナルトは。サスケも宇治金時なら」
「なにそれ」
「今作ってあげますから待ってなさい」
最初に見本代わりに作った氷イチゴは俺が食うつもりだったのに、赤いのが美味いと聞いていた上忍がしきりに食べたがり、だが結局案の定持て余し始めている。
甘いもの苦手ならスイか小豆のが美味いと思うんだがなぁ。なんでこんなに人の話をきかないのか。
レバーを回しショリショリと氷を削ると、ふわりとした小山ができる。そこに少しだけシロップをかけてもう一度氷を削って、仕上げにさらにシロップをかけるのがうみの家流だ。
子どもたちもコレを気に入っていて、我先にと削って削りすぎて氷を溢れさせたりもしてたっけなぁ。
「あ、緑」
「ええ、抹茶ですから」
しかも今回は甘いものが苦手なこの上忍に合わせた特性だ。ちょっともったいないが任務先で貰って冷凍しておいた抹茶に、少しだけシロップを入れてある。
あずきは缶詰じゃなくて、近所の甘味やさんのおばちゃんから買ってきた。
昔からこの時期に買い込みにいくから、おばちゃんも覚えていておまけしてくれた。子どもたちにたっぷり食べさせてあげてくれと普段より多めに。
…今年はとっくの昔に成人した上忍が第一号ですとは言えなかったが、ありがたくいただいておいた。
「あんこのせるの?」
「そうです。宇治金時っていうんですよ。はいどうぞ」
「いただきます」
イチゴで懲りたのか、恐る恐るといった風に口に運んで、それから目を見張ったかと思うとしょりしょりと一所懸命に食べ始めた。
…どうやら気に入ってもらえたらしい。
「そっちのイチゴは俺が貰いますね。宇治金時食べたかったらまだありますから」
「ん」
首をコクコク縦に振りながら、それでも氷を手放すつもりはないらしい。
シロップは殆ど入ってないんだが、そこが気に入ったんだろう。甘いものは苦手でも水羊羹なら食うからな。この人は。
「うめぇ」
氷イチゴをほうばって、久々の冷たさを味わう。やはり美味い。
宇治金時も折角だから味見しようと思いつつ、上忍の方を見ると不自然に頭を振りながら悶えていた。
ああ、やったなこりゃ。
「痛いですか?」
「…これ、どうして」
「はい麦茶です」
「あ、治った」
「冷たいものを一気に食べ過ぎちゃうとそうなるんですよ」
言い聞かせながら器を見れば、もう中身は殆ど残っていない。
そういえばこの人は覆面をしているせいかいつも早食いだったな。最初に言ってやればよかったか。
「もう止めておきますか?」
「…おかわりします」
「はい」
ちょっと悩んで、だが欲望に逆らえなかったらしい。
こんなこともあろうかと温めた麦茶も用意しておいて良かった。元々はナルト用だったんだよな。がっつくからアイツは。
「あ」
「ん?ああ、俺も同じの食おうかと」
「…」
なんだ?妙にこっち見てるな?…まあいいか。この人の奇行はいつものことだ。
「はいどうぞ。こっちは俺のです」
「いただきます」
今度は少し速度を落とすことにしたようだ。この人上忍だし大人だもんな。何度言ってもナルトは掻きこんで食うし、サスケもついつい無心に食いすぎて悶えてたけど。
「おいしかったですか?」
「はい」
にこっと笑うから少しだけ驚いた。
変な人だ。中忍の家に上がりこんで飯食ってたまに泊まってくしこうやって色々なものをねだる。
…巣立った子どもたちの隙間を埋めるように入り込んだこの男を、いつの間にか受け入れてしまっている。
マズイなぁ。寂しいのは嫌いだけど、気まぐれに勝手に出て行く猫みたいな人を懐にいれたくなんかなかったのに。
「あずきだけ載せたのも美味いですよ。試しますか?」
「あずき多目で。このあずきおいしいですね」
まあ、暑いしカキ氷は美味いし、この人はすごく楽しそうだからいいか。
秋が来て寂しい季節が着たら、そうしたら。
それでも手放せないと思ったら囲い込む努力でもしてみよう。
恋にしては淡いくせに、薄れてもくれないこの思いに流されてみるのも多分そう悪くはないはずだ。
「夏ですね」
「そうですねぇ」
ふふっと笑いあったその密やかさに、少しだけ胸の鼓動が早まった気がした。



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