揉んでも引っ張っても大きくはならない。その辺は理解してる。 男の胸が膨らんだらソレは病気を疑うだろう。…秋道一族くらいふと…いや、ぽっちゃり系なら分からないけど。 「平らだねぇ」 それなのに毎度毎度こんなコトを言われると、変化でもしてやろうかと思うわけだ。…まあ、自分の胸に鼻血吹いたら洒落にならないからやらないけど。 そもそも口説いたのはそっちの方だし、男が巨乳になるなんてありえないことは分かっているはずだ。 「ん?もっと?」 …しかもだ。文句は言うくせにやる事は最後まできっちりやる辺りが許し難い。抵抗できない自分なんかもっとだ。 だが、散々勝手なこと言って、ついでに勝手にことを進めて…スッキリした顔で船を漕いでいる男を見ていると、ムラムラと怒りが湧き上がってきた。 「凹凸が欲しいんだったよなぁ…?」 ならば作ってやろうじゃないかと、酷使したせいでよろよろする足腰を叱咤激励しながらガムテープとみかんを持ってきたわけだ。 それなのに。 「どうしたの?」 せっかく用意したのに、なんできっちり目を覚ましてるんだコイツは! 「なんでも。…寝る」 本当はみかんを胸に貼り付けて見事な凹凸を表現してやろうと思っていたんだが、これじゃ仕切りなおすしかないだろう。 持ってきたガムテープとみかんは、戻しに行くのも面倒になったので、ベッドサイドに一旦置いて溜息だけついてやった。 「ま、いいけど」 俺が殺気立ってるからか、余計な事は言わないつもりらしい。…そう思っていたのに。 「平らだねぇ?」 人のことを後ろから抱き込んでまたそんなことを言いやがったのだ。 「うるせぇ!豊かな胸が欲しいなら他所行きやがれ!むしろアンタが豊胸手術しろ!そっちの方が確実に似合う!」 俺もコイツも男なので、胸があったら違和感抜群だと思うんだが、どっちかというとコイツの方がまだましだ。 …だって、顔がいいからな。 「なんでわざわざ膨らませなくちゃいけないのよ?こんなに触り心地いいのに!」 むぎゅううっと力いっぱい握られても、そこは平らで苦しいばっかりなんだが、なんだか力が抜けた。 そうか。平らでもいいのか。 「…変態だなぁ…」 「なによ!それをいうならイルカだってそうでしょ!」 「なんだよそれ!」 「俺の足みて脚線美の妨げになるから毛をそれとか言ったじゃない!」 ああ、ソレは確かに言った。普段足を出すことなんかないから俺くらいしか知らないだろけど、コイツは凄く綺麗な足をしている。 …ソレを目にする状況を考える色々あれなのでその辺は置いておいて。 あんなに綺麗なのに、白くて目立たないけど光に当たると毛がきらきら輝くのだ。それはそれで綺麗だけど、どうせなら全部そっちゃえばいいのにと思ったに過ぎない。 「そうだな。どうせならみかん貼り付けるよりそっちにすればよかった」 「ちょっと、なにしようとしてたの!?」 …その後、みかんとすね毛に関する議論は恐ろしい勢いで白熱したが、それ以来胸が平らであることが、俺の悩みではなくなった。 だがとりあえず、ガムテープでも毛は取れるというコトも学んだので、心に止めておこうと思う。 …今後のために。 ********************************************************************************* ペーパー再録。 |