復活


  「遅いんだよ!どれだけ…どれだけ長い間待ってたと思ってるんだ…!」
涙が勝手にこぼれていく。こいつを待って…ずっと待って…。周りがもう駄目だとか、諦めろとか…好き勝手に言っていた。
それでも、俺は待ち続けた。絶対に帰ってくると。
でも…ずっと、辛かった。あきらめろと言う声が、夜毎の悪夢が、それから…あの時に止められなかった俺の無力さが。
ずっとずっと俺を苛んでいた。
…こいつが帰って来てくれるまでずっと。
それなのに。
「…ごめんね?」
コイツは愁傷な表情だけ作って、小首をかしげて謝る。
俺のことを気遣ってるのはわかるけど、ソレは逆効果だ。
「謝るな!悪いなんて思ってないくせに!」
俺を心配させたコトに関しては、ちょっとの罪悪感くらいはあるだろう。でも、コイツは自分がやったコトに関しては、後悔なんかしていない。
きっと、微塵も。
「ま、しょうがないとは思ってるよ?あの場合。」
…こうやって勝手にやり遂げた顔をして、こいつは勝手に俺を置いていくんだ。
辛め取るように俺を手に入れて、その息苦しいほどの独占欲で縛ったくせに、簡単に。
「俺なんか庇いやがって…!それに!い、一度はし…っ!」
全てが崩壊した里で、カツユ様が守ってくれなかったらきっと俺もやられていた。でも…一番気になったのは、里よりも仲間よりも…アンタのことだった。
怪我はしてないか、この崩壊に巻き込まれていないか…それに、命を落としてはいないかと。
不安と不吉な予感で叫びだしたい気持ちを抑え、なんとか忍としての職務を果たすことは出来たけれど…。
「とうさんにあったよ。…でも、また俺をおいていっちゃった。まだ、やることがあるだろうって。」
置いていかれた子どものように頼りなく、死への憧憬めいたことを語るようなマネをする。
コイツはいつも自分勝手で、傲慢で…それでいて俺を支配する手を緩めたことはない。仲間を思い、里を守る…俺の生きる根幹だったソレを覆すくらいに。
「アンタは…っ!」
アンタが俺をこんな外道にしたくせに。
なにもかも放り出してあんただけを求めるように狂わせたくせに。
今更つかんだ手を離そうなんて…そんな勝手なこと許さない!
「ふふ…でも、帰って来ちゃったねぇ?アンタにも会えたし。」
喜んでいるのか、悲しんでいるのか判然としない笑みを浮かべ、俺の腕をつかんだ。
力強く、痛いほどの力で…縋るように。
「追い返されてきたんだろ!?…もう勝手に逝こうとするな!まだやることがあるって…アンタの父親もそう言ってたんだろう…っ!?」
夢でも幻でもいい。そう言ってくれたから、帰ってきてくれたのかもしれない。それならそれに感謝したい。
コイツにはまだまだやるべきことがあるから。
戦うためだけじゃなくて、何が大事かも分からずに、ただ忍として生きてきて。
やっと何かを求めたと思ったら、俺なんかを選んじまったコイツがもっとちゃんと幸せになるために。
「そうね?まずは…いちゃいちゃでもしよっか?」
真剣に考えてる俺を他所に、カカシは俺の手をひょいっとつかんであらぬ所に触れさせた。
その端正な顔に卑猥な笑みを浮かばせて。
「ばっ馬鹿野郎!その前に復興作業だ!お前がのんきに死んでる間に里はめちゃくちゃにされたんだからな!」
「んー?ま、復活は遅かったかもしれないけど、こっちの復活は早いよー?」
ソレは確かに知っている。…というよりは、身を持って思い知らせられているというべきか。
唐突に仕掛けてきて、執拗に行為を強いて翻弄し…今まで何度黄色い太陽を拝む羽目になったことか。
「そんなもんさわらせんじゃねえ!自慢になるか!…あーもう!アンタは!」
「ん…!」
いつだって、コイツはヘラヘラ笑いながらその瞳の奥で涙を流す。だから俺は…瓦礫の山の中で笑う馬鹿な男にキスをした。
この馬鹿で危うい最愛の男を、この世に繋ぎとめる鎖になるために。
目を見開いて驚いているその顔が、欲情した獣の顔に変わるのを歓喜と共に受け入れて。



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