主治医はいかが?‐心配性な恋人‐



 
ご注意!!!
基本的にこんな医者いたら捕まります。フィクションなのでご注意を!
このお話は熱血天然教師が、やや爽やか系の変態といちゃいちゃする話?で、隠さずに微エ○が出てきます。 苦手な方はご注意下さい!
…まとめてみるとやっぱりろくでもねぇ…。それでもいいぜ!という覚悟が出来た勇者はどうぞ…。



だるい身体を引きずって登校するなり、いきなりエビス教頭に食って掛かられた。
「最近、顔色が悪いですな!イルカ先生!あなたの教育方針が甘いから無駄な労働時間が増えてるのですぞ!」
流石にカチンときた。まるで咳き込むように激しく唾を飛ばしながら黒メガネを神経質そうにくいくい押し上げてみせるそのそぶりよりも、その中身に。
あれだけ議論したのに未だにこんなコト言い出すんだから始末に終えない!
「俺は子どもたちのために出来ることをしているだけです!そのためなら…」
憤りをかくしきれずに言い返す言葉の端さえ奪い取るように、エビス教頭が更にまくしたてる。朝っぱらからウンザリだ。ソレでもこちらも一歩も退かないつもりだったんだけど…。
「そのような状態で教育ができるとでも!?そもそもあなたのような…おや?その首の…?」
…話題が途切れたのはいい。多分この人との議論はどこまでも平行線をたどりそうだから、諦めるつもりはないけど朝から進んでやりたいことじゃなかったから。
…でも…!そんなコトに気付かないでほしかった…!
ワイシャツから見えないところだけにしろってあれだけ言ったのに!…夢中になると全然人の話し聞かないからな、あの人…!
今朝も出勤前にぺたぺた人のこと触って子どもみたいに笑み崩れていたのを思い出す。
…かわいいんだ。でかい図体して甘えてくるし、心配性だし、たまに間違った方向に突き進んでるけど、基本的には努力家だし。
そう言うところは夜にも遺憾なく発揮された。…この場合嬉しくないコトに。
一生懸命になって、大好きだの、もっと気持ちよくしたいだの、挙句の果てにもっとしたいとかおねだりまで…!
いやちょっと待てそんなコト思い出してる場合じゃなかった!
急に無言になった俺に怪訝な顔でじりじりと近寄ってくるエビス教頭を押しとどめた。
「虫食われ!虫食われです!」
とっさに襟を立てて隠してみたけど、多分返って逆効果だったとやってしまってから思った。
案の定エビス教頭から食い入るような視線が首筋に突き刺さってくる。
「…ほう…まるでキスマー…」
「だから!虫食われです!」
うろたえているのは誤魔化しようもないけど、だからって正直に言えるものでもない。
こんな目にあったのもかわいい顔してやたらそっち方面に熱心なカカシさんのせいだ!
エビス教頭の詰問のせいで、昨日のカカシさんのことが勝手に脳内で再生されて、それだけで憤死しそうだ。
ああもう!なんで朝っぱらからこんなこと考えなきゃいけないんだ…!
羞恥に目が潤み、顔が熱くなっていくのが自分で分かる。
…なぜかそれに釣られるようにエビス教頭も真っ赤になっていった。
「けしからん!実にけしからんことですぞ!イルカせん…くぅっ!」
「わー!エビス先生!鼻血が!?」
はぁはぁと息を荒げながら黒メガネをものすごい勢いで上下させていたエビス教頭は、大声で叫んだかと思ったら、見事に鼻血を噴出した。
もしかして…血圧が!?まだ若いのに何か病気でも!?
大慌てでデスクの上のティッシュを手渡したら、ひったくるようにして鼻に押し当てている。でも、そのティッシュも瞬く間に赤く染まって…。
「うっぅう…!」
「医者!病院行きましょう!ね!」
ぶつけたわけでもないのに、こんなにに鼻血噴くなんて…!俺への怒りで興奮してたんだろうけど、何か病気だったら…!?
一瞬俺の頭にあの人の影がよぎったけど、慌てて振り払った。
とにかく抱えて移動しようとしてるのに、何故かエビス教頭が俺の腕から逃げ回る。
「さ、さわらんで結構です!自分で何とかできます!」
「いやでも!そんな状態じゃ!」
「近寄らないで頂きたい!くぅっ…そんなこんな……!」
どうみても、エビス教頭の状態は正常に見えない。
とにかく養護の先生を呼んでこようとしたとき、ゆったりとした威厳のある声が職員室に響いた。
「一体なんの騒ぎじゃ?」
校長先生だ!イイ所に!
「校長先生!エビス先生が急に鼻血を!びょ、病気だったら…!」
思わず縋るような声で校長先生にこの惨状を見せたら、やっぱり目を見開い手驚かれた。
「これはひどい!さ、保健室に行ってきなさい。」
「うう…はい。」
ゆっくりと手を引かれて職員室を後にする二人を見送りながら、俺も何か出来ることを探した。
エビス先生に付き添うのは無理そうだから、とりあえず当面の問題は垂れた鼻血で真っ赤に染まった床だろうか?
「あの!床掃除はやっときます!職員会議は…?」
「ああ、先に出来そうなら始めておいて構わんよ。わしは教頭を養護の先生に頼んでからすぐ戻る。」
「はい!」
それだけ言い残すと、もはやぐったりとしてしまったエビス教頭を抱えながら、校長先生が出て行った。
ああ良かった…やっぱり校長先生は頼りになるな!
にしても…何であんなに鼻血を?
「ともかくは、まず、床だよな?」
朝っぱらから疲労したけど、とにかくこの状態で生徒たちが学級日誌でも取りにきたら大変なコトになる。女の子は怖がるかもしれないし、男の子は事件だの何だのと騒ぐかもしれない。
痛む腰を庇いながらこぼれた血をとりあえずティッシュでぬぐった。結構な範囲に飛び散っていたから苦労したけど、後は雑巾がけで終わりだ。
ぎしぎし言う腰を叩きながら立ち上がったところに、丁度登校してきたゲンマ先生に声を掛けられた。
「はよっす。相変わらず早いねぇ。…あれ?イルカ先生なんかあったのか?」
「いえちょっとエビス教頭が体調不良かなにかで…いきなり鼻血を。今保健室に校長先生が。」
「ん、なら手伝うぜ。なにすればいい?」
「後はココを水拭きすれば終わりですから!」
「風邪か…?子どもたちに感染さないでほしいもんだが。」
「そうですね…。」
ちょっとエビス先生の扱いがかわいそうになったけど、たしかに原因不明の体調不良は子どもへの影響が心配だ。一体なんだったんだろうな?
それにしても朝の忙しい時間帯にこれでは、ソレでなくても疲労した身体には結構キツイものがある。
「早く、良くなるといいですね。」
「そうだな。」
結局、その日はゲンマ先生と一緒に片付けを済ませた後、エビス教頭抜きで会議を済ませることになってしまったのだった。
*****
放課後はいつもなら学校なんかさっさと飛び出して遊びに行くんだけど…今日はどうしてもみんなと相談しなきゃいけないことがあるんだってばよ!
昼休みに話しといたから、みんなもちゃんと集まってくれた!…だから今、俺たちは校舎裏に固まって秘密の作戦会議中なんだってば!
「で、ナルト。何だよ話って?」
いつもみたいに面倒くさそうなシカマルに、俺は早速話をした。
「最近さ。イルカ先生ってば様子が変だってばよ…」
「あ、だよなー!何かだるそうにしてるし、あんなに体育の授業とか上手かったのに、今日なんか跳び箱でこけたもんなー。」
「おかしいよね。…お腹減った。」
「あー…けど確かにおかしいな。」
みんなもやっぱり気付いてたんだ…!
他の先生がめんどくさそうに、適当にする俺のことだって、イルカ先生はいっつもちゃんと見てくれた。それなのに、最近一生懸命なのは変わんないけど、なんか元気ないっつーか…よろよろしてる。
その原因になりそうなことっていったら、俺は他に思いつかなかった。
「なんかさ、なんかさ…もしかして、あの黒メガネとかに虐められてんじゃねぇかなぁ…。」
「あー。あのおっさん異常に感じ悪いもんな。ありうるかも!」
キバは俺が言ったのに賛成してくれた。
やっぱあの変な黒メガネがまたイルカ先生を虐めてるのかも…!だって、俺たちが逃げたときも、あのおっさんと大声で喧嘩してたし。
…心配だってばよ…。
やっぱりあのおっさんをやっつけるコトにしようと思ったとき、シカマルがなんか難しいことを言ってきた。
「いや、ああいう権力大好き野郎は、コト構えんの好きじゃねぇだろ?多分。ねちねち言葉でいびりはしても、直接殴ったりとかはできねーよ。」
けんりょくとかことかまえるってのは良くわかんねーけど、それならだれがイルカ先生を虐めてるんだ?
さっきからぼりぼりポテチ食ってるチョウジも同じこと思ったみてーだ。
「へー。じゃ、シカマルはどう思うの?」
「そりゃ…わかんねぇけどさ。彼女でも出来たんじゃねーの?」
シカマルの話に、俺は凄くびっくりした。
だって、イルカ先生ってば全然女の人と上手く話せねぇし、6年生のにーちゃんたちが持ってきてたエロ雑誌で鼻血噴いてたのに!
「ええ!?あのもてないイルカ先生に限ってそれはないってばよ!」
思わず俺がそういうと、みんなもそう思ったみてーだ。
「第一女と付き合ってるにしては服とか変わんないし…そんなにおいしないよな?」
「お腹減ってるんじゃないの?」
「だよな!だよな!」
だってイルカ先生に彼女…なんかそれ、よくわかんねーけどヤだ。イルカ先生は俺たちの先生で、そんでもって、もてなくて…でも元気じゃないとヤなんだってばよ!
「まあ、そうかもな?」
シカマルもなんか考えてるけど、俺はやっぱりあの黒メガネをやっつけちゃえばイイと思う。学級日誌取りにいったら、今朝もイルカ先生になんかしたみたいだから、ぜってぇアイツが犯人に決まってるってばよ!
「あのさ!やっぱあの黒メガネぎゃふんと…」
「君たち!その話は本当なのかね!」
「ゲッ!黒メガネ!」
「なんだよ盗み聞きかよ感じわりぃ!」
「教育者なんだろ?仮にも。恥ずかしくねーのかよ?」
「お腹減った。」
何で黒メガネのおっさんがこんなトコまできて俺たちの話聞いてたのかわかんねーけど、多分偵察だ!きっと俺たちがイルカ先生を守ろうとしてんのに気付いて邪魔しにきたんだ!
「まずは私の話を聞きたまえ!…最近職員室でもイルカ先生の様子がおかしいのですよ!私としても同じ教員の立場からあのような体たらく、ふさわしくないと…!」
「なんだよ!やっぱりアンタが!」
「おっさんに言われたくねぇよ!」
「えらそーに。口ばっかっぽいよなアンタ?」
「ねぇ。帰り駄菓子屋さんよってこうよ。」
一斉に言い返されて、鼻にティッシュつめたまんまの黒メガネが、顔真っ赤にしてもごもご口の中でなんか言ってる。
ざまぁみろってばよ!怒られたって怖くねぇもん!イルカ先生みたく本気じゃないの、もう知ってんだからな!
黒メガネがもっとイルカ先生のこと酷い目にあわせようとしてるんなら、今すぐやっつけてやる!
皆が一斉に睨んだからか、黒メガネが手をばたつかせて慌てたように話してる。
「いいかね!私はただ、イルカ先生の行状を心配しているだけです!君たちも気付いたことがあるなら是非私に報告して…!」
…なんかよくわかんねーけど。心配してるのか?うそくせぇ。
「確かに心配だけどさ…おっさんみたいなやつに…!」
「そうだそうだ!」
「大体プライベートっしょ?アンタ一応教師なんだからそれくらい分かってろよ。」
「なんて生意気な口を…!」
何かまだごちゃごちゃ言ってきそうだけど、そんなんよりやっぱり原因がわかんないとだよな!
「もーこのおっさんどーでもいいってばよ!みんなで作戦考えようぜ!」
「おう!」
「そうだな。」
「うん。いいよ。」
「おっさんうぜぇから、公園いこーぜ?」
「「「賛成!」」」
「君たちっ!教師をないがしろにするとは…」
何かしつこいおっさんをおいて、とりあえず公園に行こうと立ち上がった俺たちを、聞き覚えのある声が止めた。
「それ、俺も混ぜろ。」
「「「「サスケ!?」」」」」
コイツ確か今日もう帰ったはずなのに!それに元々なんかえらそーで感じわりぃから今日だって声掛けなかった。
何でココに!?
「あれは明らかにおかしいだろ?…普段馬鹿みたいに笑ってんのに最近は…。」
なんかすかしたヤツでいけすかねぇけど、サスケもイルカ先生を心配してんのがわかった。
…だって、普段とちがって何か顔とか態度とか違う。
「イルカせんせぇ…うっうっ…。」
こんなヤツにも分かるくらいイルカ先生がおかしいんだって思ったら、心配で、何か泣けてきた。
みんなも、怒りだした。
「誰かがイルカ先生に何かしてるんだよな…!」
「まあわかんねぇけど。おかしいのは確かだよな。俺も、あの先生嫌いじゃねぇし。」
「変だよね。確かに。僕もそう思うよ。」
うん。やっぱなんとかしなきゃ!
作戦会議続行だってばよ!
「みんな!」
「…ふん。分かったら行くぞ。」
俺の掛け声を遮って、サスケが勝手に歩き出した。
「何だよお前!後から来てしきんな!」
「どこに行くつもりだ?」
シカマルも止めてるのに、当たり前みたいな顔したサスケは足も止めずにいった。
「決まってる。…あとつけるぞ。」
「「「「えええええ!?」」」」
「あー…なるほどな。」
なんでシカマルは納得してんだってばよ!あとつけるって…ちょっと探偵みたいでカッコいいけど、そんなことしていいのか?
あ、でもくっ付いてみてたら、誰がいじめてんのかわかるかも!
そうと決まったら急がないとイルカ先生が帰っちゃうかもしんねぇってばよ!
慌てて立ち上がったら、いることすらすっかり忘れてた黒メガネに怒鳴られた。
「君たち!そのようなことは私がゆるしませ…」
「うるせ…」
「アンタは、黙ってろ。俺が誰なのか知ってるだろ?」
「くっ!」
なんだかわかんねーけど、サスケがえらそうに言ったら黙った。
…いけ好かないけど役に立つ。ココは一緒に協力するってばよ!
「行こう!」
とにかく、イルカ先生をぜってー助けるんだってばよ!!!
*****
「くしゅんっ!」
「なんだイルカ先生も風邪か?それとも花粉?」
「いえ、なんでもないんですが…。」
今朝だって別に熱もなかったし、だるいのも顔色悪いのも別の原因だし。
…ああでも、もしかすると…やっぱり風邪かもしれない。
今朝もあんな格好で結局30分近く…。
「俺は帰るけど。無理しなさんな。」
「はい。ありがとうございます。」
席をたつゲンマ先生を見送り、俺は今朝の顛末を思い出していた。
どうして、カカシさんは…。
*****
朝起きて学校に行く仕度しなきゃいけないのに、今日も今日とて上半身裸のままベッドに留め置かれている。
目の前には真剣な顔してカカシさんが聴診器だの体温計だのを構えてて、爽やかな笑顔を浮かべている。…さっきまで俺にあんなことさせてたとは思えないくらいだ。
散々どろどろにされた後、風邪引いちゃうとか言って丁寧に人の身体洗ってくれて、パジャマも着せてくれるんだけど、どっちかって言うと、気恥ずかしいから止めてほしいだけど…。
本人に言っても、「俺のイルカ先生が体調崩したりなんかしたら…!」となぜか今にも泣き出しそうな顔でしがみ付かれたのでそれ以上言えなかったんだよなぁ…。
でも、暖房入ってるっていっても、流石に寒くなってきたし、早く朝飯食わないと遅刻する。
「あの、まだ服着ちゃ駄目なんですか?」
「はい!だってまだちゃんと朝のチェックが済んでませんから!」
体温計の表示はそんなに何回見たって変わらないと思うんだけど、カカシさんは入念にチェックしては、俺の目だの喉だのを確認する。
…ついでにキスを落としながら。
「…体温も変わりないし、体調も悪くないし、大丈夫だと思うんですけど。」
照れくさいのと、肌寒いのとで、恐る恐る訴えてみたら、ものすごーく情けない顔をしたカカシさんにしがみ付かれた。
「でも最近イルカ先生の顔色が悪くて…心配なんです…!ちょっとたちの悪い風邪がはやってるし!」
「あー…でもそれ多分寝不足のせいなんじゃ…。」
真剣に心配してるんだろうけど、鼻水ぐずぐず言ってるし。
でもそんなこというなら少しは自分の行状を何とかしてほしい。
あれだけ…それこそ朝まで離してもらえなかったら、いくら体力のある方だって言ってもきついものがある。逆に、俺がぐったりしてからもまだまだ頑張るカカシさんの体力が恐ろしく思えるんだけどな…。
「えぇ!?寝不足!?そういえば目の下のクマといい眠そうな顔といい…!一体どうしたんですか!何か悩みが…!?俺に!俺に教えてください…!」
不安そうな声で、俺の顔だの手だのついでの腹まで触りまくるカカシさんは、本気で心配してるのが良く分かった。つまり…。
「…自覚、ないんですか…!?」
あれだけやっといてウソだろう!?
「もしかして…俺イビキとか…!?それで五月蝿くて眠れないんですか!?鼻クリップ持ってこないと!」
ああ、こりゃ駄目だ。全然分かってない。イビキなんかより一番思い当たるものがあるだろうが!
「…イビキはかいていないと思います。ですが、それ以前の問題が…」
「イビキじゃないってことは…!口臭ですか!?俺いつもイルカ先生には清潔な状態で接するために歯磨きもマウスウォッシュも欠かしたことないのに…!!!」
俺が極力冷静にカカシさんを説得しようしてるのに、すっかり取り乱した当人は明後日な心配事を吐き出して頭を抱えている。その嘆きようといったら、まるでこの世の終わりがきたようで、打ちひしがれて震えているのだ。…勘違いしたまま。
「違います!…あのですね。睡眠時間っていうのは、ぐっすり寝てる時間であって、ただベッドに入ってる時間ではありません。」
「…えっと。ソレはそうですが、一体ソレがどうしたんですか?…言いにくい悩みなんですか…?俺にも言えないような…?」
本気で言ってるのが分かるだけに質が悪い。
どうしてあれだけ好き放題にしといて、欠片もソレが原因だと思わないんだ!
これは…ちゃんと言っておかないと!
「アンタがやりすぎだって話をしてるんです!睡眠時間が減ったのはそのせいだ!お陰で失神するみたいにして寝てるからイビキかいてるかどうかなんて分かりませんよ!」
「…やりすぎ…?でも、俺は元気ですけど。ひょっとして精力減退が…!?仕事上のストレスが重なってませんか?!」
なんだそりゃあ!精力減退!?なんて失礼なこというんだ!
俺の顔を覗き込みながら今にも泣き出しそうなカカシさんは、…やっぱりちょっと心配になるくらい変わった人だ。
正直言って、こんなコトいいたくなかったけど、しょうがない!
「仕事は普段どおりです!大変だけど楽しくやってます!…一日に何度も何度も何度も…!!!翌日腰が痛むくらいやってれば寝不足にもなります!」
早朝からなんてコト言ってるんだと思いはするが、はっきり言わないと候補にすら挙がってこないんだから仕方がない。
そこまでいってやっと、カカシさんも原因に思い当たったようだ。
「俺、やりすぎでしたか…?」
…なんでそこまでと思うくらいショックを受けた顔でへたり込んだのを見ると、ちょっと可哀相に見える。
「…一般的な回数がどうかしりませんが、俺からしてみると十分やりすぎです。」
ちょっとだけ優しく、でもきっぱり言ったら、がばっと顔を上げたカカシさんが俺の足にことんと頭を乗せてきた。
「でも…イルカ先生のこといつでも確認しておきたいし、抱きしめたいし…!」
折角のキレイな顔を苦しそうにゆがませて、ずずーっと鼻をすする姿はどうみてもいい大人のすることには見えない。
でも、そんな顔されると…!
「ああもう!泣かないでください!わかりましたから…。」
ふさふさした頭を撫でて、昨日も…というか今朝まで散々お世話になったティッシュで鼻を拭ってやる。びしょびしょの顔は洗った方が早そうだけど、こんな状態のカカシさんを放ってはおけない。
「イ、イルカ先生っ!」
ぎゅうぎゅうしがみ付いてきたお陰で、湿った感触が襟元にしてるけど、…なんか、憎めないって言うか可愛いんだよなぁ…。
「ホラ抱きつかない。もう時間ですよ。着替えましょう?」
「うっうっ…はい…!」
まだ鼻を鳴らしてるカカシさんの額に俺の額をこつんと合わせると、潤んだ瞳が真っ直ぐに俺を見つめてて、それがちょっと不安そうで…自分でも馬鹿だと思うけどどきっとした。
「ご飯、今日は何ですか?」
誤魔化すように朝食の催促をした。
…一人暮らししてた時は毎回適当に済ませてたんだけど、カカシさんが押しかけてきてからは、殆どカカシさんが作ってくれている。
朝が苦手で、起こそうとしてもしばらくもぞもぞやってるくせに、朝の診察と朝飯の仕度だけは絶対に譲ろうとしないのだ。
律儀にも前日から準備してたりして、そういうとこもちょっと健気でついつい甘やかしてしまう。犬の散歩とジョギングはいっしょにやりたがるのに…そのこだわりが良く分からない。
「今日のご飯は鯖の塩焼きとカブのお味噌汁と菊菜のおひたしです!糠漬けも出しますね!…イルカ先生に元気なってほしいから、俺頑張ります!」
「ありがとうございます。」
「いいシップとか、マッサージも頑張りますね!」
「えっと。はぁ…。」
「じゃ、ご飯用意してきます!」
食事の話になったとたん元気になったカカシさんが、ばたばたとキッチンへ走っていくのを見送った。
「なんで、しないとか回数減らすって選択肢が出てこないんだろうな…。」
こんな風に、甲斐甲斐しいんだけど、どこかずれてるカカシさんを、俺は扱いかねていた。
そもそも病院であんなことになって、怒るにも怒れなくてそのままうちまで送るって言われて、歩けないからとついそのまま頼んじゃったのが失敗だった。
あんまりにも一生懸命に、好きだの愛してるだのいうから、ついほだされちゃったんだよなぁ…。
家に着いたら着いたで、結局心配だからとか言い出して、朝まで一緒にいて、ついでに色々されて…翌日休みだったから諦めて寝込んでたら、いつの間にか荷物とか運び込まれてるし!
そうやっていつの間にかいつかれて、ずるずると同居生活を送ってること事態が教師としてというか、人としてどうかと思ってはいる。
それでも、最初はそれなりに文句言ってみたりしたんだけど、この人悪気が欠片もなくて、すごくすごく一生懸命で…だからこそ、被害が大きいんだけど。
…でも、だからって今更この人のことを嫌いにはなれない。
そもそも俺は普通に女性が好きだ。今まで一度だって男相手に…それも、押し倒される方になるなんて想像もしてなかった。それなのに、俺を見ると幸せそうな顔で引っ付いてくるカカシさんに、もうすっかり惚れてしまった自覚があるし、へにょっとした顔でくっ付かれると、そんなところさえ愛おしいと思う。
早くに両親をなくして、結構早くからずっと一人で生きてきて…だから、ああやって一心不乱に求められるのに弱いのかもしれないけど。 …出会いは運命だって、昔誰かに言われたことがあったけど、こういうのもソレに入るんだろうか?
「イルカ先生っ!?具合悪いんですか!?」
ちょっとため息ついただけで、こうやって必死な顔で俺の心配ばっかりしてるとこもかわいいと思えるんだからもう末期だろう。
…実は俺の好みは相当に偏ってたんだろうか…?
「大丈夫ですから。ご飯にしましょう?」
「はい!」
でもこの朝になっても服着せてもらえないのはなんとかしないと。…いつか風邪を引く。

…そう思ってたらこのざまだ。

書類仕事をしながら記憶をたどり終わって、気がついたら身体がちょっとおかしかった。
「アレ?何か、だるい…?」
今朝からずっと感じてた過剰な運動による疲労感だけじゃなくて…何だか背筋がぞくぞくして、気分が悪い。
もしかしなくても…?
「風邪、か?」
そういえば、今朝もエビス先生が体調崩してたみたいだし、感染ったのかもしれない。
まずった。生徒たちに感染のが怖いし、家に帰ったらカカシさんも心配する。
俺がちょっとくしゃみするだけでも顔色変えるのに!
「早く、帰らないと。」
幸い仕事は片付いたし、明日は休みだ。
俺は急いで机の上を片付けた。
*****
「おい!出てきたぞ!」
「イルカ先生…何か顔色悪いってばよ!?」
「声がでかい少し黙れ!」
「…なんか、様子おかしくないか…?」
「まだかなぁ?」
職員室の前が良く見える中庭から、ずーっとイルカ先生が出てくるの待ってたら、やっと出てきた。でも、何かよろよろしてるってばよ…?
「なぁなぁ!危なくないか!何か真っ直ぐ歩いてねぇってばよ!?」
「うるさいって言ってんだろうがこのドベ!見つかる!」
「…おい。アレ…!」
なんか、門の前に知らないおっちゃんがいる。頭がまっしろで、校長のじいちゃんみたいだけど、イルカ先生と同じくらいでかくて、多分まだ若い。後ろの変な格好の車…あんな車見たことねぇ。
「誰かの親とかか?」
「でももう下校時間すぎてるよー?」
「っつーか俺らも見つかるとやばいよな。」
「おいサスケ!あれなんだってばよ!」
「知るか馬鹿!」
俺はあんなおっさん知らないし、皆も知らないし…何かでっかいマスクしててすっごく怪しいってばよ…!もしかしてアイツに虐められてんのか!?
なんか、ドキドキして、でも心配で見てたら、イルカ先生が白髪マスクに捕まった。
「イルカ先生!」
気がついたら、俺はイルカ先生に向かって走り出してた。
「あ、馬鹿!待て!」
「馬鹿が!」
「チッ!」
「待ってよお!」
「お前ら!こんな遅くまで何やったんだ!危ないだろう!」
…何か皆で怒られちまったってばよ…。
でもコイツが悪者なら俺は…!
「イルカ先生!そいつにいじめられてんのか!だったら俺がやっつけてやる!」
「そうだそうだ!この白髪野郎!イルカ先生に変なことしてんなら俺たちが黙ってねぇぞ!」
「…不審者は、通報の対象だな?」
「アンタ、一体誰だよ?」
「ぼ、僕だって負けないぞ!」
みんなだって怒ってる。だって最近イルカ先生がおかしかったのって、絶対なんかあったからだし、このおっさんさっきからイルカ先生捕まえたままだし…!
「えっと。この子達、イルカ先生の生徒さん?」
変なマスクのおっさんは、思ったより普通の声だった。…あんまり悪者っぽくない。
でも、普通のおっさんだって、いつ変わるかわかんねぇ。俺にだけ、怖いおっさんとかよくいるし。
「あの、ちょっと離してくださいよ!」
…イルカ先生が嫌がってるのに、離してあげないのも怪しい。
「おいおっさん!早くイルカ先生を離せ!」
このおっさんは背がでっかいけど、ひょろひょろしてるから、俺でもきっと負けねぇ!
今までだって知らないおっさんとかに殴られたりしたことあるけど、このおっさんの方が弱そうだし!怖くなんか…ないってばよ!
俺が睨みつけてたら、サスケとかも一緒にイルカ先生を庇ってた。
それなのに…。
「おっさんは酷いなぁ。ああでも、ご挨拶が先でしたね?」
マスクのおっさんは何かニコニコしながらイルカ先生に話しかけてる。
何だコイツ!
もっと言ってやらないとわかんないのかと思って、一杯息すって準備してたら、イルカ先生がマスクのおっさんの耳を引っ張った。
「ちょっとカカシさん!ナニ言う気ですか!」
「いてててて!だって!イルカさんの生徒なら、俺の生徒も同然!」
「どうしてそうなるんですか!」
「いってー!!!」
「何なんだってばよ…?」
これって…イルカ先生が俺たちがイタズラした時にするやつだ。
すっげー痛い。それにイルカ先生は怒ると怖い。そんでこのおっさんはおとなしくイルカ先生に怒られてるから…。
ってことは、このおっさんもイルカ先生より弱いってコトか?
「…痴話げんかってやつ?」
「イルカ先生、こんなヤツに…!?男だし…!趣味わりぃ!」
「なんか、たのしそうだねぇ。」
「あー…めんどくせぇ。」
ああもう!何なんだってばよ!?
「とりあえず、ココじゃ危ないから場所変えるぞ。えーっと。そこのファミレスでいいよな?」
「はぁい!イルカ先生!」
…なんか、嬉しそうなおっさんの車に乗せられて、一緒にファミレスまで連れてかれるコトになった。
*****
遅くなったから連絡して来いって言われてみんな電話させられた。…迎えに来てくれるように。
サスケは…ケータイなんか持ってて、生意気だし、何かぐだぐだ言ってたけど何とかなったみてーだし…。
目の前のハンバーグとかエビフライとか美味そうだけど、それ所じゃねーってばよ!!!
「で、この胡散臭いおっさんどこのどいつなんだよ!」
「えっと、俺は、お医者さんをしてます。そしてイルカ先生の家族です。これからもずーっとイルカさんを守るんです!」
よろしくね?とか言いながら伸ばしてきた手を振り払った。
マスク取ったら大分ましになったけど、やっぱり怪しいのは変わんねーし!
「ウソ付け!イルカ先生は…!ホントなのかよ!イルカ先生!このおっさんの言ってること…ウソだよな…?」
さっきは確かに仲良さそうって言うか、イルカ先生がちゃんとこのおっさんしかりつけてたけど、あんまりいうコト聞いてないみたいだし、…やっぱりコイツが原因なんじゃないかと思う。黒メガネも怪しいけど。
こいつは違う。…何かヤダ。なんでこんなにイルカ先生とくっ付いてるんだってばよ…!
俺たちのイルカ先生なのに!
「こんな不審者さっさと警察に突き出した方がいいぜ?」
「なぁイルカ先生。ホントにこのおっさん大丈夫なのかよ?」
「どうなんだよイルカ先生!」
「ここのハンバーグ美味しいね。」
皆だって怒ってる。チョウジだけハンバーグ食ってるけど。
「なぁ…どうなんだってばよ…?」
怖い。何かイルカ先生がちがくなっちゃいそうで。何かわかんねーけどイヤダ。
でも、イルカ先生は笑った。ちょっと困ったみたいに、でも照れたみたいに。
「…ウソじゃないよ。この人は、俺の家族になるんだ。」
すっげーヤだけど、なんか分かった。イルカ先生はこの胡散臭いおっさんのことが大切なんだ。…もしかすると、俺たちより。
何かソレはすげーイヤだ。イルカ先生がどっか行っちゃったみたいで、こんなおっさんなんか今でもやっつけてやりたい。
でもきっと、イルカ先生はコイツと一緒にいないとだめなんだ。
「…じゃあ、いいってばよ。…でもおっさんはまだ信用してないからな!」
おっさんに指突きつけて、ついでにおっさんの皿からエビフライ盗ってやった。
イルカ先生に怒られるかなって思ったけど、それでもいいと思ったのに…。
「そうか。よかった…」
何か、おかしい。イルカ先生、揺れてる!?
「「「「「「イルカ先生!?」」」」」」
なんかさっきからおかしいと思ってたけど、イルカ先生はこんな時にもおっさんに向かって倒れ込んだ。
「大丈夫。ちょっとだけ具合が悪いだけですから…。お前らも、心配すんな。」
具合悪そうなのに、真っ先におっさんを慰めるみたいに笑ってる。
「すぐに、俺の病院に行きましょう。お会計しとくから。ごめんね?」
「うわっ!ちょっと!歩けます!」
「駄目です!」
イルカ先生を抱っこして、立ち上がったおっさんは…腹が立つけどカッコよくてびっくりした。
「いいから!イルカ先生、治せるんだろ?早く行けよ!」
「うん。…ありがと。」
ニコッと笑って、お金とか落っことしながら、でもイルカ先生はしっかり抱えて慌てて出てくおっさんを、ちょっとだけ認めてやろうと思った。
…だって、イルカ先生があんな顔してんの始めてみた。俺たちにも優しいけど、あんな顔しない。大切そうで、でも安心したみたいな顔は。
「まあ、落ち込むな。食って、帰ろうぜ?」
「おっさん。意外とやるなぁ。」
「…ふん。…完全に信用できるかどうかわからないが、今日の所は様子見だな。」
「残ってるのもらっていいよね?」
「うん。食うってばよ!」
…みんなと一緒にちょっとしょっぱいハンバーグ食いながら、でもやっぱり今度あったらいたずらしてやろうって思った。
*****
「大丈夫ですか!?」
「…そんなに泣きそうな顔しなくても…。」
消毒薬の匂い。どうやら本当に病院に連れてこられてしまったみたいだ。
顔中くしゃくしゃにして泣きそうな顔してるカカシさんがいきなりアップになったから、ちょっと驚いた。
それにしても、今朝エビス先生の件で風邪引いたら困るとか思ってたくせにこの様だ。自分が情けない…。
「イルカ先生が…俺は何にも出来なくて…!注射打ちました!後はコレ飲めたら飲んで、休んで下さい…!」
「大丈夫。大丈夫ですよ…。」
なんだろう?どうしてこんなにとりみだしてるんだろう。ああでも…そういえばいつも俺の体調ばっかり気にして、不安そうな顔してたっけなぁ…。
そう思ってたら、喉の置くから搾り出すみたいな声で、カカシさんがうなった。
「俺は…!もう誰も失いたくないから医者になったのに…!」
ああ、カカシさんも、失ったのか。…大切な誰かを。
「俺のはただの風邪でしょう?」
「う、はい。症状からして今流行ってるヤツだと思います!でも!」
「俺は、頑丈なんですよ。それに…俺の主治医を信用してますから。ちゃんと直してください。」
ベッドサイドの椅子に座ってるカカシさんの頭をなでると、ぎゅっとその手を握られた。
「…はい…!俺、絶対にイルカ先生を元気にして見せます…!」
まだ涙が頬を伝ってるけど、ちょっとは元気になったみたいだ。
「こんど、いろいろ話を聞かせてくださいね。」
指で流れる涙を拭ったら、頬の冷たさに驚いた。…俺の体温が高いのかもしれないけど、この人のほうが心配だ。…それなのに、ものすごく眠い。薬のせいだろうか?
「はい!…少し、眠ってください…。」
「は、い…。カカシさんも、ちゃんと寝てください…。」
返事は聞こえなかったけど、カカシさんが側にいるのになんとなく安心して、そのまま眠りに落ちていった。
*****
「ん…眩しい…。なんか重い…?」
朝日が差し込んできて眩しい。どうやら、それで目が覚めたらしい。
それにしても、腹の上に乗ったものが重い。
ゆっくりと瞳を開くと、銀色のふさふさしたものが、腹の上に乗っかっていた。
涙の後もそのままに、俺の腹に頭を乗っけて寝こけてるのはカカシさんだ。
ベッドサイドで椅子に座ったまま、寝てしまったものらしい。
こんな体勢で寝たら身体が痛くなるだろうに…。
「カカシさん。おきて下さい!」
休日にしてもここで寝てるわけにはいかないだろう。それにカカシさんは普段から急がしいんだから、ちゃんとベッドで寝かせないと。
そう思って身体を揺さぶってみたら、普段の寝起きの悪さがウソのようにがばっと跳ね起きた。
「イ、イルカさん!具合は!熱は下がったんですけど!着替えも!」
目は真っ赤だし、涙のあとはそのまんまだし、クマが出てる。
…この調子だと、俺が寝てしまってからもずっと起きてたんだろう。
「大丈夫です!この通り!心配かけてごめんなさい。」
俺はことさら元気良く言った。確かに原因の一端はこの人にあるけど、こんな顔させたいわけじゃない。…それにしても、またこの変な検査着になってるのはなんでなんだろう?
…まあ、実際良く寝たせいか、薬も効いて、だるさも殆どなくなった。元々普段は風邪引くことなんてないくらいだから、今回のも軽く済んだんだろう。
どっちかというと、今は夕飯を食い損ねたのもあって、腹が減ってるくらいだ。
さっさと帰って食事をしよう。
そう思ってるのに、カカシさんは不安で一杯の顔でぎゅっと布団を握り締めている。
「でも…本当に?」
…小さい声があんまりにも弱弱しくて、俺はついうっかり、言ってしまった。
「何なら確かめてみますか?」
毎朝毎朝やられて知ってたのに。
言ってしまってからしまったと思った。なにせカカシさんの俺チェックは入念過ぎるから。
だが…事態はより深刻というか、想像もしてなかった方向に移行した。
「確かめます…!全部…っ!」
「んんーーーっ!?」
なんで、俺に、キスなんてしてるんだこの人は!?
確かめるってそういう意味じゃなかったんだけど!
飛びつくようにのしかかられて、半分めくられてた掛け布団が床に落ちた。カカシさんの重みで結構苦しいのに、乗りかかったカカシさんの方が苦しそうな声で俺を呼ぶ。
「イルカ先生…!」
…でもまあ、いいか。しょうがないよなぁ。
だってこんなに必死な顔されたら止められない。
「はぁ…っ…あの、程ほどにしてくださいよ?俺病み上がりなんですから…。」
「はい!全部しっかり確かめます!」
返事がやっぱり全然かみ合わないんだけど、手際よく服を剥いで行く顔が職業意識でキラキラしてて可愛い。
手つきは本当にしっかり確かめる気みたいで、うなじも、胸も、全身をなぞるように触れていく。…どうやら一応医療行為のはずなのに、その執拗な動きに、俺の息は勝手に上がり始めてしまった。それなのに、その手は肝心な所には触れてくれない。腹を押したり、喉をなでる手がもどかしくて、必死でかみ殺しても、熱を帯びた声がこぼれてしまう。
「くっ…んっ…!」
…そしてソレは、俺だけじゃなかったらしい。
「イルカ先生、したい。すごくしたい。どうしよう…?」
いきなりスッと手を離したかと思ったら、お預け食らった犬みたいな顔で、カカシさんが俺も見てる。眉をへにょっとさげて、凄く苦しそうな顔で。
一応病み上がりだからと遠慮はしてるんだろう。でも、その吐息はすでに荒く甘くそまって、ぎゅっとシーツを握り締めた手が必死で我慢してるのを伝えてくる。
「そんな顔しない!…但し!手加減はしてくださいよ?」
「は、はい!」
ぱあっと顔を輝かせたカカシさんは、俺の注意を分かってるのかいないのか、さっそくその手を俺の胸倉に突っ込んできた。
さっきのとは違う、明らかに俺を欲情させようとする動き。
うなじに口づけながら、胸の突起を揉むように、はじくように弄りまわして、跳ねる身体を抱きしめられて。
…ひとたまりもなかった。
「あっ…あぁっ!」
勝手に吐き出される声に、カカシさんが嬉しそうに目を細める。
「ここ、気持ちイイんですよね…!もっと、もっと気持ちよくしますから…!」
足をつかんで腰を割り込ませ、興奮した声でするりと尻をなでる顔は、すっかり欲望に溺れている。その手の動きも激しくなるばかり。
コレは…やっぱり忘れてるな!?
「こ、こら!っだか、…んっ!手加減しろって…!」
「はい!ココではとりあえず一回だけ…!」
カカシさんはそんなコトをいいながら、嬉々として自分の指を舐めている。
「分かって、ないじゃないかぁ…!」
耳を引っ張っても止まる様子は勿論なくて、後ろに回った指が勝手知ったるとばかりにねじ入れられて、休み泣く動くそれに翻弄される。…すっかりいつものペースだ。
「んぁっ!やぁっ!」
じりじりと這い上がる熱は、もっと激しい刺激を求めている。
検査着が湿っていく感触も、時々押し当てられる服越しのカカシさんの興奮したそれも、俺の思考力を飛ばすには十分だった。
「声もっと聞きたい…。」
熱心に耳を齧ったり、内股のきわどい所をなでたりして、焦らすようにしてるのは、声が聞きたいからなのか?それとも一回だけって言ったから?
早く、楽になりたいのに!
「うー…早く、もう、無理…っ!」
限界だった。
だから、あてつけるようにカカシさんの口に食らいついて、服を押し上げている股間に触れてやった。舌を絡ませて、もう声なんかどうでもイイと思わせるように。
こんなことするなんていう考えは、どこかに行ってしまった。
「俺も、もう駄目です…!優しくできないかも…。」
「いいから、さっさと…!」
「うん…!」
カカシさんは慌てたように前をくつろげて、押さえつけられていた布から開放されたそれを俺に向けた。
早く、ソレが欲しい。
片足を取られて持ち上げられて、その切っ先が散々ほぐされて熱を持ったソコに押し当てられた。
「息吐いてて…?」
「んっああぁっ!」
ずるりと入り込む熱く硬いそれに、苦しいのに満たされる様な気がする。
たまらなくなって、ぎゅっとカカシさんに抱きついた。
「は、あっ…。…イルカ先生…!」
…その顔も、声も、俺と同じにどこか安堵の色を纏っていたから。
「カカシさん…俺はココにいます。どこかにいったりしませんから…!」
「どこにも、やりません!病気なんか俺が追い出してやりますから!」
「あっあ…っ!」
急に激しく突き上げられて、でも求められてるのが嬉しくて、…結局後で後悔する羽目になったけど。
「イルカ先生も俺のこと、欲しいって思ってくれたのが分かって嬉しかったです!」
なんて言われたから、休日をベッドの中で過ごしたのも悪くないかなと思った。
*****
…今日も、腰がだるい。どうしてこう自分はあの人に弱いんだろう。
週初めででこれでは自分が情けない。
一応子どもたちは無事に帰宅してって連絡きたらしいからいいようなもんだけど、今度からこんなに簡単に倒れないようにしないと…!
出来るだけ背筋を伸ばし、でもやっぱりちょっと痛む腰を庇いながら職員室にはいると、金色のふさふさが飛びついてきた。
「おはようだってばよ!大丈夫か?イルカ先生!」
「こらナルト!危ないだろうが!…でも、心配してくれてありがとうな。大丈夫!この通り元気だ!」
元気印のこの子は結構こうやって飛びついてくる。
…正直、酷使した腰には相当ダメージが大きかったけど、こうやって俺のことを心配してくれたってのが嬉しいじゃないか!
でも、日直は先週だったような気がするんだが?どうしたんだろう?
「なぁナル…」
「イルカ先生!俺さ、あのおっさん最初胡散臭いと思ったけど…。ちゃんとイルカ先生のこと守りそうだから。許してやるってばよ!」
「へ?」
胡散臭いおっさんっていうと…もしかしなくてもカカシさんのことだろう。でも、守るって!…俺はそんなに頼りなく見えてるんだろうか…。確かに最近ちょっとよろよろしてたけどさ!
しかも、ナルトは意気揚々と更に追い討ちまでかけてくれた。
「でも、変なことされたらすぐ言えよ!その時は俺がやっつけてやるってばよ!」
変なこと…は、ある意味毎日のようにされてるんだが言えるわけもない。
堂々としたその態度は、将来が楽しみなんだが、どうしてそうなったのかという辺りが心配だ…。
「おいドベ。抜け駆けはナシだぞ?」
「うるせー!」
「…イルカ先生。俺も、あのおっさんはどうかと思う。何かあったら言え。」
「あ、ああ。」
…どうして俺はこんなにも心配されてるんだろう。…こんな子どもにまで…。
「行くぞ。」
「だからどうしておめーに指示されなきゃいけないんだってばよ!」
「…身体、鍛えないと…!」
大声でじゃれあいながら教室に戻っていく二人を見送りながら、俺は改めて自分の教師生活の見直しを決意したのだった。


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変態ドクターの続きをそっと増やしてみました。
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