好色男爵夜の宴



その晩。

その屋敷は騒然となった。

明らかにその場にそぐわない異様な風貌。
だが、その場にいる者を平伏させるくらいの圧倒的な存在感。
宴もたけなわとなったその時に。
重厚なドアを開けられた音を、その場にいた者達全員が耳にした。
一体、こんな時間に何処の紳士淑女が来たのだろう?
各々装着してる仮面の奥から、胡乱な視線を向けるが、一瞬にして、羨望と憧憬を含んだものに変わる。

「まぁ!あの方は……!」
「ほう……珍しい方がいらっしゃったものだ」
「今日の主役はあの方に決まりですね」

その場にいた者達を虜にしてしまった男。

男は、ゆっくりと宴の中心にいるこの屋敷の主の前まで進み出て、宴の主催者でもある男の前で、軽く頭を下げた。

「こんばんは」
「よくいらっしゃました!はたけ殿。ちょうど宴も最高潮でございまするぞ」

主は、両手を広げて誇らかに言い放った。
ここにいる者達はお互い仮面で顔も身分も隠して、絢爛な衣装を身に纏い、美酒と音楽に酔い、欲に溺れる。 火の国でも名だたる家柄や、誉れ高い称号を与えられた者達が、だ。地位も名誉も手に入れた者達が何故、ここに集うのか?

果てしない夢。
満たされない思い。
誘惑やスリル。
そして衝動。

どんなものを手に入れても、人間とは欲に逆らうことも出来ず、欲することを止められない。際限のない思いを、 皆が胸に抱え、まるで誘蛾灯に引き寄せられる夜の蝶のように艶やかに屋敷にやってくるのだ。そして秘めやかな一晩の 時間を過ごしていく。

そんな中。
何故か、この場に現れたはたけカカシだけは、着飾る訳でもなく、普段どおりの忍服姿。
ある意味、顔は確かに隠しているとは言えるのだろう。
口布に左目を木の葉の額宛で隠しているのだから。
だが、それは身分を隠すという意味では何の役にも立っていない。
この男は目立ちすぎだ。
容貌も、この男がこれまでに残してきた数々の伝説も。

この男とて、ここにいる者達同様、今までの人生、欲しいものは思うがままに手に入れてきた。忍としては、 次期火影候補と推薦されるまでの実力者だ。そして、普段は隠れているが口布の下の秀麗な顔は、落ちない女はいないだろう とも噂される。現に今まで浮き名を流した女は数知れず。だが、どの女にも本気にならずとも、修羅場にならないところが、 女の扱いもトップクラスと言われる所以だ。
そして。
この男の先祖は、子爵とも男爵とも言われているのだから身分的にも申し分ない。

そんな男が、ここに何を求めてやってきたというのだろう。

「はたけ殿がここにいらっしゃるとは珍しい」
「お久しぶりです。今日は欲しいものがあってお願いに参りました」

恭しく頭を下げるカカシに、主は大きく頷いた。

「さようでございますか。いやいや、貴殿が来られたとなれば、この宴にも箔がつくというもの。さあ、今宵は何をお望みですかな? 女性とあらばご覧のとおり。ここにおられる淑女達は、名だたる名家の令嬢ばかり。はたけ殿の横に侍らせても遜色ないと 断言いたします」

カカシの周りには、いつの間に集まったのか、豪華な衣装に身を包んだ女たちがぐるりと囲んでいた。
既に、仮面をはずして素顔を晒らしている者もいる。熱視線を送り、カカシからの声が掛かるのを今か今かと待ち望む。
そんな女達をカカシは一瞥しただけで、その輪からゆっくりと外に出た。
皆の視線が、カカシの行く方向へと一斉に移動する。
すると。
ある男の前で、立ち止まった。
その男が持っていた銀のトレイから、シャンパングラスと取り上げ、目の前で翳し、そして、

「あなたをいただきにあがりました」

凛と響く声は、そこにいる者達の息を止めるには十分な程の衝撃を与えた。

カカシが声を掛けた男。
黒髪を後ろで一本で束ね、同色の執事服を纏ったバトラー。
カカシとその男の視線が絡み合う。
黒髪の男がゆっくり口を開いた。

「ご覧の通り、私はここの主に仕える執事でございます」
「知っています。それでも俺はあなたが欲しい」
「いくら里の誉れと謳われるはたけ上忍の願いだと申されてましても、私の意思は主のものでございます」

執事の男は、全く表情を崩すことなく、淡々と言葉を紡いだ。

「そう。それなら、あなたの主に掛け合うだけですね」

カカシは踵を返すと、主のところまで黒髪の男を後ろに連れ立った。

「聞いていらしたとは思いますが、俺は、この人が欲しいのですが」
「ほぅ?その男は私に仕える者です。さてどういたしましょうか?とても仕事も早くてよく出来る男でして、 私のお気に入りなのですよ」

主のわざと「お気に入り」の部分だけ強調するあたりが、如何にも意味深だが、カカシは全く気にする素振りを見せることなく、 黒髪の男の腰に手を回した。

「俺は、欲しいものは惜しみなく奪う質なものでしてね」

だから主の意思など関係ないのだと。
そんな思惑を宿したカカシの低い声に、この男の本気が垣間見える。

「……その男は仕事は素直にやりますが……手ごわいですぞ」
「それは結構。主としても調教のしがいがあるというもの」
「ならば、まずはお手並み拝見といきましょう。イルカ、しばらくの間、はたけ殿のところでお世話になるがよい」
「……かしこまりました」

イルカと呼ばれた男は、主に向ってゆっくり頭を下げた。

交渉成立となれば、後は興味はないとばかりに、カカシはさっさと屋敷の出口に向って外に出た。
遅ればれながら、イルカも無言でカカシの後を追った。
二人が屋敷を出れば、後方で屋敷のドアが、鈍い音を立てながら閉ざされる音が鳴り響いた。

カカシは後ろを振り返りことなく、イルカに声を掛けた。

「今からあなたは、俺のものです」

イルカの歩みが止まった。
それに気が付いたカカシも足を止め、後ろを振り返った。

「よろしく。イルカさん」
「イルカとお呼び下さい。執事としては、誠意を込めてお仕え致しましょう」
「とんでもない。俺はあなたには執事としてではなく、個人的に興味があるのだけど」
「私は個人的には、はたけ上忍には全く興味はございません」
「本当に手ごわそうだね」

カカシは、そんなイルカの横顔をじっと見つめていたが、

「あなたもさっき聞いていたと思うけど、俺は欲しいものは惜しみなく奪う性格なんです」
「おっしゃる意味がわかりません」
「分からない?そのままの意味なんですけどね。あなたの心も丸ごと全部俺のものにするって言っているんですよ。 だから覚悟してください」
「……私の心は、誰のものにもなりえません」

カカシは、ふぅとため息を付くと徐に口布を取った。やはり、そこには誰もが見惚れる端整な顔が存在した。 だが、それを見ても男の顔は顔色一つ変えることはない。

「ふうん?この顔を見ると、大概の女は顔を赤らめたりするんですけどね」
「俺は男ですから」
「ま、いいですよ。俺は焦りませんから。とりあえず、主従関係から始めれば、あなたも納得するでしょう?宜しくお願いしますね」

カカシがなぜイルカを欲したのかは謎のままだ。
だが、どんな理由があったとしても。
イルカはただ、執事としての責務を全うするだけ。
この新しい主に従うだけ。
立場は歴然。

イルカはカカシに、新たなる主へ仕えるものとしての忠誠を誓った。

「……イエス マイロード(御意 ご主人様)」

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貴琉さまコメント↓
男爵カカシと執事イルカのお話でしたっ。
Kaiさんのところの【男爵】も「黒執○」風に「イエス マイロード」と書かれていたので、真似っこしてみました。
チャットに参加されていた方には、こんなもんでよろしければ差し上げますっ!
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相互リンクさせて頂いた貴琉様のブログから、さっと掠め取ってきたステキ作品です!
しつじ!しつじ!しつじなイルカ!
…はぁはぁ…。ボソッと変な言葉囁いたお陰で宝物ゲットだぜ!!!←すでにたかりキング。
貴琉様のサイトにも、ステキ作品がありまくりますので、是非是非リンク部屋へ!
それと…こちらの作品のお持ち帰りは厳禁!ですので、宜しくお願いいたします!あ、でも萌えはお気軽に叫んでいってください!

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