油断大敵(適当)


「いいの?」 心細そうに袖を引いて、泣きそうな顔をされた。
今の姿が子供だからってだけじゃなく、この人のこういう所がほっとけないんだよなぁ。
「いいんです。あ、でも…俺ん家が狭いのと飯が適当なのは勘弁してください」
「そんなの俺が!」
「でもこの状態じゃ…」
「財布にくらいさせてくださいよ。らーめんとかは伸びちゃうかもしれませんが、他のものならなんでもいくらでも好きなもの出前してもらいますから」
この状態じゃ飯を作るのなんて無理だろうと思ったけど、しょっちゅう隙をみせればおごってくれるもんなそういや。
うかつに外をうろつけないんだからある意味合理的といえば合理的だが、格下とはいえ俺にもプライドってもんがある。
同性であまりにもかけ離れた相手にうっかり惚れた理由が庇護欲に駆られたからだってのは誰にも言えない。
上忍で凄腕だ。俺なんかよりずっと強く、修羅場をくぐった数も違う。
中忍としては高ランク任務をこなしている方だが、もちろんこの人とは比較にならない。
それでもだ。
元教え子を切っ掛けに一緒に過ごすようになったこの人は、なんというか…かわいかった。
だってこの人、へにょって笑うんだぞ。頭に花びらついてますよって言ったら、恥ずかしそうに。また色白だからか、すごく似合ってたんだよなぁ。
ちょっとぼんやりしてるし、イチャパラなんてもん読んでるくせに、同僚と飲みに言って猥談が始まったら真っ赤になって倒れこんできたし。
偶然とはいえ、隣の座敷で飲んでるなんてなー。
ふすまが音を立てて倒れてきたときは驚いたけど、通りすがりに聞いちゃって驚いたんですとかいいながら、もじもじしてるんだぞ?
ナニがどうなってるかなんてすぐにわかる。それを恥らいながらだな。ちょっと猫背になって潤んだ瞳で俺に助けを求めるみたいに見つめてきたんだ。
正直言ってツボだった。もうなんていうかストライクだ。
…仲間意識がなかったかといわれればそれも否定しない。
流石に未経験って訳じゃないが、不意を疲れて女体変化の術なんか食らったらその、まあみっともない姿をさらしたこともある。自慢できる経験なんてない。
おっぱいのでかさについて語り合うのは大歓迎なんだけどなぁ。いきなり開けっぴろげに全てをさらけ出されると…。
それについては俺がこってり説教した後、三代目も情緒がないとか色々言ってた。問題はそこじゃないと思ったんだが、本人は反省したみたいだからそこはいいことにしておいた。
カカシさんは俺とは間逆で、女たちは入れ食い状態だ。仲間として尊敬しあっているくノ一もいるみたいだが、その他のみなさんは、たまに飯を食いに行く俺にすら殺気立つ始末。
所が女にモテまくってるのに意外なほど、この人は晩生で純情だった。
「好きな人じゃなきゃそういうのはねー。任務ならしょうがないですが」
憂い顔でそんなこといわれたらときめいちゃうだろうが!…いくら猥談で真っ赤になって倒れこんだ後だったとしても。
その人がなんの因果か奇妙な術だか薬だかの被害にあったっていうんだから、当然俺が面倒をみることになった。
事情を知り、機密を守れる相手として、指名を受けたのだ。
勿論三代目からの推薦もあったようだが、最初からこの人が俺を選んでくれたんだそうだ。
そりゃもう張り切るに決まってる。
女性相手も禄に経験がない上に、この人は男性。恋愛対象に男がいると聞いたこともない。
男女の機微に疎い俺だが、愛は情熱だってガイ先生も言ってたもんな!
それにこの人の子どもの頃の姿を見られるのは嬉しい。正直言って役得だとも思っている。
惚れた欲目を抜きにしても、空恐ろしいほどに綺麗な子どもだ。
…子どもの頃のこの人が心配になりすぎてそっちも恐ろしい。
「さ、帰って飯です!」
この状態を解決するものの到着が遅れているらしい。
何でこうなったのか詳細は機密で教えてやれないと言われたのが不安でしょうがない。いつ治るか保障できないとか言われたら俺よりこの人の方がショックだっただろう。
まあそうなったら一生この人の面倒を見る覚悟は当然できているんだけど。
「はい。せめてお手伝いさせてくださいね?」
「もちろん!」
何にもしないでボーっとしてたら考え込んじゃうもんな。そういう時は何かで気を紛らわせた方がいいはず。
「よっし!がんばりましょうね!」
「…はい!」
うん。何があったってこの人を守りぬいてみせる。
決意も新たに手をつないで家路を急いだ。
…これが全部仕組まれた罠だってことを知らずに。


背後で子どもの姿になった上忍がにんまりと笑っていたのも後で知ったし、それが恋の橋渡しとやらを頼まれた里長が無体な真似ができないようにと変化させたものだったことも、知ったのは随分後になってからだ。
体を張って俺が誰かにいる生活にすっかり慣れてから術だかなんだかは解け、その日のうちにペロッと食われて…。
だまされたといえばだまされたのに、腹が立たないのが不思議だ。そんなに俺が欲しくて必死だったのかと思うとちょっと嬉しくさえあるのだ。
「返品不可ですから」
泣きそうな顔で必死に主張する上忍にずたぼろになるまでされたお陰で立つこともままならない。
「まあそのつもりはありませんが。アンタ俺のですし」
途端しがみついてくる上忍を抱きしめて、油断大敵という言葉の意味をかみ締めた。
この人、これで俺から逃げられなくなっちまったってのに。
「うん…うん…!」
いつかもっと前からほれてたってことを言ってみよう。その時のうろたえる顔が楽しみだ。
そんなことを思いながら、俺は瞳を閉じたのだった。

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適当。
ねむい_Σ(:|3」 ∠)_
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