秋の夜道の(適当)

秋が少しずつ深まるにつれどんどん日が短くなってきて、最近では定時に上がっても外が随分と暗い。
ましてや今日はしっかり残業までしたから、とっくに辺りは闇に包まれている。
同じく絶賛残業中の同僚たちに夜道には気をつけろよなんてからかわれながらアカデミーを出た。
まさ本当に何かあるなんて、思いもせずに。
残業続きで確かに疲れちゃいたが、早々簡単にはやられたりしないはずだった。
中忍とはいえ腐っても忍だし、一応俺だって腕の悪い方じゃない。
それがこの始末。
「離せ!なにすんだ!」
戒められた腕はびくともしない。
組伏せられた先が落ち葉の積もった地面じゃなければ、きっと俺は相当痛い思いをしていただろう。
それくらいの躊躇いのなさで、敵は襲い掛かってきた。
闇の中にあっても光を拾う忍の瞳は、俺を押さえつけているものの姿をしっかりばっちり捉えている。
銀色でふさふさで…どうにも見覚えのある頭だ。
だがこんな顔の男に心当たりはない。
一度見れば絶対に忘れないくらい整っている容姿。無駄に綺麗な変質者ってところだ。
そもそもこんな奇行に及びそうな知り合いは、俺の交友関係の仲にいないはずだ。
訳が分からないながらも、組み伏せられるままに無抵抗でいたわけじゃない。
当然一矢報いようとクナイを向けたりもした。
だがあっさり弾き飛ばされたそれが夜の闇に消え、俺に残ったのは痺れるような衝撃だけ。
「抵抗、しないで?」
そんなもんするに決まってる。
「やなこった!」
ねじ伏せられて黙ってるなんて、何をされるかわかったもんじゃない。
暴れる俺を簡単に組み伏せたこの男に敵うわけがないのはわかっていて、それでももがき、ついでにあわよくばこの騒ぎに気付いてもらえないかと大声を上げた。
だが奮闘空しく俺が力尽きるまで、男の腕は緩まなかった。
万事休すか。
「夜道を一人で歩いてちゃだめでしょ?俺みたいなのに食べられちゃうんだから」
その呟きで気がついた。
…この男からは洗い流してもなおしつこく残る血の匂いがしている。
任務帰りのケダモノか。それならこの奇行も頷ける。
「大人しく食われてやるかってんだ!」
蹴り上げようとした足を掴まれ、そのまま下に履いていたもの全てを剥ぎ取られた。
「どうしよ」
万事休すかと思いきやこのセリフ。
…やっぱりついてるもんついてるんだから、無茶なんだよ!大体にして!
それなのにこの男は本気で馬鹿なんだろうか。正気に返ってくれたのはありがたいんだが。
「なにがどうしよだ…!とっとと離しやがれ!」
「どうしよ。めちゃくちゃ興奮する」
「はあ!?」
驚いて目をやると、いつの間にやら肌蹴られていた男の前が天をつく勢いで反り返っている。
「ねぇ。させて…?」
哀願するイキモノは、このとんでもない行動とは裏腹に苦しげな顔をしている。
「そんなのまずお願いすんのが先だろうが!」
とっさに怒鳴りつけていた。
だが我ながら脈略がないにも程があるそのセリフに、男は逆上するどころか俺から体を離し、そして。
「イルカ先生。あなたが好きです。全部欲しい。だから…おねがい」
指先が無様に転がったままの俺の足に触れ、そのままそこに口付けた。
…神聖な誓いでも交わすかのように真摯な表情で。
「なっ!?え!?なん…!?」
「…ごめんなさい。も、我慢できない…!」
それから先はまるで嵐のようだった。
飛び掛ってきた男の瞳はまさにケダモノそのもので、容赦なく感じる所を暴きたてるくせに、恐ろしくなるほど丁寧にふれてきて、傍若無人なのか慇懃無礼なのかわからない。
戸惑いをいなすようにくちづけられて、怯んだ隙に奥の奥まで入り込まれて…それから信じられない所で吐き出された熱を受け止めた。何度も何度も。
「う、あぁ…!」
「ん。熱…っ!きもちい…!」
意識が途切れるその瞬間まで男は腰を振り続け、悲鳴も嬌声ももう止めてくれという叫びも…全てを聞いていたのは男だけだったことは、何の救いにもならなかった。
*****
「おはよ」
「おはようござ…います!?え!?えええ!?うっげほっげほっ!」
現状を確認しよう。
まず、今俺がいるのは見知らぬ家のどうやらベッドの上のようだ。
そして俺を抱きしめてこっちがはずかしくなるくらい嬉しそうに笑っているのは夕べ散々無体を強いてきた男。
つまりは俺は強姦魔の巣に…!?
「お水。のんで?」
飲んでといいながら男がしでかしたのは俺の口の中に口移しで水を流し込むという暴挙だった。
なんなんだよもう…!勘弁してくれ。それでなくてもあんな目に遭って頭の中がすっかりパニック起してるって言うのに、わざわざダメ押しなんてしないでくれ…!
「ふ、ぅぅ…!」
「あのね。好きです。嫌いって言われても興奮するから今は止めて?」
「なんだよそれ…!」
大体どうして加害者の癖に、そんな風に…えらそうに、でも苦しげに無理難題を言い出すんだ!
「えーっと。好きになってください。気持ちよくすることは得意だけど、他のことって…まあお金くらいしかないんですけど。でも、諦めるなんて無理だから」
だからお願いと男は言う。
土下座せんばかりに必死になって、ケダモノの瞳のままで。
…切なげに俺以外など要らないのだと訴える。
めちゃくちゃだ。やり方もなにもかも。
それでどうして俺は…頷いてしまったんだろう。
「金なんて知るか。まず詫びろ!」
そう言って殴ってからついでに飯の支度もアカデミーへの連絡もしっかりたっぷりこき使ってやってからだったけど。
頷いた途端飛び掛ってきてすがり付いて泣き出した男に、これでよかったんだと思えたから、多分…その、きっと。こんな恋の始まりもあるのかもしれない。

…あの日から毎年この時期になると、アカデミーでも受付でも、夜道はくれぐれも気をつけなさいと口をすっぱくしていうようになったけどな。


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てきとー!ねむいので!
というわけで夜道は大変危険ですという話。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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