やりたい(適当)



「やりたい」
「お断りです。風呂場ならすぐ流せるから抜いて来たらいいですよ」
冷たい。どうしてイルカ先生はこんなに冷たいんだろう。
ティッシュもエロ本も要らないし!欲しいのはイルカ先生だし今すぐ突っ込みたいだけなのに!
だいたいさぁ。任務から帰ってきたらお互い溜まってるに決まってるじゃない?
それが分かっててどうしてこうなの?ねぇ。少しは俺のこと考えてくれたっていいじゃない。
なんて酷い人なんだろうと思うのに。
「ああもう!でも好き!」
「…あんまりうるさくすると外に捨ててきますよ?」
あ、この笑顔恐い。本気だ。
どうせまた言ってるだけだと思って調子に乗って押し倒したら、本気で伸されて外に捨てられた。
中忍だと侮るなかれ。イルカ先生はそん所そこらの上忍じゃ歯が立たないくらい強い人だ。
何で中忍やってるんですかって真剣に聞いた事があるけど、ふっと笑っただけで答えてくれなかったというか、その笑顔にぐっと来た俺が襲い掛かったのでそれどころじゃなくなったというか。
とにかく。イルカ先生は冷たい。
上忍だからじゃなくて、恋人なんだからさぁ。もうちょっとだけでいいから愛をくれたっていいと思うのよ。
放り出されたあの時、真冬でも真夏でもなかったおかげで風邪を引いたりはしなかったが、心には深い深い瑕が未だに残っている。
だってイルカ先生相手に術とか使えないもん!どうしようもできないじゃない!
「イルカせんせのけちんぼ…」
悲しくてそれから溢れかえる性欲と気力のおかげで、押さえつけていた欲望が暴走しそうだ。
襲っちゃおうかなぁ。洗脳って手もあるよね。閉じ込めちゃいたい。
淀んだ欲望をたたえた目でイルカ先生を見つめていると、あからさまなため息が聞こえた。
「はぁ…。あのですね。アンタさっき…っていうかもう昨日か。自分がなにやったかおぼえてますか?」
「昨日?あ、受付ですか?やっと里に帰ってきたのでイルカ先生にくっついていちゃいちゃしたかったのに、イルカ先生が帰れっていうから泣きながらおうちに帰りました」
うぅ…我ながら思い出すのも辛い。惨めすぎる。
もっと愛をちょうだいよ。好きなのに。俺はアンタが大好きなのに!
「いいですか。アンタが騒ぐと、周りはこう考えるんです。…上忍の要望に応えなければならないってね。おかげで俺は仕事も出来ずに追い出されました」
「へー?えっと、そういうもんなの?」
ただ恋人同士がいちゃついただけなのに。変なの。でもそれならさ、イルカ先生って今暇なんじゃないの?俺ともっとたっぷりいちゃつけばいいんじゃないの?ねぇ。
「この決算の締め切りはなぁ…!今日なんだよ!今日!つまりアンタが邪魔したせいで移動の手間もあるしぎりっぎりなんだ!でもアンタ手伝えないだろ?黙ってそこで待っていろ!」
「はぁい…」
怒らせちゃった。でもそんなの知らなかったんだもん。けっさんってなによ?里になんてあんまり帰ってきたことないしさ。
そんなに怒らなくてもいいじゃないか。説明してくれたら…そりゃ寂しいからちょっとは泣くかもだけど、がんばっていい子で待ってるのに。
「…泣くな。気が散るでしょうが!」
また怒られた。今度こそ捨てられちゃうのかもしれないと思ったから、歯を食いしばって涙を堪えたら、いきなりわしわしと乱暴に撫で回された。
「アンタは。癒し担当なんです。終わったらたっぷり補充させてもらうので、寝室で待機してなさい」
にこっと凄みのある笑みを向けられて、逆らえる生き物がいるだろうか。ましてや俺はこの人にベタぼれなのに。
「待ってます。早くきてね?」
すごすごと退散する俺に、イルカ先生は一度だけ咳払いしてこう言った。
「あの馬鹿上司、俺がいなきゃまわらないだろうに明日も休みをよこしました。どうせならアンタにたっぷり癒されたいんで、コレが終わったらたっぷりかわいがってあげます」
えーっと。それって朝まで突っ込んで揺さぶって、ごはん食べたらまたヤって、それから夜までコースでもいいってこと…だよね!ね!
「いい子にしてます!」
「お願いしますよ。コレほんとに急ぎなので」
イラつきはどうやら上司に向けたものらしい、あのクソハゲなどという不穏な声が聞こえた。ま、俺には関係ないし!もうちょっとしたらめくるめいちゃうわけだし!
ほこほこと布団に潜り込んだら、幸せすぎてちょっと眠たくなってきた。
イルカ先生が来たら起きよう。
瞳を閉じるといつだって愛しい人の姿を思い浮かべられる。ちょっと勃った。我慢だ。
「イルカせんせーだいすきー」
おやすみなさいの代わりにそういうと、隣の部屋でチャクラが揺らぐ気配がしたから、多分笑ってくれたんだと思う。
*****
で、起きたら朝だったんだけど。
「うそ!イルカせんせい!イルカせんせい!」
「んあ?アンタ任務帰りで疲れてんでしょうが。顔色悪いくせに寒い居間でみっちりひっつきやがって…!ベッドで寝たからちったぁマシか?」
ぐりぐりと顔を撫で回されて、点検でもされているかのようだ。
あーでもイルカ先生だ。そばにいる。やりたい。
「いただきま…ふぐ!」
「飯が先です。食え。風呂ははいってあったみたいだけど、アンタ録に食ってないだろうが」
「そう、でした、っけ?」
食事なんて考えないしねぇ?部下がいれば配慮はするけど、規則正しい食生活なんてのは、自分には無縁の感覚だ。
「食え。それから…昨日は我慢されたから髪洗ってあげます」
それはイルカ先生が好きなだけなんじゃないのかなぁと思ったけど、風呂だしってことは脱ぐしやり放題だし。
「ごはん食べたら絶対ですよー!」
踊りだしそうになりながら台所に走った。
「…まあ、しょうがねぇか。なんであんなアホかわいいんだろうなぁ」
ちょっと失礼なコメントには聞こえなかったフリを貫いて。


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適当。
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