ヤラセテ?(適当)


「ヤラセテ?」
「お断りします」
何で駄目なの?っていつも思うんだけど、完璧な笑顔で断られちゃうからどうしてもそこから先に進めない。
気持ちよくする自信はあるのに。
「…だめ?」
「ええ。駄目です。帰んなさい。飯食って寝て、頭スッキリさせた方がいいですよ?」
こうやって優しいことを言ってくれるから、嫌われてる訳じゃないと思うんだけど。
むしろ哀れまれてる?
…でも、どうしても今日は帰りたくない。だってもうちょっとでまた何年かここに帰ってこれなくなるかもしれない。もしかしたら永遠に帰ってこれなくなるかもしれないんだけど、それはま、いつものことだしね。
「…帰りたくない」
机に懐いて上目遣いに見つめたら、物凄く困った顔をされてしまった。
なんでかなぁ。どうして伝わらないんだろう。やっぱり面つけたままじゃ駄目?でもこれ外そうとしたら泣きそうになりながら止められたからどっちにしろ駄目な気がするんだけど。
ひとしきり机に齧りついてみたら、苦いものでも噛み締めたときみたいに顔を歪めた人が、迷うように何度か首を振って、それから俺の手首を掴んだ。
「…飯なら付き合います」
「え!いいの!」
「飯なら。です。アンタ家に食い物ないんでしょう?」
「兵糧丸ならあるよ?携帯食と…あと米?」
この間貰ったの、いつだったかなあ?ここんとこ里に帰れないからほっときっぱなしなのよね。調味料で無事そうなのは塩くらいかもしれない。味噌汁が好きだから買ってはあるんだけどまだ使えるかどうかは疑問だ。
「…碌なモン食ってないんですねアンタ…」
「うん。ま、あんまり里にいないからね」
俺としては当たり前のことを言ったつもりだったのに、急にまた泣きそうな顔をするから焦った。なにがそんなに悲しいの?やっぱり飯食うのもイヤなの?ならなんで優しくするの?
ここに帰って来たいって思わせたのはそっちなのに。
「…らーめん。めちゃくちゃ美味い店があるんです。ついてきなさい」
「えー?でもお仕事は?」
「アンタで最後だったんですよ!暗部がなんでここに報告に来てるんだか知りませんが、三代目がおっしゃったんでね!」
「そ」
なるほど。もしかしてこれってご褒美?この人食っちゃっていいのかな。駄目かな。やっぱり。欲しいんだけどなー。俺にめろめろにしておけば、里にいない間に誰かに盗られる心配しなくて済むし、俺が死んだら記憶が消えるようにしとけば後はなんとかなるだろう。
…でも、この人が駄目って言うなら駄目だもんね。しょうがない。
「おら行きますよ!しゃっきりする!飯食って風呂入ってしっかり寝て、それからもう一回きやがれ!」
「え!」
食事に風呂までは分かる。睡眠は、ま、俺はそんなに必要じゃないんだけどこの人が言うなら従おう。でも、もう一回って?どういうことよ。
「…アンタがホントに欲しいモノを白状するまで付き合ってやりますから。その腑抜けた脳みそを何とかしてからならな!」
わあ。かっこいい。この人の言いたいことは良く分からない。でも少なくともこれがまたとないチャンスだってことはわかった。
「早く早く!ね、らーめんって美味しい?」
「美味しいに決まってるでしょう!それも一楽のはそりゃもう美味いんです!」
胸を張ってそう言う人の手をさりげなく握らせてもらいながら、やっぱりチャンスは何度でも狙わないと駄目ってことなのかもなんて思ったのだった。


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適当。
アホの子は一生懸命。
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