やんでれ(適当)



「ちょっといって殺してきまーす!」
「わぁ!?待て待て待て!?なにいっちゃってんですか!?」
ああ…どうして俺はこんな目に遭ってるんだろう。
普通に出会って普通に恋愛して普通に結婚とかしてだな。それからかわいい子どもたちを山ほどつくって、幸せ一杯に生きるはずだったのに。
「だぁって。イルカ先生にそんなことするやつ殺す」
甘えた声がよりいっそう恐怖を感じさせる。
まあたしかにちょっとした嫌がらせは受けたさ。それもかなりの悪意が感じられるような鬱陶しいのを。
今でも包帯はしてる。何せクナイに起爆札つきだ。全部避けようにも生徒が側にいたから水遁で弾き飛ばすのがせいぜいだった。
っていってもせいぜい小さなやけどと切り傷くらいで、忍やってりゃこんなもの屁でもない。
「だから!たいしたことないんです!処分もすぐに下りますきっと!」
火影様にはよくよくお願いしてきたからな…。
俺に何かあれば里切っての業師と、里の英雄になりかけている人柱力までそろって暴走するのが確定してるから、とにかく可及的速やかにあの人の目の届かない所に連れて行ってくださいと。

いつの間にか当たり前になっていたこの関係。かといって望んでそうなったわけじゃない。
ある日やってきた知り合いの男は妙に上機嫌で、いいことでもあったんですかと麦茶なんぞいれながら、甘いものが嫌いらしいけどスイカなら食べるだろうかとか、そんなことを考えていた。
お茶請けに乾き物は正直この季節には辛いだろうし、俺としてもせんべいなんかみたくもないほど暑いから、家においてあるかどうかもあやしい。甘いものは嫌いじゃないからおいてあるんだけどな。
出した麦茶を口布も下げずに空にする男を相変わらずどうなってんだと思いながら眺め、水羊羹よりはスイカの方がましだろうかとか、そんなことを考え始めていたとき、男が満面の笑みで口を開いた。
「気付いちゃったんですよー」
今にも踊りだしそうに浮かれた声は、この冷静沈着といえば聞こえはいいが、どちらかといえば陰気でちょっと胡散臭くさえあった上忍のものとは思えない。
…なんだか、変だ。
それで少し警戒してはいた。
残念ながら物の役にも立たなかったが。
「なにがですか?あ、それとスイカと水羊羹があるんですが…」
曖昧に誤魔化して切り抜けようとしたというのに、男は俺の腕を掴んで引き寄せた。
…男の膝の上に座らされるなんて屈辱的な行為を強いられ、面食らってとりあえず顔を押し返していた。
だって近いんだよ。意味がわからん。顔は社交辞令で男らしいと言われることはあっても、こんなにじろじろ見られるほど綺麗でもない。
ジワリと嫌な汗が滲んだのは、俺の中の本能が危険を察知していたのかもしれない。
「好きだってこと」

そうして微笑む生き物に、俺はあっという間にずたぼろにされた。

酷いなんて叫ぶ暇もない。赤い瞳は四肢の自由をあっけなく奪い、ついでに慣らすのもおざなりだったせいでたたみまで血まみれだ。
本来とは別の用途で酷使された箇所といえば酷いの一言で、そこ以外にも無理無体を強いられた体は痛みで動けなくなった。甲斐甲斐しく手当てをされようが好きだといくら囁かれようが恐怖でしかなかった。
それからだ。この男が我が物顔で俺の所有権を主張するようになったのは。
二度目からはもう俺のモノだからがっつかないと称してねっちりと愛撫を加えられ、身も世もなく喘がされれば調子にのってやはり歩けなくなるまで弄ばれる。
最悪だと嘆く暇もないくらい凄まじい勢いで俺の生活を脅かし、侵食した上忍は、俺を懐柔するのも早かった。
好きだと泣き、盗られたら死んじゃうと泣き、イルカ先生が側にいるだけで幸せと泣く。
うっかりほだされそうになったのはその頃からだ。
それでもやはり許せなくて恐る恐る反抗…いや、正当な抗議をしてみれば、一部を除いては大抵の言うことは聞いてくれた。なだめるのに死ぬほど苦労したとしても、俺にとってそれは活路に他ならなかった。
必死だった。だからどうあっても曲げなかった“エッチしないと死んじゃう”という主張に関しては涙を飲んで諦めた。
なにせこの男の腕がいいのか俺に素質があったのか、行為に伴う痛みは徐々に減っていき、反比例するように快感は深まるばかり。
もうどうせなら気持ちイイ方がいいなんてスレたことまで考え始める始末。
あまりのことに周囲には心配されたなんてもんじゃないくらいすごい形相で心配されたっけ。
とにかくそんな紆余曲折を経て必死に言い聞かせ、時には拳や、不本意だが色仕掛け…というには語弊があるか。とにかく俺の体おも餌にしてやっと大分マトモになってきたと思ったのに。
「なんで駄目?」
心底不思議だと顔中に書いている男をぶんなぐってやりたいが、手が痛むだけで意味がないのでやめておく。
「駄目なもんは駄目です。こういうのは公の場で大恥かかせてやったほうが見せしめになるし、貴重な人材を肉片に変えられるのは困るんですよ!」
相手はゲスだが心を弄る方法なんていくらでもあるし、里のために永遠に働かされようが使い捨ての任務に出されようが心が痛まないような連中ぞろいだ。
それに…この人に任せて肉片に変えられてしまったら証拠もなにもなくなるだろうが。
「見せしめ…そっか。そうですね!」
あーあ。目ぇ輝かせちまって…。釘刺しといても無駄かもなぁ。
「だからって変な噂流すのも駄目ですよ?下手に刺激して他の連中が沸いて出たら迷惑ですし」
「…はぁい」
またお返事だけいいパターンだ。
にっこりわらっちゃいるがもう誤魔化されない。そりゃ最初の頃は分かってくれたんですね!とか感動の一つもしたもんだが、繰り返されるうちに事情はともかく気に食わないから殺しちゃいますねと同じ意味だと理解した。
「いい子にしてたら…明日お休みですし、いちゃいちゃすごせますよ?」
もはや捨て身だ。これ以上ややこしいことになるまえに、事態を収束させたい。
「いちゃいちゃ!しましょう!」
よしよし。ほんっと好きだよなぁ。同性同士で不毛だし、女にもてない訳でもないってのに。
…いつか、何かの切っ掛けでいなくなる覚悟は決めておこう。俺にはこの人が何を考えてるかなんて分からない。わからないからいついなくなるかもわからないんだから。
「…いい子に、してるんです、よ…?」
肌を暴きながらにんまりと笑うケモノに言い聞かせた。
できれば他所で迷惑をかけて欲しくないから、俺のところにずっといればいい。
少なくともその間は寂しくはないから。
「ん。もちろーん」
弾む声に荒い呼吸。すべてはその内あいまいになって、そこにあるのは頭がおかしくなるほどの熱の奔流だけ。
愛と錯覚するほどの激しい行為に葛藤するのに疲れはじめている。
もういっそ全てを忘れて溺れてしまいたいと思ったのは、誰にもいえない秘密だ。

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適当。
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