あたたかいひと(適当)


「いい子にしててくださいね?」
笑顔の恋人が憎い。動けないわが身が憎い。なんであんなにおいしそうなのに、何も出来ないの。
「うー…」
「はいはい。チャクラ切れの上に風邪引くなんて器用な真似したんだから、ちゃんと休んでなさい!」
せっせと手際よく面倒を見てくれるのはいい。ずっとくっついていられたし、食事だってあーんなんていいながら食べさせてもらっちゃったもん。
でも、コレはいやだ。
「イルカせんせ…」
「すぐ戻ってきますから。ね?」
困ったように微笑む顔もかわいい。
ちゅーして押し倒してすぐさま突っ込んで抜かずに一晩中かわいがりたいくらいかわいい。
それはまあ無理なのは分かってるんだけど、そうじゃなくて!
「置いてっちゃやだ」
こんなに辛いのに苦しいのに置いてかないで?って視線に練りこんで全力で誘惑した。
いつもならほだされてくれる…はずだ。
だって今俺の看病はある意味任務扱いになってるはずだから。
一応上忍で里の稼ぎ頭でビンゴブックに載るなんてありがたくないことになってる身だ。
身動き取れない状態で護衛もなし介護人もなしってのはありえない。
…ま、火影様におねだりしなかったかって言われたらウソだけど。
そんな訳で物資の調達なんかは外で見張ってる後輩たちに言えばあっという間に用意してくれるはず。
それなのに外にでかけるなんて、酷い。こんな風に二人っきりでいられる時間なんてめったにないのに。
決死のおねだりに、恋人はそれはもう困った顔をした。
「すぐ戻ります。あんたと同じ風邪、ナルトも引いちまったらしいんですよ。どうせならこっちに引き取って一緒に看病…」
「ヤダ。駄目。俺今動けないのにナルトに見られちゃう」
そんなことだろうと思った。
この人の頭の中はいろんな人がぎゅうぎゅうに詰まってて、俺の居場所も簡単に作ってくれたけど、一人ひとりの居場所はとても小さい。
それを自力でぐりぐり拡張してついに恋人の座まで上り詰めたのに、こうやってデリカシーがないこといいだすんだよねぇ…。
俺だけを見てなんて、無理なのは分かってるけど。
「情けない所見せられないって?」
途端にやにや笑ってるんだもん男心の分からない人だよね!まったく!
「違いますー。あの子が俺の機密を知るのはまだ早い。あんなに不安定で爆弾抱えた子に機密知られてそれが原因で拷問でもされたらどうすんですか」
ちょっとしたはったりもあるけど、これも事実だ。素顔だけじゃなく、側にいれば古傷の位置、動き方の癖なんかもばれちゃうから、それ目当てでナルトの中身を知らないのがちょっかいかけてきたら…里が滅びる可能性だってある。
アイツが素顔みちゃったりしたら大騒ぎしないわけないしね。自分から方々に言って回っていらない面倒ごとを呼び込むのは確実だ。
俺の情報を知るっていうのは、それだけの危険性がある。
…だから身近な人なんて作らなかった。どうしても欲しくて欲しくておかしくなりそうなほど欲しかった、この人以外は。
「俺もそうなるってことですかね…?」
なんでそこで悩み始めるの…!別れるなんて言い出しても聞いてあげないからね!
「ひとりだけです。俺が守れるのは」
それ以上の誰かなんて無理だ。
昔…その一人でさえ守りきれなかった。
任務でも、守りきれずにぽろぽろ零れ落ちていく命を血反吐を吐くような思いで見てきたんだから。
「うそつくんじゃありません。アンタなんだかんだ言って欲張りでしょうが…。全員の盾になるなんて無茶したのは誰ですか!挙句にチャクラ切れ起こすし風邪引くし!」
「うっ!それはその、ごめんなさい…!」
欲張り。確かにそうなのかもしれない。
仲間は、失いたくない。もう二度と。
それなのに今でも守りきれないことばかりで、だからこの人だけは。
「まあいいです。わがままいうのは風邪引いた特権ってことで許してあげましょう。ここに連れてくるのは止めです」
「ホント!」
この人がナルトのことで譲歩するなんて…!俺より大事にしてるもんね。絶対。アンタ大人でしょうが!って怒鳴るけど、俺よりナルトなのは事実だと思う。
…虚しいから今は言わないけど。
「ちょっと出かけて、看病してくれるのを差し向けてきます」
「看病って?」
「サクラも医療忍術に磨きがかかってますしね。…ただなー調薬の方は…まあそれでもなんとかなるでしょう」
…そういえば吐きそうになるほどマズイ丸薬食わされた覚えが…!?
がんばれ。ナルト。好きならいけるよな…とりあえず俺は助けには行けない。
「じゃ、一緒にいてくれる?」
「サクラ呼ぶようにお願いしたらすぐにね」
イルカ先生が優しい。いつもは結構冷たいのに。…なんだか嬉しいけど怖い。
「なんで、そんなにやさしいの?」
不安に狩られるままぽろっと零してしまったのは、普通なら意識が保てないくらいの高熱があるからかもしれない。
「…アンタのおねだりなんてめちゃくちゃなのばっかりですけど、今回ばっかりは、ね。…寂しいって顔中に書いてる人置いていけませんよ」
苦笑いを浮かべて頭をかき混ぜてくれた。なんでだろ。それだけでなんかちょっとなきそうになっちゃうんだけど。
「イルカせんせ」
「はいはい。アンタ結構な甘えたですもんねぇ…。元気になったらたっぷりからかってあげますから、せいぜい覚悟きめとくんですね」
呆れた声でいうくせに、その瞳は優しい。
…この人の恋人になれてよかった。独り占めは中々できないけど、今は少なくとも俺と二人っきりだし、ちょっとでもいいから俺のこと考えてもらいたいもん。
「ふふ…」
嬉しくて笑ったら眠気が襲ってきた。くたりと力が抜けた体に、ふわりと布団がかけられる。
「おやすみ。…塩たれたアンタなんて心配なだけだから、さっさと元気になってくださいね?」
うん。早く元気になりますとも。…この布団に貴方を引っ張り込むっていう大事な野望がありますから!
ま、元気になってから身をもってつたえればいい。
愛も欲望も、俺の全部がこの人のものだから。
「おやすみ、なさい」
そうして俺は寒気なんて吹き飛ばすほどの優しい手に甘えて、眠りの世界に旅立ったのだった。


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適当。
眠気にまけました。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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