約束(ヤンカカモノ 連載6)


誰も待っていない気がするヤンカカモノ続きー!イルカてんてー視点。



「こんにちは」
「こんにちは。カカシ先生」
穏やかに微笑む人。
多少変わったところはあるようだが、ナルトにとっては良き師であるようだ。
最初に会ったときの奇妙な既視感と…あの予感というよりは確信に近いものさえなければ、ただ尊敬の念だけを向けられたはずだ。
だが、今は。
「報告書、お預かりします」
自分でもそっけなさ過ぎると思う位に事務的な反応しか返せない。
何故かこの人の前に立つと落ち着かない気分になって…それから、寂しさと懐かしさと怒りと…湧き上がる感情に溺れそうになるから。
普段ならこんな風になることなんてない。確かに我ながら直情傾向はあるけれど、ここまで心が乱されることなんてなかった。
震えそうになる手を堪えて、差し出されるはずの紙切れを待つ。
「お願いします」
偶然のはずだ。他の忍を受付するときも良くあること。
…だが俺にとっては…。
偶然触れた手に驚くあまり、まるで熱いモノでも触れたかのように手を引いてしまった。
はらりと落ちた報告書は、その白い手が難なく捕らえ、すぐに戻してくれたけれど。
「あ、あの…!すみません…!」
言い訳すら思いつかなかった。
どうしたらいいのか分からずに、ただひたすら謝った。
どうしてこんなにこの人にだけ反応してしまうのか。緊張感に追い詰められていっそ叫びだしたいくらいだ。
だが、視線を伏せたままでいる訳には行かない。…恐る恐る頭を上げた。
相手は上忍。怒鳴られても懲罰があってもおかしくはない。そんな性格じゃないと聞いてはいたが、何故か…そう、何故か俺はこの人が怖かった。
僅かに手が触れるだけで胸が熱くなることも、涙がこぼれそうになることも、その手が離れていくだけでぞっとするほど寒く感じることも。
「大丈夫」
…見てはいけなかったのに。
微笑んだその人の瞳は、穏やかなその声を裏切って、確かな狂喜を宿していた。
「あ、あ…う、受付、します」
自分の様子がおかしさことを、同僚は緊張のせいだだとでも思っているらしい。
にやにや笑いながら視線でからかってくる。
…これなら、誤魔化せる。
混乱を押さえつけてなんとか報告書を確認した。
単独のAランク任務。子どもたちの面倒と上忍としての任務を両方こなすなんて、流石だ。
「はい。結構です」
内容も問題があるはずもなく、受領印を押せば任務完了。もうこの人がここにいる理由はない。
そのことにほっとしているのに、何故か落胆めいたものすら感じて、自分で自分がわからない。
ただ、混乱を誤魔化すことしか頭になかった。
「ねぇ。飲みに、行きませんか?」
「え…?」
誘われた。この人に。
…じゃあ、きっと今度こそ俺は…。
何に対してか分からないのに、湧き上がった期待を持て余しながら、気がついたらうなずいていた。
「後で、迎えに来ます」
そういって受付を後にするのを見送って、震え続けている手をさすった。
あの感触が残る手を。

約束…してしまった。
相手は上忍だ。
…約束は果たされなくてはならない。

そう、俺の約束も。

あの人と約束した覚えなどないのに何故かそう思った。
あの人と俺を縛る約束を果たさなければならないと。

受付業務をこなしながら、あの一瞬が何度も頭に繰り返されるのに耐えて…。
この答えを与えてくれる人に会えるということだけを考えていた。

…全てを知っているだろうあの人に…とらわれることだけを。


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ヤンカカモノ続きー。
置いていかれたことへの怒りと再会の喜びと再支配への期待と…。
ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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