薄暗い地下室に昼も夜もないが、忍び込む月の光の冷たさに、すでに日が暮れていることを知った。 途切れがちな意識で夜の訪れをぼんやりと認識して、もう夜なのか、それともまだ夜なのか…どちらにしろ今はまだいない男が、もうすぐやってくるであろう事は確実だ。 俺を捕らえてからこっち、夜にいなかったことなどないのだから。 「寒い…」 鎖がかちゃりかちゃりと耳障りな音を立て、己が捕らわれているということを思い知らされる。 足首に巻きつけられたそれは細く軽く、その繊細なつくりとは裏腹に壊れることも傷つくことすらない。 まるでその持ち主のように。 「遅くなってごめんね?」 ふわりと俺を包むように抱きしめる腕を、拒むことすらできなかった。 ああ、だが最初は抵抗したかもしれない。 「俺のこと、好きって言って?そうしたら…ここから出してあげる」 そんなコトを言われて、何が起こっているかすら理解できずにいたから。 ***** アカデミーからの帰り道だったか。 ある日突然、銀色の上忍が穏やかににこやかに俺に声を掛けてきたのだ。 普段から世間話をする程度のことはあったが、人が違ったように親しげに、奇妙なほど嬉しそうに…どこか舞い上がってすらいるように見えたから、俺もなんとなく嬉しくなって、この人に何かいいことがあったんだろうと思ったんだ。 「ねぇ。先生。決めたんです。俺。…もう我慢しないって」 「えーっと…そうですか。我慢は体に良くないですもんね?」 前後の脈略の無い会話もこの男らしくなかったが、よほど我慢していたのだろうと思うとそれでもいいように思った。 いつもいつも…自分で痛みを背負い込み、一人で戦おうとする人だと思っていたから。 すっとそれが自分に向けられているのだと想像すらしなかった。 「そう…そうだよね?…イルカ、せんせ」 「え…?」 「ごめんね」 そうして、俺の意識は一旦途切れて…目覚めた時には今の状態になっていた。 足を戒める鎖と、柔らかく、だが確実に手の動きを奪う紐。 服さえも奪われて、凍える体を暖めるのは…俺を捕らえた男の素肌だけだなんて、いっそ笑えるほどに最悪だ。 夜になるとすぅっと冷気が入り込むここがどこなのか、俺は知らない。 男の氷のように冷え切った手に触れられて、それでも熱を孕む自身の体のことも、なにもかも。…全てがあいまいで。 今日も乳飲み子の必死さで俺に触れる男に、持ち主よりもずっと従順な俺の体は正直に欲望にながされていく。 「ねぇ、でも好きって言わないで。そうすれば…」 …ここから出さないでおけるから。 切なげにそうつぶやいた男の背を、戒められた手では抱きしめられないから。 一方的な約束に縋る男を唆すように足を開いた。 「…寒いんです。もっと…あなたの熱を下さい」 あとはただ、痛みを堪えるように、だが確かに歓喜に顔をゆがめた男に溺れた。 告げられずに募るばかりの思いが、確かになによりも俺を縛り付けるのを感じながら。 ********************************************************************************* てきとうー! うっかり寝たので遅くなりつつもてきとうー! ではではー!なにかご意見ご感想等ございましたら、お知らせくださいませ! |