「めりーくりすます」 「んあ?えーっと…うぅ…今何時だ…?」 重いと思ったら、腹の上にちっこいサンタが乗ってる。 布団にうずもれるようにしてちょっとダボついた赤い服を着たまま動く様は愛らしいといえば愛らしいが、どっちかっていうと心配になる。 転げたらどうすんだ。明らかにサイズの合っていないそれが、手足の自由を制限しているのは明らかだ。あーあー。こんなにちびすけなのに無理してサンタの格好なんてしなくたっていいだろうに。おまけにご丁寧にも髪の毛まで真っ白だが、ヒゲがない。というか、ちびっこい。 つまり、どっからどうみても子供だ。 いやちょっとまて。なんで俺の家に子供がいるんだ?それもサンタの格好なんかして。アカデミー生にしてもチビすぎるだろう。そももそもこんな生徒に見覚えはない。 やっと回り始めた頭を振りつつあわてて時計を見れば、しっかり今が深夜であることを示していて、そういえば今日はもうクリスマスだってコトにも気がついた。なるほど。だからこの格好か。 だがしかし。どっから来たんだこの子は。 「プレゼントです」 「ぷ、ぷれぜんと?いやその前にお前どっからきたんだ?」 「窓か…いえ。煙突。煙突です」 「…うちに煙突はないんだよ。ごめんな…?」 必死でサンタを演じる姿に、思わず謝ってしまった。何で人んちに勝手にあがりこんでるのかは…まあ多分サンタごっこが本気になりすぎたってとこだろうと検討をつけた。そうでもなきゃこうも必死にはならないだろう。 一生懸命なこの子どもは随分とあわてているから、もしかするとしのびこむ先を間違えでもしたのかもしれない。そう思うとどこからきたかと身元は確認しなきゃまずいのはわかってるんだが、どうも冷たくできなかった。 靴下なんかもちろんおいてなかったってのに、枕元にはわざわざ用意してきたらしい靴下がこんもり膨らんでいる。そこからはみ出している赤い箱と金色のリボンに彩られた箱はおそらくプレゼントのつもりだろう。子供のお遊びにしてもわざわざこんなものまで用意するなんて、随分手の込んだことするもんだ。 まあここが俺の家でよかったと思おう。まかり間違って上忍の家にでも忍び込もうとしようものなら、命だって危なかった。ここにはナルトやサスケみたいな卒業生も、それから母ちゃんに叱られたって家出してくる子もいるから、トラップも早々ゴツイのは仕掛けてない。 っていっても、殺傷力はないが、侵入者がいればわかるように反応する仕掛けはあったんだけどなぁ。どうやって突破したのやら。何かの拍子に壊れたのかもしれないから、後で確認しておかないと。 とっさに抱き込んだ腕の中でもがもがする子どもを落ち着かせようと撫でてやってたら、やっと少し冷静になってくれたらしい。 「ま、それはともかく。プレゼントです」 「うん。ありがとな!」 くれるってんならもらおうじゃないか。正体は…どうも検討がつかないにしろ、寝首を掻くつもりならとっくにやっているはずだ。 まあ派手ないたずらって線はまだ残ってるから、一応は周りに被害がでないように、念のために人のいないところで結界でも張ってからあければなんとかなるだろう。 ちびすけサンタは、俺が靴下を手にとって、それから礼を言ったら、それを押し付けるようにした後、じいっと俺を見上げてきた。 「あけて?」 「…今、か?」 「はい」 妙に真剣な瞳に気圧される様にして、思わずリボンを解いていた。いたずらだったらもっと…わかりやすく期待した顔してるはずだしな。もちろんそっとチャクラで探ることも忘れない。こちとらトラップ小僧の異名もちだったくらいその手のことは得意なんだ。妙な術がかかってたらすぐに気づく自信はある。 …まあ全部言い訳だな。要するにだ、俺はこの子に失望して欲しくなかっただけだ。だってそうだろ?クリスマスってのは、ケーキとか鳥とか食べて、それから笑ってすごすもんじゃないか。子どもってもんはさ。 あとは恋人たちの夜…なんてのにもなるらしいが、そっちはとんと縁がないしな。暇なヤツ捕まえて酒でも飲んでそれで終わりってことになるだろう。今年も。 そういえば最近も酒の席で理想のクリスマスについてぶち上げたら、ケーキと鳥ってのに反応してた人がいたっけ。あの人はまあ任務でもプライベートでも暇ってことはないだろうが、もしも行き会ったらせめてメリークリスマスくらい言いたいなぁ。いい人なんだ。絡み酒に近かった俺の幸せなクリスマスについての無駄に情熱的な語り口にもうなずいてくれていた。 もう父ちゃんと母ちゃんと一緒にすごしたクリスマスは戻っちゃこないけど、この知らない子どもにも、何かあった買い物を上げたいと、そう思ってしまったんだ。 多分理由はそれだけだ。軽率と笑ってくれていい。 「おお?なんだ?これ?」 「ん。任務とかにも便利なんですけどね。これ」 「任務?へー?すごいなぁ。ありがとう!」 見た目はきれいな石だ。つるりと丸く磨かれた表面は、淡い光を抱いて輝いている。首に下げられるようになってるみたいだし、口ぶりからして、何かの忍具の類だろうか? 「ずっと、持ってて?何かあったらすぐ駆けつけるから」 「へ?あ!ちょっと待て!」 子供の言動に色々と疑問点はあったが、それよりもこんな真夜中に出て行こうとするからあわてて引き止めた。幸い普段から小さい子どもと常に一緒にいるせいで、捕まえ方は心得ている。持ち上げて膝の上に乗せるまで多少苦労したものの、捕まえてしまえばあっという間におとなしくなった。 「イルカ先生は、子ども好きでしょ?」 「え?まあ、そうだな」 「それからクリスマスにはケーキに、鳥?」 「そうだな。まあケーキははずせないよな!鳥も!」 「だから、子どもと、後それは保険。ケーキと鳥はおいといたから、食べてね?」 それだけ言うとまたするっと抜け出そうとするからとっさにだぶついた服をつかんじまったんだが、そのせいで見事にすっころんだ。最初に見たときに動きづらそうだと思っていやな予感がしたんだが、どうやら的中したらしい。 「あーすまん!でもほら、せっかくだから一緒に食ってくれよ!一人じゃ寂しいだろ?」 「…それってどっちが?」 俺の上に降って沸いたときの能天気さとまるで違う妙に老成した態度だ。何もかもを見透かしてしまいそうで一瞬戸惑ったが、聞かれたことにはすぐに答えられた。脊髄反射な性格に感謝だな。 「俺が、寂しいんだ」 「…そ?なら」 そういって言葉少なにうなずいてくれた子供は、一緒に飯を食ってくれた。 …おかげで気づいた。 「…なんでその格好ですか」 「あれ。ばれちゃった?」 ばれいでか。この人、普段口布してるせいか無駄に早食いだし、そのくせ好物を絶対に先に食うんだ。野菜を食えと口をすっぱくして言ってるだけあって、野菜もきちんと食うし、なにより箸の使い方がそっくりそのままだもんな。秋刀魚を見事に骨だけにする箸さばきは、ターゲットが鳥に変わっても健在だった。 冷静になってみれば俺がクリスマスとサンタのロマンを語ったのはこの人だけだ。子供っぽいと笑ったりしないってわかってなきゃこんな話酔っ払ってたってできない。 「この保険っていうのは」 「お守りですよー。ま、持ってて邪魔になるもんじゃないですから」 上忍の勧めるお守りって…効果は折り紙つきだろうが、ちょっとその効果が恐ろしい。この人はどうも自分のことがわかってないっていうか、だいぶ天然だからな。実は。 「受け取っておきます。が!俺からも絶対何か贈らせてくださいね!」 「えー?」 「そうでなきゃこれもお返しします!」 「…ん。じゃ、しょうがないです。高いものは駄目ですよ?給料日前になってカップラーメンで乗り切ろうとか絶対許さないから」 「は、い」 なんだ。どうしてバレてんだ。ナルトか。ナルトなのか。背を伝う冷や汗からは極力意識をそらし、相変わらず子供の姿のままで拗ねてみせる人の手をとった。 「なに?」 「ええと、お礼を。…クリスマス、一人で過ごさないですみました。こうやって美味いもの食って、それにプレゼントまでもらっちまったし!」 言いたいことはいっぱいあるんだ。でもうまく言葉にできない。もどかしいほどに回ってくれない口にあせりばかりがつのる。 「いいの。俺があげたかっただけだから」 上忍の気まぐれ。そう考えたらきっと楽になるのかもしれない。でも。 「…それでも。ありがとうございます」 気まぐれでもなんでもいい。俺は嬉しかった。だから何か返したいんだ。それだけだ。…一緒にすごしたいと思っていた人が自分から来てくれたんだからな。 「じゃ、これで」 「え!帰っちゃうんですか?」 なんだよ。いいじゃないか。あとちょっとくらい。 思わずそう詰りかけて、それを思いとどまったのは、深い深い溜息が聞こえたからだった。 「子どもになった理由、あなたを喜ばせるためだけじゃないんですよね」 「へ?」 「…でもま、いいです。察してって言っても気づけないところも気に入ってますしね。そんな顔された勢いで据え膳平らげちゃって、挙句の果てに逃げられでもしたら困りますから」 「へ?」 逃げる?どこに?据え膳って…俺が用意できるのは朝飯に焼き魚つけるくらいなんだが。 俺の反応の鈍さにあきれてか、一瞬顔なんか伏せるからあわてたけど、近づいてみたら笑ってるだけだった。なんだよもう! 「っぷ!ふふ!ま、いーですよ。お泊りしましょ?」 「ありがとうございます!」 小さな客人の態度は驚くほどでかいが、ちびになってるせいかほとんど気にならなかった。その小さい手が、当たり前のように俺の手に重ねられても、だからかわいらしいと思っただけで。 …逃げそこなった、になるんだろうか。これも。 チュッと小さな音を立てて離れていった唇を、よけることもできなかった。 「めりーくりすます?」 「…メリークリスマス」 なんだろう。誰か間違った情報をこの人に与えたんだろうか。たどたどしく告げられる祝福の言葉はそれでもどこか甘い。 だから…今日生まれたという異国の聖人に少しばかりの感謝と祝福をささげておいた。 ******************************************************************************** 適当。 りはびり。 |