「…で、どうでした?」 「ん。秘密」 秘密という割には口を覆い隠す布越しにも脂下がってるのがわかる。まあ隠す気なんてないんだろう。なんてったってやっと射止めた恋人と、初めてのクリスマスデートとやらでたっぷり休暇を堪能した後だ。普段のとげとげしさもそれに慇懃無礼さもなりを潜め、代わりにこっちが気持ち悪くなるほどニヤついている。 急に振られた任務を引き受けさせられたことについては、こうしてその次の任務を予定の半分で終わらせられたからよかったってことにしておくべきなんだろうね。 「…かわいかった」 枝を走りながら唐突にそんなことを言い出すから、思わず足を滑らせるところだった。それはのろけなんですか。先輩…。 空気を読めなんていっても無駄なのはわかってるから言わなかった。なにせターゲットを拷問するときですら無意識に惚気てたからね。 「それはなによりです」 それ以上のことは怖いから言わないでおいた。下手に反応したら俺のイルカに惚れてるんじゃないだろうねとかいって、相当な目に遭わされるのは目に見えている。 普段はその慧眼でもってすばらしい手際と業で任務をこなす尊敬すべき先輩だけど、色恋沙汰に関しては…色ボケってことばをまさに体現したような人だと思う。 おまけに変なエロ本を愛読してるだけあって、イベントごとへの執着がすさまじい。こういうときって金持ち連中がパーティとかを開くから、暗殺するには格好の機会なのと、それに対する護衛の依頼も多い。まあもちろん両方卒なくこなす人なんだけど、今年はどうあっても嫌だって駄々をこねて、挙句任務放棄寸前までいった。 先輩の恋人とやらになったらしい中忍が、カカシさんも任務がんばってくださいって言わなきゃ、きっと本気でサボっていたと思う。先輩がその気に、それは簡単だからだ。今までろくに休みもとってない上に実力とそれに付随する権力まであるから、上層部なんて真っ青だった。 だからって、後輩のお前が責任取れっていうのはひどすぎると思う。 先輩も先輩で、俺の認めた有望な後輩であるお前なら引き受けてくれるよなとか!一瞬喜んじゃって思わずうなずいてから嵌められたって気づく僕も僕なんだけど! まあでも、先輩があの中忍と過ごした後の異常なまでの能率のよさがなければ、僕だってそう簡単に引き受けたりはしなかったと思う。負け惜しみなんかじゃなくね。 「寒いんだから気をつけろとか、すぐ帰ってくるっていってるのに、無茶するんじゃねぇぞとかいってくれちゃうの!最高でしょ?」 「…そうですね」 無茶はしていない。ただノリノリの先輩は、業の冴えもすさまじく、チャクラも恐ろしいほどみなぎってるってだけだ。やることやって満足したばっかりだから、精神エネルギーの塊なんだろうね…。 「そうなるとさぁ。早く帰らなきゃって思うじゃない?けなげに待ってるよ?絶対に。やきもきしながら心配してましたって顔で出迎えてくれるし、飯食えとか風呂入れとかいいながらひっついてくるの!寂しかったくせに口じゃ言ってくれないのよね!」 「そうですね」 舞い上がりきった先輩のこのあふれんばかりの惚気に耐えるのにも少しは慣れてきただろうか。先輩ができすぎるから、そっちについていくのも大変だけど、どっちかっていうとこれだよね。問題は。 他の後輩たちが脱落する中、僕だけは適当に切り抜けてきたせいか、このところの任務振り分けはほぼ確実に先輩とセットだ。 実力的にもそれは妥当でもある。…そこだけは誇っておきたい。僕だってせめてそれくらいの埋め合わせは欲しい。 「見えてきた。じゃーね!」 「はい」 里の明かりをみると今までもすさまじい速さだったのに、さらに速度を上げてまさに消えるように飛んでいってしまった。今頃中忍の家で家主に抱きついているころだろう。 まあいいんだけどね…。報告ならすでに済んでいる。単純な護衛任務で、暗殺者だったモノは先輩が元気いっぱいに肉塊に変えてしまった。もちろんたっぷり依頼主のことを吐き出させてから。 だから僕も家に帰って大人しく…最近できたパン屋で買い込んでおいたお気に入りのクルミパンでも食べて、とっとと寝ちゃえばいいんだろう。 里への帰属意識なんてものがなくても生きていける。今までだってそうだったんだから、これからだって平気だ。先輩への尊敬の気持ちも揺るがない。揺らぐはずがない。 でも、あの先輩を見ていると、自分の手が空っぽに思えて空しさがこみ上げてくる。 「…クリスマスなんて嫌いだ」 思ったよりもずっと毒をまとった独り言が、却って僕自身を打ちのめしてくれた。 まだ夜は明けそうもない。 そしてイベントごとに繰り返されるやり取りに、彼女ができても僕は絶対にイベントで大騒ぎしないと誓ったのは、それからすぐのことだった。 ******************************************************************************** 適当。 りはびり。 |