サンタクロースの悩み事(適当)


 背後から追いかけてくる。それも気配は完璧に消してるのに、そわそわしてるのが丸わかりの態度のおかげで意味がほとんどないってことに、多分本人は気づいてないんだろうなぁ。
 コトはクリスマスにサンタさんが来なかったって話から始まった。
 酒の勢いで何をもらったかとか、最近じゃ同僚から押し付けられた忘年会の景品もどきが一番ひどかったとか、そういうくだらない話をしてたら、子供じゃなくてもサンタってくるんですねときたもんだ。
 は?何言ってんだこいつって思うだろ。普通は。俺だって思いそうになったさ。
 …相手がこの人じゃなければな。
 ほんっとうに小さいころから任務漬けの日々を送っていたこの人にとって、クリスマスプレゼントってのは、この人の先生…つまり四代目がくれた本気すぎる特注クナイとか禁術の巻物くらいもので、父親はそういうのを理解してなかったというか、侵入者だと思ってプレゼントを置きに来た四代目を捕獲しちゃったらしいからな。
 鳥を食べるって情報だけ仕入れてきたせいで、あの手この手で鳥料理が並んでたっていうけど、俺は鴨南蛮とか軍鶏鍋とかはクリスマス料理じゃないと思うんだよ…。確かに一生懸命作ってくれたもんに文句つけ難いのもわかるし、ついでにこれでいいのかなーって顔色伺ってくる親になんか余計に何も言えないだろう。
 本人曰く、天然だったんですよねーっていうけど、それは天然で済ませていいレベルの問題なんだろうか。ま、まあ他人の親捕まえていうこっちゃないけどな?
 そんなわけで悲しくなった俺は酔っ払っていて、もちろん相手もほどほどに酒が入っていて、有体に言えば酔っ払い二人がひざをつき合わせて立って、ろくなことは思いつかない。
 それでサンタさんこなかったなーとか悪い子だとこないからかもしれないって落ち込んだこともありましたって。そんなこというんだぞ?さすがに三歳にもなれば気づきましたけどって一言で、オイオイそんな年の子になにしてんだとか、むしろその年で悟るって早すぎだろとか言いたいことはいっぱいあった。あったんだがそれ以上にとにかくこの人をなんとかしてやりたくてたまらなくなったんだ。
「っし!わかりました!サンタですね!覚悟しやがれ!でっかい靴下用意しとくんですよ!」
「え!ホント?しますします!覚悟!靴下も!」
 そう叫んだ後、酒はほどほどにしなよって店主に言われたけど、まったくもってその通りだよな。後悔は後からするから後悔っていうもんだし。
 だがしかし。一度した約束を反故にするなんて男らしくない真似はできない。翌日非礼を詫びついでにサンタの件で確認を入れただけだってのに、お互い酔ってましたしって寂しげにうつむかれたりしたら、余計にだ。
 そんなわけで今の俺は全力でサンタだ。服はアカデミーのクリスマス会で使ったやつを借りてきてる。プレゼントは…イチャパラと酒って子供向けじゃないよなぁって思いつつも好きなものがそれくらいしか心当たりがなくて、だがしかし流石にそれはどうなんだという考えが捨てきれなかったので、結局悩んだ挙句にマフラーと手袋と絵本にしてみた。いつもなんか妙に短いのつけてるんだよ。寒いだろ。あれじゃ。
 …で、だ。どうやら期待と不安といろんなもので待ちきれなくなったらしいカカシさんは、絶賛俺の追尾中ってわけだ。
 許可はとってあるんだが、誰もいない家に上がりこむのってどうなんだろうな…。
 とはいえ今更引き返せるわけでもない。背後でそわそわしながらついてくる人をつれたまま、なるようになれと家に飛び込んだ。
「うお!ね、ねてる?」
 布団に包まって寝ているようにみえるのは、確かに本人だった。ってことは、あれ影分身かなんかなのか。もしかして。それかすごい速さで布団に戻ったのか。
 どっちかの判断はつかないが、とにかく枕元には約束通り、でっかい靴下が置いてある。十分俺のプレゼントは収まりそうだ。
「メリークリスマス」
 靴下にプレゼントを押し込んで、それから我慢しきれないって顔でくふくふ笑ってるのを尻目に家を出ようとして…玄関でつかまった。予想通り、さっきのは影分身だったらしい。
「サンタさんを捕まえるのも夢だったんです」
 はにかみながらそう言ってきたのが、ものすごくかわいく思えたのは、多分クリスマスだったからじゃないと思う。


 で、どうなったかって言うと。
「どう?似合います?」
「似合います似合います!」
 なぜかサンタの服を着てみたかったらしいカカシさんに、俺の汗臭いので申し訳ないながらも貸している真っ最中だ。どうせすぐ返してもらうからとトランクスとランニングでいたら、なんでかしらないけど大慌てで忍服貸してくれたから、俺はそっちを着込んでる。
「来年は俺がサンタになりますね?」
 胸を張る姿に本気を感じるが、ついでに申し訳ないと思ってたんだろうことにも気づいてしまった。
 ああもう。そんなことどうでもいいんだって。あんたは笑ってればいいのに。
「はは!気にしなくていいんですよ!いい子にはサンタさんがくるもんですから」
 サンタ帽が外れるほどの勢いで思うさま撫で回しつつ、説得してみたんだが。
「…うーん。そう言われちゃうと手を出しにくいんですけどねぇ?」
「はい?」
 なんかよくわからんが一人に戻ったカカシさんが困ってるってのはわかる。わかるがどうしたらいいかはわからん。そして精神的に疲れる大仕事をこなしたせいで、実を言うと眠い。
「ま、今日はいい子にしてます。でも一緒に寝て?」
「そうですね…おやすみなさい」
 酔っ払って俺の家に泊まったことはあるけど、そういやここで寝るのは初めてだな。まあベッドカバーの趣味は悪いが寝心地は最高だ。隣に寝てる人もいてあったかい。うん。これが俺へのクリスマスプレゼントなら、最高についてる。
 まどろみは驚くほど早く訪れて、唇に柔らかな何かが触れたのも気にならなかった。
「来年まで我慢できないと思うから、今度はイルカ先生が覚悟しておいてね?」



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適当。
りはびり。

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