後輩の祈り(適当)


 僕にとっては先輩は最高に強くて最高に性格が悪くて、でも仲間思いで幸せ慣れしてなくて臆病で…それから実は誰よりも優しい人だ。
 だから僕はいつだって逆らえないんだ。この人には、絶対に。
「テンゾウ。じゃ、お願いね」
 たとえばこうやって、無理難題を押し付けられても断れないくらいには。
片恋の相手から目が離せなくなるくらい焦がれているくせに、決して自分から動くつもりがないことには気づいていた。
どっちかっていうと諦めようと必死だったんだと思う。顔になんて出したことはなかったけどね。
会わないように気を付けてたし、たまにすれ違いそうになると瞬身を使ってまで姿を消して、それなのに遠くからずっとあの男を見ていた。
 その先輩が、どういう風の吹き回しか、こうして任務を後輩をおだてて押し付けてまで、あの人の傍にいようとしてるんだ。
 最初はいつもみたいにきまぐれか、それとも鈍ってるように見えたのかなんて思ったんだけどね。そうじゃないことはすぐに気が付いた。先輩の部屋に似つかわしくない封筒にかわいらしいシールが貼られている。とっくに巣立った教え子のものではありえないそれを、あの中忍の男が持っていたのを僕だって知っていた。
 なにせご招待されちゃったからね。当の本人に。
 カレンダーを見ればちょうどクリスマス。ナルトにそそのかされてパーティなんてものを開くらしい。そのくせどうやら発起人の方は彼女ができてそっちと過ごすっていうね。
 …まあ要するに、頭の回転がよくない割に、必死で考えたナルトの策ってヤツだ。
 どっちも大好きだから、さっさとくっつけばいいんだってばよ!なんてね。昔からは跳ねっ返りだったけど、随分生意気なことをいうようになったもんだ。まあ先輩に関しては確かに同意だけど。
 どんなに今が平和に見えても、僕たちにうだうだ言ってる暇なんかないんだ。僕たちには。欲しいと思ったら手を伸ばせばいい。
 だから先輩が、仕掛け人のおかげで寂しがってこっそり落ち込んでるのを慰めたいと思ったのも、チャンスだと思いこそすれ、迷惑だなんて思っちゃいないよ。
 僕がいないと二人っきりだってことの意味を、もっとちゃんと理解して欲しい。確かに一筋縄じゃいかない相手だと思うけど、だからこそまっすぐぶつかっていけばたぶん…ほかの誰よりもチョロイと思うんだよね。僕は。
だって、あの中忍も先輩と同じ目で先輩を見ていたから。長いこと繰り返される交わらない視線の応酬を見せ付けられる方の身にもなって欲しいよ。まったく。
あの鈍さの塊みたいなナルトが痺れを切らしたのだってうなずけるくらい、あの二人の関係は面倒くさい。
だから、いいんだ。
「先輩。…がんばってくださいね?」
「…ちょっと。何の話!?」
「イルカさんを泣かせたら、ナルトだけじゃなくてサクラも僕も怒りますからね?」
「何いってんの…?」
 動揺する先輩なんて珍しいものを見られたんだから、そこは素直に喜んでおこう。
「では」
なんていうか複雑な気持ちだ。
あんな風に泣きそうで、不安そうで、でも瞳の奥にはいつもはなかったきらめきがあった。やっと覚悟決めてくれたんだと思うんだよね。多分。
 任務はいつだって厄介で、押し付けてきた人の強さと釣り合うだけの面倒ごととセットだ。
 でも、これがあの人に贈ることができる最上のクリスマスプレゼントだと思うから。
「幸せになってくださいね。二人とも」
 白く染まる息が僕の故郷に溶けていく。寒さと寂しさは胸を焼くけど、それ以上に満足感があった。
期待はきっと現実になるだろう。僕はこの厄介ごとを片付けるだけだ。
…大切な二人の聖夜のために。



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適当。
りはびり。

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