愛しい人はぐっすりと眠っている。 こういう子どもたちばかりならプレゼントを置くには丁度いいんだろうが、成人した忍としてどうなんだろうと思うほど健やかに眠る人を見ていると、それだけではすまない訳で。 「無防備すぎるよね…?」 当日には帰れないから先に眠っているようにと伝えたが、こうも熟睡されると流石に少し寂しい。 …転がっていた酒瓶と食べ散らかされた買ってきたものばかりのクリスマス料理からして、寂しかったのはこの人のほうなんだろうけど。 本当なら一緒に過ごしたかった。 …俺に任務が入らなければ。 クリスマスなんてものに正直興味はないが、常識人のくせにどこかで大人になりきれなかった所がある恋人が、こういうイベントが好きだから。 いつも楽しそうにしているのを見るのが嬉しくて、俺もイベントごとに付き合うようになった。 この人は一緒に過ごせなくても絶対に文句なんていわない。むしろ俺のことを心配してくれる。 俺が、寂しがりやの恋人を一人にするのが嫌なだけだ。 酒臭いのは、しらふで眠るのが辛いからだろう。 今も、布団の中で膝を抱えるようにして丸まっている。 起きたらきっと、楽しかったとか、大丈夫だとかしか言ってくれない。 …料理も酒も二人分だった。 本当は一緒に過ごしたくて、待っていてくれたんだろうと思うと、苦い物でも飲み込んだように胸が重苦しい。 せめて、このプレゼントを喜んでくれるといいのだが。 本当は抱きしめたいが、この鉄さびくさい汚れのこびりついた体を洗い流してからにしなければ。眠るこの人を汚したくない。ましてや…穏やかな眠りを妨げるのも嫌だ。 「おやすみ。イルカせんせ。メリークリスマス」 囁いた声にふわりと笑ってくれただけで胸が温まる。 現金な己をわらいながら、風呂場へと向かった。 …愛しい人の隣で眠りにつくために。 ***** 「カカシさん…?」 「ん。おはよ」 「へへ…!おかえりなさい!お疲れ様でした!」 ふわふわとまだ眠りの残滓を残した顔は、普段の頼りがいのある教師の顔とまるで違って、どこか幼くさえ感じる。 「ただいま」 帰って来たと、やっと実感できた。 あとは…このプレゼントを喜んでもらえればいいのだが。 「ん?え?これ?」 かさりと音を立てた箱に気付いてくれた。 「イイ子にしてたからじゃない?」 「うー…!カカシさん、あの、あけていいですか?」 照れくさいんだろう。顔が真っ赤だ。だが嬉しそうにしているから、後は中身が気に入ってもらえるかだ。 「どーぞ」 「よっと…開いた!…すごい…!キレイな…髪紐ですか?」 丁寧に包装を開けて、その中にあったものを大事そうに握り締めている。 「そ。…受け取ってくれる?」 「もちろん!付けてみていいですか?」 「ん。おねがい」 いそいそとね乱れた髪を整えて、身に着けてくれた。 思ったとおり。良く似合う。…イルカの飾りには色々と注文をつけただけあって、可愛らしい仕上がりだ。 「ありがとうございます…!お、俺も!これ!」 「ん、ありがと」 ぐいっと勢いよく押し付けられたそれは、お守りだった。 去年も同じ物をもらった記憶がある。中に丸薬を仕込んであるのだ。 「その!今回のはチャクラ切れにも効果があるように…!」 「すっごく、うれしい」 一生懸命に考えてくれているのを知っている。 付き合い始めた頃、何が欲しいかと聞かれて、何も考えずに物なんていらないと答えた俺のために、受け取ってもらえなくてもいいなんていいながら差し出してくれたのがこれだ。 それ以来、ずっと俺がこれを欲しがるから、毎年これを作ってくれる。 …もう、何個になっただろう?ソレを数えるのが楽しくてたまらない。 「…うっ!そ、その顔反則です!…飯、あっためてきます!」 俺の方のもどうやら喜んでもらえたようだ。 …いろいろ仕込みをしてあるのは秘密だけど。 大事そうに括ってある髪に触れては笑み崩れる恋人を見ているだけで、ふわふわと胸が温まる。 これからも、今回のようにすれ違ってしまうことがあるかもしれない。 だからこそ…今日はこうして一緒に過ごせる幸せに浸ろうと決めた。 これからもこの温かい時間が続くことを祈りながら。 ********************************************************************************* 適当ー! めりーくりすまぁす! |