食べたい食べたい(適当)

「ん」
「へ?」
「いらないの?」
「えーっと?これなに、…じゃなくて、これはなんですか?」
ちっこくて白いリボンが巻かれた箱に、残念ながら見覚えはなかった。
渡してきた方にはうっすらとどっかで見たような記憶はあるんだけど。
…まあ同じ人かどうかわかんないんだけどな。面かぶってるし。銀髪の忍は木の葉にはあんまりいないから、多分間違いなさそうだけど。
「ホワイトデー」
そういえば丁度時期的には先月だった。
この人にあったのは、戦場だった。
戦局が安定しているからと、先生が俺たちを任務に連れて行ってくれたんだ。
三人とも戦場なんて初めてで、緊張しながら任務に臨んだ。
そりゃ、当然俺たちにできることなんてほとんどない。
どうあがいたってまだまだ弱っちいし、忍術だって時々失敗するような俺たちに、前線を駆け巡って来いなんて無茶は流石に言われなかった。
空前の人手不足で、大事な忍をそんな風に無駄死になんてさせないって、先生はいってたっけ。
それでも、下忍でもなんでも、とりあえずいないよりはマシって程度の仕事しかできなかったけど、俺なりに必死でがんばった。
「ああ!そっか!じゃなくて、え?でもチョコ?俺渡しましたっけ?」
この人の天幕に俺たちで作った食事を持っていくのも、俺の仕事だった。
一人暮らしが長いから、料理の腕にはそこそこ自信があったけど、うわさによると素顔をみると消されるって言われてるような人たちの口に合うかどうかなんてわからなくて、最初はそれこそこのまま俺の人生終わるかもって思いながら天幕に入った。
そしてら俺の顔みて固まるし、余計怖がってたら、次の瞬間には、この人が猛然と飯を食い始めたんだ。
あんまり必死に、それはもう美味そうにがつがつ食うから、大慌てでお代わりも持ってきた。
そんで、何度か往復してたら、流石にもう残りがなくなって、泣く泣く涙を飲んで俺の分を差し出そうと思ったとき。
そうだ。あのときだ。
先生に、お前の分はとっといてやるから、これでも置いて来いって、渡されたチョコおいてきたっけ!そうだそうだ!
「もらったよ?アンタに」
律儀な人だ。あんなものにお礼しにくるなんて。
チョコレートもそれはそれは嬉しそうに食べていたのも思い出した。
よっぽど普段食ってないんだな…かわいそうに。
腹減ってると何にも考えられなくなるし、何でもないのに悲しくなるもんな…。
「あの!お礼にお礼ってのもなんですけど、飯でも食ってきませんか?」
一人暮らしにはちょうどいいせまっくるしい部屋だけど、この人ならそんなことは気にしないだろう。
「え!?あ、い、いいの?」
「昨日煮た角煮もあるし、今日はこれから魚も焼くし、えーっと…もちろんお忙しければ別に…」
「ううん!行く!」
…うーん。面をつけててもここまで感情が読み取れるってどうなんだ?
それだけ腹減ってんだろうな…かわいそうに。
「じゃあいっぱい作るから、食べてください!」
「うん!」
そうして俺は受け取った箱を懐にしまって、腹を空かせた暗部さんを連れて家に帰ったんだけど。
飯をたらふく食べた後、俺まで食べたいと主張するお面の人をなだめるのには苦労した。
人間食うって…なんか病気になりそうだし、俺だってまだ生きたい。
まだせめて中忍になるまで勘弁してくれってお願いしたら、それまで誰にも食われちゃダメとか言われて、妙な術を掛けられちゃったのは不安なんだけど。
とりあえず怖くはないんだよな。不思議と。
下忍になったばっかりの俺が中忍になるまで、まだ数年かかるだろうし、そんなに人肉食べたがるほどおなか減らしてるこの人をほっとけない。
…そのくせ俺になんだかすごく高そうな異国のお菓子買ってきちゃってるし!
こうなったらできる限り必死で説得して、俺が飯の面倒みてやるしかないだろう。
俺の肉より飯の方が美味いと思うし、そのうち俺を食うなんて怖いことは諦めてくれるかもしれないし!まだまだ先は長いしな!
なんかしらないけど、生活費だの責任取るだの言ってるから、もらえるものはもらうことにしたし!
そんなわけで、今日もやってきたお面の人に、俺はたっぷりと飯を振舞っているのだった。
「食べたい食べたい。早く食べさせて?」
なんて、かわいいおねだりをするお面の人を、なだめながら。


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子カカイル祭り継続中。
食われるまで、意味を理解してないイルカちゃんを、周りがはらはら見守っているといい…!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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