お返し(適当)



「ちょうだい?」
「え!?」
「あれ?今日で合ってるよね?ホワイトデー」
驚いたなんてもんじゃない。
丁度大体1月前になるか。アカデミー生から食堂のおばちゃんまで、なんとなく落ち着かない雰囲気のあの日、皆から義理だと分かりきっているチョコレートを貰ったのは。
そうしてそういえばその日にこの人もチョコレートをくれたのを思い出した。
「あげる」なんてそっけない態度で寄越されたそれは、思わず目を剥くほどの高級品で、手渡されて驚いているうちにこの人はいつの間にか姿を消していた。
うかつといえばうかつだったかもしれない。
でもだな。俺よりずっと高級とりのこの人が、まさかお返し目的であんなチョコレートもってくるとか思わないじゃないか。いやそもそもお返し目的かもわからないんだけどな?
受付で会っても通りがかりに会っても態度がまるで変わらなかったから、逆に聞きにくくて、てっきり自分の貰ったのを余り物としてくれたんだろうとばっかり思い込んでいた。
勿論他の食堂のおばちゃんとアカデミー生にお返しするために、きっちり飴玉は用意してあるにはあるんだ。
アカデミー生には普通の飴を、元上忍のおばちゃん方には、ちょっと薬草なんかも入れて疲労回復効果のあるの飴を手作りした。
で、そういやその飴なら一応この人の分もあるにはあるんだが…まさか取りに来るとは思わなかったんだよ。
どうせ手作りするならとちょっと気合を入れたのがまずかった。子どもたちもおばちゃんも喜ぶから、動物の形とかにしてるんだよな…。
どうしよう。調子にのってカカシ型とかにしなきゃよかった。
「あのう。つまらないものですが…」
貰った物は火の国の直営店でしか手に入らないとかいう高級品だ。職員室に持って帰ったらくノ一クラスの先生方に根掘り葉掘り聞き出された挙句に色々教えてもらったからまちがないはず。
…そのときに、カカシ先生から残り物をもらったって言ったら、やっぱりって顔をされたのがなー…。男のプライドってヤツをもうちょっと考えてくれても…。
ってそれは置いておいて。この人にも一応疲労回復用の飴を手渡して、さっさと逃げよう。
なんだか男としてのプライドがへし折れそうだし。
「あ、かわいい。ありがと」
にこっと、まるで子どもみたいに素直に笑ってくれた。
…途端に罪悪感が湧いてくる。あんなすごいものもらったのにこれだもんな…。まあその、ちょっとだけ奮発したんだが。薬草とかいい素材を使って。でもこの人から貰ったやつって、俺の月収じゃ間違っても買わない値段だもんな。
「すみません。そんなので」
「じゃ、早速頂きます」
「へ?」
口布が上がった。そして飴はあっという間にその中に消えた。
一瞬だけ見えた顔は驚くほど整っていて息を飲んだ。いや食ってもいいんだけど!驚くだろ!普通!
「あ…すごい。これ結構作るの大変だったでしょ?」
「へ?え、いえ!」
「これならできそう」
「え?」
ちらりと見られただけなのに、背筋がぞわっとした。なんだ?なにがおきようとしてるんだ?
「あの?」
「お礼に飯いっしょしませんか?」
「いえ!そんな!むしろ俺がおごらなきゃいけないくらいで…!」
まああんなチョコもってくるこの人の行きつけになってそうな店に行ったら、俺は破産しそうだけど。
「任務帰りで腹減ってるんです。…だめですか?」
そうか。腹減ってたのか。だから飴を。…かわいそうになってきた。
「俺んちで粗食でよければ作りましょうか?お口に合うかわからんのですが。あとは一楽か…!」
うちに帰ればとりあえず飯はある。炊飯器の予約機能様様だ。野菜もしこたまおばちゃんたちにもらったのがある。
後は…肉とか魚とかその手のものを買って帰ればなんとかなるだろう。
一楽は最高に美味いが、この人の口に合うだろうか?味で言ったら俺の飯のほうがはるかに怪しいできばえだが、速度なら。
「あ、それもいいかも」
「わかりました!じゃ、肉と魚どっちがいいですか?」
「魚かなー」
「では、魚屋に寄らせてください。出来るだけ急ぎますね!」
「じゃ、行きましょう」
「はい!」

…いい魚があればいいとしか考えていなかった俺が、告白を受け入れたと思い込まれているなんて気づけるはずもなく。
家に帰ってせっせと飯作って食わせて、そのまま俺までぺろりと頂かれることなんて、想像もできなかったのだった。

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適当。
WD
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