「好きよ?今でも」 そう言って笑う女に、今なら素直になれる気がした。 「ごめんね?」 その一言だけで全てを察してくれたらしい。 それはもう恐ろしいほど…今まで見た中で一番綺麗に笑った女は、俺の腹に容赦なく拳を沈めてくれた。 「今更だけど。…やっとみつけたなら必死にならないとだめよ?」 私みたいにならないで。 颯爽と去っていく女と過ごした時間はごく僅かだ。 付き合おうとも言わずに、なんとなく側にいて、ぬくもりが欲しいときだけ寄り添い合う。 …お互いそれが楽だから一緒にいたのだと思っていた。 自分の甘さにため息が出る。 俺と彼女は同じ病に囚われている。…その対象が違うだけだ。 「好きに、なっちゃったんだよねぇ…」 あの人に惚れたと自覚した途端に恐ろしくなった。 相手は男で中忍で、俺のことは知り合いの上忍位にしか思っていないだろう。 俺の頭の中で散々犯されて鳴かされていることなど気づきもせずに、受付所で笑っているにちがいない。 制御できない己の感情の激しさに怯えて、うろたえる俺の頭を撫でてくれたのに。それがあの人じゃないことに激しい違和感を覚えた。 そうしてやっと、俺がとんでもなく残酷なまねをしていたのだと理解したのだ。 …側にいて心地よいのは気を使わなくて良いからで、それはつまり、女が全てに気を配り、俺のための居場所であろうとしてくれたからだと気づいてしまった。 それでも、俺が欲しいのはこの女じゃない。 「最初に言わなきゃ」 側にいてくれる心地よさを利用するばかりで、彼女の心に気づきもしなかった自分に反吐が出る。 …側にいるだけでいいなんて、俺には無理だ。彼女のように黙って、振り向いてもらえる日を待ちながら側にいるだけなんて。 欲しい。めちゃくちゃにして、自分だけを見て、自分だけを欲しがるようにさせたい。 そんな凶暴な欲望が暴れ狂っているのに、側に立つともう駄目だった。 暖かな視線と、笑顔が欲しい。 …その心も体も、全部で俺を受け入れて欲しい。 押さえつけて体だけを手に入れるのは簡単だけど、それじゃ足らない。 この飢えを満たすのはあの人だけだというのに。 「なにこれ、もしかして純愛ってやつなの?」 戸惑うばかりの自分を、きっとあの女なら笑うことだろう。 精々あがけと。 切なさに痛む胸に手を当てて、愛しい人を思った。 今日の俺をみたら、きっと慰めてくれるだろう。最低の顔をしているだろうから。 そうしたら…飯にでも誘って、酒も飲ませて、好きって言って。 「駄目って言われたらその場で既成事実かな…?」 あの人の手を知っている。 暖かそうな、だが忍の業を身につけたものらしい武器としても使い込まれた手だ。 そのぬくもりが欲しい。 …欲に染まった顔を見たい。 忍として培った全てを駆使して、あの人を手に入れると決めた。 寂しがりやで、お人よしで…でも誰よりも孤独でわがままなあの人は、きっと俺におぼれてくれるだろう。 …俺が女を側に置いたのと同じように。 そこから先を間違えなければいい。どこにも逃げられないように、心も体も俺だけに繋ぎ止めなければ。 きっとそれはどんな任務より難しく、そして楽しいに違いない。 甘い痛みに酔いながら、受付所に向かった。 俺の思いなんか何も知らずに笑顔で待っていてくれるあの人を思いながら。 ********************************************************************************* 適当! ねむいです。 ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |