はぴばれ!3(適当)


 窓から見える陽は思ったより大分沈みかけていて、コタツから出たおかげで寒さが余計に身にしみる。
 でだ、そんな状態だってのに、なんだってこの人はいきなり人の服を脱がせていやがるんだろう。
「なにすんですか!寒いでしょうが!寝巻きはまだ早いですよ!飯食って風呂に…うお!ああこら!風邪引いてる人が服脱ぐんじゃねぇ!着替え着替え!」
 もう駄目だ。このまま放っておいたらきっとこの人は後でのた打ち回って後悔することになるだろう。好きでもない、むしろ恐れていたといっていいチョコをモリモリ食いきったときから思っていたが、体調が悪いと何するか分からない人なんだな。多分。
「着替えは後でいいでしょ?お風呂も…ん、俺はいらないかな?」
 やっぱりこの人も寒いんじゃないだろうか。ぴっとり引っ付いてこられると人肌のぬくもりが染みこんでくるのに抗えない。コタツから出た瞬間からして寒かったもんな。熱っぽいようにすら感じる人肌は、いきなり奪われた寒さを防ぐものの代わりとしちゃ上等すぎる。あーあー肌の白い人だと思ってたんだが、上気すると薄赤く染まって目の毒だ。
 そういや風邪引くとナルトも変なことばっかりしてたっけなぁ。寝ぼけて窓からおしっこしそうになったりとかな。この人も知り合ってからはじめて風邪を引いたところをみるが、普段しっかりしてる人ほど限界がくると行動が危なくなるのかもしれん。
「そりゃそうでしょう。アンタホントにどうしたんですか?熱あるんじゃ?熱いからって脱いじゃだめでしょうが!」
 早くこの人を布団の中に埋めてしまわなくては。それからやっぱり寝る前に生姜湯か玉子酒でも飲ませておくべきじゃないだろうか。このまま寝たら起きないかもしれない。頭を肩口にのっけてくるから重い。すんすんと匂いを嗅がれるとくすぐったくもあるんだが、具合が悪いと人肌恋しくなるのは分かる気がした。
 あったかいとか、そういうのだけじゃなくて、誰かに傍にいて欲しくなるんだよな。俺もだけどこの人も、そんなものに頼れるような状況で育ってないから余計に。
 服は着たいがシーツは洗えば済むことだ。先に具合が悪くなったのがこの人で良かった。俺が体調を崩したら、ひたすらおろおろしそうだもんな。心配をかけるよりは、かけられる方がまだマシだ。
「熱、ねぇ?風邪よりずっとタチのならとっくにこじらせてるんですが」
「なにぃ!病院!綱手様!アンタなんでもっと早く言わないんですか!飯!チョコだけじゃ腹が空くでしょうが!ええと後は…」
 我慢を自覚なしにしちまうからタチが悪い。
 とにかくすぐにでも綱手様に連絡しないと。それから指示を待って俺もどうせ隔離処置になるだろうから、とりあえずは看病くらいはできるだろうか。
 上半身だけすっぱだかという間抜けな格好であることはさておき、今はこの人のことが先だ。
「欲しいって思うのも駄目だってわかってたんだけどね」
 はかなげな笑みを浮かべてベッドに腰掛けた上忍にそんなことを言われたら、心臓が止まるかと思うじゃないか。
「っにいってんですか!欲しいもんをいいなさい!なんだって用意してみせますから!まあモノには寄りますけど!」
「ええと、そんなこと言われちゃうとズルイコト考えたのがちょっと申し訳ないかも」
「え?」
 啖呵を切った口を塞いだのはしょぼくれていたはずの男の唇で、ほのかにまだチョコの匂いが残るそれに驚いている間に、ベッドに転がされていた。
 腰の辺りにぺたんと座られると結構な重さだ。そりゃそうだな。この人は上忍で、いくら細っこく見えても筋肉しっかりついてんだろうし。
「あのね。イルカ先生が欲しいんだけど、くれる?」
「…へ?」
 困り顔でも器量よしな人だと様になるもんだなぁ。いやでもちょっとまてよ?今この人はとても変なことを言ったぞ?
「分かってないだろうなぁってのは分かってたんですけどね」
 細かいことはおいといて、肩を落とす男を放っても置けなくて、ついつい下にしかれたまま慰めたくなる。
 相手が正気じゃないんだとしても、だ。
 …いきなりそんなこといわれてもこっちだって困るんだよ。なんでって、そりゃあ。
「あーそのですね。元気になってからその話は聞きます」
 嬉しい、気がするのが問題だ。この人もだが、俺も本調子じゃないのかもしれない。
「元気ですよ?チョコ貰ったときなんてそのままイくかと思っちゃった」
「ほあ!あんたどうしたんですか!」
 こすり付けられるモノの状態はたしかに大変元気そうだ。いやまてそんなおっさんくさいことを言っていられる状況じゃなさそうだぞ?
 勃起した同性に押し倒されている。…戦場なら迷いなく水でもぶっかけて拳骨食らわせた後一昨日きやがれとでも言ってやるところだ。
 でも相手がこの人だと話はまるで違ってくるだろ?エロ本読んでる割に純情でチョコに怯える人なんだぞ?
  「ええとね、細かいことはおいといて、お返事だけちょうだい?」
 決して細かくはないと思うんだが、ぺたりと胸元に顔を埋めて強請るイキモノに、こっちの心臓は大騒ぎだ。
 細かいことをおいとくなら、そりゃもう、返事なんて決まってる。
「ああもう!欲しいならもってきゃいいでしょうが!好きにしやがれ!」
 少なくとも、こんな顔をされるよりはずっとマシだ。まあ忍なんてやってる身で、今更ケツの穴の小さいこと言っててもしょうがない。いや実際ケツにどうこうなんて考えたこともないんだけどな。
 まあ少なくとも、その返事はこの人には届いたらしかった。
 泣きそうな顔で笑うなんて器用なことをしでかしてくれたから。

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適当。
ばれんたいん3。ホワイトデーまでバレンタインといいはることにしました。ひっこしたいへんでござるよ…。

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