果ては楽土か根の国か(適当)


犬のようにはいつくばって俺を見上げている。
邪魔なことこの上ない。…とはいえ、それを直接言えるほど肝が太いわけでもない。
視線を合わせないように歩いているつもりだが、あからさまな無視などしようものなら後が怖いし、すでに視線に気づいてしまった。
男も当然それを知っているだろう。
…一応アレでも上忍だからなぁ…。
世の中間違っているとしか思えない。
いやむしろ、アレくらい壊れていないと上忍にはなれないということだろうか。
自分の知る限りで、この男ほど上忍の中でもひときわ異彩を放ち、壊れているという表現がぴったりなモノをしらない。
いっそこのまま全力で逃げを打ってみたくもなるが…先だっての二の舞になるだろう。
ついこの間のことだ。
任務帰りに同じように樹上からこちらを見下ろしていた男に気づき、何故かとっさに駆け出してしまったのは。
逃走劇はあっという間に終わりを迎えた。
ひらりと舞い降りてきた男に捕らえられた上に、どこかも知らぬ宿に連れ込まれて散々な目に遭ったからだ。
「逃げても無駄だよ?」
そう言ってうれしそうに笑う男が恐ろしくてならなかった。
どこで目をつけられたものやらわからない。
ただこの男を見かけたら最後、獲物のように狩られてすき放題にされるということだけははっきりしている。
今もこうして見上げてくる男は、見てくれだけは随分と整っている。
…同じ男として不愉快なほどに。
他所へ行ってくれと懇願したこともあれば、女ならいくらでもいるだろうとなじったこともある。
その全てを「だってあんたじゃないじゃない」の一言で切り捨てて、この男はこうして毎度毎度…人の貞操を狙い続けているわけだ。
優れた所が多すぎるから、その代わりに理性やまともな思考って物を誰かがこの男から切って捨てたんだろうか。
被害を一身に受けている身としては、なんとかしてそれをこの男に戻して欲しいものなのだが。
「無理、だよなぁ…」
アレは獲物を狙う目だ。
楽しげに微笑んではいるが、その性は獰猛な捕食者に他ならない。
「おかえりなさい」
「…ただい、ま」
その白い腕が絡みついて、おびえることすらできずにいるこの身を引き倒す。
ああ、食われる。
「そうね。逃がさないから」
知らず内に口にでていたものかどうか。
酷く満足した顔で男がにんまりと笑った。
それに満たされる自分は…きっととうの昔に心を食われてしまったのだろう。
今更ながらそれに気づかされた。
「どうせなら、あんたも俺のものになればいいのに」
つぶやきが喘ぎに変わるまで、きっともうすぐ。
「馬鹿だねぇ?もうあんたのでしょ?」
くすくす笑いに混じって、そう嘯く男が憎らしくてならなかった。


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適当。
短くさらっと。
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