おいかけっこ7(適当)



「イルカ」
「あ!父ちゃん!おかえりなさい!父ちゃんのケーキは冷蔵庫の中!」
勢い良く飛びついてきたわが子の背が、いつの間にか腰の高さにまでなっていることに気がついた。少し癖があって硬い髪は、大切な大切な…俺の命を賭けても手に入れたかった人と同じで、いつまでもなでてやりたくなる。
子どもが育つのは早いものだと思う。
生まれたときは嬉しくて嬉しくて、大声で泣き喚いて喜んで、医療忍にたたき出されそうになった。
妻となってくれた人は、出会ったときからすでに女神のように美しかった。
そしてイルカを生んでくれたときにはそれがもう本当に輝いているようにすら見えて、心臓が止まってもおかしくないと思ったものだ。
抱いてみろと渡された温かく弱弱しいイキモノ。
それが俺とこの人の子で、二人を確かに繋ぐものができたんだと、いつかどこかに行ってしまうんじゃないかと不安で不安で仕方がなかった人が、俺の子を本当に生んでくれたんだという事が衝撃的すぎたんだ。
嬉しくて嬉しくて、それからそれをどこかで信じきれないでいる自分がいて、俺に似ていると、愛おしさと慈しみに満ちた瞳で子を抱きしめてくれているのをみた瞬間、一度失神した。
…初産を終えたばかりの妻になにをさせているんだと、三代目自ら叱り付けに来てくださったその横で、彼女が見た事がないくらいやわらかく笑って、それから。
「幸せです」
そう、言ってくれた。
思わず抱きしめて、間にいたイルカがぶーと文句らしきものを口にするのも無視をして、俺が一番幸せだと叫んだ。…まあ当然またたっぷりしかりつけられた訳だが。
そうか、あの時からもうそんなになるのか。

…妻になってもらえたのが今でも信じられないでいる。

「おかえりなさい」

抱き寄せて、二人とも腕の中に閉じ込めた。
「ただいま」
これが俺の守るべきものだと確信しながら。


出会う前から美しさと、なによりその強さで名を馳せていた。
そんなことなどまるで知らずに、一目見て恋に落ちた。
上忍になったばかりの俺よりもずっと強い人だと言われても、相手にされるわけがないと諌められても、視線が勝手に追いかけてしまう。
身のこなしの優美さと隙のなさ、それから揺らがない鋭い瞳。野生の獣のように近寄りがたく美しいイキモノに、多分あの時すでに魂まで持っていかれていたのだと思う。
だが、彼女以外に目が入らなかったせいで、その傍らに常にある姿に気付いたのは、そうして思いを募らせ続けて大分経ってからだった。
彼女よりは幾分小柄で、腕は悪くないんだろうがのたくさした動きをしているように見えてならなかった。医療忍ならそんなものかと、その程度しか興味を持てず、だがたびたびその姿は視界にはいり、俺を少しずつ苛立たせた。
仲の良い相手がいるのは普通のこと、らしい。俺にも友はいたが、任務中常に側にいるなんてことはありえない。だが、特に理由もなくくノ一たちはつるむのが好きだというのは知っていた。
だが、彼女は違うのに。まるで違うイキモノなのに。
誰の助けも必要としていない。痛ましいほどに戦うことに向いている…いや、戦うために生まれ付いてしまった人だ。
だから、それが違うのだということは分かった。
二人を繋ぐものは、他のくノ一たちがつるむような生易しいものじゃない。
かわいいと男どもにも評判だった彼女の側にあるあの女は、その外見とは裏腹に毒蛇のようだった。
二人の会話を聞いていて、穏やかな様でいて傲慢なその物言いに、何度腹を立てたことか。
逆らうことを許さないんじゃない。…逆らうことなどありえないと、知り尽くしているだけだ。
女の策は確かに隙がなく、少しばかり無鉄砲な所がある彼女を守ったが、俺には彼女を利用し尽くしているように感じられてならなかった。
手当てを怠ることはなかったし、罵るわけでもない。
ただ、彼女は支配されていた。あの蛇のような女に。
醜い嫉妬と笑うなら笑ってくれていい。確かに嫉妬していた。
彼女の側に当たり前に存在できるモノに、憧れないわけがないだろう?
大型の肉食獣のように優美で、誰にも支配されないで生きられるはずなのに、どうして。
だが、その戦績を見れば、否応なく理解せざるを得なかった。
二人はお互いをお互いで補い合い、離れることなど考えていない。そもそもが二人で一つだったかのように当たり前のように側にあり、そしてそれは変わらないのだろう。
二人の間に漂う空気は独特で、どちらも狙う男は多かったが、誰も二人を手に入れることなどできなかった。

見つめあう二人の間には入れないのかもしれない。

…だが、それがどうした?

俺に、あの人を守れたら。…俺はそれだけで生きてきた意味がある。
好きで、好きで、だから幾度となく愛を告げ続けた。
その身に触れることなど恐れ多くてできなかったから、言葉を、戦いの最中にあっても決してはなれずに身を挺して守ろうとした。
邪魔臭そうにされることも多かったが、これは戦えないあの女には決してできないことだ。暗い喜びに気付いていないのか、彼女はその側にあることを許してくれた。

嵐がこなければ、俺はきっとそうして彼女を庇おうとするばかりだったと思う。

銀色の男がやってきて、毒蛇を浚い、そうしてその毒に囚われて今、死にかけている。
…彼女以外にあの毒に抗し切れるわけがないのに。
感謝をすべきなのかもしれない。だが、愚かだとも思う。
アレは、あの女は、自らを銀色の男に与えることで、永遠に捕らえてしまった。
本当に欲しかったのは、彼女だったのだと、今でも思っている。…いや、それとも永遠に己のモノだと知っていたのか。
男を愛さなかった訳じゃないだろう。だが、一番はきっと彼女だ。
死ぬことすら許さずに逝った。…命じれば従うと、木切れのように細くなった身で証明して見せた。

だが、彼女は今は俺の妻で、イルカの母。俺の家族だ。
誰にも渡さない。決して。

「あのさ、今日さ、カカシってヤツに会ってさ!」

その名に心臓が凍りついた気がした。アレの、呪いなのか。これは。
知っているとも。大事な妻を連れて行こうとするんじゃないかと気が気じゃなくて、いつだってあの女を警戒していたから。
あの女が男に残した。死を選ばない理由として与え、縛り付けた最後の鎖。
まさか。
「あなた?」
「いや。…まずはケーキだな」
「へへー!父ちゃんのいっぱいとってあるし、うっまいから!」
「楽しみだな」
チョコチョコとついてまわるわが子が話す言葉に、危機感を募るばかりだ。
愛しいわが子を、守らなくてはならない。
死してなお立ちはだかるあの女から。
痛むほどに握り締めた手に重なる細くしなやかな指を、決して傷つけさせないためにも。



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適当。
いろいろとこじらせたおとなたち。
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