逃走上忍捕獲せよ(適当)


「捕獲の手はずは整った」
「では」
「ああ。…行け」
なんでまたこんな大事になってるんだろう。
確かに上忍が一人消えたというか、雲隠れしたってのは大問題だ。
だがそれが里抜けならまだしも、確定したわけじゃなし、というかむしろほぼ確実に里内にいると分かっていて、この状況。
大丈夫なんだろうか。この里は。
夜間の受付当番も終わってさあ帰ろうと荷物をまとめた途端、暗部に取り囲まれるわ、そのまま火影様のところに連れて行かれたらその部屋にも暗部がいっぱいみっしり詰まってるわ、変な任務を申し付けられるわ…散々だ。
かえってねたい。
それが本音だ。
だが何だか知らないが訳のわからないままに彼らと同じ服を着ろと命じられ、着たら着たでいきなり火影様の前に引きずり出されるし、説明の中身が酷すぎるしでやる気なんて実のところまるでない。
件の上忍が報告書を提出しにきたのは覚えているが、それからまだせいぜい半刻も経っていないだろう。
帰り際に無事を確認できてほっとした記憶があるから、それは間違いないはずだ。
上忍がを見送ってすぐに帰り支度を始めたってことは、この茶番さえなければそれこそすぐに捕まっただろうに。
それを捕獲だなんだと騒ぐのは一体どういうことなんだ。
逃げるような心当たりがあるということなのか、それとも他に裏があるのか。
「イルカ。お前には苦労をかけるが…あの馬鹿を捕まえるのに協力しとくれ!」
「は、はぁ…ですがその、何をしたら?」
「餌はぼーっとつったってるだけでいい。…とびっきりのサービスつきにしてやったんだ。耐え切れずにほいほい出てくるだろうさ!」
自信満々のその台詞には頷けない。
そもそも餌ってなんなんだよ…!
「では。この中忍は」
「ああ頼んだよ。手荒にしたらお前たちに命の保障はないからね!」
「御意」
気風のいい当代様はきらいじゃないが、説明が致命的に下手すぎる。
「へ?え?あのー!わぁあああ!?」
…それから、暗部の皆さんにとっては、ふとんですまきにして運ぶのが手荒じゃないってことだけはとりあえず知ることができた。
*****
寒い。季節は確かに夏に向かっているとはいえ、まだ梅雨まっさかりだ。
肌寒いってのに何を好き好んで二の腕晒してなきゃならないんだろう。
…いや多分これも任務なんだろうけどな…。
いきなり公園に放置された。多分周囲に隠れているんだろう。
あれだけうじゃうじゃいたのがいなくなると、なんだか寂しくさえ思えるから不思議だ。
「はぁ…寒い」
思わず二の腕を庇うようにさすったときだった。
「イルカせんせなんて格好してるの!」
「え!あー!カカシさんこそ!どうしたんですか!」
あんたのせいで酷い目にあってますとまでは言えない。口止めもされなかったが、ターゲットがこの人だってことは知ってるからうかつなマネはできなかった。
「んー?ま、それは後でね?」
「投降してください」
「医療班は最短でできる準備を整えています」
「…逃げれば、その中忍が…くっ!」
うじゃうじゃ湧いてきた暗部の皆さんに囲まれた後、なぜだか知らないが臓腑が腐りそうな殺気を放つ上忍に抱き込まれている。
一体これはどういうことだ?
「ダメでしょおまえら。死にたいの?」
俺よりずっと強いはずなのに、ほぼ全員がひざをついてあえいでいる。
流石だといいたいが、向けられているわけじゃない自分まで倒れそうだ。
「なにやってんだー!」
気づけば上忍の頭に拳骨を食らわせていた。
「ってー…!ああごめんね?イルカせんせ。すぐおわるから」
「誤魔化すな!何が起こってんだかいいなさい!」
「だって…子供作れっていうんだもの」
「へ?」
脈略がなさ過ぎて意味が分からない。俺としては上忍のそんなプライベートなことに関しては関わりたくはないんだが。
「せーしだせって言われてさぁ。断るでしょ?普通」
「そ、そりゃそうですね。普通にご結婚されればいいだけなんじゃ…それともなにかその、体に問題が…?」
いくら爆乳美人でも、いきなり出せって言われたら立つモノも立たない…ってそんな下世話な妄想はおいといて、なにがどうしてこうなってるんだ?
「ちがうよー。結婚しないっていっちゃったからでしょ?好きな人がいるから」
「えーっと…人妻?」
「はずれー」
なんでこう…じりじり追い詰められてる気分になるんだろう。
向けられているのが殺気じゃないのは分かる。
でもなんかこう…食われそうと言うか。怖い。
「な、なんでなんでしょう?」
「あのね。好きなんです。イルカ先生が」
「へ?」
「だからイルカ先生以外要らないからムリですって言ったらその場で出せとか意味分からないこというんで逃げちゃったの。まさかこんなことになるとは思わなくて…!ごめん。ごめんね…。こんなことになんなきゃ、いう気もなかったのになぁ…」
寝耳に水にもほどがある。上忍の嗜好の方には甚だ疑問があるが、断ったからってむちゃくちゃを言う五代目も理解できない。頭がくらくらしてきた。
「…とりあえず五代目のところへ行きましょうか」
「えー?でもヤダ。知らないところで子ども作られるなんて…!」
「いーえ。その件ではありません。いいからアンタも来い」
「…はい」
後になってそれはもう怖い顔してましたと上忍に言われたんだが…そのときの俺は確かに怒っていた。
当事者なんだから文句言っていいよな?なんて血迷って、里の最高権力者に説教かましたくらいには。
*****
「お前が告白する気もないなんていうからだろうが!」
「そりゃそうでしょうが!幸せ家族計画地で行く人に、こんなわけのわからない虫くっついたら五代目だって嫌でしょ?」
「はん!意気地なしの言い訳なんざ聞きたくないね!惚れた相手が泣くからってんなら考えもするが。こっちで子ども作ってやるから、好きにすればいいだろう!そっちの方がうじうじ片思いこじらせてる馬鹿にはお似合いだよ!」
「嫌ですー。愛されない子どもなんて不幸になるだけですよー?俺そっくりでひねくれたガキが愛情不足―なんてことになったらまず間違いなくグレますね。ひょっとするとそれこそ大蛇丸のように…」
「黙れ」
「…いいすぎました。でも、そういうことでしょ?」
「…お前が折れる気がないのは分かった。ならしょうがないね。力づくでも…」
戻るなりぎゃあぎゃあ喧嘩しだしたからしばらくは聞いてやってたが…もうがまんならない。
「二人とも。そこ座んなさい」
「なんだい!ああイルカか。ご苦労だったね。今からこいつにはちゃんと…」
「座れっていいましたよね…?お・れ・は!」
「な、なんだい?どうしたんだい!?」
「いいから座りましょう。あーあとそれからお前たちもね」
部屋中に正座する暗部と応接セットに腰掛ける火影と上忍。見た目はなかなか壮観だ。
「いいですか。五代目。まず子ども作ればいいってもんじゃないでしょう」
「それは…確かにお前ならそういうだろうが、コイツの血は途絶えさせるには…!」
「そうだそうだー子どもだけ作ったってダメに決まってるでしょ?普通に育ったってひねくれてるのに。俺に似たら大変ですよー?」
ここぞとばかりに尻馬に乗ってる上忍に向き合うと、慌てて顔をふせた。
ここにいるのはいい年した大人ばっかりのはずなんだけどな。なんでそんな子どもみたいな反応ばっかりするんだ。
「アンタもです!無体を強いられて困ってたんでしょうが、逃げる前にやれることがあるでしょうが!」
「ごめんなさい…」
しょげ返った顔には怒らないでと大書きしてあるように見える。
逃げる前に説得するとかお得意の口八丁で誤魔化すくらいはできただろうに。
「それに、そのですね…言ってくれれば少なくとも考えました」
「へ?」
「好きだなんて初耳です。アンタが言わないつもりだったってんなら忘れますが」
「え!だめ!そんなのダメ!好きです!あの!考えてくれるんですよね!」
「考えるだけならね。…で、五代目。とりあえずこの馬鹿一回殴ってもいいですか?」
「…好きにしな」
許可を得たので遠慮なく、その頭に拳骨を落としてやった。
すっかり涙目になった上忍は、多分もう相当反省しただろう。…謝って反省したら許すのが大人ってもんだ。
「…というわけで、とりあえずお付き合いから始めましょう」
「え…!は、はい!」
同じくらいでかいイキモノにしがみ付いてこられるときついものがあるが、まあそれはそれだ。
五代目もこの人がここまでうじうじしてなきゃ色々納得してもらえるだろう。多分。
「そうかそうか!いやー!お前が引き取ってくれるならありがたいね!…じゃ、早速色々手配をしておくよ!」
そう言っていそいそと俺たちを送り出してくれた。手配ってのが怖いけど。
「好きです。ずーっとずーっと好きだったんです」
そういってしがみ付いてくるこの臆病な男には…実は惚れてたなんて話は言わないでおこう。少なくともしばらくは。

その後五代目がお前ならできると言い出して訳の分からない術をかけようとしてきたり、上忍がそれなら俺が産みますなんていいだしたりと色々あったんだが…それはまあまた今度の話。


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適当。
臆病者は二人いたという話。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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