「何の真似よこれ…?」 憩いの我が家なんていうには殺風景ではあるが、ここは一応自分のテリトリーで最も安心できる場所のはずだ。 その周りにこれでもかと敷き詰められているトラップ。 …それもすべて捕縛系だ。 任務帰りにゆっくりくつろぐことさえ許されないのか。 そう叫びだしたくなったが、これの出所を探り出す方が先決だということ位は疲れきった頭でも流石に理解できた。 ビンゴブックに載ってからこっち、ろくでもない連中に狙われるのはある意味日常になりつつあった。 護衛任務のはずが罠だったとか、任務遂行中に抜け忍が襲ってきたとか、味方のはずが裏切り者がいたとか…それはもう数限りなく経験済みだ。 とはいえ、ここは里内。そして当然それなりに対策も講じてあったこの部屋を、こうまで好き勝手されるとは思いも寄らなかった。 「ま、甘かったってことよね。…燃やすか、地道に解除するか」 さっさと暗部を呼び出してもいい位だが、自分の家を荒らされたことに、自分でも驚くほど腹が立った。 上忍のプライドにかけて、綺麗に片付けてやるつもりで印を組んだ。 「あー!」 「え!ちょっとなに!?」 「わっ!なにやってんですか!?カカシさん!?」 どちらかというと、知り合いの中忍が血相変えて抱きついてきたことの方を問いただしたい。 何でこんな所にいるんだ?この人。 「なにって…コレ。片付けようと思って」 「あ…」 目を見開いて俺の家の扉を見ているから、大量のトラップを見て驚いたんだろうと思いこんだ。…そのせいで反応が遅れた。 背に衝撃が走った瞬間、信じられない思いで中忍教師を振り返りながら見つめていた。とっさに身を翻して避けるつもりが、無情にも避けようがないほどにトラップは敷き詰められている。 「ウソでしょ…!」 絡みつく縄が、対忍用のものだということもすぐに理解した。…すぐには身動きが取れなかったからだ。 「すみませんカカシ先生…。少しの間だけ我慢してください…!」 「え!ちょっと!なにすんの!?」 ひょいっと担ぎ上げられたのもショックだが、なによりこれの犯人がこの人だっていうのがショックだった。 人のいい中忍教師が穏やかに微笑むたびに、密かに癒されていたというのに。 だが呆然としている訳にも行かない。男の足取りからして里から出るつもりは無さそうだ。 …男の言葉を信じるならすぐに開放されるだろう。 あと少しだけ信じてみたい。…いざとなればこの人を殺してでも逃げることを考えなければならないとしても。 「着いた…!」 「え?ここ」 たしかこの人の家じゃないか? 「あら、早かったわね?」 「そ、その。あの!」 これまた見覚えのある顔だ。 「紅。これお前?」 「じゃ、準備できたし帰るわねー」 無視か。幻術天女なんていわれてるくせに結構なタマだ。 …ま、今に始まったことじゃないけど。 「ちょっ紅さん…!?」 「…とりあえず。降ろしてくれない?」 おろおろするばかりの中忍に提案すると、涙目のまま頷いてくれた。 ***** 降ろされると同時に上忍の意地で縄は解いた。 …これ暗部用の新作だよね。どっからもってきたって…多分あの女か。一体ナニたくらんでやがるのか…。 「と、とりあえずその!お茶…あのでもそのですね。信用できないようでしたら…」 「いーよ。頂きます」 家に上がる前にここまで緊張されるとこっちも気まずい。 準備なんていうからそれなりに警戒はしてみたが、幻術の気配はない。ま、俺に幻術はほぼ効かないから当たり前か。 座布団を勧められて座り込むと、すぐに中忍が隠した怪しげな物体に気がついた。 チャクラ…の気配はないけど。トラップにしちゃ変だ。 白い箱。丁度パックンがぎりぎり収まりそうなくらいの小さなものが、卓袱台の上から降ろされたのを確かに見た。 「あ、あの!お茶!入れてきます!」 隠すつもりならもって行けばいいのに、取り乱しすぎてそこまで思いつかなかったらしい。 たんすの陰におきっぱなしになった箱を、当然開けた。 「あらら」 おたんじょうびおめでとうカカシせんせい。そうかかれていた。 文字もいびつだが、ケーキ自体も多少歪んでいる。とても買ってきたものには見えない。 「わー!?わー!?なんで!」 戻ってくるなり大声をあげ、そのくせ手に茶の入った盆を持っているせいか、もだもだし踏みしている。卓袱台におけばいいのにね。見てておもしろいけど。 「これ、俺のじゃないの?」 「…うぅ…!」 呻き声を上げて真っ赤になる中忍を、思わずかわいいと思ってしまった。 もっさりしてるのに、なんていうか仕草が。 「違う?」 問い詰めるというよりしょんぼりして見せたら、あっという間に中忍に手を握られた。 「違い、ません…!」 泣きそうな顔も、やっぱりかわいい。なんていうか…一生懸命よね。この人。いつも。 「好きです」 そう言って震えた手にぎゅっと力を込めた所も、何だか知らないが妙に胸を締め付けた。 ***** 要は祝ってくれるつもりでよりによってあのウワバミ女にケーキ作りを習ったらしい。 最終的にはみんなでサプライズパーティをするから連れて来いと命じられたとか。 ケーキを教えた礼といわれて、この人が断れるはずがない。 結局の所それも罠だったわけだが。 「て、手紙が!おいてあって、その!」 「うまくやんなさいよ、ねぇ?」 とてもじゃないがこの人にそれは無理だろう。わかっててやりやがったなあの女。 「…お祝いだけでも、させてください」 それはもう悲壮な顔でそんなことをいう辺り、自分の気持ちがあの女にばれてるってこともわかってなかったんだろう。 「トラップ。イルカ先生が作ったの?」 「う…っ!その、はい…最初はそういう訓練だといわれていたのでわかりやすいものを大量に。まさかあそこがカカシ先生の家だなんて…。でもその後本当は主賓が逃げないようにしないといけないからと…。みんな準備してるのにって言われたらどうしたらいいかわからなくなって…!」 取り乱してここを飛び出して、ついでに俺を見て思わず捕まえてしまったってとこか。 …変な人。でも。 「ケーキ。食べよ?」 「は、はい!」 嬉しそうに笑ってくれた人は、お誕生日の歌とやらまで歌ってくれた。 自分だって疲れてるだろうに一生懸命になって。 これでほれるなって言う方が無理でしょ? …ちなみにその後なんだかんだと口説いて、真っ赤になって寝室に逃げ込んだ人を追いかけてみたらベッドサイドにウワバミの置き土産があったことも付け加えておく。 うまくやんなさいよって。これ、明らかに俺宛だよねぇ?ローションとゴムとか。この人がどっち希望かなんて考えちゃいないだろうし。 案の定正体を理解できずに首をかしげている人に使い方を教えると称して、ありがたくおいしく頂かせてもらった。 今年の誕生日プレゼントは恋人からのケーキと恋人ってことになるのかもねぇ? 布団にもぐりこんでちらっとこっちみては真っ赤になって潜って、またしばらくすると俺を見てもぞもぞしてるのもかわいくて、思わず抱きしめてしまった。 一生モノのプレゼントを大事に大事に腕の中にしまいこむために。 ********************************************************************************* 適当。 かかたんげっかんというかんじでひとつ。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |